表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年8月
446/506

戦の前の気晴らし

 私たちが現代で言う郡山市の湖南町へ移り、そこで永倉さんに会ってから数日が過ぎた。

 戦の前の静けさと言っていいのか、何事もなく平和な日々が続いてた。

 戦がすぐ目の前にせまっているというのに、こんなにのんびりしていていいんだろうか?

 そう考えるのだけれど、やることがないのだから仕方がない。

 でも、じっとしていられない。

蒼良そら、そわそわしているけど、何かあったのか?」

 私を見た原田さんがそう聞いてきた。

「もうすぐ、会津で戦があるのに、なにもしなくていいのでしょうか?」

「蒼良でも、今度は会津だってわかったのか?」

 原田さんの隣にいた永倉さんがそう言った。

 白河城も落ち、二本松城も落ちた。

 ここまでくると、未来を知っていなくても、次は会津だってなるだろう。

「わかりますよ、それぐらいっ!」

「そうだよな。ここまでくると、次は会津だってなるよな」

 原田さんがうなずきながらそう言った。

「蒼良。俺たちにも出来ることがあるぜ」

 永倉さんはにっこりと笑ってそう言った。

「新八、そんな方法があるのか?」

「あるある。簡単だ」

 簡単な方法なのか?

「永倉さん、それはいったい何ですか?」

 それをして、会津のためになるのなら、喜んでやりたい。

「夜襲だ。こちらからちょこちょこと攻撃してやればいいのさ。少しずつ毎日攻撃すれば、数日たてば大きくなるぞっ!」

 永倉さんのその言葉に沈黙してしまった。

「なんで黙っているんだ? 俺の素晴らしい意見に口もきけないか?」

 いや、その逆だ。

「新八、俺たちがちょこちょこと攻撃して敵の数を減らしても、敵は平潟から上陸して数を増やしているから、すぐに元に戻るぞ」

 原田さんの言う通りなのだ。

 政府軍は、会津の周りにある城を落とし、拠点を増やしている。

 そして、船で続々と援軍が到着しているので、兵の数は最初の時と比べるとかなり多くなっている。

 だから、永倉さんの言う通り夜襲をかけても、夜襲で減った分の兵はすぐに補充されるのだ。

 逆に私たちの方は、奥州越列藩同盟の兵も城が落ちるにしたがって減ってきている。

 兵が減ったらすぐ補充というわけにはいかない。

「でも、このまま、戦になるのをわかっているのを黙って見ているのもなぁ」

 永倉さんは、なぁと私の方を見て言った。

 そうなのだ。

 何もできない、何かしないといけないのに。

「夜襲はだめだぞ」

 原田さんが永倉さんに言うと、

「わかっている」

 と、深刻な顔で永倉さんはうなずいた。

「でも、何もできないのも、はらただしいな」

 永倉さんも、私と同じことを思っていたようだ。

「仕方ないだろう。特に指示もないから、今は待機だろう」

 原田さんの言う通りだ。

「よし、このまま待機しても、気が晴れないだろう。気晴らしに行くぞ」

 永倉さんがそう言って歩き始めた。

 気晴らしか。

 今、一番必要なことかもしれない。

「行こうか」

 原田さんもそう言って永倉さんの後から歩き始めたので、私も一緒に歩き始めた。


「新八の気晴らしって、これか」

 原田さんが半分あきれつつもそう言った。

「これしかないだろう。蒼良も喜んでいるし」

 えっ、私か?

「と、特に喜んでいませんが……」

 そう言いながら、私は徳利に口をつけた。

「蒼良、直接飲むのか?」

 原田さんにそう言われてしまった。

「いちいち小さいお猪口に入れて飲むのが面倒じゃないですか」

「そうだよな、蒼良の言う通りだ。さあ、左之も飲め」

「ここまで来て飲まないわけにはいかないよな」

 そう言いながら原田さんも飲み始めた。

「土方さんに、ばれないようにしないとな」

 原田さんの一言で思い出した。

 そうだ、土方さんがいた。

「ばれないようにしないと」

「蒼良も、そんなに怖がることないだろう。土方さんも人間だ、化け物じゃないからな」

 そう言いながら、永倉さんが私に徳利をわたしてきた。

「ありがとうございます」

 土方さんにばれないように、酔っ払わなければ大丈夫かな。

 そう思いながら、私は徳利の中身を全部飲み干した。

 

 昼間からお酒を飲んでしまった私たちは、夕方には永倉さんが、すっかり出来上がってしまった。

「くそっ! 何が官軍だ。次の戦は俺様がいるから、絶対に負けないぞ」

 レロレロと永倉さんが言った。

 歩きもよろよろとしていたので、両側から私と原田さんでささえた。

「永倉さん、お願いだから、暴れないでください」

 ただでさえ重くて大変なのに、暴れられたら、ささえるのが大変なのだ。

「俺は暴れとらんぞっ! ついでに酔ってもいないぞっ!」

 そう言う人に限って酔っているのだ。

「新八、頼むから静かにしてくれ。土方さんにばれるぞ」

 そ、それは大変だ。

「永倉さん、お願いだから静かにお願いしますっ! 土方さんにばれたら、大変ですよっ!」

「土方だと? あんなもの何でもないわっ! あっはっはっ!」

 なんで笑っているんだ?

