蝦夷でクリスマス
「ねぇ、確かこの時期だったよね?」
沖田さんが突然そう言ってきた。
この時期って……。
「年末ですか?」
そろそろ十二月も終わる。
「年末もそうだけど、京にいた時にやったじゃん。あれだよ」
あれ?
「足袋の中に贈り物が入るやつ」
ああっ!
「クリスマスですね」
足袋じゃなく、靴下の中に贈り物を入れるのですからね。
「そう、それ。僕も病気が治ったから、もう一度やりたいなぁって思って」
そうだなぁ、やってもいいかな。
箱館だったら、本格的なクリスマスが出来そうだ。
というのも、箱館は安政五カ国条約という、幕府がアメリカ・イギリス・フランス・ロシア・オランダの五カ国と結んだ条約の総称で、その条約の中で決まられた開港場の一つになっている。
だから、外国の領事館がいくつかある。
この時代、日本にクリスマスという行事はほとんどないけれど、外国なら普通の行事になっているはず。
運が良ければ、領事館に見に行って、本格的なクリスマスをここで過ごせるかもしれない。
「いいですよ。ここでもクリスマスやってみましょうっ!」
と、私が沖田さんに言ったら、
「クリスマスかぁ」
と、私の後ろから榎本さんの声が聞こえてきた。
突然聞こえてきたから、驚いた。
「懐かしいなぁ。オランダに留学しているときに、俺も経験したことがある」
そ、そうなのか?
確かに、オランダならクリスマスもあるだろう。
「蒼良君はクリスマスを知っているのかい?」
「は、はい。お師匠様から教わりました」
何かあった時のお師匠様だ。
「確かに、天野先生なら知ってそうだよね」
と言いながら、榎本さんは去って行った。
な、何だったんだ?
「じゃあ、蒼良、楽しみにしているからね」
「お、沖田さんも一緒に準備しましょうよ」
危うく丸投げされるところだった。
「もちろん、そのつもりだけど」
あれ?丸投げしてくると思っていたけれど……。
「準備も楽しいからね」
沖田さんがもっともらしいことを言っていることに驚いてしまった。
「お前っ! 何をやりやがったっ!」
部屋に帰ると、突然土方さんに怒鳴られた。
何をやりやがったって……。
「まだ、何もやっていませんよ」
「まだって、これからやるつもりだったのか?」
いや、これからも怒られるようなことはする予定はないのだけれど……。
「突然、何ですか?」
部屋に入るなり怒鳴ってきて何なんだ?
「榎本さんがお前を呼んでいる」
えっ、榎本さんが?
「もちろん、土方さんも呼ばれてますよね?」
「お前だけだ」
ええっ!
「なんで私だけなのですか?」
「それは俺も知りたい。なんでだ?」
「なんででしょう?」
私も知りたい。
「行くぞっ!」
土方さんが、突然私の腕をひいて部屋の外へ出た。
「ど、どこへ行くのですかっ?」
「榎本さんの所に決まっているだろう。お前一人で行かせられるか」
一緒に行ってくれるのか?
「お前一人で行かせたら、何やるかわからねぇからな」
あっ、一緒に行ってくれるのではなく、監視のためについてくるのか。
「それに、お前も不安そうだしな。お前一人に不安な思いはさせねぇよ」
土方さんは私の方を見て、優しくそう言ってくれた。
やっぱり、一緒に行ってくれるのですねっ!
その言葉がすごく嬉しかった。
「やっぱり土方君も来たね」
榎本さんのいる部屋に行ったら、榎本さんは火鉢の前に座っていた。
「榎本さんがこいつに何の用だ?」
「そんな深刻な顔しなくても大丈夫だよ。たいした用じゃないんだ」
そ、そうなのか?
「蒼良君がクリスマスの話をしていて、それを聞いたら、オランダに留学していた時のクリスマスを懐かしく思い出してね。ここでもクリスマスをやってみたらどうかと思って、クリスマスのことを知っている蒼良君を呼んだというわけだ」
そうだったんだ。
「オランダでは、二回クリスマスがあってね。一回目の方はもう終わってしまったんだけどね」
そうなのか?
