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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年5月
427/506

白虎隊の砲術訓練

 五月になった。

 五月になってすぐに白河で戦があった。 

 この戦は数カ月にわたる長い戦になる。

 五月にあった戦で、政府軍にこてんぱにやられた。

 幕府軍は二千人ぐらいいたのに対し、政府軍は七百人と言う少人数で、旗をたくさんたてて、兵がたくさんいるように見せていたらしい。

 負傷者も、幕府軍が三百人ぐらい対し、二十人前後だったらしい。

 やっぱり政府軍は、鳥羽伏見の時と同じく、兵の数は少ないけど、最新鋭の武器で勝利をおさめてしまうのか?

 

 白河口の戦いの他にもう一つ事件があった。

 五月三日に奥羽越列藩同盟と言うものが結成された。

 最初、仙台藩は政府軍から

「会津藩をどうにかしろ」

 みたいなことを言われていて、それで仕方なく会津藩の近くに兵を出し、会津藩兵とにらみ合いの状態になっていた。

 でも、もともと仙台藩は会津藩に同情的で、出来れば穏便にと考えていたのだろう。

 会津藩に人を送り、政府軍に恭順したほうがいいと説得をした。

 その説得がうまくいいったのか、容保公は老中たちに命じて嘆願書を作成させた。

 それから現代で言う宮城県にある白石城と言うところに、奥羽の藩が集まって会議をした。

 会津藩を救うための会議で、ここで集まった人たちで作られた会津を助けるための嘆願書が作られた。

 それらをもって、政府軍が作った奥羽鎮撫総督府おううちんぶそうとくふと言う所へ出しに行った。

 ここで受理をされていたら、会津戦争はなかったかもしれないし、白河口の戦いもなかったかもしれない。

 それがあったと言う事は、受理をされなかったのだ。

 それは、奥羽鎮撫総督府の下参謀、簡単に言うと形式上は二番目にえらいんだけど、実際は下参謀が命令を下したり作戦を実行したりしていたので、一番権力がある人だ。

 その下参謀の世良修蔵と言う人が強く反対したためだった。

 この人は、仙台藩の人たちの評判がものすごく悪かったらしい。

 元々評判が悪いところにそんなことをしたわけだから、評判が悪くなるどころか、恨みと言うものも出てくるだろう。

 さらに、それに追い打ちをかけるように、世良が同僚に出した文が仙台藩士たちの手に渡った。

 その内容が、

「奥羽はみんな敵。特に仙台藩と米沢藩には注意しろ」

 みたいなことが書いてあり、それを見た仙台藩士たちの怒りは爆発した。

 そして、福島にいた世良を捕まえ、斬首した。

 これが、白河口の戦いのきっかけになる。

 その後、仙台城下で奥羽列藩同盟が結成され、さらに、北越の六藩が加わり、奥羽越列藩同盟になった。

 

 そんなとき、私たちの元に白河口の戦いの敗戦が伝わってきた。

 私が土方さんの部屋を開けると、中で土方さんがはらばいになっていた。

 な、何事?

「行かせろっ!」

 行かせろって、どこへだ?

 そう思っている間にも、はらばいになって襖の方向へ進んでくる。

「どこへ行くのですか?」

 厠か?

「黙って行かせろっ!」

「だから、どこへですか?」

「白河だっ!」

 えっ、白河?

「なんでまたそんなところに行こうとしているのですかっ!」

 白河は戦場になっている。

「俺はこんなところで寝ている場合じゃねぇんだっ!」

 でも、歩けないじゃないか。

「どうやって白河まで行くのですか?」

「そんなもの、途中で考えるっ!」

 途中でって、途中までは腹ばいで行くのか?