 酔っ払いだからもうよくわからん。

「誰がなんだって?」

 と、後ろから、今、一番聞きたくない声が聞こえてきた。

「も、もしかして……」

 思わず、永倉さんの向こう側でささえている原田さんの顔を見た。

「間違いないな……」

 原田さんも、おしまいだという顔をして言った。

 恐る恐る後ろを見ると、土方さんが怖い顔をして立っていた。

「なにしてんだ?」

 ど、どうしよう。

 土方さんに質問されちゃったよ。

「あ、あのですね……」

 私が何とかごまかそうとしたのだけど、

「新八の奴、そこで転んで、足が痛くて歩けないって、文句を言うから、こうやってささえてやっているんだ。なぁ、蒼良」

 と、原田さんに同意を求められたので、

「そうなんですよ。永倉さんをささえるの大変なんですよ」

 と言って私もごまかした。

「俺は、転んでない……」

 永倉さんがそう叫び始めたので、原田さんが、あわてて永倉さんの口をおさえた。

「なんだ? もしかして、新八は酔ってねぇよな? 口調がおかしかったが……」

 土方さんがこちらに来る気配がした。

「大丈夫だ。こんな時に酒を飲むわけないだろう」

 原田さんがあわてて永倉さんを動かそうとした。

 しかし、それが突然だったので私がついていけなかった。

 永倉さんはドンッと前のめりに倒れてしまった。

「大丈夫か?」

 土方さんが永倉さんに近づいた。

 近づかせたらいけないっ!

「だ、大丈夫です」

 私は土方さんの前に立った。

「お前、どけ」

「永倉さんなら大丈夫です」

「大丈夫ですって、倒れているじゃねぇか。ほっとけねぇだろう」

 土方さんは私をどかして前に行こうとした。

 いや、永倉さんに近づいたら、飲んだことがばれるじゃないかっ!

「土方さん、新八は俺が運ぶから大丈夫だ」

 原田さんがそう言った時、永倉さんからいびきが聞こえてきた。

「えっ、寝ているのか?」

 土方さんが驚いてそう言ったので、思わず原田さんと顔を見合わせてしまった。

「新八、眠くなったんだろう」

「そうですよね。今日はお昼寝しなかったですからね」

「昼寝って、子供か? お前ら、何か隠しているな?」

 ドキッ!

「何も隠してないですよっ!」

 原田さんと自然と声がそろってしまったのが悪かった。

 土方さんは私をどかすと、スタスタと永倉さんの方へ向かって行った。

 そして、酔って寝ている永倉さんの元へ。

 永倉さんを見て、土方さんは気がついてしまった。

「新八、酔ってんじゃねぇかっ!」

 ば、ばれてしまったっ!


 それから酔っている永倉さんをぬかして、私と原田さんが土方さんにお説教されてしまった。

「こんな時に飲みやがってっ! しかも酔っ払いやがってっ!」

 す、すみませんっ!

「飲むなとは言わねぇよ。でも、酔っ払うまで飲むことねぇだろう」

 その言葉に原田さんと顔を見合わせてしまった。

 飲むなとは言わないだと?

「土方さん、本気で言ってますか?」

 思わず身を乗り出して聞いてしまった。

「飲みてぇなら飲めばいいだろう」

 本当に?以前の土方さんならそんなこと言わなかった。

「土方さん、具合悪いのか?」

 原田さんも私と同じことを思ったみたいで、そう聞いていた。

「熱があるとか……」

 私は、土方さんのおでこに手を乗せた。

 特に熱はないようだけど……。

「うるせぇな。俺は健康だ」

 土方さんはおでこに乗っていた私の手を払った。

「京にいた時の土方さんだったら、本気で怒りそうだったから、俺も新八が酔ったのを隠さないとと必死だったんだぞ」

「左之、飲みてぇというのに飲むなって言えねだろう」

 と言う事は……。

「これからは私も、酔わなければお酒を飲んでいいと言う事ですね」

「お前は別だ」

 そ、そうなのか?

「お前は酔わねぇから、飲ませたら樽ごとあけそうだからな」

 そこまではしないと思うのですが……。

「とにかく、ここは新選組だけがいるわけじゃねぇ。酔って帰ってきたところを見られたら、他の連中はいい思いはしねぇだろう。これからは気をつけろ」

 この人、本当に土方さんなのだろうか……。

 もしかしたら、土方さんの仮面をかぶった誰かかもしれない。

 顔を引っ張ったら、仮面がずるって落ちるかも。

「お前、何してんだ?」

「顔の皮を引っ張っているのですよ」

「なんでそんなことをするんだ?」

「土方さんらしくないことを言うので、もしかしたら、土方さんの仮面をかぶった誰かかもしれないと思いまして……」

「ばかやろう。俺は俺だっ!」

 そう言って怒鳴った土方さんに、げんこつを落とされたのだった。

 それもそうだよね。

 土方さんの顔をつねっちゃったのだから。


「土方さん、変わったよな」

 土方さんの部屋を出ると、原田さんがそう言った。

 確かに。

 最近は、他の人に対しても優しくなっている。

「京にいたころと比べると、かなり優しくなっていますよね」

 これって、いいことなのかな?それとも、悪いことなのかな。

「京にいたころは、近藤さんがいたからな。近藤さんをいい人に見せるために、自分を悪く見せていたところがあったんじゃないのか?」

 原田さんの言う通りかもしれない。

 近藤さんの手を汚さないため、隊士への罰などは土方さんがやっていたこともあった。

 近藤さんはいない今、土方さんがわざと悪人になる必要はない。

 だから優しくなったのかな?

「これは、いいことなのですかね? 悪いことなんですかね?」

 近藤さんがいなくなったからと聞くと、悪いことのように感じるし、でも、土方さんが優しくなったのは、いいことのような感じがする。

「それは、人によって悪く思う事もあるし、よく思う事もあるし。少なくても、今の隊士たちにはいいことみたいだぞ」

 原田さんは笑顔でそう言った。

 そう、土方さんは京にいた時と比べると、新選組の隊士たちからの評判が良くなっている。

 きっと、いいことなのかもしれない。

 そう思う事にしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