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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年7月
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七夕

 色々あったけど、ようやく京に返ってきた。

 屯所に着くと、大きな笹が置いてあった。

「こんな大きな笹、何をするのですか?」

 奥から沖田さんが出てきた。

蒼良そら帰ってきたんだ。ちょうどいい。七夕の飾り作り、手伝ってよ。」

 あ、七夕かぁ。すっかり忘れていた。でも、七夕って明日じゃ?

「前の日から準備するんだよ。」

 沖田さんは、近所の子供たちと一緒に飾ろうと思い、笹を切ってきたらしい。

 現代では考えられないぐらい大きな笹を見ると、さすが江戸時代と思ってしまう。

「で、飾りは、何を作ればいいのですか?」

「えっ、蒼良、知らないの?」

 いや、何を飾るかは知ってるよ。でも、折り紙で作るものだし、この時代に折り紙ってあったのか?

 そう考えている私の前に、沖田さんが色の付いた紙を出してきた。

 折り紙とはちょっと違うけど、飾りに使える。

 準備をしていると、近所の子供たちがやってきた。


 みんな思い思いに色紙で飾りを作っていた。

「これ何?」

 近くに座っていた女の子に聞くと、

「紙衣。」

 と、作りながら答えてくれた。

 かみごろも?見た感じ、紙で作った着物のように見える。

「もしかして、蒼良、知らないとか?」

 はいっ、わかりませんっ!

「裁縫の腕が上がりますように、という願いを込めて作るんだよ。」

「へぇ、そうなんですか。これは?巾着のように見えるけど…。」

「巾着だよ。」

 それを作っていた男の子が答えてくれた。

「これは、お金持ちになるようにって。」

 沖田さんが教えてくれた。

「これはわかりますよ。網!」

 これなら私も作ったことある。切る間隔を細くすればするほど綺麗にできる。

「意味は?」

 沖田さんは、ニヤリとしながら聞いてきた。意味…。

「網だから、大漁かな?」

「おっ、正解。ま、普通はみんな知っていることなんだけどね。」

 そうなのか…。

「わ、私だって知ってますよ。これは吹流し。」

「意味は?」

 吹流しに意味はあるのか?

「風通しがいいようにかな?」

 なんか、ヒラヒラしているし。

「はずれ。」

「蒼良にいちゃん、機織りがうまくなるようにだよ。」

 近くにいた女の子が教えてくれた。

「へぇ、そうなんだ。これは折り鶴でしょ。」

「意味は?」

 沖田さんがまた聞いてくる。

 鶴といえば、長生きの縁起物だから、

「長生きかな?」

「う~ん、近い。」

「家族が長生きするように。」

 今度は男の子に教えてもらった。大丈夫か?私。

 質問すると、墓穴掘るだけだから、あとは黙々とみんなと一緒に飾りを作った。

 しばらく作って飾ってを繰り返していると、とても賑やかな笹になった。

「後は、短冊だけですね。」

「蒼良、短冊の意味は?」

「それぐらいわかりますよ。願い事を書くのです。」

「う~ん、ちょっと正解。」

 えっ、違うのか?

