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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治元年10月
457/506

蝦夷へ行く準備

 十月になった。

 現代で言うと、十一月になる。

 あれから、石巻に転陣した。

 東北のこの地は、もう冬の気配が近づいてきていた。

 蝦夷は、もしかしたら雪が降っているかもしれない。

 楽しみなような、あまりに寒そうで想像したくないような……。


 ここに来て嬉しいことがあった。

 近藤さんが流山で政府軍に出頭した時に、一緒について行った野村さん。

 歴史では、野村さんと一緒に相馬さんも近藤さんと一緒で、近藤さんが処刑される前に助命嘆願をされて、野村さんと一緒に釈放される相馬さん。

 しかし、そこは私たちがかかわったので、相馬さんは近藤さんの所へ行くことはなかった。

 捕まらなかった相馬さんは、近藤さんが処刑された後、野村さんを探しに行っていたらしい。

 そんな二人と、石巻で会った。

 彼らは、あれから彰義隊に入り、彰義隊が敗れた後は仙台に来ていた。

 土方さんは二人に会い、とっても喜んでいた。 

「近藤先生から土方先生に伝言があります」

 最後まで近藤さんと一緒にいた野村さんがそう言った。

「なんだ?」

 土方さんの表情が、一瞬、固くなった。

 近藤さんが処刑されたと聞いた時、土方さんは、

「俺が近藤さんを出頭させなければ……」

 と、自分を責めていた。

「近藤先生は、自分が処刑されたのは、土方先生のせいではないと言っていました」

 それを聞いた土方さんは、

「そうか」

 と、ホッとしたように言った。

「近藤先生は、土方先生のおかげで楽しい人生がおくれた。感謝していると、毎日のように言っていました」

 そうだったんだぁ。

 沖田さんが、やっぱり土方さんが自分を責めていた時に、近藤さんの事だから、土方さんに感謝してますよ、みたいなことを言ったけど、本当に沖田さんの言う通りだ。

「野村、ありがとな」

 土方さんは、野村さんに優しい顔でそう言っていた。


 そんな土方さんは、物資搬入の指揮をとることになった。

 蝦夷行きも、着々と準備が進んでいるようだ。

 土方さんは忙しくしていたのだけれど、仕事がなかった私たちは暇だった。

「蝦夷に無事に到着できるように、お参りでもするか?」

 原田さんに誘われたので、石巻にある鹿島御児神社と言うところへ行くことになった。


 鹿島御児神社は、延喜式神名帳と言う、簡単に言うと、西暦927年に古代律令制の神祇官が作成した官社の一覧表で、これに記載されている神社だ。

 これに記載されていると言う事は、歴史も古い神社と言う事になる。

 祀られている神様は、武甕槌命たけみかづちのみこと鹿島天足別命かしまあまたりわけのみことの親子の神様だ。

 その武甕槌命、鹿島神宮の神様なのだけれど、その神様が経津主神ふつぬしのかみ、こちらは香取神宮の神様なのだけれど、二人の神様の子供が命を受けて東北地方の平定をおこなうことになる。

 その二人の神様の子の片方は、この鹿島御児神社の神様になる鹿島天足別命なのだけれど、この二人が乗った船が、石巻の沿岸へ到着して停泊した時、錨が石を巻き上げたから、この地は石巻と呼ばれることになったらしい。

 この神社のご利益に、海上安全守護と言うものがあったので、私たちの目的にピッタリの神社だった。


 原田さんとお参りをし、神社の鳥居の方へ行くと、石巻にとまっている幕府の艦船が見渡せるぐらい景色がよかった。

「あの、ちょこちょこと動いている人は、土方さんですかね?」

 ここから見ると、小さくちょこちょこと動いているように見える人を指さして原田さんに聞いた。

「それっぽいよな。忙しそうだな」

 確かに、忙しそうだ。

「それにしても、荷物が多いな。食料もたくさんあるようだが、蝦夷は食料がないのか?」

 港の景色を見ながら心配そうに原田さんが聞いてきた。

 この時代は、確か……。

「お米は収穫できないと聞いたことがあります」

 そう、現代は品種改良がされて、北海道でも美味しいお米がとれるのだけれど、この時代はまだ品種改良がされていないのだろう。

「えっ、それじゃあ、何を食べるんだ?」

「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。蝦夷は色々な物がとれるから、それで交易をして、お米とか生活に必要な物を手に入れているのですよ」

「そうか、そうだよな。それを聞いて安心した。蝦夷は寒いところで何もないと聞いたから、不安だったんだ」

 そうだったんだぁ。

「大丈夫ですよ。確か、箱館が開港してからは、近代的な建物が増えたと聞いたことがあります。私たちが行く五稜郭も、最近作られたばかりの新しいところですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「それに、蝦夷は夏は涼しいですよ。梅雨もないですし」

 夏までいないんだけどね……。

「夏が涼しいと言う事は、やっぱり、冬は寒いと言う事だろう? 蒼良、大丈夫か?」

 えっ、私か?

