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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治2年4月
496/506

第一次二股口の戦い

 イギリス商船から、近いうちに政府軍が蝦夷に上陸するという情報が入ってきた。

 近いうちに戦が始まると言う事で、一般民の避難所が設けられ、町の人たちはその避難所に避難した。

 人けのなくなった町を見回りするのが新選組の役目だった。

 厳重に警戒するようにと言われ、次の日には弁天台場を本営として町を見回りすることになった。

 四月九日に政府軍は乙部と言う、江差の北にある場所から上陸した。

 この上陸を阻止するために江差から150名派遣したけど、政府軍はすでに上陸した後で、あっけなく撃退されてしまった。

 江差の砲台から大砲を撃つも、砲弾は敵に届かなかった。

 まもなく江差は政府軍の手に落ち、江差にいた人たちは松前まで撤退した。

 その後、政府軍は援軍が続々と上陸し、隊を四つに分けた。

 一つは、松前を通って箱館に行く隊。

 一つは、江差から山を越えて木古内に出て箱館に行く隊。

 一つは、乙部から山を越えて向こう側にある内浦湾に面する落部という場所に行く隊。

 そして、乙部から中山峠と言う峠を通り二股口を通る隊。

 私たちは、この隊を大きくかかわることになる。


 時はさかのぼり、政府軍が近々上陸をするかもしれないという時、五稜郭に集合することになった。

「たぶん軍議だろう」

 そう言って淡々と行く準備をする土方さん。

 私も同行することになり、久々に男装の洋服を着ることになった。

「準備できた?」

 沖田さんが顔をのぞかせてきた。

「おいっ! 着替えている途中かもしれねぇだろうっ! 戸を開けるときは声をかけろっ!」

「僕は、土方さんの着替えに興味ないですよ、嫌だなぁ」

 じゃあ一体、誰の着替えに興味があったんだ?

 って言うか、着替えをのぞくために戸を開けたのか?

「このっ! 総司っ! こいつの着替えを見た日には、俺はぜってぇに許さねぇぞっ!」

 ええっ!興味あったのは……。

「私の着替えですか?」

「お前以外誰がいるんだっ!」

蒼良そらしかいないでしょう」

 そうなんだ……。

「お前っ! のんきにそんなことを言っているからこうなるんだっ! お前ももっと警戒をしろっ!」

「は、はい、すみません」

 警戒しろと言われても、どう警戒すればいいかわからないや。

「そろそろでないと間に合わないぞ」

 原田さんが呼びに来たので、私たちは五稜郭に向けて出発した。


 みんなで五稜郭に行ったのだけれど、軍議に出るのは土方さんだけだ。

 私たちは、軍議の結果によってはすぐに戦場に行けるように待機をしている状態だ。

 私たち以外の人たちも、各々の上の人たちの軍議が終わるのを待っていた。

 だから、私たちのいる場所は他にもたくさん人がいたのだった。

「君たちは土方さんの下にいる人たちか?」

 待っている間、暇を持て余していたから、違う部署にいる人同士が話をしたりしていた。

「僕は土方さんの下にいるつもりはないんだけどね」

 沖田さんがそう言うと、話しかけてきた人たちは変な顔をした。

 なんだ?来た時は土方さんと一緒だったじゃないかって、思うよね。

「俺たちは、新選組だ。と言っても、今は新選組としての仕事はあまりしてないな」

 原田さんがそう言うと、

「ええっ、あの新選組?」

 と、驚かれてしまった。

 そんなに驚くことじゃないだろう。

「じゃあやっぱり土方さんと一緒に戦に行くのだろう?」

 そう聞かれ、私たちはお互いの顔を見合わせて、

「そうなるね」

 と、声をそろえて言っていた。

「いいなぁ。常勝将軍と一緒なら間違いない」

 えっ?

「常勝将軍?」

 私たちがまた口をそろえてそう言っていた。

「そうだろう? ここまで負け知らずじゃないか、土方さんは」

 そ、そうだったけ?

「甲陽鎮撫隊の時は負けたけど」

 沖田さんがそう言うと、

「それは別だよ」

 と言われてしまった。

 あ、別なんだ。

「土方さんが上に立って戦う戦は常に勝っているから、常勝将軍って呼ばれているのを知らなかったのか?」

 そう聞かれてしまった。

「勝っても結局は全体で敗けているから意味ないんじゃないか?」

「そうだよ、左之さんの言う通り」

 沖田さんは、土方さんの事を認めたくないらしい。

「それでも勝っているだろう。俺なんてずうっと大鳥さんと一緒だったから、負けばかりだ」

「でも、大鳥さんだって負けようと思って負けているわけじゃないのですから」

 大鳥さんだって頑張っていると思うよ。

「でも、俺が思うにあの人は実戦に向いてないと思うんだ」

 そ、そこまで言っちゃうのか?

