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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治元年11月
463/506

松前城攻略

 十一月になった。

 現代になおすと、十二月の中旬から下旬あたりになる。

 現代のように暖かくなる服とか、ととのった暖房機器がなく、この時代では寒がりで通っていた私が、なんと北海道、この時代では蝦夷地と呼ばれる北国に来ている。

 こんな寒いところに自分がいるなんて、信じられない。

 でも、現実にいるんだから、すごい。

 人間、やればできるものだなぁと自分で自分をほめてあげたい。

「お前は、口を開くと寒いって言うよな」

 土方さんにそう言われてしまった。

 それでも、こんな寒い雪の中、松前目指してひたすらに歩く自分は誇らしく思う。

「なに誇らしそうな顔してんだよ」

 今度は私の顔を見た土方さんにそう言われてしまった。

「寒い中、一言も文句言わないでここまで歩いてきた私をほめてあげていたのですよ」

「そんなもん、当たり前だろうが。それに、お前は毎朝外に出ると、寒いって言っているからな」

 そ、そうなんだけど……。

「帰りてぇなら、帰っていいぞ」

 いや、ここまで来たのだから、一緒に行きますよ。

 ここから一人で帰ったら、絶対に遭難するもん。

「だ、大丈夫です。一緒に行って、一緒に帰りますから」

「そうだな、ここまで来たんだから、もう少し頑張れ」

 ここは、知内村という場所で、箱館と松前のちょうど中間あたりに位置する場所だ。

 今日は知内村という場所で宿陣することになりそうだ。

 

 この日の夜、松前藩兵が奇襲をしてきた。

「やっぱり来やがったなっ! いつ来るかとこっちは待ちかまえてたんだっ!」

 土方さんはそう言って、素早く兵たちに指示を出した。

 そして、撃退した。

「やっぱり、襲ってきたのは松前藩でしたか?」

 私が聞いたら、

「逆に聞くが、松前藩以外、どこが夜襲をかけてくるんだ?」

 ど、どこなんだろう?

 でも……。

「松前藩とは、十日まで停戦するって約束しましたよね?」

「そんな約束、守るわけねぇだろう」

 そ、そうなのか?

「松前藩は藩主が変わってから藩の考え方も変わったようだな。前の藩主だったら、俺たちに協力しただろうが、今の藩主はだめだ」

 ちなみに、前の松前藩藩主は幕府の老中にまでなった人だ。

「よし、売られた喧嘩は買う主義だからな。この喧嘩、買ってやる」

 土方さんはニヤリと笑った。

 こ、怖いのだけどっ!

 でも、喧嘩を買うと言う事は……。

「戦をやるって言う事ですね」

「当たり前だっ! いいか、明日からの寝る場所は敵と戦って勝たなければないと思え」

 これは前も言っていた。

 戦に勝たなければ、寝る場所はない。

 この時期に野宿となると凍死は間違いない。

「わかりました」

 土方さんのこの言葉は、士気をあげるためにみんなに伝えられた。

 

 この時、榎本さんの方も松前藩に攻撃されていた。

 というのも、榎本さんも松前藩の動向を気にしていたらしい。

 蟠竜丸ばんりゅうまるという軍艦に乗って、松前沖を視察した時に松前藩が城から海に向けて砲撃をした。

 幸い、古い大砲だったので、射程距離が短く船には届かなかったものの、蟠竜丸の方も、海も荒れていたので船の操作も思うようにできず、帆先と船体に一発ずつ受けてしまったのだけれど、大きな損害ではなかったらしい。

 ただ、波と風がひどく、これ以上海にいることが難しかったので、そのまま引き上げた。

 向こうから十日まで停戦をって言ってきたのに、あっさりと裏切られた結果になってしまった。

 でも、土方さんたちからすれば想定内の出来事だったようで、驚きも何もなかったのだった。


 次の日、いつも通り松前へ向けて進軍を始めた。

 この日の進軍はいつもと違った。

 昨日、敵の奇襲を受けたので、ここから先はいつ敵が出てくるかわからないから、緊張感のある進軍だった。

 そして、一ノ渡という場所で敵と遭遇した。

 ここで勝たなければ私たちの宿は無くなるので、必死で戦った。

「この戦は勝てるぞ。相手の装備を見てみろ」

 土方さんに言われたので見てみると、鳥羽伏見の戦いの時の私たちのようだった。

 そう、相手の武器は私たちが幕末の戦で着ていたものと似ていた。

 一方私たちは、ほとんどが洋装で、銃も鳥羽伏見の時よりは進んでいる物を使っていた。

 土方さんの言う通り見事勝利したのだけれど、建物のほとんどは松前藩兵が敗走するときに火を放ったため、燃え尽きていた。

 私たちは少し先に進んだ福島村という場所に宿陣した。


 松前までもうすぐだ。

 松前を落としたら少しは落ち着くのかな?

