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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年7月
444/506

二本松の戦い

 白河口を手に入れた政府軍は、海の方へと進行方向を変えた。

 そして海の方、磐城の方では、続々と政府軍の援軍が上陸し、北上をしていた。

 その中で、白河口で戦っていた板垣退助率いる政府軍と、海側から上陸して北上をしていた政府軍の一部が三春で合流する。

 三春藩は、列藩同盟に入っていた藩だ。

 つい最近まで私たちと一緒に動いていた。

 しかし、三春藩は続々と自分の藩にせまってくる政府軍を見て、不安に思ったのかどうかは知らない。

 三春藩は、政府軍に降伏した。

 突然の三春藩の裏切りに、みんな驚いた。

「くそっ、三春藩も裏切ったか。この前まで一緒にいたのだぞ」

 土方さんもそう言ってやり場のない怒りをぶつけていた。

「仕方ないですよ。白河口からと、磐城平藩からの敵が押し寄せてきたのですから」

 それに、三春藩は新政府の方の思想に近かった藩だと、歴史で聞いたことがある。

 しかし、周りの藩が幕府側につき、自分たちも幕府側につかなければ攻撃されてしまう危険もあったので、仕方なく列藩同盟に加入したという事情があったらしい。

「仕方ないですむわけねぇだろう。三春藩が敵に寝返ったと言う事は、次の戦場は……」

「二本松ですよね」

「そうだ。よくわかってんじゃねぇか。二本松へ向けて進軍の準備をする」

 土方さんのその一言で、二本松へ向けて進軍の準備が始まった。

 一方で二本松の方では、政府軍が三春藩や一緒に裏切った周辺の藩の案内で、二本松の近隣から戦をし、勝ちながら二本松へと向かっていた。  


             *****

 

 蒼良そらがいなくなってから一カ月がたとうとしていた。

 多分、土方さんの所に行ったのだろうから、福良あたりにいると思う。

 それにしても、左之さんまで一緒にいなくなるとは思わなかった。

 こんなことなら、僕が蒼良をしっかり見張って……じゃないか、護衛をしておくのだった。

 土方さんも土方さんだ。

 蒼良が行ったら追い返すだろうと思っていたのに、蒼良が帰ってこないと言う事は、土方さんも追い返していないと言う事だ。

 白河は完全に敗退し、兵は撤退をして来ている。

 その兵たちは誰もが疲れた顔をしていた。

 きっと苦しい戦いだったのだろう。

 僕は、いつもは蒼良をからかったりして遊んでいるけど、本当は心配なんだ。

 蒼良が苦しい思いをしていないか心配だ。

 よし、今日こそは、ここを抜け出して僕も蒼良の所へ行くぞっ!

 会津の宿を出ようとした時、

「沖田、どこへ行くつもりじゃ?」

 と、天野先生が顔を出してきた。

 そうなのだ。

 いつもなら、僕も福良にいると思う。

 でも、今の僕は会津にいる。

 それは、僕が蒼良の所へ行こうとすると、なぜか天野先生があらわれて止めるのだ。

「天気がいいから、ちょっと散歩をしようかなぁと思っていたんだ」

「それなら、わしも一緒に行こう」

 今回も蒼良の所へ行けない。

 いつも同じ失敗をしている。

 こっちが散歩とか色々言うと、天野先生も色々と言って僕が蒼良の所へ行くのを阻止してくる。

 仕方ない、天野先生と散歩でもしよう。


「天野先生、僕は蒼良の所に行きたいのです」

 会津の街を歩きながら僕は天野先生に言った。

 今まで、何をしてもだめだったから、こうなったら正直に言ってみよう。

「その体で行けるわけないだろう」

「僕はもう健康です」

 労咳は、天野先生が持ってきてくれた薬で治った。

「いや、まだ治っておらん。沖田の病気は薬を飲んでも治るまで最低でも半年はかかる」

「でも、この前、薬の量が減ったけど」

 たまに注射と言うものを良順先生にやってもらったりしていたのだけど、それがなくなり、薬も二つだけになった。

「この病気は簡単に治るもんじゃない。それは沖田が一番わかっているじゃろう?」

「でも、労咳の症状はすっかりなくなったけど」

「症状がなくなっても、菌が体の中にいる。そいつを完全になくさないとだめだ」

 天野先生の言っていることはよくわからないけど、僕の体の中の労咳はまだ残っていると言う事なのだろう。

「蒼良が心配なのはわかるが、あいつは大丈夫じゃ」

 なんでそんなことが言えるんだ?

