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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治2年1月
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馬に乗る

 軍用金不足も深刻化したらしく、箱館では新しく貨幣を作った。

 この貨幣は箱館内では通用するけど、他では通用しないというものだったので、ものすごく不評だった。

 そして、この貨幣を使わないという人たちも出てきて、そう言う人たちを取り締まることになった。

 どうしてこういう話しになったかと言うと、原田さんと町を歩いていたら、苦々しい顔をして相馬さんが取り締まっていたからだ。

「あいつも大変だなぁ」

 原田さんが相馬さんを見てそう言った。

 相馬さんの仕事が終わるのを待って話しかけた。

「大変そうですね」

「いや、そうでもないですよ」

 相馬さんは作り笑顔でそう言った。

「でも、新貨幣なんて訳わからないものを作って、それを使う事を強要するのもなぁ。しかもその貨幣は江戸とかでは使えないんだろう?」

「そのようですね」

 原田さんの問いに相馬さんはうなずいた。

「でも、これが仕事なので。失礼します」

 相馬さんはそう言うと、箱館の町の中へ消えていった。

「せっかく蝦夷に新しい国を作るって言ってきたのに、他から金をとったり、こうやって訳の分からない金を作ったり、あまりいいことはやってないな」

 原田さんの言う通りだ。

「箱館の人たちの不評をかいそうですね」

「もうかっているだろう」

 た、確かに。

 きっと、箱館の人たちは、政府軍が早く来ないかなぁと思っているかもしれない。

 ここは、箱館の人たちを味方に入れて、一緒に戦うところなのになぁ。

 それも無理そうだなぁ。

「ここで立ち止まっていても仕方ないから、帰るか」

「そうですね。雪もまた降って来ましたし」

 さっきまでやんでいた雪が、またチラチラと降ってきた。

 雪がひどくならないうちに、私たちは五稜郭へと帰ることにした。

「そう言えば、土方さんが雪が解けたら戦になるだろうから、それまでに馬に乗れるようにしておけと言っていたのだが。蒼良は言われなかったか?」

「そんな話初めて聞きました」

 原田さんにそんなことを言っていたのか?

「そうか。蒼良にも言っていたと思ったのにな。どうするかなぁ」

 どうするかなぁって、何かあったのか?

「蒼良にも声がかかっていたら、明日、一緒に馬に乗ろうかなと思っていたんだが」

「一緒に乗りましょうっ!」

 私のその勢いに原田さんが驚いていた。

 戦の前に私も馬に乗れるようにしておきたい。

 じゃないと、土方さんを守れないから。

「わ、わかった。じゃあ一緒に馬に乗ろう」

 と言う事で、この日はこれで終わった。


 次の日。

 原田さんと五稜郭内にある馬小屋で馬を借りた。

 最初は、馬の世話をする人がついてくれて、乗り方とか教えてくれたのだけれど、慣れてくるとその人も仕事があるみたいで、

「こんな感じでやれば大丈夫です」

 と言って、行ってしまった。

 しばらく原田さんと五稜郭の中を馬で歩いていた。

 しかし、だんだん五稜郭内をグルグル回るのも飽きてきた。

「思い切って、外に出てみるか?」

「だ、大丈夫ですか?」

 五稜郭の中も飽きたけれど、外に出る自信がない。

「ここをグルグル回るのも、外に出るのも同じだろう。行ってみよう」

 そ、そうなのか?

 そう思っている間にも、原田さんは馬を進めて行ってしまった。

 ま、待ってっ!私を一人にしないでっ!

 私も馬に乗ったまま、原田さんを追いかけた。

「どこか、行きたいところあるか?」

 原田さんに追いつくとそう聞かれた。

 行きたいところねぇ……。

 馬で行っておきたいところ……。

「あの、一本木関門に行ってみたいです」

「えっ、関門にか? 見るものは何もないと思うが……」

 でも、行って見ておきたい。

 歴史上での土方さんの最後の場所を。


 一本木関門は、箱館政権がここを通る人たちからお金をとるために作った関門だ。

 箱館の端っこに長く塀を作り、途中で門を設けてそこでお金を徴収する。

 馬を走らせてと言うほどうまく乗れる自信はないので、歩かせてここまで来た。

「こんなところに何の用があるんだ?」

 私の横で原田さんはそう言っていた。

 私は、一本木関門をすみからすみまでながめた。

 土方さんは、どこらへんで撃たれるのだろうか?

 馬に乗って指揮をとっているときに撃たれたと聞いた。

 どこから撃たれるのだろうか?

