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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年8月
450/506

米沢に到着

 会津を出て、援軍を求めに仙台へ行くことになった私たち。

 同じ時期に、容保公の弟にあたる桑名藩主である松平定敬も米沢に向かっていた。

 こちらは、定敬公のお姉さんが米沢に嫁いでいたので、その縁を頼って向かったのだと思う。 

 しかし、米沢に入ることが出来なかったので、福島城に待機することになってしまった。

 そうなっていることとは知らず、私たちは米沢に着いた。

 米沢に着き、そこから仙台へ向かう事になっていたのだけど、ここで足止めをされてしまった。


「しばらく待っていてほしい」

 米沢藩の人が来てそう言われてしまった。

「しばらくって、どれぐらいだ?」

 土方さんがイライラしながら聞くと、相手は

「しばらくとは、しばらくだ」

 と、訳の分からないことを言って取り合ってくれなかった。

「こんなところで足止めくらっている暇はねぇんだっ!」

 米沢藩の人が帰った後、土方さんはイライラして怒鳴りまくっていた。

「落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるかっ! なんで援軍を頼みに行っている途中だというのに、ここで足止めなんだ? 米沢は我々の味方だろう。それなら協力して早くここを通すはずだろう?」

 土方さんの米沢は味方という言葉に引っかかった。

 もしかしたら……。

「米沢はもう味方ではないかもしれないですよ」

「なんだとっ!」

 私が言ったら、土方さんはますます怒った。

 なんで私に怒るのさっ!

「それはどういうことだ?」

「米沢は、敵に恭順することを決めたのではないかと思うのです」

 確か、そうだったと思う。

 正式に政府軍に恭順するのは九月になってからだけど、八月の終わりぐらいに藩でそう言う意見がまとまっていてもおかしくない。

「なるほどな。そう思うと話も見えてくる。敵に恭順することを決めたところに俺たちが来たわけだから、俺たちは邪魔なわけだよな」

 邪魔かどうかわからないけど、タイミングが悪いときに来てしまったと言う事になる。

「くそっ、ここに来てとんでもないことになってきたな」

「どうしますか?」

「どうするも何も、動けねぇんだから、ここにいるしかねぇだろう」

 確かに。

「仕方ねぇ。しばらくここにいるぞ」

 と言う事で、しばらく米沢の城下にとどまることになった。

「ま、捕まえられて、人質みたいにならないだけでもましってことだな」

 一緒に来ていた原田さんがそう言った。

 原田さんの言う通りかもしれない。

「人質なんて、なってたまるかっ!」

 土方さんがますます不機嫌になってきた。

 思わず、原田さんと顔を見合わせてしまった。

 土方さんを機嫌よくするにはどうすればいいのだろうか。

 米沢にいる間、こんな不機嫌だったらこっちも疲れてしまう。

 どうすればいいんだか。

 一番いいのは、米沢を早く抜けることなのだろうけど。


 今日は米沢で夜を迎えることになりそうだなぁ。

 そんなことを思っていたら、

「あ、いたっ!」

 という声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、良順先生がいた。

「良順先生?」

 本当に、良順先生か?会津にいたと思っていたけど。

 よく見てみようと思い目を向けると、いきなり目の前に人が立ち、その人に抱きしめられてしまった。

 な、何事っ!

蒼良そら、やっと会えた」

 もしかして、私を抱きしめているのは沖田さんか?

 そう思った時、さらに強く抱きしめられた。

 強すぎて体が痛いぞ。

「僕に黙って行くなんてひどいよ。どれだけ心配したと思っているのさ」

 す、すみません。

 と言いたいのだけど、強く抱きしめられているので、声が出ない。

「おい総司、そろそろ離せ。蒼良が苦しそうだぞ」

 原田さんの声が聞こえたけど、

「左之さんはずうっと蒼良と一緒にいたからいいよね。僕はずうっと離れていたんだからね」

 いや、そう言う問題でもないと思うのだけど。

「総司、離れろ」

 土方さんの声を同時に私と沖田さんの間に手が入ってきた。

 それと同時に私は土方さんの方へ引っ張られていた。

「お前もすきが多いからこんなことになるんだ」

 そ、そうなのか?

「すみません」

 思わず謝ってしまった。

「ところで、なんで良順先生がここにいるんだ?」

 土方さんが良順先生に質問した。

 そう、それが聞きたかったのだ。

「容保公から、会津を出るように言われ、仙台に向かっているところだ」

「天野先生から、仙台に向かって行ったら、蒼良に会えるって言われたけど、本当にその通りになった」

 沖田さんが良順先生の後から嬉しそうにそう言った。

 お師匠様がそんなことを言っていたのか。

 そう言えば……。

「お師匠様は?」

 姿が見えないのだけど……。

「ああ、天野先生なら、まだやることがあるって、会津に残っているよ」

 と、沖田さんが教えてくれた。

 そ、そうなのか?

 やることがあるって、何をするつもりなんだろう?

「せっかくここで会ったんだから、飲みに行かないか?」

 原田さんの提案で、みんなで飲みに行くことになった。

 どうせ米沢で足止めなんだから、ここでイライラして待っていても仕方ないもんね。

 飲みながら待つのが一番っ!

「ずいぶんと嬉しそうな顔をするな」

 土方さんに言われ、ドキッとしてしまった。

 か、顔に出ていたか?

