お梅さん登場
暑い日が続いていた。
大坂から京に帰ってきた。京は盆地なので、よけいに暑く感じる。
でも、現代の体温並みの温度と比べると、まだ大丈夫だと思える。
暑い中巡察から帰っってくると、綺麗でとっても色気のある女の人がいた。
男所帯の屯所に、こんな綺麗な人がいるのは、めったにないことだ。
「こんにちわ。何か用ですか?」
挨拶をしながら聞いた。
「こんにちわ。芹沢はん、いらっしゃいますか?」
芹沢さん?奥に行って平山さんとかに聞いてみると、出かけていないとのこと。
またどこかで酒でも飲んでいるのだろうか?
「出かけていないみたいです。お伝えたいことがあれば、お伝えしますよ。」
「いや、待たせてもらいます。」
「でも、いつ帰ってくるかわかりませんよ。」
「こっちも、返してもらうまで、家に帰れまへん。」
返してもらうまで?
話を聞くと、彼女は菱屋という呉服商の人で、芹沢さん、そこに借金をしているらし。
きっと、押し借りでもしたのだろう。
それにしても、菱屋のお梅さんって、どこかで聞いたことあるなぁ…。
とりあえず、お梅さんを説得し、今日は帰ってもらった。
「おっ、帰ったか。」
お梅さんが帰ったのを見ていたのか、芹沢さんが奥から出てきた。
「あっ、芹沢さん、いたのですか?」
「菱屋のやつめ。女をよこしたら暴力振るわんと思って、女をよこしやがったな。」
「そういう前に、ちゃんと借金返したらいいじゃないですか。」
「ないものは返せん。」
ま、そうなんだけど…。
「それにしても、いい女だったなぁ。」
このスケベおやじめっ!しかも、また酒臭い。
「また昼間から飲んでますね。健康に悪いからやめてくださいって、何度も何度も何度も何度も言っているじゃないですかっ!」
「4回言ったぞ。」
「何をですか?」
「何度も。」
「そういう話じゃなくて…。」
お酒をやめるように言おうとしたら、
「芹沢さん、行きましょう。いい店があるのですよ。」
佐伯さんが出てきて、芹沢さんを連れて行ってしまった。
最近、佐伯さんが芹沢さんとつるむようになっていた。
それが、何か不安だった。
「ああっ!」
「な、なんだ、いきなりでかい声出しやがって。」
土方さんが書物をしていたのか、筆を持って振り返っていた。
「いや、ちょっと思い出したことがあって。」
「なんだ。」
「昼間、芹沢さんの借金回収に来ていた女の人です。」
「ああ、お梅とかっていう女か?いい女だったな。」
「やっぱりそう思いますか?」
「昔、島原にいたらしいぞ。」
やっぱり、間違いない。その後、菱屋さんに入り、今にいたるという感じかな。
そして、芹沢さんと一緒に暗殺される女の人だ。
あんな綺麗な人が暗殺されるのか?歴史を変えるなら、芹沢さんとあわせないほうがいいのかも。
しかし、次の日もその次の日も、お梅さんはやってきた。
あわせないように、なんとか菱屋さんに帰ってもらっていたのだけど、歴史はそう簡単に変わるものではない。
とうとう、芹沢さんとあってしまい、そのまま二人は恋に落ちたのだった。
「また来てますね、お梅さん。」
藤堂さんが話しかけてきた。
「あのおっさんのどこがいいんだか。」
「蒼良、おっさんって、芹沢さんのこと?」
「あの人以外いないでしょう。酒は飲むし、暴れるし、どこがいいんだろう?お梅さんの趣味を疑うわ。あんなに美人なのに。」
「でもあの人、芹沢さんがいないときは、他の隊士を誘惑してますよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「こう、流し目を送ってくるというか。」
藤堂さんが、流し目をした。それがおかしくて、笑ってしまった。
「蒼良、笑い事ではない。蒼良のことも狙っていたよ。」
「流し目でですか?」
「気がつかなかった?」
私は狙われても、お梅さんと同じ女だからなぁ。どうすることもできないな。
「私は、ああいう女性は何か嫌だなぁ。なんか、おしろい臭そうで。」
そういえば、以前もそんなこと言ってたっけ?
「でも、美人ですよ。」
「いくら美人でも、ああいう美人はちょっと。蒼良は?」
「えっ、私ですか?そんなこと、あまり考えたことないです。」
「総司みたいなことを言うね。」
そうなのか?
そんなある日、お梅さんが怖い顔をして私を呼んだ。
これは、誘惑しようとしている顔じゃないな。そんなことを思いながら、お梅さんと歩いていた。
人の気配がない林の中でお梅さんは止まって私を見た。
「あんた、女なんやって?」
ええっ、なんで知ってんだ?
「芹沢さんが言うてた。あいつは女やさかい、惚れんなよって。」
ば、バレてるし。
「なんで女なのに、あそこにいるんや。」
「いや、それには深~い事情があって。」
未来から来て、云々の話をしても通じないだろう。
「もしかして、あんた、好きな人でもおるんか?」
「えっ、好きな人?」
「分かった、芹沢さんやな。でも、芹沢さんはあかんで。」
…なんで?なんで芹沢さんなんだ?っていうか、私に選択権はないのか?
「いや、芹沢さんじゃないです。」
「じゃぁ、誰や?」
誰やって言われても、そんな人いないし…。
「やっぱり、芹沢さんなんやろ。」
だから、なんでそこで芹沢さんが出てくるんだ?
あんな酒オヤジ、こっちから願い下げだっ!
「絶対に芹沢さんじゃないです。ありえないです。酒乱でスケベおやじ、こっちがお断りです。」
「あんた、そこまで悪う言わんでも。」
よく言うと、お梅さんが勘違いするし、悪く言うと、逆に怒られるし、どうしろと?
「あんたが芹沢はんに気がないのは、ようわかった。」
それは良かった。
「安心したわ。じゃ、帰るわ。」
それだけかいっ!こっちは、女の私があそこにいる理由とか、色々考えていたんだけど。
きっと、彼女には芹沢さんさえいればいいのだろう。
「なに?芹沢さんが知っているだと?」
土方さんに、お梅さんとのことを話した。
「お梅さんが言ってました。どうしましょう?」
「ほっときゃいいだろう。」
えっ、いいのか?
「芹沢さん本人が直接言ってきたなら問題だが、直接言ったわけじゃないんだ。知らんぷりしてればいい。」
そういうものなのか?
「いいんですかね?」
「大丈夫だろう。下手に何かやると、お前のことだから、墓穴掘るぞ。」
うっ、ごもっともです。
「いつもどおりしてればいい。」
ま、それもそうだな。
お梅さんは、ほとんど毎日のように通ってきた。たまに泊まって帰ることもあった。
芹沢さんのどこに惚れたんだろう?
私の頭の中は?マークでいっぱいになっていた。
でも、人を好きになるって、楽しそうだなぁと思った。