後で調べると、オランダでは十二月六日にサンタクロースの起源になった聖ニコラウスの命日に 聖ニコラウスデーと呼ばれる日があり、クリスマスよりも華やかなお祭りがあるらしい。
「くりすます……」
そうつぶやきながら、土方さんが私を見た。
「どうだい、ここでクリスマスをやってみないか?」
京にいた時も、無茶苦茶だったけれど何とか出来た。
「いいのですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「もちろん。蒼良君が良ければ頼むよ」
「はいっ!」
沖田さんとのクリスマスが、少し規模が大きくなっちゃったけれど、何とかなるよね。
「よし、蒼良君をクリスマス奉行に任命する」
えっ、
「クリスマス奉行?」
榎本さんの言葉に、土方さんと声をそろえてそう言っていた。
「クリスマスのことをまかせるんだから、クリスマス奉行だろう?」
そ、そうなのか?ずいぶん変な名前なんだけれど。
「もちろん、クリスマスが終わったら、役目は終わりだけれどね」
そうだよね。
正月にクリスマス奉行っておかしいもんね。
でも、正月奉行って言うのも聞かないよね。
そんなことを一人で考えているうちに、話はどんどん進んでいく。
「それにしても、クリスマスを知っているとは。ますます海軍にほしくなったよ」
「榎本さん、くりすますと海軍は関係ねぇだろう」
「いや、俺がますます気に入ったと言う事だよ。どうだい? 蒼良君、やっぱり海軍に来ないか?」
榎本さんにこうやってたまに海軍に来いと誘われるのだけれど……。
「こいつは渡さねぇって、前から言っているだろう」
私も、海軍に行くつもりはない。
「蒼良君は、土方君お気に入りの小姓だからね。やっぱり海軍に来るのは無理そうだね」
「いや、こいつは小姓じゃねぇ」
そう、私はよく土方さんの小姓に間違えられるのだけれど、小姓ではない。
小姓は若い男の子がなるもので、この時代は私ぐらいの年になるともう若くはないので、その時点で小姓ではない、
男の子と言う時点でももう違うんだけれどね。
「こいつは男じゃねぇ」
ええっ、ここで言っちゃうのか?
「いいのですか?」
「この際はっきり言っておいたほうがいい」
そ、そうなのか?
「榎本さん、こいつは俺の女だ。小姓じゃねぇ」
言っちゃったよ、しかも俺の女とっ!少し嬉しい。
いけない、顔がにやけてしまった。
一瞬シーンとなってしまった。
「土方君、蒼良君のことを大事に思っていることはわかるけど、女と言う冗談は通じないよ」
えっ、冗談?
「いや、俺は本当のことを……」
「わかっている。土方君から見れば、蒼良君は女であってほしいと思うのだろう。大丈夫。俺は、土方君の相手が男であろうと女であろうと全力で応援するよ」
しかも、いつか近藤さんが言ったセリフまで言う。
「い、いや、榎本さん、そう言う事じゃなくて、だから……。おい、お前も何とか言いやがれっ!」
ええっ、私か?
「な、なにを言えばいいのですか?」
小さい声で土方さんに聞いたら、
「お前、ここまで女と認められねぇんだぞ。悔しくねぇのか?」
そう言われると、悔しいような気もするけれど……。
「悔しいだろう? 一言ガツンと言ってやれっ!」
よし、どうすれば女と認めてもらえるんだろう?
うーん……。
「なんて言えばいいですか?」
「ばかやろう。それを考えろって言っているんだっ!」
「思いつかないのですが……」
どうすればいいんだ?
「いっそのこと、見せますか?」
「な、なにを見せるんだっ!」
「女の人用の着物を着て、女らしい格好をして、女らしくふるまえばいいと思うのですが……」
「なんだ、そう言う事か」
「えっ、他にも見せる物があるのですか?」
土方さんは何を見せようとしていたんだ?
「な、なんでもねぇよ」
何赤くなっているんだろう?
