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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年7月
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岩城升屋事件

 まだ大坂にいる。

 不逞浪士も捕縛したし、お金も借りた。いつ京に帰るのかな。

 そんなことをぼんやりと考えている時に、事件は起こった。


「すんません。ここに壬生浪士組の方がいらっしゃるって。」

 暑い中走ってきたのか、ハアハアと息を切らし、汗をかいている男の人が来た。

「そうですが。何かあったのですか?」

 たまたま私がいたので、事情を聞いた。

 聞いた話によると、その男の人は、岩城升屋という呉服店の人で、そのお店に浪士が押し借りに来たらしい。

 鴻池こうのいけさんから、ここに行けば私たちがいるから、行ってみなさいと言われて、助けを呼びに来たらしい。

「土方さん、大変です!」

「なんだ?」

 岩城升屋のお店の人の話を聞かせた。

「鴻池さんがからんでいるなら、ほっとくわけにもいかねぇな。」

 鴻池さんは、話に出てきただけだけど、色々とお世話になっているので、顔を潰すわけにはいかない。

「誰かいるか?」

 土方さんが中に向かって言うと、

「どうした?」

 と、山南さんが出てきた。

「山南さんだけか?」

「多分…。山南さんだけです。」

 今回は、うちの名前を借りて豪商からお金を借りた人を成敗しに来ただけなので、来た人数自体が少ない。

 それに、暇になれば外に出て色々と遊ぶ人が多いから、この時間にいる人はもっと少ない。

「よし、俺たちだけで向かうぞ。」

 山南さんには、行きながら事情を話した。

「相手は、何人だ?」

 山南さんは、走りながら聞いてきた。

「それは、俺にもわからん。」

「ま、大したことじゃないだろう。」

 笑顔で山南さんが言っていたけど、店に着いたら、大事になっていた。

 思っていたより人数も多いし、強そうな人ばかりだった。3人で大丈夫なんだろうか?

「おい、お前ら。今のうちに帰れば、見逃してやるが、どうすんだ?」

 土方さんが、浪士たちに言った。

「なんだと?お前、何様だ?」

「壬生浪士組だ。で、どうすんだ?」

 土方さんが聞いたら、一人が切りかかってきた。

 それが答えということだ。それを合図に山南さんも刀を抜いて応戦した。私も刀を抜く。

蒼良そら、お前は、店の人間を一ヶ所にまとめて守れ。」

 土方さんが、一人と斬り合いながら言った。

「分かりました。」

 店の人も、あっちこっちに散らばって怖いのか、うずくまっていた。

 一人一人を立たせて店の端っこへ。その間も刀が私に降ってきたけど、なんとか刀で返すことができた。

「お店のご主人は?」

 店の人に聞くと、

「奥にいると思います。」

 一人が、奥を指差しながら言った。

「じゃぁ、みなさんも、奥に行きましょう。ここにいたら、巻き添えになるかもしれないです。」

 みんなを守りつつ、奥へ。


 奥に行くと、浪士が一人いて、店のご主人を脅していた。既にここにも一人いたのね。

「金を出せっ!俺たちは攘夷を実行する。だから、協力しろっ!」

「その攘夷は、いつ、どこで実行するのですか?」

 私が言い返してやると、

「お前、誰だ?」

 その男は、刀を持ったまま振り向いた。

「壬生浪士組です。表にも何人か来ています。助けて欲しければ、何も盗らずにここから去りなさいっ!」

「何を?女みたいなやつに言われたくないわっ!」

 女みたいなって、女なんですけど。って、言い返したくなったけど、我慢した。

 そんなことを思っていると、相手から切りかかってきたから、刀ではらった。

 ご主人に直接押し借りに来るだけあって、腕はいいらしい。なかなかくたばらない。

 それでも、なんとか刀で切って倒した。

「怪我はないですか?」

 ご主人に聞くと、

「あんさんが、怪我しとるよ。」

 えっと思った時に、チクッという痛みを右腕に感じた。見ていると、ものすごい浅い切り傷だった。

「かすり傷ですよ。大丈夫です。それよりみなさんは、大丈夫ですか?」

 言いながら周りを見た。怪我人はいないみたいだ。よかった。

 しかし、表の方はまだ乱闘が続いているみたいで、刀の合わさる音などが聞こえてきた。

「みなさん、ここにいてください。ちょっと表を見てきます。」

 私は、表の方へ急いだ。


 表にいくと、土方さんが刀を振り回していた。

 山南さんがいない。どこに行ったんだろう?

