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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治元年12月
473/506

沖田さんの病気は?

 箱館政権の祝賀会も無事に終わり、入札の結果を考慮しながら主な役職につく人たちが決まっていった。

 ただ、入札で票を獲得したのにもかかわらず役職につかない人たちもいたので、あの入札は何だったのかなぁなんて思ったり。

 そんな中、土方さんが陸軍奉行並箱館市中取締裁判局頭取と言う長い名前の役職についた。

 陸軍奉行並と箱館市中取締裁判局頭取を兼任するという感じかな?

 新選組も、入札の日まで仏式演習、要するに、フランス式の訓練を五稜郭でやっていたのだけれど、入札の日から箱館市中取り締まりをすることになった。

 やっぱり、新選組の上には土方さんありだ。

 そう思っていたのだけれど、新選組は陸軍奉行の下の組織の一部になってしまい、土方さんが直接指揮をとることが出来なくなってしまった。

 陸軍奉行は簡単に言うと幕府の陸軍の指揮官で、陸軍奉行並は陸軍奉行の補佐にあたる。

 箱館では大鳥さんが陸軍奉行で、その補佐と言う形で土方さんがついている。

 新選組は大鳥さん率いる陸軍の組織の一部と言う事になるので、土方さんより大鳥さんの命令で動くことになる。

 なんだか難しいなぁ。

 そんな感じなのだけれど、新選組にいた人たちの中から数人が陸軍奉行添役と言う役職につき、土方さんの下で働くことになった。

 これは嬉しいことだね、うん。

「あいつらがよく動いてくれる」

 と、土方さんは嬉しそうに話をしている。

「ねぇ、なんで僕の名前はないの?」

 そう言ってきたのは沖田さんだ。

「沖田さんは病気だからですよ……」

 あっ!沖田さんの病気はどうなっているんだ?

 お師匠様が現代から持ってきた結核の薬は、もう飲み終わっているころだろう。

 見た感じ元気そうなんだけど、どうなんだ?

「病気って、もう元気だよ」

「薬は? 薬は全部飲みましたか?」

「天野先生の監視の元、ちゃんと飲んで、もうとっくに無くなったよ」

 やっぱり無くなっているよね?

「だから、こんなに元気になったよ」

 ニッコリと笑顔で沖田さんは言った。

「天野先生も治ったって言ってくれたし」

 いや、お師匠様は医者じゃないですからっ!

「でも、良順先生の手伝いをしていたじゃん」

「手伝いをしていただけで、医者じゃないですからね」

「誰が医者じゃないって?」

 お師匠様が突然出てきた。

蒼良そらが、師匠である天野先生は信頼できないって」

 いや、沖田さん、私はそんなことを言ってませんよ。

 ブンブンと首を振ったら、

「だって、天野先生が僕の病気は治ったと言ったと言っても、医者じゃないから信用できないって」

 だから、信用できないまでは言ってませんよ。

「沖田の病気は治っている」

 お師匠様はそう断言した。

「どうしてそう断言できるのですか?」

「勘じゃ勘」

 全く信用できないじゃないかっ!

「いいか、蒼良。沖田の病気が治ったかどうか知る方法がある」

 そんな方法があったのか?

「それは何ですか?」

「現代へ連れて行って検査を受けさせる」

 お師匠様の言葉にシーンとなった。

「僕は嫌だよ。蒼良が一緒ならいいけど」

「蒼良はまだここでやるべきことがあるから無理じゃ」

 そうなのだ。

 またここに戻ってこれるという保障があれば沖田さんと一度現代へ帰って……と言う事も出来るけど、お師匠様の話だとタイムマシンがいつ壊れるかわからないらしい。

 この状態でここに戻ってこれなければ、私は一生後悔する。

 どうしても変えたい歴史があるから。

「それなら僕もここにいる」

 現代へ行って検査を受けさせるって言っていたけれど、無理じゃん。

「他の方法はないのですか?」

 お師匠様を見ながら私は聞いた。

「確実が分からんが、この時代の医者に診せるしかないじゃろう」

 あ、そうだよね。

 なんでこんな簡単な方法が思いつかなかったのだろうか?

「箱館病院の院長である高松凌雲たかまつりょううんに診てもらうといい」

 箱館病院なんてあるんだぁ。

「わかったよ。蒼良、一緒に行こう」

 私の返事をする間もなく、沖田さんは私の手をひいて外に連れ出した。

 私も、沖田さんと一緒に箱館病院へ行くことになった。


 この高松凌雲と言うお医者さんは、西洋医学の他に語学も優秀だったので、慶喜公の弟と一緒にパリ万国博覧会に参加するためにフランスへ行く。

 万博終了後もそのままフランスに残って留学する。

 しかし、日本がこんな感じで内乱状態になり、留学費用を負担していた幕府も無くなってしまったので、帰国する。

 凌雲先生が帰国した時は、江戸城は明け渡されていて、慶喜公も水戸で謹慎中だった。

 留学費用を出してくれた幕府への恩義に従い、凌雲先生は今、ここにいる。

 と言う事で、沖田さんと箱館病院へやってきた。

「で、どこが具合悪いんだ?」

 凌雲先生は、元気に座っている沖田さんを見てそう言った。

 そうだ、今は沖田さん元気なんだよね。

 元気なのに、何しに来たって感じだよね?