「蒼良君は、新選組が出来た時からいるんだろう? 女性だったら、あの新選組にいれるわけないだろう。なぁ、蒼良君」
あ、榎本さんとの話の途中だった。
って言うか、このタイミングでこちらにふられても……。
「はい……」
もう返事するしかないだろう。
あははは……という榎本さんの笑い声が聞こえた。
そして、横から土方さんのため息が聞こえたのだった。
というわけで、クリスマス奉行と言う訳の分からないけれど責任は重大と言う事だけは確かで。
京にいた時のような感じにはいかないだろう。
出来れば、手伝ってくれるであろう沖田さんにも、本当のクリスマスはどういう物か知ってもらいたいし。
一番手っ取り早いのが、領事館へ見学に行くことなのだけれど、簡単に行くことが出来るのかなぁ……。
とりあえず見学できるか榎本さんに聞いてみようと思い、聞いてみたらあっさりと、
「行っておいで」
と許可をもらった。
「書状とかいらないのですか?」
この時代は何かとそう言うものが必要だと思ったのだけど。
「いらないでしょう。で、どこの領事館に行くの?」
そ、そこまでは考えてなかった。
「ロシア領事館はどうかな? 箱館復活聖堂もあるからちょうどいいんじゃないかな」
箱館復活聖堂とは、現代で言う函館ハリストス正教会の聖堂の事で、箱館の人たちからは「ガンガン寺」と呼ばれている。
教会があるならぜひ見学したい。
「ありがとうございます。そこに行ってみます」
お礼を言って部屋を出ようとした時、
「蒼良君はロシア語は出来るの?」
と、榎本さんに聞かれた。
あっ……。
「できないです」
ロシア語が出来なければ、行っても何もできないじゃないかっ!
「通詞を連れて行くといい」
通詞とは通訳の人のことだ。
「ありがとうございます」
今度こそ、ちゃんとお礼を言って部屋を出た。
沖田さんを捕まえて、通詞の人と一緒に、いざ、ロシア領事館へ。
ロシア領事館の人にクリスマスを見せてほしいというようなことを言っているのだと思う。
通詞の人がロシア語で領事館の人と話をしていた。
私たちはそのやり取りを見ることしかできず。
「蒼良、何話しているかわかる?」
沖田さんが小さい声で聞いてきた。
「わかるわけないじゃないですか」
「僕はわかるよ」
ほ、本当か?
「嘘に決まってるじゃん」
そ、そうだよね。
そんな話をしていると、通詞の人が困った顔で私の方を見てきた。
な、なにかあったのか?
「クリスマスは終わったようです」
……えっ?
「一カ月ぐらい前に終わったようです」
な、なんでっ?
「くりすますは十二月二十五日だよね?」
沖田さんの言う通り、十二月二十五日なのだけれど。
「恐らく、暦が我々と違うと思うのですが」
通詞の人がそう言った。
そうだった。
この時代、日本では太陰暦を使っている。
世界のほとんどの国は、現在の日本でも使っているグレゴリオ暦と言うものを使っている。
そう、この十二月末のクリスマスに近い日は、グレゴリオ暦で言うと、一月の中旬から下旬あたりになる。
クリスマスは自分の国の日にちで祝うだろうから、ほとんどの国のクリスマスは終わったことになる。
ちなみにロシアはユリウス暦を使っていて、クリスマスは一月七日らしい。
でも、それでもすでにクリスマスは終わっていたのだ。
「蒼良、どうしたの?」
通詞の人と一緒に青ざめていると、沖田さんが聞いてきた。
だから、沖田さんに簡単に説明をした。
「終わってたんだ。でも、僕たちはまだクリスマスを迎えていないんだよね」
そうなんだけど。
沖田さんと話をしていると、領事館の人が話しかけてきたので、通詞の人が話を聞いた。
それから通詞の人が笑顔になった。
何が起こったんだ?
「クリスマスをやるのなら、うちはもう終わったから、ヨールカを貸してやると言う事です。これがあれば、かなりクリスマスらしくなると思いますよ」
ヨールカ?
それって何?
