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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年7月
439/506

福良へ

 七月になった。

 現代で言うと、九月の中旬から下旬あたりになる。

 京より北にいるせいか、いつもの年より早く秋の訪れを感じる。


 東北に舞台を移した戊辰戦争。

 七月になってから、磐城と白河の両方で動きがあった。

 まず磐城では、磐城平城を舞台に二回目の攻防戦が繰り広げられた。

 六月末に一回目の攻防戦があり、これに勝った列藩同盟軍。

 二回目では、政府軍が来るのを万全の武器を用意して待っていた。

 列藩同盟軍の攻撃で思うように前進できない政府軍。

 午後になっても戦況は変わらず、これは勝てないと思った政府軍は撤退をする。

 二回の攻防戦に勝った列藩同盟軍。

 しかし、戦況は悪い方へ進んでいた。

 白河に近い棚倉城が、政府軍に渡ったことが大きな痛手となっていたことと、政府軍の援軍が続々と到着をしていたのだった。


 一方の白河では、会津藩を中心とした軍が白河奪回を目指して再び攻撃するも、敗けてしまう。

 これにより、新選組は福良と言う猪苗代湖近くにある宿場町まで撤退してきていた。

 次の日、西郷頼母が総督を罷免された。

 その後任には、内藤介右衛門と言う人がついた。

 

 そして、列藩同盟の方もひびが入り始めていた。

 なんと、同盟に加入していた秋田藩が同じ同盟に加入している仙台藩の使者を斬り、首をさらすという行動に出た。

 列藩同盟を脱退するためにそう言う行動をおこしたのだろう。

 この事件が表に出るのはもう少し後のこと。

 そんな中、土方さんは会津を出て、新選組がいる福良まで行くことになった。


 出発する日、準備をする土方さんを見ていた。

「思っていたより、あっさりしているな」

 そんな私を見て土方さんは言った。 

 こっそり後を追うつもりでいたから冷静でいたのだけど、あまり冷静だとそれがばれてしまうかも?

「私が止めても土方さんは行くのでしょう?」

 目に涙を浮かべたらもっとよかったのかもしれないけど、そこまでの演技はできない。

「わかってるじゃねぇか」

 ゴシゴシと少し乱暴に私の頭をなでた土方さん。

「お前がこんなに物分かりがいいと言う事は、いいことはねぇな」

 そ、そうなのか?

 もしかしてばれそうとか?

「何もできませんよ。土方さんの意志の方が強いんですから」

「それに、左之に頼んであるからな」

 あっ、原田さんがいた。

 土方さんは原田さんに私の護衛を頼んだ。

 と言う事は、私がこっそり後を追う前に原田さんも何とかしなければ。

 課題が増えたと言う事か?

「そんな顔をするな。左之ならお前のことをしっかり守ってくれるだろう」

「私は、人に守ってもらおうとは思っていませんから。あ、土方さん、ボタンをかけ間違えてますよ」

 土方さんが来ている洋服のボタンが一つずれていた。

「ああ、久々の洋装だからな」

 私は、土方さんの洋服のボタンをなおした。

「悪いな」

「私がいなければ、かけ間違えたままで出ていましたよ」

 だから、私も連れて行ってほしいなぁ。

 ここで連れて行くと言ってくれたら、後をつけて行くようなことはしなくて済むのになぁ。

「これから気を付ける」

 一言、それだけ言った。

 やっぱり、連れて行ってもらえないのか。


 外に出ると、原田さんと沖田さんがいた。

 後、土方さんと一緒に行く隊士が二・三人いた。

「こいつを頼んだ」

 土方さんが原田さんにいった。

蒼良そらは俺が守る。安心してくれ」

 原田さんがチラッと私を見てからそう言った。

「僕だって、蒼良を守れるけどね」

 不服そうに沖田さんが言った

「総司は、早くその病気を治せ。天野先生がいい薬を持ってきてくれたおかげで、治らねぇ病気が治るんだからな。ちゃんと薬を飲め」

「言われなくても飲んでいるよ。ねぇ、蒼良」

 沖田さんに言われ、私はコクンとうなずいた。

 沖田さんは、私が見ていなくてもちゃんと薬を飲んでいた。

 自分でも薬の重要さがわかっているのだろう。

「それじゃあ、行ってくる。俺が帰ってくるまで、大人しくここで待っていろ」

 土方さんは私にそう言うと、背中を向けて行ってしまった。

 みんなで土方さんが見えなくなるまで見送った。


 よし、私も出発するぞ。

 行先は福良だ。

 行き方もちゃんと調べた。

 白河街道を行けばいい。

 ただ、その通りに行くと、土方さんに会ってしまうから、土方さんの姿を見たら、間道に入るとして……。

「蒼良、入るぞ」

 原田さんの声が部屋の外から聞こえたと同時に、襖があいて原田さんが入ってきた。

 今入ってこられるとっ!

