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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年7月
441/506

福良での日々

 斎藤さんたちが町守屋という場所に行った次の日。

 私たちの味方である庄内藩が白河口へ大隊を派遣してくれたのだけど、秋田藩をはじめとする数藩が奥州越列藩同盟から抜けたという報告を受け、派遣先を白河口から奥州越列藩同盟を抜けた新庄藩への攻撃へと変えた。

 これから先は敗戦が続くから、奥州越列藩同盟が崩れるのも時間の問題かもしれない。


「副長っ! 大丈夫なのですかっ!」

 島田さんが、体型と同じぐらいの大きな声でそう言った。

 この日は、怪我をした島田さんのお見舞いのため、福良にある千手院という場所に、土方さんと一緒に来ていた。

 ここは、白河口の戦いで負傷した兵たちのための病院になっていた。

「そんなでかい声を出すな」

 土方さんが島田さんに注意した。

 島田さんの大きな声で、私たちは同じ部屋にいる患者さんたちから注目されていた。

「すみません、すみません」

 私は周りに頭を下げた。

 休んでいるのに、大きな声を聞かせてしまって、申し訳ないです。

「で、副長の怪我は治ったのですか?」

 今度は小さい声で島田さんが言った。

 島田さんの声は周りに気づかいすぎてとっても小さかった。

「はあ? なんだって?」

 今度はそう言う土方さんの声が部屋に響き渡る。

 再び注目のまとになる私たち。

「ひ、土方さん、声が大きいですよっ!」

「あっ、すまん」

「申し訳ない」

 今度は島田さんが周りの人に謝っていた。

「土方さんは、一応、良順先生に治ったと言われたのですが……」

 そこで私が黙ると、

「ここまでくる間に傷が痛みだしてな。他の連中と一緒に町守屋まで行けなかった。お前と一緒だ」

 と、土方さんが島田さんにいった。

「そうだったのですか」

「島田さん、怪我の具合はどうですか?」

 見た感じ、島田さんも元気そうなのだけど……。

「だいぶ良くなっていますよ。今からでも町守屋に行けますよ」

 島田さんははりきってそう言ったけど、

「今は無理をする時ではない」

 と、土方さんに言われていた。

「ゆっくり怪我を治せ」

 同じ言葉を土方さんにも言いたいのだけど……。

「わかりました。ところで新八のことは何か聞いてませんか?」

 あっ、永倉さんっ!

 島田さんとは仲が良かった。

 私たちが宇都宮で戦っているときに、近くで戦があるのに大人しくしてられるかっ!という勢いでやってきた。

 その後、土方さんが怪我をしたので永倉さんとは別行動になっている。

 永倉さんは確か、今頃……。

「永倉さんは、大鳥さんたちと一緒にいると思います」

「そうかもしれねぇな。俺も怪我していなければ、一緒にいたからな」

「たぶん母成峠の戦いあたりで会えると思うのですが……」

 その前に会えるかなぁ……。

「母成峠の戦いって、会津の境で戦があるのですか? そんな話は聞いていないが……」

 島田さんは驚いた顔をしてそう言った。

 そうだよね、これから先の話だから……。

 って、こんな話をしたら私が未来から来たってばれちゃうじゃないか。

「そこで戦があるかもしれねぇって、こいつの勘だろ? このまま負け続けたら母成峠で戦になるのも時間の問題だろ」

 土方さんはチラッと私をにらんだ。

 何とかごまかしてくれているようだ。

 す、すみません。

「鈍感だが、勘だけは鋭いときがあるからな」

 私の頭を乱暴になでて土方さんが言った。

 ごまかしてもらったから、反論できない。

 大人しくされるがままになっていた。

「ところで、蒼良さんは女性ですが、副長との関係が何か変わりましたか?」

「島田、突然何を言うんだ?」

「お二人の雰囲気が変わったなぁと思いまして……」

 そ、そうなのか?

 土方さんと顔を見合わせてしまった。

 なんと答えたらいいんだろう?

「特に何もないぞ。なぁ」

 土方さんはそう言って私に同意を求めてきた。

「そ、そうですよ。島田さんは久しぶりに私たちに会ったからそう思うのですよ」

 土方さんが否定をしたと言う事は、今まであった色々なことは私たちだけの秘密と言う事なのだろう。

「そうか。気のせいか」

「島田、そんなこと気にしてねぇで、早く怪我を治せ。一緒に戦に出るぞ」

 土方さんのその一言で、島田さんは嬉しそうに

「はいっ!」

 と返事をした。


 本陣に帰ると、隣の建物が賑やかになっていた。

 何かあったのかな?