「蒼良、そんなじっくり見て、何かあるのか?」

「ここで、土方さんが撃たれるのです」

 原田さんは私が未来から来たことを知っているから、私の言葉を信じてくれた。

「そうか、ここで撃たれるのか。俺は、土方さんは長く生きるのかと思っていたから」

 歴史では、原田さんもここにはいない。

「蒼良は、土方さんを助けようと思っているのか? 俺を助けた時のように」

 原田さんに聞かれ、私はうなずいた。

「それなら、俺も協力する。だから、一人でやろうと思わないでくれ。人を死なすのは簡単なことだが、生かすことは難しいだろう?」

 そうなのだ。

 死なすのは簡単だ。

 私も新選組や戦で何人も人を斬ったり撃ったりしてきた。

 でも、生かした人は絶対にそれより少ない。

「俺も、土方さんを生かしたいと思っているから」

 原田さんがそう言ってくれた。

「ありがとうございます」

「よし、ここは下見をしとかないとな」

 と言う事で、原田さんに歴史上では土方さんがどのように撃たれるかを説明しつつ、一本木関門を一緒に見てまわったのだった。


「弁天台場を見に行くぞ」

 次の日、土方さんがそう言った。

「はい」

「馬で行くから、お前は俺の馬に一緒に乗れ」

「私も馬に乗れるから大丈夫です」

 昨日、練習したし。

「なんだと?」

「馬、ここに連れてきますね」

「お前、本気で言っているのか?」

 こんなところで嘘を言ってどうする?

 そんなことを思いながら、馬を二頭連れてくるように頼んだ。

 出かけるときには、玄関に馬二頭がつながれていた。

「乗れねぇって言うなら、今のうちだぞ。今なら聞き入れてやる」

 と、なぜか得意気に言う土方さんの横で、私は馬にまたがった。

「何言っているのですか。乗れると言っているじゃないですか。さ、行きますよ」

 弁天台場は、確か一本木関門より先にあったよな?

「お前、いつの間に乗れるようになってんだ?」

「私も乗れたほうがいいかなぁと思いまして、練習しました」

 そう言ったら、土方さんは不機嫌な顔になった。

「行くぞっ!」

 なんで機嫌が悪くなったんだろう?


 一本木関門より先にある場所だったので、馬を走らせて行った。

 弁天台場は、1856年から1863年にかけて、外国船襲来に備えて作られたもので、現代には残っていない。

 また貴重なものを見ることが出来るとは。

 ただ、この弁天台場もこの後起こる箱館戦争で戦場となる場所だ。

「お前、なんで馬に乗る練習なんてしたんだ?」

 弁天台場につき馬から降りると、土方さんにそう聞かれた。

「必要だと思ったからですよ」

 土方さんを助けたいから。

「俺は、お前に馬なんて乗ってもらいたくなかったがな」

 えっ、そうなのか?

「どうしてですか?」

「お前を戦場に出したくねぇんだよ。ここまで連れて来て勝手なことを言うと思っているだろうがな。戦場でお前に何かあったらと思うと、気が気じゃねぇよ」

「私だって、土方さんに戦場に出てもらたくないですよ。でも、それはできないことだから、せめてそばで土方さんを守りたいと思って練習したのですよ」

「ったく、お前って奴は……。そこまで言うなら、覚悟はできているってことだな?」

「いまさら、覚悟も何もないと思いますよ。土方さんと一緒にここまで戦場を歩いてきたのですから」

 覚悟なら、もうとっくにできている。

「わかった。もう何も言わねぇよ。ただ、また俺がお前のことを女だと言っても、誰も信じてもらえねぇな」

 あ、そうなるかも……。

「すみません」

 謝ると、

「別にいいさ」

 と、弁天台場から海をながめながら土方さんは言った。

 しばらく弁天台場を二人で見てまわった。

「お前、敵はどこから来るかわかってんだろう?」

 土方さんは歩きながらそう聞いてきた。

 確か、江差の少し北側にある乙部と言う場所から上陸すると思うのだけれど。

 それを話したら、

「そうか、俺の思った通りだな。敵は江差方面から上陸してくるだろう」

 土方さんもそこまでわかっていたのか。

「今は、冬という季節が俺たちを守ってくれているが、春が近づいてくると、ここも戦場になるだろう」

 そう、ここも戦場になる。

 海からの風が強く吹いてきた。

 思わずぶるっと身震いしてしまった。

「戦が怖いか? つかの間の平和を味わっちまったからな」

 そんな私を見て、土方さんがそう言った。

「怖くないと言えば嘘になります。でも、ここが戦場になる戦は、私は土方さんを守るために出ますから」

「俺は、お前に守ってもらおうとは思ってねぇよ」

 ポンッと頭を優しくたたかれた。

「でも、守りますから」

「女に守るって言われちゃ、俺もおしまいだな」

 いや、そんなことないから、勝手におしまいにしないで。

「戦に出るなとはもう言わねぇよ。だた、死ぬなよ」

 土方さんは真剣な顔で私と向き合ってそう言った。

「土方さんこそ、死なないでくださいね」

「俺はまだ死ねねぇよ。お前との約束があるからな」

 この戦が終わったら、一緒になろうと約束をした。

 本当に無事にこの戦を終えることが出来るのだろうか?

 不安だけれど、最後の戦を終えない限り、その先の生活はない。

「冷えてきたな。行くぞ」

 土方さんが私の手をとった。

「土方さん、手が冷たいですよ」

「お前も冷たい手をしているぞ」

 お互いそんなことを言いながら、弁天台場を後にしたのだった。 

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