「ま、今回は、お前も仙台に行けなくてうっぷんがたまっているだろうから、飲むのを許す」

 おっ、土方さん公認で飲めると言う事か?

「ありがとうございますっ!」

「蒼良、喜びすぎじゃない?」

 お、沖田さんっ!そんなことないですよっ!

「お、沖田さん、だって、飲めるのですよ。沖田さんだって……」

「僕は、病気が治るまで禁酒中だけどね」

 そ、そうなのか?

「なんだ、まだ治ってねぇのか」

 土方さん、そんな簡単に治る病気じゃないですよ。

「元気だから、もう治っていると思っていた」

「天野先生の話だと、まだ労咳が体の中に残っているらしいですよ」

 現代でも最低で半年はかかる。

 だから、まだ沖田さんには治療が必要なのだ。

「蒼良も禁酒に付き合ってくれる……わけないよね」

 な、なんでわかったんだ?

 そもそも、なんで沖田さんの禁酒に付き合わないといけないんだ?

「総司、それは蒼良に酷だろう」

 原田さんがおかしそうにそう言うと、

「それもそうだ」

 と、みんなも笑い出した。

 そ、そんなにおかしいことなのか?


 みんなでお酒を飲むと、自然と話は今回の戦のことになる。

「輪王寺宮をたてて、夷狄いてきの力を借りてでも会津を助けねぇと。そのためには、この先の戦に勝たねぇとな」

 輪王寺宮とは、上野戦争の時に彰義隊と共に上野の寛永寺にいた人だ。

 彰義隊の敗戦が濃厚になると、輪王寺宮は東北の方へ落ちのび、今は仙台にいる。

 奥州越列藩同盟の盟主になっている。

 彼をたててと言う事は、奥州越列藩同盟を中心としてと言う意味だろう。

 そして、夷狄とは、ここでは異国のこと。

 私たち幕府側は、フランス式の軍隊を導入していた。

 だから、フランスの力を借りてと言う事だろう。

 でも、奥州越列藩同盟に加入している藩が、九月になると次々と政府軍に制圧されてしまい、奥州越列藩同盟は最終的には崩壊してしまう。

「そうだな、なんとしてでも勝たないとな」

 良順先生もそう言いながらお酒を飲んでいた。

 未来を知っている私はどんな顔をすればいいんだろう?

 勝てませんよって言った方がいいのか?でも、それもなんかあきらめるような感じでいやだなぁ。

「蒼良、それじゃあ足りんだろう?」

 原田さんが徳利を出してきた。

 普通はお猪口を出してついでもらうのだけど、私はいつもの癖で、徳利をもらい、そのまま口をつけて飲んだ。

「お前、なんて飲み方してんだ?」

 それを土方さんに見られてしまった。

「えっ、あっ、あのですね……」

「面倒だから、そのまま飲んじゃうんだよね」

 沖田さんの楽しそうな声に、

「そうなんですよ。こっちの方が手っ取り早く飲めていいですよ」

 と言ってしまった。

 ああ、なんてことを言ってしまったんだ。

 これじゃあ、大酒のみの行儀の悪い女じゃないか。

 その通りなんだけど……。

「お前……」

 そんな私に絶句をしている土方さん。

「それもそうだな。酒が強い人間にはそう言う飲み方もいいのかもしれないな。ほら、こっちも入っているぞ」

 そう言いながら、良順先生は私に徳利を渡してきた。

「あ、いただきます」

「なにがいただきますだっ!」

 土方さんに怒鳴られてしまった。

「まあまあ。酒の席なんだから、そう怒らずに」

 原田さんが土方さんのお猪口にお酒を入れてなだめてくれた。

 ありがとう原田さん。

「蒼良、僕の代わりにたくさん飲んでね」

 沖田さんもそう言って徳利を出してきた。

 どうしよう?そう思いつつ土方さんを見たら、あきれたような顔をしていた。

 そうだよね、あきれるよね。

 でも、お酒の誘惑には勝てない。

「沖田さん、いただきますっ!」

 また徳利を一つ空にしてしまった……。


 次の日、朝一番に土方さんが

「仙台に行くから支度しろ」

 と言った。

 まだ酔っているのか?

「今、仙台に行く途中で、米沢で足止めされているこの状態で、どうやって仙台に行くのですか?」

「米沢を通らなくても仙台には行けるだろうが」

 そ、そうなのか?

 他にも道はあるのか?

 そんな疑問を持っている私に、土方さんは地図を出してきた。

「ここからこの道を通ればいける」

 うん、確かに行けるだろうけど……。

「あのですね、もっと詳しく書かれた地図がないのですか?」

 土方さんが出してきた地図は、絵地図と呼ばれるもので、現代で言うと地図をわかりやすく絵で描いたのだけど、主要な所しか書かれていないものすごく簡単な地図だ。

 はっきり言って、地図になるのかどうかも分からない。

「これだって十分詳しいだろう」

 こ、これで詳しいのか?

 どう見たって、仙台に行く道が二・三本ぐらいしか書かれていないぞ。

「とにかく出発する。左之にも支度するように言え」

「わかりました」

 原田さんに支度をするようにと伝えると、良順先生と沖田さんにも話が行き、

「列藩同盟の役に立てるなら」

 と、良順先生も仙台に行くことになり、沖田さんも、

「蒼良が行くなら一緒に行く。もう離れたくないからね」

 と言う事で、みんなで一緒に米沢を通らないで仙台に行くことになったのだった。

 

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