「蒼良、何をしているんだ?」

 ちょうど、旅の支度をしていた時に原田さんが入ってきた。

 これは、ばれたか?

「あ、あのですね……。これは、土方さんんが忘れ物をしたから届けに行こうと思って……」

「土方さんの後を追うつもりだな?」

 ば、ばれちゃったよ。

「蒼良、土方さんは危険な場所へ行く。だから、蒼良が行くのは無理だ」

「危険な場所なのは分かっています」

 これから先、土方さんが行く場所は戦場だ。

 安全な場所はない。

「それでも、土方さんを一人にしたくないのです」

 土方さんを一人で蝦夷に行かせたくない。

 そんな寂しい思いを土方さんにさせたくない。

「蒼良、もしかして土方さんの事を……」

 好きなのか?と聞かれたら、答えは一つだけだ。

「好きです。だから土方さんに辛い思いをさせたくないのです」

 私が行っても、辛い思いをさせてしまうかもしれない。

 けど、未来を知っているから、これから先に起こることを先に教えることだってできる。

 苦痛を少しでもやわらげることが出来るかもしれない。

 危険な場所だからこそ、そばにいたいのだ。

 原田さんが何と言っても、私は行くっ!

「そんな怖い顔するな」

 原田さんは優しく私にそう言った。

 怒られると思っていたから、拍子抜けしてしまった。

「まいったなぁ……。土方さんに蒼良が後を追いかけないようにみはりも頼まれていたんだが……」

 やっぱり、みはられていたのか。

「ここで蒼良の邪魔をしたら、俺が最低な男になってしまう」

 その後、ふられたのなんのと原田さんはブツブツ言っていたけど、よくわからなかった。

「よしっ! 俺も男だ。蒼良が土方さんを好きなら、それを応援する。行くぞ」

 行くぞって、どこへ行くんだ?

「土方さんを追うぞ」

 えっ、そうなのか?

「私、一人でも大丈夫です。原田さんは沖田さんの護衛を……」

「総司に護衛はいらんだろう。刀は人一倍強いだろう」

 確かにそうなんだけど。

「それに、俺は土方さんから蒼良の護衛を頼まれた。その任務はまっとうさせないとな。そうと決まったら、早く支度をして行こう。総司に気がつかれないうちに」

 それもそうだよね。

 沖田さんが知ったら、面倒なことになりそうだ。

 私は急いで支度をした。

 そして、原田さんと一緒に宿を出た。


 白河街道を、福良に向かって進んでいった。

 会津に近いところで見つかると、帰れっ!と怒られそうだったから、最初の方は間道を通り、途中から街道に出た。

 会津から福良までは一日で行ける距離だ。

 その日のうちに福良に到着した。

 新選組のみんながいるのは、福良本陣と言うところだ。

 土方さんも、私より早く出たからもういるだろう。

「ここまで来たら、土方さんも帰れとは言わないだろう」

 原田さんもいたずらっ子のような笑顔でそう言った。

 そうだよね、そうあってほしいのだけど。


 福良本陣の中に入ると、私と原田さんの姿を見つけた隊士の人たちが集まってきた。

 会津を出た時より、数が減っているような……。

 白河の戦も大変な戦だったのだなぁ。

「お前……」

 斎藤さんの声が聞こえてきた。

 見てみると、驚いた顔をしていた。

 そんなに驚かなくても……。

 そう思っていると、いきなり抱きしめられた。

 な、何なんだっ!

「お前に、会いたかった」

 斎藤さんの胸に耳を押し付けられていたので、胸の中から声が聞こえてきた。

 そ、そんなに会いたかったのか?

 なんでまた私なんかに会いたかったんだ?

「そこまでだ」

 私と斎藤さんの間に、原田さんの槍が入ってきた。

 もちろん、刃のついていないほうだ。

 原田さんの棒に引きはがされるように、斎藤さんは私から離れた。

 斎藤さんは原田さんをにらみつけていた。

「土方さんに、蒼良の護衛を頼まれているからな」

 斎藤さんは、私に何もしないと思うのだけど……。

「土方さんに? と言う事は、土方さんに頼まれてここまで来たのか?」

 斎藤さんが私たちに向かってそう言った。

 えっ?頼まれて?

