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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年6月
438/506

土方さんの怪我が治ったら

 平潟と言う場所から上陸した政府軍。

 それを阻止しようとして、私たちの味方にあたる列藩同盟の兵たちも頑張るのだけど敗走してしまい、政府軍は続々と上陸し、東北に近づいてきていた。

 列藩同盟軍もそれを黙って見ているわけではなかった。

 現代で言う福島県いわき市にある八幡山と言う場所を占拠した。

 そこを占拠するときも色々とあり、列藩同盟軍は八幡山に兵を残し、政府軍がいると思われる植田宿と言う場所へ行く。

 しかし、政府軍はすでにいなかった。

 植田宿の人たちが政府軍に通じていると思った列藩同盟軍は、植田宿に火を放つ。

 植田宿に近い場所にいた政府軍が攻撃してくるが、列藩同盟軍も必死で守る。

 そこに政府軍に援軍が到着し、列藩同盟軍は八幡山を手放して敗走する。

 

 そんな中入ってきたのが、棚倉城の落城だった。

 棚倉城は、現代で言うと福島県白河市の隣にある。

 白河城がある場所の目と鼻の先までも政府軍にとられてしまったのだ。

 この時の棚倉城には、白河口の戦いと、平潟に上陸した政府軍との戦いのために人をたくさん出していたので、残っていた兵が少なく、板垣退助率いる政府軍に攻撃され、一日で落城してしまった。

 これにより何が起こるかというと、平潟に上陸した政府軍は棚倉城を目指し、そこから白河を攻撃できると言う事だ。

 白河が完全に敵の手に落ちるのも時間の問題という感じになったのだ。

 その報告が、八幡山の方で戦をしていた人たちにも伝わり、列藩同盟軍は士気が落ち、政府軍の士気が上がった。

 ここは一気に列藩同盟軍を蹴散らしたい政府軍は会議を開く。

 そして、軍を三つに分ける。

 一つは、海岸線を通り、現代の福島県いわき市内にある泉藩と言う藩を攻撃する部隊。

 もう一つは、街道を通り、泉藩より少し北にある湯長谷藩を攻撃する部隊。

 そして最後の一つは、政府軍が上陸してくる平潟を守備する部隊。

 これにより、泉藩と湯長谷藩は政府軍の手に落ちる。

 政府軍は、列藩同盟軍の重要な拠点の一つ、磐城平城へ向かう。

 磐城平城では、列藩同盟軍の士気が高かった。

 そして、援軍も到着したばかりだった。

 ここで、列藩同盟軍は政府軍の北上を食い止める。

 しかしその一方で、政府軍に奪われた泉藩を奪回するために、仙台から小名浜に船で上陸した仙台藩の兵たちがいたのだけど、北上を食い止めた同じ日に、この兵たちは敗けてしまい、泉藩の奪回はなくなった。


 もちろん、そう言う報告が土方さんの所に入ってくる。

「棚倉城を奪われたと言う事は、白河の方の戦いも苦戦を強いられるな」

 白河では斎藤さんを中心とした新選組が参戦している。

 白河城を奪回するために攻撃をしていたのだけど、またもや敗けてしまった。

「斎藤さんたち、怪我をしていないですかね」

 歴史では、斎藤さんがここで怪我をするという話はなかったので、大丈夫だろうとは思うのだけど……。

「そう言う知らせは入ってきていねぇから、大丈夫だろう」

 土方さんは、白河の方を見てそう言った。

 そうだよね、大丈夫だよね。


 そして、とうとうこの日がやってきた。

「もう大丈夫だろう」

 土方さんの傷を診察していた良順先生はそう言った。

 土方さんの足の傷が完治した。

「よし、これで戦に行けるぞ」

 立ち上がった土方さんを、

「ちょっと待て」

 と、良順先生が止めた。

「今月いっぱいは休んで、戦に出るのは来月からにしたらどうだ?」

 良順先生はチラッと私の方を見てそう言った。

 なんで私を見るんだ?

 良順先生が私を見ていたので、土方さんまで私を見た。

 な、何なんだ?

「そうだな。今月も数日で終わりだし、来月から戦に出てもそんなに変わらねぇな。せっかく傷が治ったんだから、色々ここでやりたいことをやってから戦に出ても罰は当たらんだろう」

「そうするといい。な、蒼良君」

 良順先生も、なんで私に同意を求めるんだ?

「そうと決まったら、さっそく出かけるぞ。良順先生、世話になったな」

 そう言うと、土方さんは私の手を引いて良順先生の診療所を出た。

 出かけるって、どこに行くんだ?


 まず、向かった先は近藤さんのお墓だった。

「近藤さん、やっと治ったよ」

 近藤さんに話しかけるように、土方さんはそう言いながら、お墓にお花を供えたりしていた。

「やっと戦に出れる。斎藤たちも苦戦を強いられているらしいから、早く行かねぇとな」

 土方さんの怪我が治ったから、戦に出るのも時間の問題になってきた。

「しばらく、ここには来れねぇ。でも、見守っていてくれ」

 ここに来るのは今日が最後になるかもしれない。

「お前、寂しそうな顔をしているな」

 近藤さんのお墓に話し終わった土方さんは、私の方を見てそう言った。

 そんな顔をしていたか?

「そんなに近藤さんのそばにいたいなら、ここにいてもいいぞ」

 な、なに言っているのですかっ!