 蒼良だって、白河の戦で苦しんでいるはずだ。

 そんな僕の心配に追い打ちをかけるように、

「なぜなら、わしの孫じゃからな。そんな簡単にやられるような奴じゃない」

 と、天野先生が言った。

 天野先生のその言葉に、僕はさらに不安になり、蒼良が心配になってしまった。


 天野先生としばらく歩いていると、

「沖田君、元気そうだな」

 と、言いながら良順先生が近づいてきた。

「城はどうじゃった?」

 天野先生がそう聞いていた。

 良順先生は会津の鶴ヶ城に行っていたようだ。

「戦況があまりよくないらしい。三春藩が寝返った」

 良順先生のその言葉が信じられなかった。

「三春藩が?」

 思わず聞き返してしまった。

 三春藩は敵と戦うため、援軍を要請してきたと聞いた。

「信じられんが、敵が近づくと、藩主自ら城から出て出迎えたようだ」

「ついに、三春が裏切ったか」

 天野先生はこのことを知っていたみたいで、驚きもせず、普通にそう言った。

「次は二本松じゃな」

 天野先生は二本松がある方向を見てそう言った。

 二本松は、会津のすぐ近くだ。

 戦がすぐそこまで来ている。

「やっぱり、僕も……」

 戦に参加するっ!そう言おうとしたら、

「だめじゃ。まだ完全に治っとらんっ!」

 と、天野先生が言った。

「沖田君、今は辛抱の時だ。労咳が治るだけでも奇跡だし、治ったらいくらでも戦に参加できるようになる。だから、今は辛抱するように」

 良順先生にも言われてしまった。

 労咳で亡くなる人がたくさんいるのに、僕だけ治すことが出来る。

 そして、労咳が治ったらと言う未来が僕だけにあるという事だけを考えると、ここは我慢をして完全に労咳を治さないといけないのかもしれない。

「わかりました」

 蒼良が心配で、今からでもすぐに会いたいけど、ここは我慢だね。

 今度、蒼良に会った時は思いっきりいじめてやろう。

 本当はいじめたくないんだけどね。


            *****


 城外の陣地をほとんど政府軍に攻略された二本松藩は、二本松城に戻って最後の抵抗に移ることになった。

 藩主を先に米沢藩に逃がしていて、それが列藩同盟への人質のようになってしまい、降伏することが出来なかった。

 会津藩と仙台藩からの援軍も出ていたのだけど、ここまでの戦で政府軍に攻撃され被害を受けたので、撤退をしてしまった。

 残っていたのは、二本松藩の人たちだけだった。

 そして、とうとう抵抗をあきらめ、二本松城の中にいた重臣たちは城に火を放ち、何人かは、その城と運命を共にした。

 城と城の外にいる二本松藩兵の間に政府軍がいたので、連絡がとれなかった。

 そのため、さらなる悲劇がおそいかかる。

 会津に白虎隊と言う少年たちを集めた隊があったのと同じように、二本松にも二本松少年隊と言う隊があった。

 激戦の中、二本松少年隊の隊長と副隊長が戦死をしてしまい、二本松少年隊は最前線で何をしていいかわからず、一人、また一人とはぐれていった。

 そして戦闘に巻き込まれ、命を落としていった。

 二本松藩の上級職の人たちはすべて亡くなった。

 そのほかにも、二百名以上の死者が出た。

 ちなみに政府軍は十七名だった。


 二本松の落城の報を受け、土方さんは、現代の郡山方面への進軍を断念した。

「くそっ!」

 土方さんはそう言って悔しがっていた。

 私は、それを黙って見ているしかなかった。

 

