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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年 明治元年9月
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榎本さんとの再会

 私たちが仙台に到着した時、榎本さんも六艦の幕府の艦隊を率いて仙台に到着していた。

 榎本さんは、私たちが鳥羽伏見で敗戦した時、江戸から大坂に来た。

 その時に大坂湾にいた薩摩藩の船を攻撃し、その後も神戸から出港した船も攻撃して勝利をおさめていた。

 それから、大坂城へ行くのだけれど、鳥羽伏見で敗戦した直後で、慶喜公が榎本さんが乗ってきた開陽と言う船で江戸へ帰ってしまったため、残された榎本さんは、大坂城にあった物資などを積み、私たちと一緒に富士山丸という船に乗って江戸に帰ってきた。

 それから私たちにも色々あったように、榎本さんにも色々あった。

 

 江戸城無血開城の時、幕府の艦隊も引き渡すように言われたのだけど、それを拒否し、悪天候を口実にして、品川から館山に出航する。

 しかし、勝海舟に説得され品川に帰る。

 そして、四隻を政府軍へ引き渡すけど、主力の艦はそのまま榎本さんの手に残っていた。

 その後、輪王寺宮や幕府の脱走兵を奥州へ運んだりして、私たちに協力をしてくれた。

 徳川宗家が駿河、現代で言うと静岡県に移封、要するに領地を減らされて大名のように移転させられるのだけど、それが完了すると、榎本さんは幕府の艦隊八隻を率いて品川を出港する。

 房総沖で暴風にあい、八隻の艦隊はバラバラになるけど、そのうちの六隻は仙台に到着した。

 六隻の艦隊を見ると、頼もしい味方が来たと誇らしくなった。

 これで、列藩同盟軍の士気も上がるといいな。

 そんな榎本さんと、泊まる場所が一緒になった。

「久しぶりだな。君たちの活躍は江戸まで届いていた」

 榎本さんは、土方さんに向かってにこやかにそう言った。

「敗けてばかりで申し訳ない」

 土方さんが軽く頭を下げると、

「いや、土方君のせいではない」

 そう言って、榎本さんは、ポンポンと土方さんの肩をたたいた。

 その後、私と目が合った。

 私は頭を下げた。

「で、土方君。君の隣にいる部下はいつ私の所に来るんだい?」

 えっ、私の事か?

 思わず土方さんと顔を見合わせてしまった。

「お前、榎本さんと何か約束したか?」

 約束なんて、してないぞ。

 ブンブンと首をふった。

「君は、船に乗る才能がある。どうだ、一緒に船に乗らないか?」

 榎本さんが、私の肩に両手を乗せてそう言った。

 えっ、船に?そんな才能があるのか?

「あんなに揺れるのに、全然酔わない人間を初めて見たよ」

 榎本さんは、江戸に帰る時に乗った富士山丸でのことを言っているのだろう。

 みんなが船酔いで倒れていく中、なぜか私だけまったく船酔いをしなかった。

 そう言えば、その時も一緒に来るか?って誘われたなぁ。

 それを土方さんが断ったのだ。

 今回は私が断らないと。

「あのですね……」

 私が断ろうとしたら、土方さんが、私の肩の上に乗っていた榎本さんの手を払いのけた。

「こいつはだめだ。俺の元に置いておくと決めたからな」

 そう言いながら、土方さんは私の前に立った。

 まるで、私を榎本さんから隠すように。

「土方君のお気に入りか。それならあきらめるか。でも、こっちに来たくなったらいつでも来い」

 最後に榎本さんは私に向かってそう言い、去っていった。

 多分、それはないだろう。


 そんな中、九月になった。

 現代になおすと十月の中旬から下旬あたりになる。

 京にいた時は秋真っ盛りと言う感じだったけど、東北の秋は短い。

 少しずつだけど冬の気配も感じられるようになってきていた。

 

 九月になってすぐに、土方さんは榎本さんと一緒に列藩同盟軍の軍議の為、仙台城へ向かった。

 私も土方さんの付き人として一緒に行くことになった。

 そこで、榎本さんは驚くべきことをする。

 榎本さんが、同盟軍の総督に土方さんを推薦するのだ。

 私たちは、最初は別室で呼ばれるのを待っていた。

 広間に呼ばれたから行ってみると、榎本さんが土方さんを推薦した後で、他の藩の人たちも賛成していたみたいで、あたたかく迎え入れられた。

 これは、大出世ってやつか?

 ただ、歴史では土方さんが同盟軍の総督になったという話はなかったから、総督になることはないと思う。

 じゃあなんで総督にならなかったのだろう?

