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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年7月
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お化け騒動

 暑い日が続いていた。

「今日の夜の巡察は、お前と斎藤だったよな?」

 土方さんが聞いてきた。

「はい。」

 私が答えた。斎藤さんも、近くに来た。

「さらし首している場所、わかるか?」

 そんなもの、知りたくもないわっ。

 しかし、斎藤さんは知っているみたいで、コクンとうなずいた。

「そこの近所の住人から、ちょっと苦情というのか?なんか言ってきたんだ。」

 苦情じゃない何か?苦情みたいなもの?

「なんですか?」

 私が聞くと、土方さんは言いにくそうにしていたけど、話した。

「夜中にさらし首から泣き声が聞こえるらしい。」

「あの…。肝試しですか?」

 思わず聞いてしまった。暑いし、冷房もないし、涼むには肝試しなのかなぁって。

「そんなんじゃない。本当にそう言ってきたのだ。」

 ばかやろうって怒鳴られるかと思ったら、その苦情のようなものに土方さんも困っているみたいだった。

「それでだな。夜の巡察の時に本当に泣いているか、見てきてくれねぇか?」

「嫌です。」

蒼良そら、ずいぶん早く答えを出したな。」

「さらし首が泣くわけないでしょう。死んでいるのですよ。」

「死んでいるんだから、確かめに行ってもいいだろうが。」

「絶対に嫌です。行くなら夜じゃなくてもいいでしょう。」

「いや、昼間は泣かないらしい。」

「だったら、なおさら嫌ですっ!土方さんが行けばいいじゃないですか。」

「副長命令だっ!必ず行け。」

「なんか、ずるいなぁ。ここで副長命令って。」

「つべこべ言うな。必ず行けっ!」

「斎藤さんも、なんとか言ってくださいよ。そんなもの見たくもないって。」

「で、なんときに行けばいいのですか?」

 斎藤さんは、行く気らしい。

「暮れ八つぐらいでいい。」

 暮れ八つといえば…

「まさに、丑三つ時じゃないですか。」

「おお、よくわかったな。」

 この時代に来て半年以上たてば、時間の呼び方ぐらいわかるわっ!

「草木も眠る丑三つ時だ。ちょうどいいだろう。」

 いや、全然良くない。

 という訳で、丑三つ時に斎藤さんと見たくもないさらし首を見ることになったのだった。


「死んでいる人間より、生きている人間のほうが怖いんだから。」

 自分に言い聞かせるように言った。

「生きている人間は、刀を持ってるし、人も殺すし。死んだ人間が人を殺すなんて、聞いたことないもん。」

「死人も刀を持っているかもしれないぞ。」

「さ、斎藤さん、そんな怖いことを…。」

「死んだ人間が武士なら、ありえない話じゃないだろう。」

「でも、死んだ人間が人を殺すことはないですよ。そんな話聞いたことないですから。」

「いや、俺は聞いたことある。あれは、いつのことだったかな…。」

「お、思い出さなくてもいいです。あ、話さなくてもいいです。」

「蒼良、怖いのか?」

「こ、怖くなんかないですよ。相手は首しかないんですよ。」

 首しかないから、怖かったりするのだけど…。

「着いたぞ、ここらしい。」

 もう着いたのか?見ると、3つぐらい首がさらしてあった。

 なんで3つもさらしてあるんだか。ひとつで充分だろう。っていうか、ひとつも見たくない…。

「泣き声か…聞こえないなぁ。」

 斎藤さんは、そう言いながら、周りを歩き始めた。

「さ、斎藤さん、置いてかないでくださいよ。」

「蒼良、そうくっついてくるな。歩きづらい。」

 だって、置いてかれそうなんだもん。ここで一人になりたくない。

「ギャオオオオオン」

 さらし首から声が聞こえた。

「ひいいいいっ!」

 思わず斎藤さんに抱きついてしまった。

「蒼良、よく見ろ。」

「いや、見たくないです。」

「首が泣いているのではない。」

 えっ?そう思い、首の方を見てみると、2匹の猫が出てきた。

「猫の鳴き声は、人の泣き声のように聞こえる時があるからな。犯人はこいつだろう。」

 首が泣いているのではなく、猫が鳴いていたのか。

「そうですよね。死んだ人間が泣くわけないのです。解決解決。」

「あの~」

「ひいいいいいっ!」

 く、首がしゃべったぁ。再び斎藤さんに抱きついてしまった。

「蒼良、よく見ろ。人間だ。」

「に、人間がこんな時間に何の用があるのですかっ!」

「首をかたしに来たのだが…。」

 えっ、かたしに?