 それは無理だろう。

「土方さん、行けないですよ」

 行かせたらだめだ。

 歩けない人と戦場に行かせるわけにいかない。

「そんなことを言っている場合じゃねぇんだ。白河口が敵にとられたと言う事は、会津に来るのも時間の問題だぞ」

 わかっている。

 白河口は、東北への入り口になっている。

 ここが破られたと言う事は、東北への道が敵に開かれたと言う事だ。

 でも、今の土方さんを戦場に行かせられない。

「土方さん、今は傷を治すことが最優先です。そんな姿で戦場に立てませんっ!」

「傷なんて、くそくらえだっ!」

 と言って立ち上がろうとするけど、痛みがあるらしく、途中で座り込んだ。

「ほら、立てないじゃないですか。この状態で戦場へ行くなんて、死にに行くようなものですよ」

「戦は死に場所だ。そこで死ねるなら本望」

 そ、そこまで言うのか?

「そ、そんなこと言わないでください。死ぬなんて……」

 土方さんもいつかは死んでしまう。

 でも、今は死んでほしくない。

 私を置いて遠い所へ行ってほしくない。

 気がついたら、私は泣いていた。

 いつもなら、

「泣くな」

 と言ってなぐさめてくれる土方さんだけど、今は白河に行くことしか考えられないのだろう。

 私の横を腹ばいで通り過ぎようとしていた。

「あ、やっぱり」

 後ろから良順先生の声が聞こえてきた。

 見てみると、部屋の入り口に良順先生と原田さんが立っていた。

「土方さん、布団に戻すぞ」

 原田さんがそう言うと、土方さんを抱きかかえ、布団まで運んだ。

「なにをするっ! 俺は白河へ行くんだっ!」

「歩けないような怪我をしている人間を、戦場に行かせるわけにはいかない」

 良順先生は低い声でそう言うと、土方さんの脇に座った。

「怪我なんて関係ねぇっ! 俺は行くっ!」

「土方さん、だめです。死にに行くようなことをしないでください」

 私は泣きながらそう言った。

蒼良そら大丈夫か?」

 そう言って、私の脇にしゃがんで心配してくれた原田さん。

「行く、絶対に行くっ!」

 そう言って暴れている土方さんを良順先生がおさえていた。

「悪いが、君たちは外に出てくれるか?」

 えっ、良順先生一人で、土方さんが止めれるのか?

「良順先生、一人で大丈夫か?」

 原田さんも心配になったのだろう。

「大丈夫だ。逆に一人の方がいい」

「わかった。蒼良、行くぞ」

 原田さんが私を立ち上がらせてくれた。

 そして、私たちは部屋の外へ出た。

 良順先生、大丈夫なんだろうか……。


「蒼良、大丈夫か?」

 原田さんと一緒に外に出た。

 外に出たほうが気晴らしになるだろうという事だった。

 外は梅雨の曇り空だった。

 それでも、部屋の中にいた時より気持ちが落ち着いた。

「大丈夫です」

 涙も止まっていた。

 でも、土方さんのあの姿を見たら、また泣いちゃうかも。

 土方さんの怪我を私が代わりに受けれたらいいのに。

 そしたら土方さんは怪我が治って白河にいけるのに。

「本当に大丈夫か? また顔が悲しい顔になっているぞ」

 えっ、そうなのか?

「大丈夫です」

 しばらく土方さんの事を考えないほうがいいのかな。

 私の気持ちが落ち着くまで。


 会津の城下町を原田さんと歩いていたら、子供たちの声と、竹刀がぶつかる音が聞こえてきた。

 近くに日新館があったので、そこから聞こえてきたらしい。

 日新館とは会津の藩校で、会津では藩士の男の子達は十才になると日新館に入学する。 

 現代で言うプールや天文台などがあり、中もとっても広い。

 ここで、武術や礼法、学問などを学ぶ。

 ちなみに、良順先生の臨時の診療所もこの中にある。

「道場か。なんか懐かしく感じるな」

 原田さんが声が聞こえてきた方を見てそう言った。

 最後に道場を見たのは、鳥羽伏見の戦いが始まる時あたりかな。

 不動堂の新しい屯所には、立派な道場があった。

 それ以来だから、道場を見たのは半年ぶりぐらいになる。

 半年も道場と縁がない生活をしていたのは、生まれて初めてた。

 だから、懐かしくも感じるのだろう。

「本当に懐かしいですね」

「見に行ってみるか?」

 えっ、いいのか?