 思わず沖田さんと顔を見合わせてしまった。

「実は、こう見えても僕はろ……」

 労咳と言いそうな沖田さんの口を手でふさいだ。

 実は労咳だったのだけれど、治ったみたいなので、診察してくださいなんて言った日には、大騒ぎになるだろうっ!

 この時代、労咳は不治の病でこの病気になってしまったらほとんどの人が亡くなる。

 それなのに、治ったという事になったら、なんで治ったんだ?薬があるなら出せっ!って話にならないか?

 あるものなら、労咳になった人たちがみんな治るように、たくさん薬を出したいけど、沖田さん一人分の薬を持ってくるだけでもお師匠様は大変な思いをしている。

 多分だけれど。

 だから、ここは隠さなければっ!

「沖田さんは、風邪をひいて咳が止まらなくって……」

 私が話しはじめたら、沖田さんも察したみたいで、口をふさいでいた私の手をどかした。

「そう、咳が止まらなくて、血まで吐いてしまって」

 そう言った沖田さんを見た先生は、

「なに、血まで吐いただと? もしかして、労咳じゃないのか?」

 先生は真剣な顔をして聴診器を沖田さんの胸にあてた。

 慎重に、慎重に聴診器を動かす先生。

 沖田さんの病気はどうなんだろう?

 胸の音を一通りきき終わった先生は、聴診器をおろす。

「胸の音が綺麗だから、労咳ではない。血を吐いたというのは、咳が出すぎてどこか切れたのかもしれない。口を開けてみて」

 先生は沖田さんの口の中も見る。

「大丈夫だ。風邪も綺麗に治っているようだ」

 よ、よかったぁ。

 私は力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。

「えっ、蒼良?」

「あんたより、こっちの人の方が労咳だと思い込んでいたんじゃないのか?」

 事情を知らない先生はそう言って私のことを心配してくれた。

「だ、大丈夫です。沖田さん、よかったですね」

「うん。行こうか?」

 私は、沖田さんに支えられて箱館病院を後にした。

 この後、箱館病院も戦に飲みこまれていくのだけれど、院長である凌雲先生は敵とか味方とか関係なく怪我をした人を治療する。

 これが、日本で最初の赤十字の活動になる。


 外に出たら、久しぶりに薄日がさしていた。

「わぁ、久しぶりに晴れてるっ! 一ついいことがあると続きますね」

「でも、雲がまだあるから、また雪が降るよ」

 そうかもしれないけど、今は少しだけでも日がさしてきたことを喜ぼう。

 歩きはじめようと、一歩踏み出すと、沖田さんが私を引き寄せた。

 驚いている間に私は沖田さんに抱きしめられていた。

 ええっ!なんで?

「僕は、この病気になったと知った時、みんなとここまで来れるとは思えなかった」

 そうだよね。

 歴史では、近藤さんが処刑された後、沖田さんは病気で死んでしまう。

「でも、蒼良のおかげでここにこうやって立つことが出来た。ありがとう」

「あのですね、お薬を持ってきたのはお師匠様ですから」

 沖田さんの胸の中から顔をあげて言った。

「天野先生にも感謝しているよ。でも、蒼良にも感謝しているから言いたかったんだ。多分、一度しか言わないと思う。ありがとう」

 沖田さんの病気が治ってよかった。

 でも、なんで抱きしめられたんだ?


「そうか、治ったか」

 帰ってからすぐに土方さんに報告した。

 土方さんは嬉しそうにそう言った。

「総司の薬を見たら、毒薬みたいな感じだったから、本当に治るのか不安だったがな。毒を持って毒を制するって言うが、本当だな」

 いや、毒じゃないですから。

「ちゃんとした薬ですからね」

「わかっている。総司の病気が治ったと、極楽で近藤さんが喜んでいるだろう」

「あの……、地獄じゃなかったのですか?」

 俺たちは人をたくさん斬っているから、地獄に落ちるみたいなことを言っていなかったか?

「そうだよ、地獄だよ。ここだけ極楽にしてやってもいいだろうが。総司の病気も治ったことだし」

 そ、そうなのか?

「でも、近藤さんも土方さんも地獄に落ちませんよ」

 私は落ちないと思うんだけどね。

「死んだ後の事はどうなるかわかるわけねぇだろう。死んで帰ってきた奴なんていねぇんだから」

 確かにそうだ。

「でも、総司が治ってよかった。お前の時代になると不治の病も治るんだな」

「労咳の場合は、予防も出来ます」

 ただ、不治の病が治る病になるまでは、たくさんの人々が亡くなったし、大変な思いもたくさんしただろう。

「たいしたもんだな」

「たいしたもんですよ」

 労咳を治す薬を開発した人たちに感謝だ。

  

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