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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年7月
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ごきかぶり

 どうして今まで気がつかなかったのだろう?

 もう夏になって何日も過ぎている。でも、なんで今気がついたのだろう…。

「なんだ、ため息ついて。」

 書物をしていた土方さんが言った。

「ため息付きたくもなりますよ。」

 はあ。気がつきたくなかったこんなこと。

「おい、気になるだろう。何があった?」

「何もありませんよ。」

「じゃぁ、なんでため息なんてつく?」

「気がつきたくなかったなぁって。」

「何がだ?」

 明かりが灯っている行灯あんどんを指さした。

「行灯がどうかしたのか?」

 行灯は悪くない。むしろ、電気のない時代、暗いところを明るくしてくれる便利なものだ。

「行灯じゃなくて…。」

「なんだ、はっきり言いやがれっ!」

「じゃぁ、言いますけど。行灯の周りにいる虫が気になるのですっ!」

 そうなのだ。虫は明るいところによってくる。

 行灯は明るい。ということはよってくる。その量が多いこと。

 行灯に羽が当たるとバダバタと音がする大きい蛾から、なんだかわけがわからない小さい虫まで。

 ああ、殺虫剤が欲しい。

「なんだ、そんなことか。見なけりゃいいだろう。」

「見なくても、気になりますよ。」

「なら、蚊帳の中にでも入っとけ。」

「えっ、かや?」

「もしかして、知らんのか?」

「はい。」

「俺は、たまにお前がどういう生活を送っていたのか、知りたくなる時がある。みんなが知らないようなものを知っていて、知っていることを知らん。」

 お話しても、信じてくれないと思いますよ。未来から来てああいう便利な生活していたなんて。

「で、かやって、なんですか?」

「布団のところに作ってあるだろう。」

 そういえば、夏になってから、網のテントのようなものを部屋に作り、その中に布団敷いて寝ているのだけど、この、網テントが蚊帳というものなのか?

 じいっと見ていると、

「本当に知らなかったんだな。そんなか入ってたら虫が来ない。」

 確かに、そういう道具だったんだ。

 そう思いながら、蚊帳をめくって中に入った。

 中に虫が入らない、便利な道具だ。

 蚊帳の中でご機嫌でいると、今度は違うやつが目に付いた。

 蚊帳の外に止まっているやつに…。

「ぎゃあああああっ!」

 やつを見た私は悲鳴を上げた。

「なっ、なんだっ!」

 土方さんは驚いてこっちを向いた。

 蚊帳の中からやつを指さした。

「ゴ、ゴキブリっ!」

「はあ?」

 えっ、江戸時代にゴキブリはいないのか?っていうか、蚊帳の外に止まっているのがゴキブリだろう。

「だ、だから…」

 私がそう言うと、やつは土方さんに向かって飛んだ。

 そう、やつは人に向かって飛ぶのだ。

「ぎゃああああああっ!飛んだあああああああああっ!」

「お前に向かって飛んできたわけじゃないだろうがっ!そんない叫ぶな。ごきかぶりごときで。」

 ごきかぶり?江戸時代ではごきかぶりというのか?

 どうも、御器噛りと言って、食器までなめることから付いた名前らしい。

「で、そのごきかぶりはどこに?」

「ああ、この中だ。」

 土方さんは右の拳を上げた。そして、その拳にギューって力を込めた。

「な、何しているのですか?」

「つぶした。こいつはちゃんとつぶしとかないと、生き返るからな。」

「ひいいいいいいい。つぶしたのですか?しかも、素手で。」

「そうだ。お前、ごきかぶりごときになんでそんなに恐ろしがるんだ?」

「嫌じゃないですか。油っぽくて、ゴソゴソしてて。ああ、想像しただけで鳥肌が。」

「でも、悲鳴上げるものではないだろうが。」

 土方さんは拳を開こうとした。

「ぎゃあああああああっ!」

「なっ、なんだっ!」

「お願いだから、ここで開かないでください。私の見えないところで、内密に処理をお願いします。」

「こんなもののどこがそんなに…。」

 そう言いながらも、土方さんはそのまま部屋を出て、内密に処理をしてくれたのだった。


 ちなみに次の日。

「昨日はずいぶん賑やかだったなぁ。」

 と、永倉さんに言われてしまった。

 何回も悲鳴を上げたから、言われても仕方ないか。

「そういえば、蒼良そら、隊の中に北のほうから来た奴がいてさ。そいつが面白いものを飼い始めたぞ。見てみるか?」

 永倉さんに言われた。

 面白い物ってなんだろう?猫とか犬とかって普通だし…。

「見たいです。なんですか?」

「実は、そいつから借りてきたんだけどさ。これだよ。」

 永倉さん、竹で編んだ籠を出してきた。

 その中にいたものは…

「ぎゃあああああああっ!」

「うおっ!な、なんだっ!」

 永倉さん、私の悲鳴に驚いて竹の籠を落とした。そして竹の籠がパカッと開き、中からやつが飛び出してきたのだ。

「ひいいいいいいいっ!」

 もう、悲鳴にもならない。

「あ~あ、逃がしちまった。」

「なっ!なんであんなものをっ!」

 私の記憶が間違ってなければ、鈴虫を飼うみたいに、餌のきゅうりまで入っていたけど。

「な、面白いだろう。」

「全然面白くないですっ!」

「どうしようかなぁ。逃げられたから、そこらへんにいるのをまた捕まえて入れとくか。」

 それはペットではないって、飼うのを辞めさせないのか?っていうか、なんでそんなものを飼っているんだ?

 話によると、北の方にはやつは生体していないらしい。だから、北から来たその隊士がやつを見て、信じられないことに、

「黒々して、ツヤツヤして、かわいいやつだ。」

 と思ったみたいで、飼い始めたらしい。っていうか、誰か止めてあげようよ。

「蒼良、捕まえるの手伝ってくれ。」

「絶対に嫌です。」

 なんで嫌いなものをわざわざ捕まえないといけないんだ。


 という訳で、この時代にもやつがいたことが明らかになったのだった。

 なんてしぶといやつなんだ。

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