 よく見てみると、土方さんの後ろで、血だらけの左腕をおさえていた。

「山南さん、大丈夫ですか?」

 出血の量からして、かなり深い傷のようだ。

「あ、蒼良か。足引っ張ってすまない。」

「何言ってるんですか。とりあえず、止血しましょう。」

 私は着物の袖のところを手で切り、山南さんの左上に強くまいた。

 それから、土方さんが刀を振り回しているところに入り、応戦した。

「蒼良、店の人間はどうだった?」

 刀を振り回しながら、土方さんが聞いてきた。

「大丈夫です。一人浪士がいましたが、倒しました。」

「そうか、分かった。」

 あとはひたすら、二人で目の前の敵を倒した。一人減り、二人減り…。やっと全員倒すことができた。

「山南さんを医者に見せないと。」

 私が言うと、土方さんがうずくまっている山南さんを立たせた。

「蒼良、ここら辺でいい医者がいる場所を聞いて来い。」

 そう言われ、お店の人に聞いたら、一人、案内人として一緒に来てくれることになった。


「かなり深いな。」

 お医者さんは、山南さんの傷を見ながら言った。

「刀はもてますか?」

 山南さんは、それだけが気がかりだったのか、傷を縫い合わせているお医者さんに聞いた。

「治ってみないとわからん。」

 現代みたいに、レントゲンがあるわけではない。山南さんに現代の医療を受けさせたくなってしまった。

「それより、傷が化膿する方が心配だ。」

 お医者さんが言った。

「とにかく、清潔にして化膿しないように。」

 現代なら入院なんだろうけど、入院施設がないので、そのまま宿へ。

 傷から熱が出たのか、山南さんはそのまま寝てしまった。


「何しているのですか?」

 土方さんが、ボロボロになった刀を見ていた。

「よし。」

 そう言うと、その刀に墨を塗り始めた。

「蒼良、紙をもらって来い。」

 土方さんに言われ、紙を持ってきた。

「そこにおけ。」

 と言われたので、紙をおいた。

 すると、そこに墨を付けた刀を付けた。

「よし、綺麗についた。」

 なんと、刀の様子が紙に綺麗についたのだった。

「どうするのですか?」

「故郷に送る。」

「ええっ、それを?」

「刀がボロボロになるまで戦って、勝ったんだ。それぐらいしてもいいだろう。」

 もらった人はどう思うのだろう?そっちのほうが心配だったりする。

「それにしても、土方さんは、刀がそんなになるまで戦ったのですね。」

「何言ってんだ?これは、山南さんの刀だ。」

「ええっ!山南さんの?」

 こんなにボロボロになるまで…。

「でも、なんで山南さんの刀を?」

「山南さんは、刀がこんなになるまで戦ったって、伝えたいんだよ。」

「なんか、他人のふんどしで相撲を取るみたいな…。」

 他人のものを使って、利益を得るというような意味だ。

「はぁ?俺は、利益を得ようと思っちゃいねぇよ。」

「でも、もしかしたら、それなら刀を送ってやろうって、来るかもしれないですよ。」

「なるほど、そこまで考えてなかったな。それもいいかもしれねぇな。」

「なんかずるいなぁ。」

「何がだっ!」

「刀がボロボロになったのは山南さんなのに、土方さんが刀をもらうのですか?」

「ばかやろうっ!そうなったら、ちゃんと山南さんにやるよ。それより、お前みたいなのなんていうか知ってるか?」

「なんですか?」

「捕らぬ狸の皮算用って言うんだ。」

 意味は、まだ手に入れてもいないのに、それをあてにして話をすることだと思う。

 ことわざで返してきたな。私も何か…

「おい、何難しい顔していやがる。」

「土方さんが、ことわざで返してきたので、それを上回ることわざがないか考えているのです。」

「その顔じゃぁ、思いつきそうにもないだろう。ずうっと考えててもいいぞ。」

 それは嫌だな。

 

 結局、土方さんはその刀の押し型を故郷である日野に送った。

 受け取る方はどうなの?って思ったけど、現代も大事に保管されているみたい。っていうか、現代になれば、価値も上がるものかもしれない。

 もしかしたら、浅葱色のこの羽織も、現代に持っていったら…

「お前、顔がニヤニヤしているぞ。何企んでいやがる。」

「何も企んでいませんよ~。」

 そう言ってごまかした。

 この羽織はぜひ現代に持ち帰ろう。そう思った。

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