そう思っていると、領事館の人が、ヨールカと言うものとそれにつける飾りをたくさん持ってきてくれた。
ヨールカって、ツリーの事だったのね。
ちなみに、ロシア語でモミの木と言う意味があるらしい。
そして、新年を祝うお祭りのことをヨールカ祭と言って、ツリーを飾ってお祝いするらしい。
というのも、ロシアがソ連と言う名前だった時は、宗教的な行事は禁止されていたため、新年にクリスマスの要素を取り入れて祝っていたらしい。
で、ロシア領事館から借りてきたツリーは、とっても大きなものだった。
三人がかりで抱えて何とか五稜郭まで持って帰ってきた。
通詞の人は、仕事があるので行ってしまい、私と沖田さんで飾り付けをしていた。
ツリーが大きいので、飾るのが大変だ。
ちょっと疲れてきたなぁと思っていたら、タイミングよく原田さんか通りかかった。
「左之さん、こっちおいでよ。楽しいよ」
沖田さんが原田さんを呼び、原田さんも手伝ってくれた。
「ところで、この星は他の飾りと違うのだけれど、どうするの?」
沖田さんが持っていたのは、てっぺんに飾る星だった。
「それは、一番上に飾るのですよ」
私がそう言うと、原田さんと沖田さんはツリーの一番上を見た。
「けっこう高いな」
原田さんがそう言った。
そう、ツリーが大きいので、てっぺんもかなり上なのだ。
「蒼良、乗って」
沖田さんが下に低くなってそう言った。
「えっ?」
「かたくるましたら届くと思うよ」
あ、かたくるまか。
「原田さんをかたくるました方が……」
「左之さんをかたくるまするより、蒼良の方が軽いでしょ?」
原田さんの方を見たら、うなずいていた。
「じゃあ、すみません」
一応、謝ってから沖田さんの肩に乗った。
沖田さんが立ち上がると、ちょうどツリーのてっぺんが目の前にあった。
星を飾ってから、
「できましたよ」
と、私が言うのと同時に、
「な、なにしてんだっ!」
という土方さんの声が聞こえてきたのでびっくりした。
「あ、蒼良、動かないで」
沖田さんが私をかたくるましたまま、右へ左へとユラユラ動く。
お、落ちそうなのですがっ!
「危ないっ!」
原田さんの声が聞こえたと思ったら、私の体は宙に浮いていた。
それは一瞬の事で、気がついたら、土方さんの腕の中にいた。
「お前、何やってんだ? あぶねぇだろう」
「蒼良、ごめん」
私の顔をのぞき込んできた沖田さんが謝った。
「だ、大丈夫です。私こそ、動いてしまってすみません」
「で、何をやっていたんだ? って、さっきから聞いているだろう」
今度は、土方さんが近くで私の顔を見てきた。
「ツリーに星を飾っていたのです」
「はあ、星?」
私が上を指さすと、土方さんも上を見た。
「あ、あれか」
納得してくれたらしい。
「土方さん、いつまで蒼良を?」
原田さんが言った時にやっと気がついた。
私はまだ土方さんの腕の中だった。
「あ、すまんっ!」
土方さんはあわてつつ、それでも丁寧に下におろしてくれた。
「これを飾って、後は何するの?」
沖田さんがそう聞いてきた。
「例のくりすますか?」
「はい。領事館に見学に行ったら、終わってしまったと言われて」
「でも、蒼良もくりすますって言うものをやっていたんだろう?」
原田さんにそう聞かれたので、私はうなずいた。
「それなら、蒼良が知っているくりすますをやればいいんじゃないか?」
それでいいのかなぁ?
土方さんと沖田さんを見たら、二人ともうなずいていた。
「蒼良のくりすますは、この後なにをやるの?」
沖田さんがそう聞いてきた。
「そうですね。友達とか、好きな人とか、大切な人とかにプ……贈り物をあげます。友達とだったら、交換したりしますね」
「後は、三太が来るんだよね」
沖田さんは得意気に言ったのだけれど、サンタですから。
「でも、三太は子供しか来ないらしいから、無理だね。それと宴会もやったよね」
沖田さんはちゃんと覚えていた。
「そうです」
「じゃあ、後は宴会の準備だけだね。僕は用が出来たから、もう行くね」
えっ、用?
沖田さんがそう言って行ってしまうと、土方さんと原田さんも、
「買い物行かないとな」
「俺も急用が出来た」
と言って行ってしまった。
なんだ、みんな意外と忙しいんだね。
そう言えば、クリスマスだから、土方さんにプレゼントあげたいな。
そろそろ買いに行かないと。
そして当日。
クリスマスを知っている榎本さんが宴会の準備をしてくれて、ツリーを見ながら宴会をすることになった。
「結局、酒が飲みたかったんだよな。ここんところ、宴会もなかったからな」
原田さんが、ツリーの下でお酒を飲む人たちを見てそう言った。
いや、つい先日に祝賀会をしたばかりですから。
「この赤い血みたいな色の飲物、苦いね」
沖田さんはそう言いながらちびちびとワインを飲んでいた。
「お前は飲むなよ」
「日本酒以外は飲みませんよ」
この前、酔っ払って倒れたから、もう飲まない。
宴会も盛り上がってきたとき、土方さんの姿が見えなくなっていた。
どこへ行っちゃったんだろう?