「総督に就任する以上、全権を委任していただきたい。もし万が一、総督の命に背くものは、重役なりとも斬るが、いかがかな?」

 土方さんは無表情でそう言った。

 これは生殺与奪の権と言って、生かすも殺すも与えることも奪う事も出来るという権利だ。

 なんか、新選組で鬼副長と呼ばれていた時のような感じだなぁ。

 土方さんのその一言で、賛成していた代表者たちも反対に意見を変える人がいた。

「それは、藩主の権利であって、あんたの権利ではない」

 そう言う人がいた。

 その言葉を聞き、広間には動揺が走っていた。

「行くぞ」

 土方さんがそう言って背中を向けた。

 私も慌てて土方さんを追いかけた。

 そうか、これで総督になることはなかったんだな。


「敵は藩を越えて結びついて強くなっているのに、藩を越えられなければ、敵も倒すこと出来ねぇじゃねぇかっ!」

 帰り道、土方さんは怒っていた。

 私にそんな怒鳴らなくても……。

「あいつは身分が低いと言って、味方同士ののしり合っていたら、いつまでたっても勝てるわけねぇだろうっ!」

 確かにそうなんだけど……。

 土方さんは幕臣になったけど、身分的には農民になり、今日の広間にいた人たちから見れば身分が低い。

「でも、総督にならなくてよかったと思いますよ」

 土方さんの怒りが収まるといいなぁと思い、そう言った。

「なんでだ?」

「今、総督になっても、列藩同盟はそのうち消えますから」

 確か、米沢も正式に政府軍に投降し、それに続くように仙台も投降すると思った。

 そのうち会津も敗戦し、列藩同盟は消滅してしまう。

「今のままだと、消えるのも時間の問題だな」

 あれ?なんでだっ!って驚かれると思ったのに、驚かないのか?

「何驚いているんだ?」

 逆に私が驚いているみたいで、土方さんにそう言われてしまった。

「えっ、土方さんが驚かないので」

「ここまで戦をしてりゃわかるだろう。同盟軍として一つの軍になっているが、実際は身分や藩などの影響力があり、一つになっていない。そこを敵が攻めて来て敗け続けている。これだけ敗けているのに、上の人間は意地でも勝つという思いがない」

 そ、そこまでわかっていたのか。

「お前の言う通り、総督にならなくて正解だったかもしれねぇな」

 土方さんはそう言うと、ポンッと私の頭に手を乗せた。

 なんとか怒りがしずまったらしい。


 宿舎に戻ると、榎本さんも帰ってきていた。

「土方君、さっきの総督の話は保留だ」

「わかりました」

 そう言った土方さんは、静かだった。

 あんなに怒っていたのに。

 部屋に入り、土方さんを見ると、静かな怒りオーラが見えたような気がした。

「お茶をもらってきましょうか?」

 ここはお茶でも飲んで、少し落ち着いてもらおう。

 って言っても、怖いぐらい落ち着いているんだけどね。

「そうだな。頼む」

 土方さんは、窓から外を見てそう言った。

 部屋が二階にあるせいか、ここから見える景色はよかった。

 お茶を持ってくる間に、景色を見て気が落ち着くといいのだけれど。

 そう思いながら部屋を出て下に降りた。

 途中で刀が何かにあたるような、カキンッ!という音がしたような気がしたけど、気のせいだろう。

 そして、お茶をもらって部屋に入ると、刀を出した土方さんが、肩で息をして立っていた。

「ひ、土方さんっ! 刀を出して何をしているのですかっ!」

 刀は、そんなしょっちゅう出すものではない。

 その刀を出して立っていると言う事は、それだけ怒っていると言う事か?

 近くにある柱を見ると、刀傷がついていた。

 こんなところに傷を作って、弁償しろっと言われたら、どうするんだ?

 土方さんは、フウッと息を大きくはくと、刀を鞘におさめた。

「茶は?」

 あっ!お茶っ!

 部屋の出入り口を見ると、お茶が入っていた湯呑が転がっていた。

 土方さんが刀を持って立っていたから、驚いて落としてしまったらしい。

「す、すみません。またもらってきます」

「いや、もういい。驚かせてすまなかった」

「落ち着きましたか?」

「落ち着きはしねぇよ。今でも腹が立ってたまらねぇよ。でも、俺がここで怒っても、何も変わらねぇしな。あ、柱に傷がついちまったな」

 今、傷に気がついたのか?

「これはばれるとなおせって言われるか、金をとられるかどちらかだな」

 いや、よく考えたら、土方さんがつけた刀傷は、未来では貴重なものになるんじゃないのか?

 そう言えば、チラッと聞いたことがあるのだけど、壬生にある八木さんの家に芹沢さんを斬った時につけた刀傷があり、それが現代で有名になって、今でもそれを見に訪れる人たちが絶えないらしい。

 もしかしたら、ここもそうなるのかな?

 あ、でも、そうなる前に私が削り取って、現代に戻った時に一儲け……。

「お前、柱をなでで何を考えていやがる?」

 えっ、

「や、やましいことは何も考えてませんよっ!」

「変なことを考えていたなっ!」

 なんでばれたんだ?

「ま、やっちまったもんは仕方ねぇ。ばれるまでそのままにしておくか」

 土方さんは柱を見てそう言った。

 ちなみにこの柱がどうなったかと言うと……。

 この建物は現代でも建っていて、この刀傷もあったのだけど、老朽化してしまい、維持も大変だと言う事で、つい最近解体されたのだけど、この柱は建物の所有者の方が大事にしまっているらしい。

 やっぱりそうなるよね。

「これは、価値のあるものになりますよ、きっと」

 柱をなでながらそう言うと、

「お前、やっぱり何か考えてるだろう?」

 と言われてしまったのだった。

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