「ここはお墓じゃないですかっ! 夜もここにいるのは嫌ですっ!」

「気にするのはそこかっ!」

 えっ、違うのか?

 

 この後は、近藤さんのお墓の近くにある伏見ヶ滝と言う滝を見に行った。

 いつも、土方さんが温泉に入った後、川で涼んでいたのに、こんなに近くにこういう滝があったことは知らなかった。

「温泉の人間に聞いたんだ」

 私が驚いていると、土方さんは得意気に言った。

 この滝には伝説があり、昔、藤と言う名前の女性がいて、ある男性のことが好きで、その人との恋が叶うといいなぁと思い、滝の不動明王に願掛けをしたら、夢に不動明王が出てきて、ここの入り口に松の木があり、その松の木に石を投げて落ちてこなければその恋は叶う、と言ったので、藤は何回も松の木に石を投げる。

 しかし、その石は全部落ちてしまい、この恋は叶わないと悲しくなってしまった藤はこの滝に身投げをしたらしい。

 ちなみにこの伝説に出てくる松の木は、現代はここにはない。

 大雪があった年があり、その時に倒れてしまったらしい。

「やってみるか?」

 土方さんは石をもってそう言った。

 ええっ、やってみるのか?

「投げた石は落ちると思うのですが……」

「やってみねぇとわからねぇだろう」

 そ、そうなのか?

 そう思っていると、土方さんは石を投げた。

 石はすぐに落ちるだろうと思っていたのだけど、落ちてこなかった。

 思わず上を見上げてしまった。

 本当に木に引っかかったのか?

「俺の恋は叶うと言う事だ」

 そ、そうなのか?

「土方さんは、恋をしているのですか?」

「お前、いまさらそんなことを言うのか?」

 いまさら?

「俺はお前に夢中だよ」

 土方さんはそう言うと、顔を近づけてきた。

 そして、私の唇にフワッと優しくて柔らかい感触があった。

 キ、キスされてるっ!

 ドキドキしていると、土方さんが私から離れた。

 あ、なるほどっ!

「石が落ちてこない理由がわかりましたっ!」

「えっ、わかったのか?」

 土方さんはわからなかったのか?

「だって、土方さんの恋は叶っていますよ」

 私も、土方さんに夢中になっているから。

「たまには、気のきいたことを言うよな」

 たまにはってなんだっ!

「石は落ちてこねぇよ。投げてねぇからな」

 えっ?驚いている私に、土方さんは手をひろげて見せた。

 そこには投げたはずの石が乗っていた。

 そ、そうだったのか?

「こういう思いは、人や物に頼って叶えるもんじゃねぇだろう」

 そう言って、手の中にあった石を上にではなく、川に向かって投げた。

 石が川の中に入っていくのを見ていると、

「お前はここにいろ」

 土方さんの声が聞こえてきた。

 えっ?土方さんを見ると、

「ここはしばらくは安全だ。だからここにいろ」

「私は、土方さんと一緒にいたいです」

 この人を一人だけで全部を背負わせたくない。

「安全な場所ならいいが、俺が行く場所は危険な場所だ。それに今回の戦は今までの戦と違う。かなりの苦戦になりそうだ。そんな場所にお前を連れて行きたくねぇんだ」

 ここでそんなことを言っていたら、これから先はどうすればいいんだ?

 きっと、これから先の方が戦は苦戦になると思う。

「そんなことは分かっています。それでも、私は土方さんと一緒に行きたいです」

「気持ちだけ受け取っておく。お前はここにいろ。これは命令だ」

 こんな時だけ命令するなんてずるい。

 何も言えないじゃないか。

 よし、こうなったら、土方さんが出発した後、こっそり会津を抜け出して行ってやるっ!

 行く場所は分かっているんだから。

「わかりました」

 表向きにそう言った。

「お前の気持ちは嬉しい。俺は必ずここに帰ってくるから待っていてくれ」

 土方さんはそう言うと、優しく私の頭をなでてから抱きしめてきた。

 私は、土方さんの胸の中で、今日の土方さんが優しい理由が分かった。

 しばらく会えなくなると思っているからなんだろう。

 良順先生の所で、良順先生や土方さんが私の顔を見た理由も分かった。

 ここで、思い出を作ってから戦に行けって事だったのだろう。

 でも、待っているなんてできないから、土方さんが出発した後どうするか作戦を考えていた。

 絶対に一人で行かせないんだからねっ!

  

 それから、私たちは宿に戻った。

 土方さんは完治したことを沖田さんや原田さんに言った。

 そして、原田さんに私の護衛を頼んでいた。

 原田さんは快く引き受けていた。

「僕には蒼良そらの護衛を頼まないの?」

 沖田さんがそう言うと、

「お前は病人だろうがっ! 先に病気を治せ」

 と土方さんに言われていた。

 

 土方さんが戦へ行く支度をしているのを、私は黙って見ていた。

 宿の部屋には、ここに来るまでの戦で着ていた洋服がかかっていた。

 これを着て、土方さんは戦に戻っていくのだろう。

 そう思うと悲しくなったけど、怪我が治ったら戦に戻っていくことは前から知っていたことだ。

 土方さんが戦に行くなら、私も戦に行く。

 それを土方さんに止められたとしても、土方さんを一人にしないって決めたから。

 覚悟を決めて、部屋にかかっている洋服を見ていたのだった。

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