「あ、あいつら……」

 護衛のために一緒に来ていた原田さんが、建物から出てきた子たちを見てそう言った。

「なんだ、左之の知り合いか?」

「知り合いも何も、日新館で槍を教えていた奴らだ。白虎隊と言うのか? なんであいつらがここにいるんだ?」

 白虎隊がここにいると言う事は……。

「白虎隊にも出動の命令が出たと言う事ですね」

 白虎隊の子供たちが自刃してしまう悲劇の日までせまっていた。

「出動って、こいつらが出動することはまずないだろうって聞いたぞ」

 原田さんが私の話を聞いてそう言った。

 最初はそう言う話だった。

 しかし、戦況がそんなことは言ってられない状態になる。

「あ、原田先生」

 白虎隊のうちの一人が原田さんに気がつき、走り寄ってきた。

「なんでお前たちがここにいるんだ?」

「喜徳公の護衛を命じられたんだ」

 一人の男の子が嬉しそうにそう言うと、

「そうか、護衛の為か」

 と、ホッとしたような感じで原田さんが言って子供たちの頭をなでていた。

 ところで……。

「土方さん、喜徳公って誰ですか?」

 偉い人みたいだけど……。

「お前、本気でそんなことを言っているのか?」

 本気だけど、何かあるのか?

「さっき、母成峠で戦になるかもって言った人間と同じ人間とは思えんな」

 そ、それはどういう意味なのでしょう?

 いい意味ではなさそうだ。

「喜徳公とは、容保公の養子だ。今年の二月に容保公が隠居したから、喜徳公は今の会津藩主だ」

 そ、そうだったのかっ!

「肝心なことを知らなかったとは……お前らしいというか……」

 土方さんはため息をつきながらそう言った。

 す、すみません。

「あそこにいるのは、もしかして……」

 子供たちの視線が土方さんに向いた。

「土方先生っ!」

 子供たちのあこがれの視線が土方さんに向いた。

 土方さんは、新選組の副長として会津の子供たちのあこがれの的になっていた。

「白虎隊と言ったな」

 土方さんも、笑顔で子供たちにそう言った。

「京の話を教えてもらえますか?」

「池田屋の話も聞きたいです」

 京で起きた事件の名前をいくつか出し、子供たちは土方さんに言った。

 土方さんも嬉しそうに、

「いいぞ」

 と言った。

 私も、池田屋事件を経験しているから話しできるんだけど、土方さんから聞くのがいいのだろうなぁ。

「俺なんかより、土方さんから聞きたいんだろうなぁ」

 と、隣で原田さんも言っていた。


 子供たちは、目をキラキラさせて子供たちの話を聞いていた。

 その後ろの方で邪魔にならないように話を聞いていた私と原田さん。

 ふと、原田さんは私に話しかけてきた。

蒼良そら、こいつらがどうなるか知っているんだろう?」

 なんでそんなことを聞いてくるんだ?

「蒼良の様子を見ていると、こいつらの未来はあまりいいものではないことはわかる。だから、俺もこいつらに入り込まないようにしていたが、槍を教えているうちにやっぱり情が出来てしまったようだ」

 そうだろう。

 私だって、何もかかわりが無くてもこの子たちがかわいいと思う。

 礼儀がいいし、素直でいい子たちばかりだ。

 生きていたら、きっと日本のために働く子たちになるだろう。

 生きていたら……。

「で、こいつらはこの後どうなるんだ? まさか、白河で戦死するわけじゃないよな?」

 白河ではない。

「戦場が会津になった時、この子たちにも出動命令が下されます。飯盛山って知ってますか?」

「ああ、会津にある山だろう?」

「そこで、会津の城下町が燃えるのを見て、落城したと勘違いし、この子たちは自刃します」

 私のその言葉を聞いて、原田さんはものすごく驚いた顔をした。

「本当か?」

 信じられないのだろう。

 私はコクンとうなずいた。

「そうだよな。蒼良が嘘つくわけない。そうか、そんな最期をこいつらは迎えるのか。そう思うと、蒼良がこいつらに初めて会った時になんであんなことを言ったのかわかる気がする。俺も、同じ思いだ」

 そう言いながら、キラキラした目で土方さんから話を聞いている子供たちを原田さんは見ていた。

 私も原田さんと同じ方を見た。

 その時、子供たちが、

「会津の為なら命をかけて戦う」

 と言っていた。

 思わず原田さんと顔を見合わせてしまった。

 それも大事だけど、もっと大事なことがあるっ!

 そんな中、土方さんの声が聞こえてきた。

「君たちは若い。だから、生きて新しい時代のためにその命を使え。この戦で死んではだめだ」

 その土方さんの言葉にホッとした。

 土方さんも、私たちと同じ思いなのだ。

 この土方さんの言葉を戦の、あの自刃する直前に思い出して、思いとどまってほしい。

「本当は、全員生き残ってほしいが、それが無理なら、何人かだけでもいい。生き残ってほしい」

 原田さんは子供達を見ながらそう言った。

 一人ではなく、全員生き残ってほしい。

 そう願わずに言われなかった。


「あいつらの中で何人が生き残る?」

 本陣に帰り、土方さんと二人になるとそう言ってきた。

 な、なんでそんなことを聞いてくるんだ?

「会津が戦場になるとお前は言っていた。そうなったら、あいつらだって戦に出るだろう」

 それで聞いたのか。

「一人だけ生き残ると聞きました」

「一人……。そうか」

 土方さんは寂しそうな顔をした。

 きっと土方さんも私たちと同じ思いなのだろう。

 二人で白虎隊の子供たちがいる隣の建物を見ていた。

 いつまでも、話すことなくながめていたのだった。

 

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