「そう言うけどさ、土方さんだって鬼副長だからね。君が土方さんの下についたら、怖がって逃げちゃうと思うけどね」

 お、沖田さんもそんな喧嘩になるようなことをっ!

「ま、誰の下で戦おうと、敵は同じだ。戦の勝敗も時の運みたいなものがあるからな。俺たちは同じ敵に向かって戦うだけだ。それが誰の下であろうとだ。そうだろう?」

 うん、原田さんの言う通りだ。

「そうだな。お互いやるしかないな」

 男の人はそう言って去って行った。

「それにしても土方さんはいつの間に常勝将軍になっていたんだろう?」

 沖田さんがそう言った。

 そうだよね、いつの間にそうなっていたのだろう?

「終わったぞ」

 そんな話をしているところに土方さんが帰ってきた。

「あ、常勝将軍のお出ましだ」

 沖田さんがからかうようにそう言った。

「なんだ? 常勝将軍って」

 本人は知らなかったらしい。

「土方さんはここまでの戦で負け知らずだから、常勝将軍って呼ばれているらしいぞ」

 原田さんがそう言って説明した。

「何言ってんだか。全体で負けているんだから意味ねぇだろう。そんなことより、行くぞ」

 行くぞと言う事は……。

「出陣ですか?」

「そうだ、出陣だ」

 私が聞くと、土方さんはあっさりとそう言った。

「場所は?」

 原田さんがそう聞くと、

「二股口だ」

 と、土方さんが一言そう言った。


 二股口に到着した。

 台場山と言う場所に陣をしくことになった。

 一番最初に始めたことは、胸壁作りだった。

 相手の鉄砲の弾が当たらないように、防御するための壁だ。

「ここは、江差から箱館にいくのに一番早い道で、我々の戦で重要な場所だ。絶対に敵は通さねぇぞっ!」

 そう言って、みんなにカツを入れながらも、土方さんも胸壁を作るために穴を掘っていた。

「土方さんは陸軍奉行並の人なのだから、みんなと一緒に穴ほらなくてもいいんじゃない?」

 沖田さんが土方さんにそう言ったけど、

「早く作らねぇと敵が着ちまうだろうがっ! のんきに指示出して見ているだけってわけにもいかねぇだろうがっ!」

 と、土方さんは穴を掘りながら言い返していた。

「僕も土方さんに負けないからね」

「俺だって、まだ総司に負けるわけにはいかねぇんだよっ!」

 何を勝ち負け言っているのだろう?