「二本松藩が落ちたらしいな」

 夜、庭を見ると原田さんが外に出て空を見ていたので、私も外に出ると空を見ながら原田さんが言った。

「はい。激しい戦だったらしいです」

 歴史では、二本松藩の激しい抵抗で戦傷者が増えたとなっていた。

「次は会津か? それとも仙台か?」

 ここで政府軍には二つの選択肢があった。

 さらに人数を増やして仙台藩を攻撃するか、進路を西に変えて会津を攻撃するか。

 会津戦争があるのだから、政府軍は会津を攻撃する方を選んだのだろう。

「次は会津です」

 原田さんは私が未来から来たことを知っているので、会津だと断言する私を黙って聞き入れた。

「そうか、会津か。蒼良も白虎隊の事とか言っていたからな。会津じゃないかなとは思っていた」

 思っていたけど、受け入れたくない。

 白虎隊の子供たちまで戦に巻き込まれてしまうなんて。

「新八と久々に会えそうだな。嬉しいのはそれぐらいだな」

 永倉さんも、大鳥さんと一緒に母成峠の戦いに参加する。

「次の戦も激しいものになりそうだな」

「激しいものになります」

 私はそう言い切った。

 次の戦は、私たちも参加する。

「そうか」

 原田さんはそう一言言って夜空を見上げた。

 私も一緒に夜空を見た。

 秋の星座がきらめいていた。

「おい、二人で何をしている?」

 土方さんの声が聞こえてきた。

「星を見ていた。今日は星が綺麗だなぁって。なぁ、蒼良」

 原田さんに返事を求められたので、

「はい。雲ひとつない夜空で、星が綺麗です」

 と、私が言うと、土方さんに

「のんきだなぁ」

 と言われてしまった。

 そうだよね、それどころじゃないよね。

「すみません」

 私が謝ると、

「別に悪いことしてねぇだろう。星を見て、気持ちが落ち着くならそれでいいだろう」

 と、土方さんが言った。

 いつもなら、

「そんなことしている暇ねぇだろうっ!」

 って怒りそうだけど。

「何か用があるのか?」

 原田さんが土方さんに聞いた。

「そうだ。とりあえず、いつまでもここにいてもらちあかねぇから移動する。いつでも戦に参加できる用意はしとかねぇとな」

 今までは二本松に行くために準備したりしていたけど、今度は次の戦の為の準備をしなければならない。

「そうだな。いつまでもここでのんびりってわけにもいかないよな」

 原田さんはそう言うと庭から建物の中に入った。

 私も後を追うように入った。

「寒くなかったか?」

 土方さんがそう言った。

「ここは夜になると冷えるからな。星を見るのもいいが、風邪には気をつけろよ」

 土方さんのその言葉に思わず見返してしまった。

「な、なんだ。そんな顔をして俺を見て、顔に何かついているか?」

 いや、顔は普通だけど……。

「土方さん、何かありました?」

 こんなに優しかったか?

 もともと優しい人だったけど、前の優しさと今の優しさが全然違う。

 優しいときと普通の時の差がなくなっているというのか?

「別に何もねぇぞ。なんだ?」

「最近、優しいですよね?」

「そうか? お前の気のせいだろう? 俺はいつも通りだ」

 そ、そうなのか?

 土方さんがそう言うのならそうなのかもしれない。

 でも、京にいた時とくらべると、優しさが違うような気がするのだけれど……。

「ところで、お前は準備できているのか?」

 あっ……、出来てないかも……。

「のんきに星を見ている場合じゃねぇだろう。準備が間に合わなかったら、置いて行くからな」

 土方さんはそう一言言うと、行ってしまった。

 やっぱり優しくなったのは気のせいだったのか?

 ああっ!そんなこと考えている場合じゃない。

 心を切り替えて、ちゃんと準備しないとっ! 

  


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