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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年5月
430/506

起き上がり小法師

 この時期、江戸で上野戦争と言うものがあった。

 彰義隊対政府軍の上野での戦争だ。

 時はさかのぼって、今年の正月にあった鳥羽伏見の戦い。

 この時、幕府軍は敗け、大坂城にいた慶喜公は、逃げるように江戸に帰ってしまう。

 江戸に帰った一か月後の二月十二日、慶喜公は上野の寛永寺へ自主的に謹慎する。

 この事に不満を持った旧一橋家の家臣の人たちが、雑司ヶ谷にある茗荷屋という酒楼に集まる。

 その後、二十一日に行われた会合では、人数も六十名ほどに増えていて、幕臣の渋沢成一郎という人もいた。

 会合は組織へと変化をし、二十三日に浅草の東本願寺で彰義隊が結成される。

「大義をあきらかにする」という意味で、彰義隊という名前になった。

 渋沢成一郎が頭取で、副頭取に天野八郎という人がついた。

 仕事は、江戸の治安維持。

 そのうちに人数も増え、四月三日、彰義隊は浅草の本願寺から上野の寛永寺へ本拠地を移す。

 四月十一日、江戸城は無血開城をし、慶喜公は水戸へ行く。

 その時に千住から松戸まで護衛をする。

 その後も彰義隊は、輪王寺宮りんのうじのみや親王殿下を擁して、徳川家霊廟守護、要するに、徳川家のお墓などを守る目的として寛永寺に居続ける。

 勝海舟は、武力衝突が起きるんじゃないかと思い解散しろと言うけど、人数はそれとは逆に、三千人から四千人ぐらいに増える。

 ちなみに、輪王寺宮親王殿下とは、寛永寺の貫主、簡単に言うと、寛永寺で一番偉い人にあたり、この寛永寺は天皇の関係者が貫主になっていた。

 数が増えると起こるのが分裂で、彰義隊も分裂があった

 それは頭取の渋沢成一郎と副頭取の天野八郎の間で起こった。

 頭取の渋沢成一郎は、慶喜公も江戸から出たのだから、自分たちも江戸を出て日光へ行くことを提案するけど、天野八郎は、このまま江戸にいることを主張。

 渋沢成一郎は彰義隊を去る。


 その後の彰義隊は、江戸に来ていた政府軍の兵士を暴行して殺害すると言う事件を繰り返し起こしていた。

 事態を重く見た勝海舟は、山岡鉄舟を寛永寺に行かる。

 山岡鉄舟は、輪王寺宮の側近に会って、彰義隊を解散させるように言うのだけど、聞く耳を持たなかった。

 この当時、江戸周辺では幕府派の人たちの反抗が続いていた。

 私たちも、この時は鴻之台にいて、大鳥さんたちと合流していた。

 この反抗が収まらない理由の一つは、、江戸に彰義隊がいるからだと考えた政府は、彰義隊を討伐することを決める。

 京から大村益次郎という人が来る。

 この大村益次郎と言う人は、長州征伐の時に長州藩を指揮していた人で、長州藩を勝利に導いた一人。

 五月一日、彰義隊の江戸市中取締りの任を解くことを政府軍が通告した。

 政府軍によって彰義隊の武力解除を行う事も一緒に通告。

 そして十四日に彰義隊討伐を布告した。 


 十五日、上野戦争は火ぶたを切った。

 政府軍から攻撃は始まった。

 上野広小路に面した正面の黒門口、横にある団子坂、後ろにある谷中門から戦が始まった。

 この日の天気は雨だった、

 西郷隆盛が正面の黒門口を突破すると、彰義隊は寛永寺の本堂へ退却するけど、団子坂を攻撃していた政府軍も守っていた彰義隊を破って中に入り、彰義隊本営の裏へ回り込む。

 朝に始まった戦は、夕方には彰義隊をほぼ全滅させ戦は終わった。

 彰義隊は、根岸方面へ敗走。

 輪王寺宮は、榎本さんの艦隊に乗り、現代で言う茨城まで行き、そこから会津に入る。

 

 歴史では、この戦で原田さんが亡くなることになっている。

 近藤さんと仲間割れした後、永倉さんと一緒に会津に向かう途中で江戸に引き返す。

 そして、彰義隊の上野戦争に参加して怪我をし、亡くなってしまう。

 しかし、その歴史を変えた今、原田さんは私たちと一緒に会津にいる。

 歴史は変えたけど、原田さんが江戸に行くか、今市や白河の戦に参加して怪我をしてしまうんじゃないかと心配だった。


「原田さん、どこかへ行くのですか?」

 宿の玄関で原田さんが出て行くのを見たので、声をかけた。

「一緒に来るか?」

 えっ、一緒に?

