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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治元年10月
460/506

蝦夷に上陸

 風と雪がすごく、船は一時室蘭に停泊した。

「えっ、室蘭? 箱館に行くのではないのですか?」

 地図で見ると、箱館は本州の最北である青森から津軽海峡をはさんですぐの所にある。

 しかし室蘭は、函館の後ろの方で、しかもその間には内浦湾がある。

 要するに、函館から室蘭を見ると、函館、海、室蘭という感じになっている。

 本州から箱館に行くのなら、室蘭に行かないで直接行った方が近い。

 だから、室蘭に船が停泊していると言う事は、ありえないことだと思うのだけど……。

「お前、直接箱館に乗りこむつもりだったのか?」

 えっ、違うのか?

「箱館は開港していて、領事館や異国の貿易商がたくさんいる。もちろん、港にも船はたくさんあるだろう。そこに幕府の艦船が七隻がやってきたらどうなる?」

「みんな、何事だと驚きますよね」

「そうだろう。そこに入って行って戦になったら、これから蝦夷を平定するのに、周りからは不信感しかなくなり、うまくいくものがいかなくなることもあるからな」

 なるほど。

 ちゃんと考えているんだなぁ。

「それで、室蘭に上陸して歩いて行くのですね」

 室蘭から雪の中歩くって、ものすごく大変そうだけど。

 その言葉に、土方さんが止まった。

 何か悪いことを言ったか?

「お前、本気でそんなことを考えているか?」

 な、なにか不都合なことがあるのか?

「外は雪だぞ。それに京とは比べ物にならねぇぐれぇ寒い。そんな中、歩いて室蘭から箱館に行けると思うか?」

 ブンブンと首を振った。

「俺たちが上陸するのはおそらくここだ」

 蝦夷の地図が広げてあり、土方さんは上陸する場所を指さした。

 その場所を見ても、ああっ!ここに上陸するのですねっ!とは言えなかった。

「どこですか? そこは……」

 出た言葉はその言葉だった。

「蝦夷だっ!」

 それは分かっている。

「なんで、箱館と全く関係ない場所に……」

 そう、土方さんがさした場所は、函館ではない。

「箱館は、ここだ」

 土方さんが箱館の場所を指さしてくれた。

 それですべてが分かった。

 上陸する場所は、箱館の後ろ。

「箱館には表からではなく、裏から入る」

 そう言う事か。

「で、室蘭にはいつまで停泊しているのですか?」

「風と雪がおさまり次第だ」

 それはいつなんだっ!

 この時代、いつに雪がやんでとかって教えてくれる親切な人はいない。


「着いたんじゃないのか?」

 なぜか、すっかり船から降りるしたくをした原田さんと沖田さんがいた。

「まだ着いてないです」

「なんだ。せっかくこの船酔いから解放されると思ったのに」

 がっかりする沖田さん。

「じゃあなんで船は泊まってんだ?」

 原田さんが不思議そうな顔をして聞いてきた。

「風と雪がひどいので、船は室蘭で停泊しているのです」

「そうか」

 一言そう言った原田さんと反対に、沖田さんは歩き始めた。

 その方向は、外へ行く方じゃないかっ!

「沖田さん、外は風と雪がひどいので……」

「雪が降っていようと、風が吹いていようと、僕は外に出る」

 えっ?

「総司、本気か?」

「もう限界。このまま船に乗っていたら、僕は労咳じゃなく船酔いで死んじゃうよ」

 船酔いで死ぬ人っているのか?

「僕はここで降りるから」

「総司、そりゃ無理だろう」

「そうですよ。箱館まで遠いのですよ」

 さっきまで、私も室蘭から箱館まで歩いて行こうとしていたのだけど……。

「でも、これ以上船に乗りたくないっ!」

 そう言いながら、沖田さんは外へと通じる扉をあけた。

 扉は勢いよく開き、ゴーという音とともに風と雪が入り込んできた。

「寒いっ!」

 私たちは同時にそう叫び、扉を閉めようとしたけど、風が強くて閉められなかった。

 三人で力を合わせて何とか閉めた。

蒼良そら、歩いて行くのは無理そうだよ」

 沖田さんが他人事のようにそう言った。

 船を降りるって騒いだのは沖田さんですからねっ!

「船の中より、外の方は危険ですからねっ!」

「でも、いつかは外に出るんだよな」

 ぼそっと原田さんが言った。

 いつまでも船の中にいるわけにもいかない。

「外に出て、箱館に向かって進軍するんだよな?」

 原田さんの言う通り、いつかは外に出て、箱館に行く。

 ちなみに箱館は、幕府の直轄地で箱館奉行所があったのだけれど、今は新政府が箱館府と言うものを置いて管理している。

 と言う事は、一応、敵の陣地に行くと言う事だ。

「戦があるってこと?」

 確か、あったと思う。

 だから私はうなずいた。

「こんな中で戦をするのか?」

 と、驚いていた原田さんに対し、

「よし、今度こそ僕も参加させてもらおう」

 と、戦する気満々の沖田さん。

 沖田さん、戦に参加するのか?

「沖田さんは、まだ病気が……」

「治っていないと言うんでしょ。でも、船の中にいるより、絶対に戦のほうがいいから」

 そ、そうなのか?

「今度こそ、僕も戦に出るぞっ!」

 沖田さんの船酔いはどこへ行ったのだろう?

