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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年7月
48/506

新町吉田屋事件

 幕府の偉い人が大坂に行くので、その警護で一緒に大坂に来た。


 夜になり、ほとんどの人たちは大坂の街に出たけど、私は残っていた。

「あ、蒼良そらもいたか。芸妓を呼ぶことになったから、同席するか?」

 永倉さんが誘ってきたので、同席することになった。

 部屋に行くと、芹沢さんもいた。

「お二人で飲んでいたのですか?」

 私が聞くと、二人でうなずいた。

「街に出なかったのですか?」

「街に出てもここに芸妓を呼べば同じだろう。」

 芹沢さんが、お酒を飲みながら言った。

「あまり飲みすぎないでくださいね。」

「おっ、また蒼良の説教か。」

「だって、芹沢さん、飲み過ぎるとろくなことしないじゃないですか。」

「あいにく、俺は何していたかすっかり忘れているがな。」

 それは、飲みすぎて忘れてんだろうがっ!

「蒼良も、かたいこと言うな。」

 永倉さんが、芹沢さんにお酒を注ぎながら言った。

 最近の芹沢さんは、本当にお酒の量が増えた。私が一言いったところで、ほとんど効き目はない。

「お前にも、飲ませたいが、飲めないから仕方ないな。」

 永倉さんは、自分のお酒を飲みながら言った。


 吉田屋というところから、仲居のお鹿さんという人と、芸妓の小寅さんという綺麗な人が来た。

 永倉さんは、仲居のお鹿さんという人が気に入ったみたいで、

「可愛いな。」

 という言葉を連発していた。

 しかし、この小寅さん、芹沢さんのことがあまり好きではなかったらしい。

 たしかに、いい噂は聞かないもんね。

 それが態度に出ていて、お酌をするたびに、お銚子とお猪口があたるカチンという音が鳴っていた。

 最初は、芹沢さんも気にならなかったみたいだけど、お酒の量が増えてくると、芹沢さんもだんだん不愉快な顔つきになってきた。

「お前は、客を喜ばせるためにいるのだろう。それなのに、お前の態度は最悪だ。俺が叩き直してやるっ!」

 芹沢さんが、鉄扇を振り回した。

 やばい。もう相当お酒が入っている。最近の芹沢さんは、お酒が入りすぎると暴れる。

 芹沢さんは鉄扇を振り回し、お銚子とかを割っている。

 そして、小寅さんに鉄扇が向けられた。

「芹沢さん、ダメですっ!」

 私は、小寅さんと芹沢さんの間に入った。

 芹沢さんの鉄扇が私に向けられている。

「蒼良、どけ。そいつを殴らんと気がすまん。」

「殴るって、女性ですよ。武士が女性のような弱い人間に暴力を振るうのは、間違っていますよ。」

 しばらく、鉄扇を私に向けたまま芹沢さんは黙っていたけど、 

「分かった。もういい。つまらん宴席になった。お前らもとっとと帰れっ!」

 鉄扇を開いたり閉じたりしながら言った。相当イライラしているらしい。

 小寅さんとお鹿さんは、逃げるように帰って行った。


 お酒の席のことなので、次の日には忘れているだろうと思っていたら、なんと、覚えていた。

 しかも、怒りも昨日よりパワーアップしていた。

「昨日の吉田屋の二人、許せん。首をはねてやらんときがすまん。」

 えっ、あんなことでさらし首?