 こっそりのぞいたら怒られそうな感じがするんだけど。

 こんな大人になってはいけないと言うお手本にされそうだぞ。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だろう。道場を見に行っても斬られはしないだろう」

 いや、そう言う問題じゃなくて別な問題です。

 行くと言う約束もなしに突然訪れたら、相手の迷惑にならないか?

「よし、そうと決まったなら、行くぞ」

 えっ、行くのか?いや、決まってないだろう。

 そう思っている間にも、原田さんに手を引かれて日新館へ連れて行かれた。


 良順先生の診療所があるから、初めて入る場所ではない。

 でも、今日は目的が違うから、変に緊張をしてしまう。

「良順先生の診療所へ行くふりをして、道場へ忍び込むのはどうだ?」

 日新館の入り口で原田さんがそう言ってきた。

「突然、道場にお邪魔するんじゃないのですね」

「そんなことをしたら、怒られそうだろう」

 原田さんも私と同じことを考えていたらしい。

「それでいいよな?」

 念をおすように原田さんがそう言ってきた。

「もちろんです」

 それが一番いいと思う。

 と言う事で、とりあえず良順先生の診療所へむかうことになった。

 しかし、良順先生の診療所へたどり着かなかった。

 というのも、途中の砲術場という場所で、砲術を練習している子供たちがいたからだ。

 子供たちが練習に使っている鉄砲が気になり、思わず立ち止まってしまった。

「蒼良、どうした?」

 原田さんもそう言って立ち止まり、鉄砲を見て思わず、

「あれを戦で使うつもりなのか?」

 と言った。

 子供たちが使っていた鉄砲は、政府軍が持っている鉄砲より古いものだと言う事が一目見てわかった。

 政府軍が使っていた物は、色々な鉄砲があったけどおもにミニエー銃と呼ばれる物で、旧式の鉄砲と比べると、命中率が違う。

 ここにいる子供たちが練習に使っている銃はヤーゲル銃と呼ばれている物で、ミニエー銃と比べると、弾をこめるのにも時間がかかる。

 そして戦でも、こっちはたくさん撃っているのに向こうはびくともせず、逆にこっちには向こうが撃った弾がどんどん飛んでくる、という状態になる。

 飛距離が違いすぎるのだ。

 簡単に言うと、これだと戦にならないという事だ。

 幕府軍もそれがわかり、今ではほとんどがミニエー銃を使っていると思うのだけど……。

「これで、戦をされるのですか?」

 砲術を教えている人がいたので、思わず聞いてしまった。

 この装備じゃああまりにもかわいそうだ。

「ミニエー銃もあるのですが、そっちは主力部隊が持って行きました。ここにあるのはヤーゲル銃だけです」

 砲術を教えていたのは女性だった。

「えっ、女?」

 原田さんはそう言って驚いていたけど、来ている着物とかは動きやすいように男性と同じものだったけど、髪型はこの時代の女性らしく結っていたので、一目見て女性だとわかった。

「これじゃあ戦にならないぞ」

 原田さんが驚きつつそう言った。

「わかっています。でも、何かあった時はここにある武器で戦わなければなりません」

 確かにそうだ。

 せめていい武器を持たせてあげたいと思うけど、ここになければ仕方ない。

 無い物を持たせるわけにはいかないから。

「ところで、こんな子供までも戦に出るのか?」

 原田さんは子供達を見てそう言った。

 ここにいる子供たちは、現代で言うと中高生ぐらいの子だった。

 もしかして……。

「白虎隊」

 会津藩には、玄武・朱雀・青龍・白虎と言う名前の隊を作り、年齢によってその隊を分けた。

 白虎隊は一番下の年齢で、日新館で学んだ子供たちで結成されていた。

 この白虎隊は作られた当時は予備部隊として戦に出ることは考えられていなかった。

 しかし、戦場が会津になると、戦に出ることになる。

 そして、炎に包まれた鶴ヶ城を見て、自決をしてしまうと言う悲劇が起こる。

 そう、ここにいるほとんどの子供が戦で亡くなってしまうのだ。

「蒼良、どうした?」

 私の顔色が変わったのだろう。

 原田さんが心配して声をかけてきた。

「な、何でもないです。ちょっと疲れが出たみたいで……」

 そう言ってごまかした。

 まさか、本人たちに向かって、

「あなたたちは亡くなるんだよ」

 なんて、とてもじゃないけど言えない。

 でも、黙っていることはできなかった。

「あのね、何があっても死ぬことは考えないでほしい。武士は、切腹で死ぬことが名誉なことなのかもしれない。でも、本物の武士は、どんなことが起きても生き残って戦う人なのだと思う。だから、死なないで生き残ってほしい」