 そう思うぐらい、沖田さんは元気いっぱいになっていた。


 風と雪はやむことはなかった。

 いつまでも室蘭にいても何もできないと思ったのかは分からない。

 船は室蘭を出て、室蘭の向かい側へ向かった。

 その場所は、鷲ノ木と言う場所だった。

 鷲ノ木に船はついたけど、そこから二日間船の中で過ごした。

 他の船が到着するのを待つためた。

 みんな、大きさも移動する速さも違うので、着く順番も違う。

 そして、やっとみんなが揃い、上陸と言う事になったのだけれど……。

「総司、お前は船の中にいろ」

 土方さんが、船を降りる気満々でいる沖田さんにそう言った。

「なんで? 僕だけ?」

「お前は病気だろうがっ! しっかり治すまで安静だっ!」

 土方さんの言う通りだ。

「蒼良、蒼良は僕のそばにいてくれるよね?」

 えっ、私?

 なんで私なんだ?

「私は……」

 そう言いながら土方さんを見た。

 土方さんも、私が何を言うか待っているような感じだった。

「私は、ひ……」

 土方さんと行きますっ!と言おうとしたら、

「沖田、わしがお前のそばにいるから安心せいっ!」

 と言って、お師匠様が沖田さんの背中を叩いた。

「蒼良。お前も安心して行って来い」

 お師匠様、たまにはいいことをするなぁ。

「せっかく船から降りれると思ったのに」

 沖田さんは残念そうにそう言った。

「沖田や、今は病気を治せ。病気が治らんかったら、わしが何のために薬を持って来たかわからんようになるだろう」

 そうだ、お師匠様の言う通りだ。

「わかっているよ。治ったら、僕も蒼良について行くからねっ!」

 えっ、私についてくるのか?

「土方さんじゃないのですか?」

「なんで僕が土方さんの後について行かないといけないの?」

「一応、一番偉いのは土方さんなので……」

「お前は、俺が偉いからついてくるのか?」

 その会話をムッとした顔で聞いていた土方さんがそう言った。

「そんなことないですよっ!」

 ずうっとついて行くって約束したじゃないか。

 そう思っていると、ポンッと私の頭に土方さんの手がのった。

「わかってる」

 わかってくれていたのか。

 それが嬉しかった。

 そんな私たちを見て、

「早く治してやるっ!」

 と、沖田さんは言っていた。


 風と雪は相変わらずひどかった。

 海も荒れていた。

 そんな中、私たちは蝦夷に上陸した。

 上陸したのは全員ではなく、大鳥さん率いる部隊と、土方さんが率いる部隊だけだった。

「先発隊が敵の奇襲を受けた」

 私たちより先に、三十名ほどが自分たちに蝦夷の開拓と北辺の警護を許してほしいと言う願書を持ち、先に箱館に向かって出発していたのだけれど、峠下という場所で政府軍に奇襲される。

「大鳥さんの兵と二手に分かれて箱館へ進軍する」

 いよいよ、蝦夷での戦が始まる。

 戦が始まると言う興奮のせいか、それとも寒さのせいかわからないけど、私の体はふるえていた。

「大丈夫か?」

 そんな私を見て、土方さんがそう聞いてきた。

「大丈夫です」

 私はそう答えた。

 土方さんがいるから、大丈夫。


 それから、大鳥さんと別れて進軍を開始した。

 大鳥さんたちは、先発隊の後をついて行くような感じで進軍し、私たちは、海岸沿いを南下して川汲峠かっくみとうげをこえて箱館に進軍することになった。

 この進軍がまた辛いものになった。

 海沿いの道なので、容赦なく雪交じりの雨が吹き付けてきた。

 この雪交じりの雨、体にあたると痛いのだ。

「雨交じりの雪は嫌いか?」

 進軍中、ニヤリと笑いながら土方さんが私に聞いてきた。

「そうですね。どうせなら雪がよかったです」

 変に雨が混じっているから服が濡れるのだ。

 雪なら、溶けないうちに払えばいいのだから雪の方が濡れないと思うのだけれど。

「お前ならそう言うと思っていた。たがな、雪だとこの断崖は越えられねぇと思うぞ」

 確かに。

 馬も歩けないぐらいの絶壁なので、みんな歩いている。

 もちろん、土方さんも。

「寒くねぇか?」

 寒いですよっ!でも、今はそんなことを考えている余裕もない。

 ただ、前へ少しずつ進むだけだ。

「大丈夫です」

「ここを越えたら、いいことが待っているかもしれねぇぞ」

 いいことって何だろう?

「それは何ですか?」

 期待を込めて聞いたのだけれど、

「敵の奇襲かな」

 と、土方さんはニヤリとして言った。

 それっていいことなのか?

「その奇襲に勝ったら、いいことがあるかもしれねぇだろう」

 勝ったらだろう。

「敗けたらどうなるのですか?」

 私が聞いたら、土方さんはしばらく考えていたけど、

「敗けても、失うもんはもう何もねぇだろう」

 確かに。

 でも、土方さんは失いたくない。

 まだ、ここで死ぬような人ではないのだけれど。

「とにかく、ここを越えるぞ。後はその時に考える」

 土方さんはそう言うと、歩くことに集中したのか、何も話さなくなった。

 私も、前へ進むことしか考えられなかった。


 この進軍は本当に辛かった。

 それでも、何とか乗り越えることが出来たのだった。

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