 その言葉を聞いた永倉さんが、宿主の京屋さんに相談していた。

「おい、昨日、何かあったのか?」

 土方さんに聞かれたから、全部教えた。

「また厄介なことがおきたなぁ。」

 土方さんはつぶやいていた。


 しばらくすると、芹沢さんは、吉田屋に行くと騒ぎ出した。

 私は、また角屋の時のようになるのではと思い、止めたけど聞かなかった。

 その結果、永倉さんと斎藤さんと平山さんも一緒に吉田屋に行くことになった。

「あれ?土方さんは?」

 土方さんの姿がなかった。

「ちょっと野暮用で出かけてるよ。そのうち俺たちに合流する。」

 永倉さんが言った。

「芹沢さん、何する気なのでしょうか?」

「俺が、京屋に言って、京屋から吉田屋に話が言っていると思うから、悪いようにはならんと思うが。」

 永倉さん、いつの間に手を打っていた。

 吉田屋に着く前に、土方さんが私たちに合流した。

 そして吉田屋に着いた。


 吉田屋に着くと、芸妓総出で出迎えってこのことを言うのか?50人ぐらいの綺麗な女の人たちに出迎えられた。

 同じ女だけど、その綺麗さと豪華さにドキドキしてしまった。

 座敷の通され、芹沢さんが、主人を呼ぶように言ったけど、主人はいなかった。

「昨日、小寅とお鹿が無礼を働いた。そのことで言いたいことがあるから、ここに連れて来い。変に隠すと、この家を壊すから、覚悟しておけっ!」

 そう言われた人は、慌てて奥に引っ込んだ。

 そしてまもなく、小寅さんとお鹿さんが泣きながら入ってきた。

 おびえてるよ、かわいそうに。

「男なら、首を切るところだが、女だから、それは許してやる。」

 よかった。

「そのかわり、髪を切れっ!」

 芹沢さんは、脇差を出してきた。

 髪って、女の人には命と同じものに違いない。しかも、短くなったら、商売もできないだろう。

「駄目ですっ!」

 私は、芹沢さんの前に立った。

「蒼良、どけっ!」

「いやです。相手は女性なのだから、許してあげてください。」

「ダメだ、許せん。」

 芹沢さんに押しのけられた。私は、横に倒れた。

「芹沢さん、局長が自ら手を汚すのもどうだと思う。ここは土方さんにやってもらえばいいんじゃないか?」

 永倉さんが信じられないことを言った。

「永倉さん、なんてことを言うのですかっ!」

「蒼良、ここまでこじれたら、もうどうすることもできない。あきらめろ。」

 あきらめろって。

 土方さんが、脇差を持って立ち上がった。

 ダメだ、これだと土方さんが悪者になってしまう。

「それなら、私が切ります。」

 私は立ち上がって脇差を持った。

「なに言ってんだっ!お前は引っ込んでろっ!」

「いやです。これじゃぁ、土方さんが…。」

「俺は大丈夫だ。」

「よし、土方は小寅の髪を切れ。平山、お前はお鹿のを切れ。」

 芹沢さんが嬉しそうに言った。平山さんも嬉しそうに脇差を持って来た。

 止めることができなかった。二人は無惨にも髪の毛を切られてしまった。

 二人共泣いていた。そりゃそうだろう。

「よし、これを肴に酒を飲むぞ。」

 芹沢さんがお酒を飲みながら言った。

「もういいじゃないですか。ここまでしたのだから、気が済んだでしょう。別な部屋で飲んでください。」

 これ以上、無残な二人を芹沢さんの目にさらすことが、もう許せなかった。

「別な部屋には芸妓がたくさんいるから、そっちで飲んだほうが芹沢さんもいいだろう。」

 土方さんが脇差をしまいながら言った。

「そうか、用意がいいな。じゃぁ、別室で飲ませてもらう。平山、行くぞ。」

 芹沢さんは、平山さんを連れて別な部屋に行ってしまった。

「助けられなくて、ごめんなさい。」

 私は二人に謝った。

「小寅はなんとかなったけど、あそこで平山が出てくるとは思わなかったな。すまない、お鹿。」

 永倉さんが訳の分からない事を言った。小寅はなんとかなった?一緒に髪の毛切られていたじゃないか。

「蒼良、よく見ろ。」

 土方さんに言われて二人をよく見てみた。

 あれ?お鹿さんは切られて短くなっているけど、小寅さんは髪の毛を結い上げていた紐が切られたからボサボサっとなっているけど、長さが…変わっていない?

「小寅さんは、切られていない?」

 詳しい話をすると、あとから合流した土方さんは、髪の毛を探していたらしい。

 私から話を聞き、話の流れ的にこうなるのではないかと予測した土方さんは、永倉さんと組んで、今回の作戦に出たらしい。

 そう、永倉さんが土方さんを指名したのは作戦だった。土方さんは結い上げた紐だけを切り、後は集めてきた髪の毛を懐から出して、いかにも切ったように見せる演技をする。そういう作戦だった。

 しかし、お鹿さんは平山さんが切ったので、本当に切られてしまった。

「なんだ、最初から切るつもりはなかったのですね。でも、私にも教えてくれてもよかったじゃないですか。」

「お前は嘘つけねぇから、絶対にバレる。騙すのも身内からって言うだろう。」

 そうだけど…。

「土方さん、このあとどうする?このことが芹沢たちにわかったら、また仕返しに来るだろう。」

 斎藤さんが一番大事なことを言った。

「このあとのことも考えてある。」

 実は、小寅さんは商人のところに行くことが決まっていた。

 彼女はそのままその商人のところへ行くらしい。

 お鹿さんは、永倉さんが世話することになった。

「とりあえず、髪が伸びるのを待って、それからだな。」

 永倉さんが満足そうに言った。

 永倉さん、お鹿さんのことを気に入っていたみたいだし、とにかく、よかった。


 別室で宴会をしている芹沢さんたちを置いて、私たちは宿に戻った。

「そういえば、俺はお前に言っとくことがあった。」

 土方さんが改めて私に言ってきた。

「なんか、すごく嫌な予感がするのですが…。」

「ばかやろう。人が真面目に話しようって時に。」

「すみません。なんですか?」

「お前、俺をかばっただろう。」

 えっ、かばった?

「新八が、俺に髪を切らせろって言った時、自分が切るって言っただろう。」

「えっ、そうでしたっけ?」

 そう、土方さんを悪人にしたくなかったから、かばった。覚えていたけど、なんか照れくさいから、忘れたふりをした。

「ありがとな。」

 ポンポンと、軽く叩かれるように、頭を撫でてくれた。

 この人は、なんでもわかってしまうのだなぁと、改めて実感した。

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