「いつまでこのままにしてても、腐って変な匂いがするだけや。かたしてもええって、許可もろうたさかいに、かたしにきた。」

「あ、ご苦労様です。」

「蒼良、いつまで俺に抱きついてんだ?」

「あ、すみません。」

 慌てて斎藤さんから離れた。

「首がかたされるってことは、猫が鳴いても大丈夫ですね。」

「そうだな。帰って報告をしよう。」


 屯所に帰ると、みんな寝ていた。当たり前だ。真夜中だもの。

 しかし、どこからか、声が聞こえた。

「ひと~つ、ふた~つ…」

 思わず、斎藤さんと目を合わせてしまった。

「何か、聞こえませんでしたか?」

「聞こえた。数えていたぞ。」

「みぃ~つ、よぉ~つ」

 なんか、物を数える怪談があったよなぁ…。

「聞かなかったことに。」

「そういうわけにもいかない。」

 斎藤さんは声のする方へ行った。一人になりたくなかったので、一緒についていった。

「いつ~つ、むぅ~つ」

 声がだんだん大きくなってきた。近づいている証拠だ。

 男の人が座っている姿が見えた。

「おい、何してる?」

 斎藤さんが声をかけると、

「ひとつ足りなぁ~い」

 その男性が振り向いた。

「ひいいいいいいっ!」

 またもや斎藤さんに抱きついてしまった。

「なんだ、八木さんか。」

 えっ、八木さん?見てみると、確かに八木さんだ。

 八木さんとは、屯所を貸している人。現代で言うと、大家さんみたいな人になる。

「な、なんでわざわざ、明かりを顔の下に持って振り向くのですかっ!驚いたじゃないですかっ!」

 しかも、こんな夜中に数かぞえているし。

「驚かすつもりじゃなかったんや。昼間物置をかたしたら、火鉢が一つ足りんかったなぁって思って、もう一回数えてたんや。」

「夜中にかぞえることないじゃないですか。」

「眠れんかったさかいに。」

 眠れなかったら、火鉢じゃなくて、羊を数えてください。って、なんで夏なのに火鉢?物置をかたしていたって言ってたから、それでかな。

「夜が明けたら、隊の人間に聞いてみよう。」

 斎藤さんがそう言ったら、

「それがええかもしれんな。」

 と、八木さんは言って火鉢をかたし始めた。

 その時、道場から、パァーン!と木刀で何かを叩いた音が聞こえた。

 斎藤さんは走って道場へ。私もあとを追いかけた。


 道場についたけど、誰もいなかった。

「確かに音を聞いたのだが。」

 斎藤さんは、道場に入っていった。ひ、一人にしないで~という訳で、私も一緒についていった。

 ふと、肩を叩かれた。

 なんだろう?振り向くと、般若はんにゃがいた。

「ぎゃあああああっ!」

「なんだ?」

 そう言いながらも、斎藤さんは刀を抜いていた。

「僕だよ、僕。」

 般若はよく見るとお面で、そのお面の下から沖田さんが出てきた。

「な、なんで?」

 私が聞くと、

「眠れないから、道場に来たら、斎藤君と蒼良の声が聞こえたから、脅かしてやろうって。」

「脅かさなくてもいいですよっ!」

「蒼良の悲鳴がすごかったなぁ。」

 笑いながら沖田さんが言った。

「な、何があったっ!」

 バタバタバタっと、足音が聞こえ、土方さんが出てきた。

「じゃ~ん。」

 沖田さんが、般若のお面をかぶると、土方さんは刀を出してきた。

「僕ですよ。」

「総司っ!夜中になにやってんだっ!」

 誰だってそう思うよ…。

「眠れないから、稽古してたんです。」

「沖田さん、稽古は夜中でなく、昼間してください。」

「蒼良、そう怒らなくても。」

「怒りますよっ。全く!この夜だけで何年寿命が縮む思いをしたことかっ!」

「蒼良、落ち着け。」

 土方さんにも言われたけど、

「落ち着いていられませんよ。さらし首と火鉢と般若。まったく!」

 と、私は怒り続けたのだった。すると、

「蒼良は、全部本物が良かったのか?俺は、これでよかったと思っているが。」

 と、斎藤さんが、冷静に言った。

「いや、本物だったら、もっと嫌です。」

「じゃあ、いいだろう。巡察は異常なし。俺は寝る。」

 斎藤さんは、屯所の中へ入っていった。

「ふぁ~、僕も寝よう。」

「そうですよ、おとなしく寝てください。」

「お前も、怒ってないで、寝るぞ。」

 土方さんに言われ、部屋に引き上げたのだった。

 

 という訳で、さらし首の件も、道場の件も、解決した。道場の件は、最初から言われていたわけじゃなかったのだけど。

 そして、火鉢の件。

 朝になり、斎藤さんが火鉢のことを聞くと、どこからともなくその火鉢が出てきた。

 しかし、その火鉢にはなぜか刀で切られた跡が…。

「なんで、刀傷が?」

「そんなもん、こっちが知りたいわ。」

 八木さんが、あきれながら言った。

 隊士の誰かがやったのか?

「いや~、すまんすまん。わしだ。」

 芹沢さんが、照れながら出てきた。

「芹沢さんですか?」

「ああ。ちょっと試し切りをしててだな。つい、傷をつけてしまった。」

 えっ、火鉢で試し切り?出来るのか?

「蒼良、今、お前もやってみたいと思っただろう?」

「な、何言っているんですか、芹沢さん。」

「これ以上、傷物を増やさんように。」

 八木さんにも言われてしまった。

 私は、ただ、試し切りできるのか、試してみたくなっただけなんだけど…同じことか。

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