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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年8月
445/506

戦をする理由

 八月になった。

 現代で言うと十月あたりになる。

 この時期になると、本当に秋らしくなり、朝晩は寒いと思うぐらいの気候になった。

 そして、東北にいるせいか、冬のことを考え始めていた。

「この戦は、冬になる前には決着がつきそうだな」

 土方さんもそんなことを言っていた。

「なんでですか?」

 なんでそんなことが分かったんだろう?

「敵も、雪が降る中、行軍はしたくねぇだろう」

 確かにそうだろうなぁ。

 私たちも、出来れば雪の中での戦は避けたい。

「実際はどうだ?」

 土方さんは、私が未来から来たことを知っている。

「今月で、会津の方は決着がつきます」

 会津が敗けるとは言えなかった。

 敗けると言っても、土方さんは戦をするだろうし、もしかしたら、奇跡が起きて勝つかもしれないという思いもあった。

「そうか」

 土方さんも結果までは聞いてこなかった。

 

 私たちが宇都宮や白河で戦をしている時、奥州越同盟の越の部分、今でいう新潟近辺でも戦があった。

 奥州越列藩同盟対政府軍の戦だ。

 そこに会津藩兵も行っていた。

 というのも、新潟湾が開港していて、そこから奥州越列藩同盟は武器などを補給していたので、私たちにとっても重要な場所だったし、政府軍から見れば、ここをおさえれば、会津方面への武器の補給をきることが出来るので、これからの戦がさらに有利になると言う事で、両軍にとってこの地は重要な地になっていた。

 北越戦争と呼ばれたこの戦。

 最初は、列藩同盟が優勢で戦がすすめられていたのだけど、この戦で活躍していた河合継之助と言う人が怪我をしてしまうと、列藩同盟軍の士気が下がり、それと同時に政府軍も体勢を立て直してきたため、長岡藩と新潟港などが政府軍の手に落ちてしまった。

 会津戦争が近づいてきているのに、会津に不利なことばかりが続いていた。


 そんな中、私たちは現代の郡山市湖南町近辺へ移動した。

 そこには、新選組の他に幕府の軍隊である伝習隊と、幕府の軍隊に所属していた人たちで結成された回天隊と一緒になった。

 そして、その中に驚くべき人がいた。

「し、新八っ! なんでお前がここにいるんだ?」

 原田さんがその人の姿を見て、驚いていた。

 そりゃそうだ。

 会津あたりにいるだろうと思っていた人が、ここにいるのだから。

「なんでって、戦のあるところにこの俺様ありっ! だろ」

 永倉さんは明るくそう言った。

「戦のあるところにって、今までの戦に参加していたのですか?」

 白河口の戦いは参加していただろうけど、二本松の戦いにもいたのかな?

「白河口の戦いと……そんなもんか?」

 永倉さんは、自分の指をおって数えながらそう言った。

「なんだよ。全部の戦に参加したような言い方をしたから、俺はてっきり……」

 原田さんは、安心したようなそんな顔で言った。

「俺一人で全部の戦は無理だろう。磐城平城が落ちたのと、白河の奪還をあきらめたのがほぼ同じ日だぞ。俺が二人いないと無理だ」

 永倉さんが二人いるってどういう状態になるんだろう。

「新八が二人って、考えたくないな」

 原田さんも私と同じようなことを考えていたらしい。

「左之、久しぶりに会ったのに、ずいぶんと失礼なことを言うよな」

 永倉さんがそう言うと、原田さんは永倉さんの肩を強くボンッと叩いた。

「新八が無事でよかった。会えてうれしいよ」

「俺も、こうやってお互い無傷で会うことが出来て嬉しいさ」

 原田さんと永倉さんはお互いの無事を喜び合った。

 二人がこうやって無事に再会できてよかった。


 それから原田さんと一緒に、永倉さんの戦の話をずうっと聞くことになった。

 その最後の方で、

「そして昨夜、夜襲をかけたら成功した」

 と、永倉さんが得意げに言った。

 話によると、永倉さんは伝習隊の人たちに交じって、現代の須賀川あたりにいる政府軍に夜襲をしたらしい。

 そしたら成功したと言う事だ。

 この時期、永倉さんたちのように政府軍に夜襲と言う方法で攻撃する組織が他にもあった。

 東北地方のやくざを集めてできた衝撃隊という隊があった。

 この衝撃隊のリーダーが黒装束の上に着ていた半てんにカラスの絵が描かれていたので、鴉組とも呼ばれていた。

 その夜襲の回数は三十回以上。

 私たちにとっても心強い存在だ。

 でも、そう言う人たちを見て、最近あることを思うようになった。

 どうして、敗けるとわかっている戦に、そこまでやって命を危険にさらすのだろうか?

 永倉さんだってそうだ。

「どうして……」

 私がそう言うと、原田さんと永倉さんが同時に私を見た。

「どうして……、敗けるとわかっているのに、そこまで戦おうとするのですか?」

 二人と目が合った私は、思わずそう言ってしまった。

「おい、蒼良そら、逆に聞く。どうして敗けるとわかるんだ?」

 永倉さんが少しムッとした顔で聞いてきた。

 永倉さんは私が未来から来たことを知らない。

 でも、未来を知らなくても、誰が見ても私たちの方が戦に不利だっていう事はわかるはずだ。

 周りの味方はことごとく敵の政府軍の手に落ちていた。

 唯一の武器の補給場所である新潟港も敵の手に落ちてしまった。

 まさに八方ふさがりの状態だ。

 この状態で、なんで敗けないなんて言えるんだ?