 頼まれてと言うか……自主的にここに来たのだけど、斎藤さんがそう言ったと言う事は、もしかしたら……。

 思わず原田さんと顔を見合わせてしまった。

「土方さんはもうここに着いているだろう?」

 原田さんが斎藤さんに聞くと、

「土方さんがここに来るのか?」

 と、逆に斎藤さんに聞かれてしまった。

 あれ?

「もしかして、土方さんは着いていないのですか?」

「今日、ここには、お前たちしか来ていない」

 ええっ!

 土方さんより後に出たのに、いつの間にか追い抜かしていたのだろう。

 土方さんより先に着いてしまった。

「どこで抜かしたんだろう?」

 原田さんは、歩いてきた道を見ながらそう言った。

 すると、ポツリと遠くから影が見えた。

 その影がだんだん大きく近づいてきて、姿まで確認できる距離まで来たら、驚いて立ち止まってしまった。

 私もその姿を見て、驚いてしまった。

 土方さんが、杖をついている。

 完治したと言われていたんだけど……。

「足、治ったんじゃないのですか?」

 思わず、土方さんに走り寄った。

「怪我をしてから、こんなに長い距離を歩かなかったからな。痛くなってきてしまった」

 会津の中は歩いていたけど、会津から出ていなかった。

 長い距離を歩いたから、治ったばかりの足に疲れが出て、痛みも出たのだろう。

「とにかく、早く中に入って休みましょう」

 土方さんを支えようと手を出した時、

「なんでお前がいるんだ?」

 と、土方さんは驚いた顔をして聞いてきた。

 あ、そうだ、土方さんに内緒で追いかけてきたのだった。

 追いかけていたつもりが、いつの間にか追い抜いていたのだけど……。

「もう一度聞く。なんでお前がいるんだ?」

 今度は少し怖い顔をして言った。

 怒られるのかなぁ……。

 怒られるぐらいならいい。

「帰れっ! って言わないでください」

 その一言を言われなければ、どんなに怒られても平気だ。

 土方さんの顔を見上げてそう言うと、

「ばかやろうっ!」

 と怒鳴られた。

 やっぱり怒られるっ!

 そう思っていたら、土方さんの胸の中にいた。

 土方さんに抱きしめられていたのだ。

 な、なんでだっ?

「俺だってな、お前と一緒にいたいが、危険な所に連れて行くわけにはいかねぇと思い、無理やりお前を会津に置いてきたんだ。それなのに、こんなところに現れやがってっ! これ以上、自分に嘘がつけるわけねぇだろうっ!」

 それって、どういう言う意味だ?

「やっぱり、帰れっと言う事ですか?」

 土方さんの胸の中で顔をあげた。

 土方さんの顔が私の頭の近くにあった。

 そして、とても優しい顔をしていた。

「なに聞いてたんだ? 俺はもう、お前に帰れなんて言えねぇよ」

 と言う事は……。

「一緒にいてもいいと言う事ですね?」

「ああ、俺のそばにいろ」

 やったぁっ!そう思っていると、土方さんの腕に力が入り、強く抱きしめられてしまった。

「俺も一緒に来たんだが……」

 そう言う原田さんの声が聞こえ、土方さんは私から離れた。

「みはりも頼んだよな?」

 土方さんは原田さんに近づいてそう言った。

「頼まれたが、こうしたほうがよかったんじゃないのか? 土方さんも嬉しそうだし」

 原田さんがニヤリと笑ってそう言った。

「うるせぇっ! あ、斎藤、ご苦労だな」

 そこで斎藤さんに気がついた土方さんはそう言ったけど、斎藤さんは軽く頭を下げただけだった。

「それにしても、土方さんを追いかけていたはずなのに、どこで抜かしていたんだ?」

 原田さんが今回の最大の謎を口にした。

「俺は、足が痛くなって休み休み行っていたから、いつの間にか抜かしていたんだろう?」

 土方さんが私たちにそう言った。

 そうだったんだ。

 あっ!

「足が痛いのなら、早く中に入って休まないとっ!」

 そうよ、中に入って休ませようとしていたんだよっ!

「土方さんが来たから、中で休ませる用意をっ!」

 斎藤さんが他の隊士に指示を出したけど、

「大丈夫だ」

 と、斎藤さんを制して、土方さんは福良本陣の中に入って行った。

 私たちも、土方さんと一緒に中に入って行った。

 中に入る時、原田さんがトントンと私の肩をたたいてきた。

「帰れと言われなくてよかったな」

 小さい声で原田さんがそう言った。

 本当に、追い出されなくてよかった。 

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