 その言葉に少し安心した。

 私を誘ってくると言う事は、行き場所は戦場ではないと言う事だ。

 でも、まだ不安だったので、

「一緒に行きますっ!」

 と言った。

「そんな、力込めて言わなくても大丈夫だ」

 原田さんは笑いながらそう言った。

「行くぞ」

 原田さんがそう言ったので、一緒に外に出た。


 外は雨が降っていた。

 やっと梅雨の終盤という感じなんだろう。

 最近は少し蒸し暑くなってきていた。

 番傘をさして二人で会津の街を歩いた。

「原田さんはどこに行くのですか?」

「それを知らないでついてきたのか?」

 行く場所が戦場じゃなければと言う思いしかなかった。

「すみません……」

「いや、謝らなくていい。蒼良そらがついてきてくれるのは嬉しいから」

 そう言われると、嬉しいなぁ。

「日新館に行こうと思っていた」

 日新館へ?なんでだろう。

 日新館とは、会津藩の学校で、藩士の男の子たちはここに通って、色々なことを学ぶ。

「どうして日新館へ?」

「あそこに子供らがいただろう?」

 そう、白虎隊の子供たちが銃の訓練をしていた。

 白虎隊の子供達は、日新館に通う生徒だった。

「気になって見に行っているうちに、槍を教えるようになっていたんだ」

 そうだったんだ。

「原田さんは槍がうまいから、子供達からも人気がありそうですね」

「蒼良の方が教え方がうまいと思うぞ」

 原田さんは笑顔でそう言ってくれた。

 そんなことはないと思う。

 けど、原田さんが行く場所が戦場じゃなくてよかったと思った。

「でも、今日は違うところに行くかな」

 えっ?

「ど、どこへ行くのですか?」

 白川口とか、今市宿とかって言わないよね?

「日新館の子供たちから面白いものをもらったんだ」

 面白いもの?

「会津では、正月に家族の人数より一つ多く買って、一年間神棚などに飾るらしい」

「縁起物ですね」

 お正月に買って神棚に飾ると言う事は、縁起物だろう。

「そうらしい。何回倒しても起き上がる、縁起のいいものらしい」

 そうなんだ。

「それを買いに行かないか?」

 原田さんはそう言ったけど、お正月に売られるものが、今の時期に売っている物なのかなぁ。

「売っているかわからないが、一緒に探してみないか?」

 そう言う縁起ものなら、探すのも楽しいかもしれない。

 だから、

「いいですよ」

 と、返事をした。


 原田さんが言っていた物はあっさりと見つかった。

 お正月しか売られていないものだと思っていたけど、縁起物だから普通の時期でも売られている物なのかな?

「これだ、これ」

 原田さんは嬉しそうにそれを手に取った。

 それは、手のひらに乗るぐらいの大きさで、全体に丸みがあるけど、上の方が細くとがっているような感じで、下の方はどっしりと丸い形をしていた。

 倒すとちゃんと起き上がってくる。

 お店の人に名前を聞いたら、起き上がり小法師と言った。

 この起き上がり小法師は、戦国時代あたりに会津を治めていた蒲生がもう氏郷が下級藩士の内職として作らせ、正月に売ったのがきっかけだったらしい。

 七転八倒の精神を持ち、無病息災や家内安全の縁起物として、そして、家族の数より一つ多く買うのは、家族が一人増えますようにという願いも込められている。

 全部手作りで、一つ一つ顔が違っていた。

 そのほとんどの顔が笑顔で、大きさも手のひらサイズだったので、思わず、

「かわいいっ!」

 と、叫ぶように言っていた。

 そう、かわいらしい人形なのだ。

「気に入ったみたいだな。二つください」

 原田さんが起き上がり小法師を二つ買った。

 一つ多めに買う物らしいから、この時は何も思わなかった。


 お店から出ると、原田さんは起き上がり小法師の一つを私に渡してきた。

「えっ、どうしてですか?」

「俺が、蒼良と同じものを持っていたいから。縁起物だからいいだろう?」

 そう、縁起物だから別にいいのだけど、なんで同じものを持っていたいのだろう。

 きっと縁起物だからかな?

「ありがとうございます」

 遠慮なくもらってしまった。

「この人形、顔が似てないか?」

 原田さんが持っていた物と比べてみた。

 原田さんのは青い着物を着ていて、私の物は赤い着物を着ていた。

 顔が似ているとかっていうより……。

「二つ並べると夫婦みたいですね」

 仲のいい夫婦に見える。

「そうだな。それが気に入って二つ買ったんだ」

「夫婦を離していいんでしょうか? それなら二つとも原田さんが持っていた方が……」

 そう言いながら、原田さんからもらった起き上がり小法師を返そうとしたら、それを手でおさえられてしまった。

「蒼良が持っていてくれ。俺が蒼良のそばにいれば、この二つが離れることはないだろう?」

 あっ、確かに。

「蒼良の住んでいた場所では、俺は上野戦争で死ぬことになっていたらしいな」

 そうなのだ。

 そうならないように、原田さんに話していた。

 彰義隊に入らないでほしいと。

 私はコクンとうなずいた。

「それで蒼良は心配だったんだろう? 俺が戦に参加しないかって」

 そうだったのだ。

 歴史を変えることはできたけど、原田さんが戦に行かないと保証されたわけではなかった。

 だから、近くで戦があると原田さんがそこに行ってしまわないか心配だった。

「俺は蒼良のそばにいる。わざわざ離れて死にに行くようなことはしない。約束する」

 私の考えていることは、原田さんも分かっていたんだぁ。

「その約束の証にこれを持っていてほしい。この夫婦みたいな人形を離したらばちがあたりそうだしな」

 そう言うと、原田さんはニコッと笑った。

「ありがとうございます」

 これで、心配事が一つ減った。

 少し、心が落ち着いた。

「さあ、帰ろうか」

 原田さんは、私の頭をくしゃっとなでた。

「はい、帰りましょう」

 雨はまだ降りっていたけど、私の心の中は晴天だった。

 原田さんが、ここにいてくれてよかった。

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