「新八、落ち着け。蒼良は戦のことを知らないんだから」

 原田さんが一生懸命に永倉さんを落ち着かせていたけど、

「私だって、戦のことを知っています。だから聞くのですっ!」

 と、追い打ちをかけるように言った。

「どうして? どうして、戦をするのですか?」

 本当は、永倉さんにじゃなく、土方さんに言いたかった。

 敗けるとわかっているのに、戦のことを考えている。

 土方さんなら、今の状態を見てもうわかっているだろう。

 それでも、戦に向かおうとしている。

 どうして、そこまでして、自分の命を危険にさらしてまで、戦をしたいのだろう?

「蒼良、大丈夫か?」

 永倉さんをなだめていたはずの原田さんが、私にそう言ってきた。

 永倉さんは大丈夫なんだろうか?そう思い永倉さんを見ると、永倉さんは驚いた顔をして私を見ていた。

「そんな、泣くことないだろう」

 永倉さんの一言で、私は泣いていたことに気がついた。

「お前も男だろう。男はそんな簡単に泣くもんじゃない」

 永倉さんはそう言いながら、私をなぐさめてきた。

 いや、私、女なんだけど、よく考えたら、永倉さんは私が女だと言う事を知らない貴重な人だった。

「いいか、なんで俺が戦をするか教えてやる」

 永倉さんは姿勢を正してそう言った。

「俺が戦をする理由、それは、そこに戦があるからだっ!」

 永倉さんの言葉を聞き、沈黙が流れた。

「新八、それは戦をする理由にならないと思うが……」

 うん、私が知りたい理由じゃないような……。

「なにを言うんだ、左之。立派な理由だろうがっ! 戦のあるところに俺様ありだっ!」

「蒼良、新八に聞いたのが悪かったと思ってくれ」

「左之、なんだその言い方はっ!」

「わかりました」

 私が原田さんにそう言うと、永倉さんは、

「俺が真面目に答えてやったのにっ!」

 と言って、暴れていた。

「原田さんは……」

 原田さんは何で戦に行くのだろう?

「俺が戦に行く理由か?」

 私を見てさっしたのか、原田さんがそう聞いてきた。

 私はコクンとうなずいた。

「蒼良が行くから、俺も行くんだ」

 そ、そうなのか?

「俺は、蒼良に命を助けてもらった。だから、今度は俺が蒼良を助ける番だ。蒼良が危険にさらされないように、俺が守る。そのために俺は戦に行く」

 そんな理由なのか?

「もし、私が戦に行かなければ……」

「もちろん、俺も行かない」

 そうなのか?

「おい、左之……お前、蒼良と……」

 永倉さんはとっても驚いていた。

 その驚きを見た原田さんは気がついた。

「あっ、新八は蒼良が女だって知らないんだったよな……」

 小さい声で私に聞いてきた。

 私はコクンとうなずいた。

「新八、あれだ。俺は、土方さんから蒼良を守るように言われているから、それで言ったんだ。男色とかじゃないからなっ!」

「なんだ、そう言う事だったのか。俺はてっきり左之も男色に染まったかと思ったぞ」

 もって……、他にも男色がいるのか?

「おい、蒼良っ!」

 永倉さんは、今度は原田さんから私の方を向いた。

「は、はいっ!」

「お前、男だろう? 戦で人に守ってもらおうなんて考えるな」

 いや、女なんだけど、ここはうなずくしかないのか?

「は、はい」

 永倉さんから、戦をする理由を聞いた私がいけなかった。


「なんで戦をするのか? だって?」

 永倉さんに聞いても答えが出なかったので、土方さんに聞いてみた。

 思えば最初から土方さんに聞けばよかったのだ。

「はい。この戦、私たちにとっても不利ですよね」

「そうだな。お前の言う通り、不利だよな」

「それなのに、敗けるとわかっても戦をするのはなんでですか?」

「まだ、敗けると決まってねぇだろうが」

 そこは永倉さんと同じようなことを言った。

 もしかして、答えも同じなのか?

「俺が戦をする理由。それは、俺は幕臣だ。幕臣だから、幕府を守るために戦をする。それがたとえ敗ける戦だろうとなんだろうと、恩を受けたらそれを返すのが武士ってもんだろう」

 恩?幕府から恩を受けたか?

「武士はな、主君を守るためにそれが敗ける戦だろうが何だろうが、関係なく戦うんだよ。自分にとってどんなに不利なことでも、それが主君を守るためなら命も惜しまねぇんだよ」

 と言う事は……。

「土方さんは、幕府を守るために戦に参加しているのですね」

「ここにいる人間はみんなそう思っていると思うがな。それに、会津には特別な思いもある」

 会津に特別な思いを抱く理由は私も分かっている。

 会津藩は、寄せ集めの集団だった私たちを自分の下に置いてくれた。

 そのおかげで、会津藩預かりと名乗ることが出来、京でも活動することが出来た。

 会津には特別な恩がある。

「俺たちを助けてくれた会津を助けたい。それだけだと戦をする理由にならねぇか?」

 充分です。

 私も会津は守りたいと思う。

 敗ける戦でも、私たちが守ることで被害が少しでも小さくなるのなら、戦に出て守りたいと思う。

「それと、近藤さんが生きていたら、こうしていたかなぁという思いもある。俺も、地獄に行ったときは、近藤さんに顔向けできなくなるようなことはしたくねぇからな」

 極楽と言わない土方さん。

 前に人をたくさん斬ったのだから、極楽に行けるわけねぇだろうと言っていた。

「わかったか?」

 土方さんはそう言って、私の頭に手をポンッとのせてきた。

 私も胸のモヤモヤが晴れ渡ってすっきりした。

「わかりました。私も会津と幕府を守るために頑張ります」

「お前は生きろ。お前に死なれたら俺が困る」

「大丈夫です。私はそんな簡単に死にませんよ」

 そんな簡単に死ねない。

 だって、土方さんを助けないといけないから。

 

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