 そう思っていると、二人でむきになって穴掘りを始めたので、穴をどれだけ深く早く掘ったか競争しているのだろう。

 なんか無駄な争いに見えたけど、ある意味、平和な争いに見えてしまった。

 二日間かけて胸壁を作り、完成したころに敵がやってきた。


「相手の数は多い。まともに全員でぶつかったら、やられる。だから交代で休憩をとりながら攻撃する」

 ちなみに数は敵が800で私たちは300。

「いいかっ! ここから先は敵を一人も通さねぇっ! そのつもりで戦えっ!」

 土方さんのその声と共に攻撃が始まった。

 この戦いは長い戦いとなった。

 攻めてくる敵をひたすら銃で打ち倒すというものだった。

 敵の数が多いから、とにかく撃つっ!という感じで撃って撃って撃ちまくっていた。

 そして夜になっても戦闘はやむことがなかった。

 しかも雨まで降ってきた。

「弾薬をぬらすなっ!」

 という土方さんの声が飛び、私たちは上着を脱いで弾薬がぬれないようにした。

 私も上着を脱ぐと、

「お前はいい。着ておけ」

 と、土方さんに止められ、私の代わりに土方さんが上着を脱いでかぶせた。

「私だけ特別扱いはだめですっ! 士気が乱れますっ!」

 ここは戦場だ。

 女だから特別にっていう事はない。

 それを承知で私も来ているのだから。

 私も上着を脱いでかぶせた。

「ったく、お前は」

 土方さんはグシャッと私の頭をなでた。

「雷管もぬらすなよっ! ぬれたら懐で乾かせっ!」

 雷管とは、銃の発火部分のことだ。

 そこがぬれてしまったら火がつかず、使えなくなってしまう。

 そうなると武器が無くなるから、私たちはぬれないように懐に入れていた。

 そして、思いがけないことも起こった。

「お前、酒を配るから手伝え」

 土方さんが突然やって来てそう言った。

「えっ、お酒ですか?」

 確かそんな話聞いたことあるぞ。

「一杯だけだ。みんな頑張っているからな」

 私にそう言うと、土方さんはみんなに聞こえる声で、

「これから酒を配給する。酔って軍律を乱してもらっては困るので、皆一杯だけだ」

 というと、歓声が聞こえた。

「ええっ、一杯だけですか?」

 冗談で私が言うと、

「お前に酒は必要ねぇだろう。一杯も一樽も同じだからな」

 と言われてしまった。

 そ、そんな……。

「早く配れ。みんな待っているぞ」

 はい、そうします。

 私はお酒を配って歩いた。

「あ、蒼良。土方さんも一杯だけなんて、けちだなぁ」

 そう言いながら沖田さんは楽しそうに笑っていた。

 沖田さんは今回が初めての戦になる。

「沖田さん、大丈夫ですか?」

 心配になってそう聞くと、

「銃に慣れてきたから大丈夫だよ。慣れるまで大変だったけどね」

 そうだったんだ。

「土方さんは刀の時代は終わったと言っていたけど、銃でこんなに簡単に人が倒れるんだね。確かにこうなると刀の時代は終わったね」

 お酒を飲み終わった沖田さんがそう言うと、戦闘に戻って行った。


 私は原田さんの所にお酒を配りに行った。

 原田さんは休憩中だった。

「総司は大丈夫だったか?」

 初めての戦を経験する沖田さんが心配だったのだろう。

 私にそう聞いてきた。

「大丈夫でした。銃に慣れるまで大変だったと言ってましたが、今は慣れたみたいです」

「それはよかった。ところで蒼良は酒を飲まないのか?」

「私のお酒は多分ないと思います」

 お前に酒は必要ないって土方さんに言われたしなぁ。

 そう思っていると、後ろからお酒のはいった器が差し出された。

 えっ?と思って振り向くと、土方さんが立っていた。

「お前の分だ」

「なんだ、蒼良のもあったじゃないか」

「私は、一杯も一樽も同じだから必要ないって、言ったじゃないですか。だから大丈夫です」

「でも、特別扱いもするなって自分で言ったよな? みんなが酒飲んでいるのにお前だけ飲ませないのも特別扱いになるぞ。どうする?」

 ええっ!そんなことを言うのか?

「そこまで言われたら、飲むしかないじゃないですかっ!」

「遠慮せずに飲めばいいだろう。ただし、一杯だけだぞっ!」

「ありがとうございます」

 私は土方さんから器を受け取り、お酒を飲んだ。

 物足りないと言えば物足りないけれど、でも、今まで飲んだ中で一番特別なお酒になった。

 

「ねぇ、もうどれぐらいこうやって銃で撃っていると思う?」

 夜が明け始めて周りも明るくなってしばらくたったころ、休憩に入った沖田さんが私にそう聞いてきた。

「そうですね……」

 私は懐から懐中時計を出してみた。

 うわっ!もう七時だったんだ。

「十六時間ぐらいですかね」

 指折り数えながら沖田さんに言うと、

「それって、何刻?」

 えっ、刻?一刻はだいたい二時間ぐらいだから……。

「八刻ぐらいたってますかね?」

 だと思うのですが……。

 って言うか……。

「沖田さん、箱館ではもう刻と言う時間は使わないと思うのですが……」

 榎本さんたちは懐中時計をぶら下げて、現代のように時間で行動していたから、刻と言う言葉はあまり使われなくなった。

 私にとっては過ごしやすくなっていたのだけど。

「この時計、見ずらいんだよね」

 沖田さんも懐から懐中時計を出してきたのだけれど、その時計は止まっていた。

「止まっていますよ」

「うん、気がついたら止まってた」

「ねじを定期的に回さないと止まりますよ」

 この時代、電池と言うものがないからねじを巻いて動かさないといけない。

 ゼンマイ時計ってやつだ。

「めんどくさいんだよね」

 そ、そうなのか?

「でも、時計の読み方は覚えたほうがいいですよ」

 これからも使うと思うし。

「めんどくさいんだよね」

 そんなめんどくさがっていたら、何もできないじゃないかっ!

「あ、敵が逃げて行く」

 沖田さんがそう言ったので敵の方を見ると、少しずつだけど撤退を始めていた。

「勝ったぞっ!」

 そんな喜びの声が響き渡った。

 土方さんも満足そうな笑顔をしていた。

 やっと、終わった。

「蒼良、顔が真っ黒だよ」

「お、沖田さんこそ真っ黒ですからねっ!」

 沖田さんだけでなく、みんな真っ黒な顔をしていた。

 政府軍は長時間の戦いにより、銃弾が不足したため撤退をした。

 私たちは三万五千発の銃弾を消費していた。

 だから顔が硝煙で真っ黒になっていたのだった。


 大鳥さんが向かった木古内でも大鳥さんが勝った。

 それから土方さんは報告と援軍要請のため、五稜郭へ帰ることになり、私たちもそれについて行くことになった。


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