 この言葉を、自決する前に少しでも思い出してもらい、自決を思いとどまってほしい。

 一人一人の心まで届いているかはわからないけど、思いとどまってくれる人が一人でもいてくれれば……。

「訓練中、悪かったな」

 原田さんは、砲術を教えていた女性に声をかけた。

 あ、もしかしてこの女の人は……。

「に……山本八重さんですか?」

 まだ新島ではないよね。

「そうですが……。なんで私の名前を知っているのですか?」

 なんでって、会津で砲術教えた女性と言えば、もうこの人しかいないだろう。

「有名……」

 有名だからって言おうとしたら、原田さんに口をおさえられた。

「こいつ、勘が鋭くて、人の名前をあてることが出来るんだ。そうだろ、蒼良」

 ここで有名だからというと、なんで?と言う事になり、私が未来から来た云々がばれたらって思ったのだろう。

 原田さんがとっさにそう言ってくれた。

 私もコクコクとうなずいて話を合わせたのだった。


 旅館の清水屋に戻り、土方さんの部屋に行くと、土方さんは眠っていた。

 その横に良順先生がいた。

 あんなに暴れていたのに、よく寝かせられたよなぁ。

「良順先生が一人で寝かせたのか?」

 原田さんも、信じられないという感じでそう聞いていた。

「阿芙蓉を少し飲ませた」

 えっ、阿芙蓉って……、現代で言うと麻薬だ。

「だ、大丈夫なのですか? 中毒とかになりませんか?」

 土方さんが薬物中毒になんてなったら、しゃれにならないぞっ!

「少しの量だから大丈夫だ。数日前から眠れなかったんだと思うぞ。少し水に溶かして飲ませたら、あっという間に寝てしまった」

 そ、そうなのか?

「白河の方が心配だったんだろう」

 原田さんが、寝ている土方さんを見てそう言った。

「そうだろうな。さっきの興奮も、眠れなかったのとその心配がごっちゃになった結果だったんだろう。少し寝れば冷静な考えも戻ってくるだろう」

 良順先生が土方さんの穏やかな寝顔を見てそう言った。

「さっき、怪我の具合も見たんだが、そろそろ歩いても大丈夫だろう。温泉療養してみるか?」

 えっ、温泉?わーい。

「嬉しそうな顔をしているが、土方君の為の温泉療養だからな」

 最後に良順先生にそう言われてしまったのだった。

 幕末の銃について

 かなり簡単に説明します。

〇ゲーベル銃

 前装式(銃口から弾を入れる)滑腔式(鉄砲の筒の部分に螺旋状の溝がない)

 鳥羽伏見の戦いの時、幕府軍の主力武器。

 命中率は火縄銃より低い。

〇ヤーゲル銃

 前装式 施条式(鉄砲の筒の部分に螺旋状の溝があり、ここがゲーベル銃と違う所)

 鳥羽伏見の戦いのとき、主に会津藩が使っていた。

 ゲーベル銃より命中率は上がる。

〇ミニエー銃

 前装式(元込め式と言って、手元で銃弾を入れるのもあった) 

 ミニエー弾と言う改良された弾を使って撃つ。

 ゲーベルより命中率が高い。

 約400m離れた場所を撃つと、ゲーベル銃は20発撃って1発あたる。

 ミニエー銃は、2発撃って1発あたる。

 鳥羽伏見の時の政府軍の主な武器。

 

 鳥羽伏見の後、幕府軍もミニエー銃を調達する。

 最初、白虎隊はヤーゲル銃を持たされていたけど、のちに馬上銃と言う銃に変わる。

   

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