「寒いのに、何してんだ?」

 土方さんが出てきた。

「海を見ているのです」

 ここの所ずうっと天気が悪いので、海も鉛色をしていた。

「寒がりのくせにこんな寒いところで海を見ているとはな」

 確かにそうなのだけれど……。

「雪が舞い散る海もいい景色だなぁと思ったので」

「なるほどなぁ。確かにいい景色だ」

「いい俳句が浮かびそうですか?」

「うるせぇっ! 余計なことを言うな」

 いい景色というのなら、俳句の一つや二つ、詠んだらいいのに。

「それにしても、まさか蝦夷まで来て海を見るとは思わなかったな」

 土方さんにとってはそうかもしれない。

 しかし、私は土方さんが蝦夷に行くことを知っていたので、とうとうここまで来たかとしか思わなかった。

「たまに、近藤さんがいたらどうしていたかな。なんて思う」

 海を見ながら土方さんは言った。

 近藤さんがいたら、どうなっていたかな?

「きっと近藤さんがいたら、新選組と一緒に箱館を巡察していると思いますよ」

 今回も、新選組は土方さんと一緒ではない。

「いや、近藤さんだったら新選組を連れてここにいたかもな」

 そうなのか?

「でも、近藤さんはもういねぇから、どうしていたかなんてわからねぇよな」

 確かに。

 近藤さんは四月に処刑されてしまった。

 処刑された時は近藤さんの話がたくさん出たけれど、ここ最近は近藤さんの事をあまり話さなかった。

 土方さんがわざと話題を避けていたのかと思ったのだけれど、ここでその話題が出たと言う事は、避けていたと言う事ではないらしい。

「最近よく思うんだ。近藤さんだったらどうしていたかって。近藤さんの事をよく思い出す。俺も死期が近いのかもしれねぇな」

「そ、そんなこと言わないでください」

 縁起でもない。

「だからって、泣くことねぇだろう」

 私は泣いていたらしい。

「こんな寒いところで泣いたら、涙も凍るぞ」

 そう言いながら、あわてた感じで土方さんは私の涙を拭いてくれた。

 私も凍るのは嫌だなぁ。

「それなら、死ぬ話とかしないでください」

 歴史では蝦夷で土方さんは亡くなる。

 歴史通りに行くと、土方さんと一緒にいられるのはもう半年しかないのだ。

「わかった。もうしねぇよ」

 土方さんは、ポンポンと私の頭を優しくたたいた。

「明日もあるから、戻って休むぞ」

 そうだ、明日も戦はある。

 私も土方さんと一緒に戻った。


 次の日も進軍するかと思いきや、

「今日はここで待機する。敵とここで戦をするつもりだ」

 土方さんがそう言ったので、この日はここで待機し、次の日には敵がやってきた。

 ここでの戦も勝ち、荒谷という場所で宿陣した。

 ここから松前まで一時間ぐらい歩けば着く距離だ。

 次はいよいよ敵の本拠地である松前城で戦だ。

 

「あそこの高台にある寺から大砲を撃て」

 松前城下に入ると、土方さんは兵たちに指示を出した。

 大砲をもって高台にあるお寺へ行く人たちを見送ると、

「俺たちも行くぞっ!」

 土方さんの後について行った。

 着いた場所は、松前城の裏手だった。

「えっ、正面から行くんじゃないのですか?」

 正面から堂々と行くと思っていたのだけど。

「そんなことしたら、打たれるだろうが」

 そうなんだけど。

「正面は、別な兵がおとりで行っている。俺たちはその間にここから中に入り、中から攻撃をする」

 土方さんはそう言いながら梯子をかけた。

 えっ梯子……。

「なんだ?」

 土方さんが私にそう聞いてきた。

「いや、なんか……」

「なんだ?」

「かっこ悪いなぁなんて思ったりして……」

 私が話している途中で怖い顔をする土方さん。

「お前だけ正面から行ってもいいぞ」

「いや、冗談です」

「どうすればかっこよくなるんだ?」

 ニヤリと怖い笑顔で土方さんが聞いてきた。

「こう、へいの上を飛び上がってですね……」

「ほう、お前、そうやって城の中に入れ」

 えっ、それは無理だっ!

 ここはかっこ悪くても梯子を上ったほうがいい。

 いや、かっこいいとか言っている場合じゃないのだ。

 いそいそと梯子を上っている土方さん。

「土方さん、やっぱり一言言っていいですか?」

「なんだっ!」

「かっこ悪いです」

「うるせぇっ!」

 その後、城の中に入ってから土方さんに怒られたのだった。


 私たちが城の中から攻撃し、外からは大砲が飛んでくる。

 混乱した松前藩兵は、城と城下に火を放ち敗走した。

 松前城に入った時、彰義隊の隊長である渋沢成一郎という人が真っ先に宝物庫に入って金品を強奪したため、彰義隊は渋沢派と反渋沢派に分裂してしまった。

 ちなみに彰義隊は上野戦争の前も分裂し、上野戦争に参加した方の彰義隊は上野戦争で敗走してしまった。

 渋沢成一郎は上野戦争前に彰義隊を離脱していたのだけれど、上野戦争で生き残った人たちと再び彰義隊を結成する。

 この分裂、榎本さんが仲介に入り、渋沢成一郎は小彰義隊を率いることになった。

 こんなことをやっている場合じゃないと思うんだけどね。

 

 十一月五日に松前城陥落。

 六日に私たちは松前城に入城したのだった。

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