「蒼良は、京にいた時も冬は火鉢をかかえていただろう」

 だって、現代と比べると、暖房機器がそれしかないんだもん。

 それに、寒いし。

 大丈夫なのか、私。

 なんか、不安になってきた。

「あ、でも、寒いと言う事は、雪も降ると言う事だな。蒼良は雪が好きだったよな」

 そうなのだ。

 今回の楽しみはそれだったりする。

「たくさん雪が降るので、かまくらも作れますよ」

「なんかよくわからないが、楽しみにしているよ」

 原田さんは、伊予松山の人だから知らないのかも。

 四国はそんなに雪が降らない場所だし、江戸も、京も、鎌倉が作れるぐらいの雪は降らない。

 そして、再び視線は港に泊まっている艦船へ。

「帰りに、お菓子屋さんによってもいいですか?」

 土方さん、忙しそうで疲れているだろうから、大福でも買って差し入れしよう。

 疲れているときは甘いものが一番いいもんね。

蒼良そらと一緒だから、甘味処に寄ろうとは思っていたけど、菓子屋でもいいよ」

 えっ、甘味処によろうと思っていたのか?

 甘味処でお団子食べるのもいいよなぁ。

 そしたら、差し入れはどうしよう?

「あはは。両方よるから大丈夫だ」

 私が迷っていることに気がついたのか、原田さんが笑いながらそう言った。

「あ、ありがとうございます」

 わーい。


 甘味処で、お団子を堪能した後、お菓子屋さんで大福を買い、港で物資搬入をしている土方さんの所へ行った。

 土方さんは、次々と運ばれてくる物資を手際よくさばいていた。

 忙しそうだから、声かけていいのか迷っていたら、

「土方さん、そろそろ休んだらどうだ? あまり働くと気がくるうぞ」

 と、横から原田さんが土方さんに声をかけてくれた。

「なんだ、お前らか。そうだな、休むか」

 少し休むぞっ!と、荷物を積んでいる人たちに声をかけた土方さんは、私たちの方へ来た。

「土方さん、差し入れです」

「おう、気がきくな」

 私たちは、船が見える場所に座った。

「あの船で蝦夷に行くのか」

 原田さんが船を見ながら言った。

「そうだ」

 土方さんが船を見ながらそう返事をした。

「あっ! 土方さん、船酔いするから、何かしたほうがいいですよ」

 土方さんはものすごい船酔いをする。

 今回も船酔いでゲッソリとしそうだぞ。

「なにかって、なんだ?」

 なんだと言われても、この時代は酔い止め薬なんてものはない。

 思いつくものと言ったら……。

「前に源さんがやっていたおまじないはどうですか?」

 確か、賊と言う字を船のどこかに書くのだけれど、最後の点だけは船に書かず、自分の額に書くと言うものだ。

 源さんがそれをやったら船酔いしなかったから、効くと思うのだけれど……。

「絶対に嫌だ。それをやるぐらいなら、死んだほうがましだ」

 土方さんはそう言って拒否した。

「そんなに拒否することないじゃないですか」

「俺が、額に点なんて書けるかっ!」

 土方さんがそう言った時、思わず原田さんと顔を見合わせてしまった。

 私たちは同じことを考えたみたいで、土方さんの顔を見た。

 それから吹き出してしまった。

 原田さんも、額に点を書いた土方さんの姿を想像したのだろう。

「笑われるとわかってやるばかかいるかっ!」

 土方さんは余計に拒否をしてしまった。

「それなら、他に酔わない方法はありますかね?」

 原田さん、何か知っているかなぁと思い、原田さんを見たら、首を振っていた。

「石田散薬でも飲むしかないんじゃないか?」

 原田さん、石田散薬は酔い止めじゃないですから。

「あれは打ち身捻挫の薬だっ!」

 土方さんが少し怒ってそう言った。

「でも、もしかしたら、飲んだら酔わないかもしれないだろう?」

 そ、そうなのか?原田さん。

 そうなったら……。

「石田散薬飲んで酔わなかったら、今度は打ち身捻挫と酔い止めの薬として売り出せますよ、土方さんっ!」

「誰が、何を売り出すって?」

 土方さんににらまれてしまった。

 うっ、す、すみません。

「な、何でもないです」

 そんな私たちのやり取りを見て、原田さんが笑っていた。

 笑いごとではないのですよっ!

「船に乗ったら、寝ちゃえばいいだろう。そうしたら酔わないだろう」

 原田さん、なんていいことをっ!

「そうですよ、土方さん。寝ちゃえばいいのですよ。それでも酔ったら、寝ている間に源さんのおまじないをしてあげますから。寝ている間なので、全然恥ずかしくないですよ」

 うん、我ながらいい考えだ。

「寝ている間だろうが、起きている間だろうが、あのまじないだけは嫌だ。お前、そんなことをやった日には、どうなるかわかってんだろうな?」

 土方さんにまたにらまれてしまった。

「ど、どうなるのでしょうか?」

 恐る恐る聞いてみると……。

「やった時の楽しみにしといてやろう」

 と言われてしまった。

 余計に怖いのですがっ!

 土方さんは話し終わると、立ち上がって仕事に戻っていった。

「俺たちも行くか。ここにいても邪魔になるだけだしな」

 確かに。

「土方さん、お仕事頑張ってくださいねっ!」

 と、私が声をかけると、土方さんは片手をあげて答えてくれた。


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