こんなことしている場合じゃねぇんだとか言いながら、宴会から出ちゃったんだろうなぁ。
そう思いながら、私も宴会を抜け出して土方さんを探しに行った。
土方さんは、外にいた。
「土方さん、冷えますよ」
外は雪が降っていた。
めったに私が経験できないホワイトクリスマスだぁ。
でも、寒い。
「中に戻りましょう」
私が言ったら、
「酔いをさましていた」
と、土方さんが言った。
「酔いはさめましたか? 中に入りましょう」
「もう少し、ここにいていいか?」
未だ酔いがさめないのかなぁ。
土方さんの顔を見ると、酔っているようには見えなかった。
「お前、くりすますは、大切な人に贈り物を渡すって言ったよな?」
確かに、言いましたが。
土方さんはそう言うと、ふところから何かを出してきた。
「お前にだ」
それを私に渡してきた。
「俺にとって、お前は大切だからな」
ええっ!
「もらっていいのですか?」
「いらねぇのか?」
「いや、いりますっ! ありがとうございます」
土方さんからプレゼントを受け取ってから、私もふところに入れていた土方さんへのプレゼントを出した。
「私も、土方さんに贈り物があるのです」
「俺にか?」
「はい」
「俺にだけか?」
なんでそんなことを聞いてくるんだろう?
「そうですが」
「よし」
土方さんは嬉しそうな顔をして私から受け取った。
「中を見てもいいですか?」
「開けてみろ。お前のも開けるぞ」
「はい」
二人で一緒に中身を見ると……。
「あっ……」
「あ、あれ?」
二人でそんな声をあげてしまった。
というのも、私たちが選んだものは、まったく同じ懐中時計だったからだ。
「まさか、こんなことになるとはな」
「すみません。懐中時計が必要だろうなぁと思ったので、選んだのですが、土方さんも同じ物を選んでいたのですね」
「謝ることねぇよ。俺もお前と同じことを考えて選んだ。見た感じは同じ物だが、俺にとっては、お前が選んでくれたというだけで違うものになるんだ」
そう言いながら、土方さんは私が持っていた懐中時計をとり、私の服につけてくれた。
そう、私も、土方さんが選んでつけてくれたというだけで、特別な懐中時計になる。
「俺のもつけてくれ」
土方さんに言われたので、私も土方さんに懐中時計をつけた。
「二人で同じものを持っていると、特別に感じるな」
土方さんが、自分の服についている懐中時計を見てそう言った。
ペアってことだよね。
嬉しいような、恥ずかしいようなって感じだよね。
「あ、いた」
土方さんといい雰囲気になっていると、沖田さんの声がした。
「探したぞ」
原田さんも一緒だった。
「何かあったのですか?」
宴会もお開きか何かになったのか?
「ほら、蒼良が大切な人に贈り物をするって言ったから、これを蒼良にと思って」
沖田さんが何かをふところから出して、私に渡してきた。
「蒼良は、僕にとって大切な人だからね」
そ、そうなのか?
沖田さんの病気を治したからと言う事なんだろうけど。
でも、それはお師匠様がほとんどやってくれたことだ。
私はあまり関係ないと思うのだけれど。
「俺も買ってきた」
原田さんもふところから出してきた。
「あ、ありがとうございます」
二人の気迫にまけて、受け取った。
そう言えば……。
「私、お二人にプ……贈り物を用意していないのですが」
お金が足りなかったのと、土方さんの事で頭がいっぱいでそこまで気が回らなかった。
「いいよ。そのうち返してもらうから」
沖田さんが怖いことを言った。
ど、どうやって返せばいいんだ?
「俺が勝手にやっていることだから、気にするな」
原田さんはそう言ってくれた。
沖田さんからは、綺麗なガラス玉がついた首飾りだった。
「異国の人たちが使うものらしいよ。綺麗だったから買ったんだ」
沖田さんはそう言いながら、首飾りを私にかけた。
原田さんからは、がま口の小物入れだった。
「異国のものらしいぞ。珍しいから買ってきた」
そう、がま口って、実は日本の物じゃなく、外国から来たものなのだ。
「ありがとうございます」
別な形ででも、いつかお礼をしないとなぁ。
「酔いがさめた。行くぞっ!」
ちょっと不機嫌そうな声で土方さんがそう言ったので、宴会に戻った。
今回のクリスマスは、この時代に来て一番クリスマスらしかったかもしれない。
宴会に戻る道でそう思った。