「願い事や詩歌を書いて、字が上手くなるように願いを込めるんだよ。」

 へぇ、そうなんだ。

「蒼良は、何も知らないんだね。」

 わ、悪かったわね。

 子供たちは、思い思いに短冊に筆で書いていた。

「おっ、七夕か。」

 土方さんが奥から出てきた。

「土方さんも、短冊に書くといいですよ。」

 沖田さんが土方さんに短冊を渡した。

「土方さん、詩歌も書くといいと聞いたので、一句書いたらどうですか?」

「うるさいっ!俺は、あとで飾る。」

 土方さんは、短冊を持って去っていった。

「なんで、俳句を見せてくれないのだろう?」

「蒼良なら見せただろうと思ったけど、見せてもらってないの?」

「沖田さんもですか?句集まで作っておいて、人に見せないってどうなんでしょうね。」

「そんなの、俺の勝手だろう。全部聞こえてるぞ。」

 気がつくと、去ったはずの土方さんがいた。

「あ、あれ?いたのですか?」

「いたら悪いか?」

「いや、別に。向こうに行ったと思っていたので。」

 土方さんは、短冊にサラサラと文字を書いた。

「土方さんの字って、あいかわらず女っぽいですね。」

「総司、うるさいっ!」

「で、なんて書いたのですか?」

「お前、読めんのか?」

 そう崩されて書かれると、何を書いてあるんだか…。

「あまりに芸術的すぎて、私にはちょっと読めないかなぁって。」

「土方さん、蒼良が、遠まわしに字が下手だと言ってますよ。」

「言ってませんよっ!」

「うるさいっ!」

 土方さんはそう言って立ち上がり、笹の一番高いところに短冊をつけた。

 あんな高いところに付けられたら、読みたくても、読めやしない。

「蒼良、もうちょっと字をうまく書けるようにならんと、隣のガキに負けてるぞ。」

 うっ、筆を使って字を書くなんて、習字の授業以外したことないし…。隣の女の子と字を比べてしまった。そして思った。負けた…。


 近所の子供たちも帰り、巡察から帰ってきた人達も、短冊に色々書き始めた。

「おおっ、七夕か。どれ、俺も。」

 近藤さんが来て、短冊に書いた。

 字は正確を表すって言うけど、本当だなぁ。近藤さんの字は太くで真っ直ぐな字だった。

「蒼良、俺の短冊見て、どうした?」

「いや、近藤さんは読みやすい字を書くなぁって。」

 あまり崩していないので、読みやすかったのだ。

「褒めても、何も出んぞ。」

 でも、褒められてまんざらでもないって感じで、ワッハハと笑いながら去っていった。


 七夕の笹を外に出して気がついた。七夕って、天の川をわたって織姫と彦星が年に1回、この日だけデートできる日なんだよね。

 天の川、見れるかもっ!

「だからって、僕も巻き込まなくても…。」

 沖田さんはちょっと迷惑そうに言った。

「年に1回の日なんですよ。」

「でも、織姫と彦星が見れるわけじゃないじゃん。」

「でも、天の川は見れます。」

「いつでも見えると思うけど。」

「おい、一年に一回の逢瀬を下から眺めるのもいいだろう。」

 もうひとりの巻きぞい者、原田さんが言った。

 私は、たまたま近くにいた沖田さんと原田さんを連れて天の川を見に来た。見に行くといっても、すぐ近くの田んぼなんだけど。

「わぁ、本当に見えた。」

 この時代は、電気とかないから夜は暗い。そして星もよく見える。

 ブラネタリウムで見るように、天の川と星が見れた。

「七夕に天の川を見れるなんて、初めてです。」

「えっ、蒼良は、見たことないの?毎日出てるじゃん。」

 沖田さんは驚いて言った。

「でも、こうやって改めて見るのは、俺も初めてだな。」

 原田さんが空を見ながら言った。

「今頃、きっと織姫と彦星、会ってますね。」

「織姫と彦星は、一年に一回しか会えないけど、思い合っているからいい。毎日会えるけど、思い会うことができないのも辛いぞ。」

 原田さんが言ったあと、しばらく沈黙が流れた。

「原田さん、誰か好きな人がいるのですか?」

「左之さん、誰か好きな人がいるのですか?」

 沖田さんと同時に口を開いていた。

「ば、馬鹿。たとえだよ、たとえ。」

 なんだ、てっきり恋をしているのかと思った。

「でも左之さん、ものすごい感情がこもってましたよ。」

「総司、うるさい。」

 原田さんと沖田さんでワイワイ言い合っていた。


 私は、綺麗な天の川を見れて良かったなぁと、実感しつつ、いつまでも眺めていた。 

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