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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年6月
42/506

角屋の騒動

 巡察から帰ってくると、屯所が賑やかだった。

蒼良そらあそこに首がさらしてあるよ。見に行くかい?」

 沖田さんが面白そうに話しかけてきた。さらし首の何が面白いんだ?

「嫌ですよ。絶対に見ません。」

 植村 長兵衛という人が、壬生浪士組の名前を使って、押し借りをしたらしい。こちら側としては、勝手に名前を使って悪いことされたら、それは嫌なことに決まっている。

 それに、このまま放っておいたら、第2の植村 長兵衛が出てくるということで、こちらで厳罰に処して、打ち首にしてさらし首にしたのだった。

 でも、もうちょっと遠くの方でして欲しかったな。なんで壬生でさらし首なんだ?おかげで、巡察に出るたびにその前を通らなくてはならず、そんなものを見たくない私にとっては、本当に迷惑だ。

 よくみんな平気な顔でいられるなぁ。


「はぁ、まったく。謝罪文書くなら、最初からそんなことを言わなきゃいいものを。」

 ため息混じりで、原田さんが言った。

 ちょうど原田さんと永倉さんと源さんと武田さんという、京から隊に入った人達が帰ってきた。

「おかえりなさい。お疲れのようで。」

「水口藩に行って、身柄を渡せっ!って怒鳴ってやったら、謝罪文出してきた。」

 永倉さんが、その謝罪文をヒラヒラとさせた。

 実は、水口藩の人が、わざわざ会津藩邸に行って、壬生浪士組の行いの悪さを訴えたらしい。それを聞いた芹沢さんが怒って、

「言いたいことがあるなら、そいつから直接聞いてやろうじゃないか。」

 ということになり、原田さんたちが水口藩邸に行き、その人をこちらに寄越してくれと言ったら、慌ててこの前のことはなかったことにして欲しいと、謝罪文を出してきたらしい。

 二つの出来事が一緒におきたので、屯所は賑やかというわけだ。


 しかし次の日、その文句を言った水口藩の人の友人という人が、謝罪文を返して欲しいと言いに来た。

 そのことを言いに芹沢さんの部屋に行った。昼間からお酒を飲んでいるらしく、少し酒臭かった。

「あ、飲んでますね。」

「うわ、見られて一番嫌な奴に見つかった。」

 多分、私が芹沢さんを見るたびに『お酒をあまり飲まないように』と、口うるさく言うため、あまり私に会いたくないらしい。

「私は芹沢さんの健康を心配して言っているのです。」

 健康と、酒乱。この人は酒乱が原因で命を落とすことになる。せめてお酒をやめてくれたらと思うのだけど、本当に好きみたいで、なかなかやめてくれない。

「でも、全く飲まないのも健康に悪いぞ。」

「飲み過ぎも良くないです。」

「蒼良、ここに来たは用があったんじゃないのか?」

 そうだった、忘れていた。

 その水口藩の人の友人という人のことを教えた。

「友人だと?本人が来るのが筋ってもんだろう。」

 その通りだ。なんで友人なんだ?怖くてこれないとか?それありえるな。

「それに、謝罪文を返せだと?ふざけやがって。」

 確かに。それなら、最初から書かなければいいものを。

「なんか、水口藩主の耳に入ったら、大変なことになるからとか言ってましたよ。」

「じゃぁ、藩主の耳に入れてやるか。」

「それはいいですね。」

「蒼良、初めて気があったような感じがするぞ。」

 わはは、と笑いながらお酒を飲もうとしたので、

「昼間から、ダメですって言ったでしょう。」

 と言ったら、

「やっぱり、お前とは気が合わん。」

 と言われてしまった。

「で、どうしますか?謝罪文は返さないということで、いいですか?」

「いや、いいこと思いついた。」

 芹沢さんはニヤリと笑った。

「そちらが会議の場所を提供するなら、そこで返してやると伝えてくれ。」

「ここで返しても同じじゃないですか。」

「ここじゃなくてもいいだろう。」

 ま、たしかにそうなんだけど。

 という訳で、その水口藩の人の友人に伝えて帰ってもらった。


「そりゃ、遠まわしに宴会の催促してんだよ。」

 なんで謝罪文をここで返さないんだろう?と思い、土方さんに聞いてみたら、そう返ってきた。

「あの酒オヤジ、宴会をして酒をのもうって魂胆だな。」

「おい、誰に向かって酒オヤジだ。局長だぞ、局長。」

「じゃぁ、酒局長で。」

「ま、昼間から飲んでりゃ、そう言いたくなる気持ちもわかるが。そんなムキになって止めることもないだろう。勝手に飲ませておけばいい。」

「健康に悪いです。」

「他人の健康だろう。放っておけ。」

「暴れたら、どうしますか?」

「まだ暴れてないだろう。その時に止めればいい。」

 止められるのか?

 そんな話をしていると、永倉さんが嬉しそうにやってきた。

「今日は、角屋すみやで宴会だぞ~。角屋って言えば、揚屋の中でも高級な方だぞ。」

「そうなんですか?」

「新八、そんなことをよく知ってんな?」

「もしかして永倉さん、行っているのですか?」

「な、なんだよ、二人とも。行くわけねぇだろうが。」

 絶対に行ってるな。巡察中に花魁道中見ていたこともあるし。

「とにかく、夜は角屋だぞ。」

 そう言って、嬉しそうに去っていった。

「あれは、行ったことがあるな。」

「土方さんは、行ったことないのですか?」

「人のことはいいだろう。」

 土方さんも、何気に行ってるな。ま、悪いことではないのだけど。そのお金はどこから出ているんだか。


 角屋に行くと、既に宴会が始まっていた。

 例の謝罪文は返したらしい。高級な揚屋を用意してくれたんだから、文句は言えないだろう。

「あ、蒼良が来た。」

 沖田さんが、ケラケラ笑っていた。相当お酒が入っているらしい。

「蒼良はん、いらっしゃい。」

「あれ?牡丹ちゃん。」

「今日は呼ばれたさかいに。」

 牡丹ちゃんは、私が飲めないことを知っているので、隣の沖田さんにお酒を注いでいた。

「蒼良のいい人かい?」

 沖田さんが笑いながら聞いてきた。

「友達です。この前も、雨宿りをさせてもらって。いい子ですよ。」

 そう言うと、牡丹ちゃんは軽く私をたたき、

「嫌やわ、照れるやんか。」

 と言って、向こうへ行ってしまった。なんか、照れることを言ったっけ?

「蒼良も、罪作りだな。」

 沖田さんとは反対側の隣に座っていた原田さんが言った。

「罪作りってなんですか。」

「あの子はお前に惚れてるぞ。」

 原田さんは、ぐいっとお酒を飲んだ。

「何言ってるんですか。そんなことないじゃないですか。」

「いや、あの様子は絶対にそうだ。」

 何を根拠に、そんな自信満々で。酔っ払っているから仕方ないのか?

 そういえば、芹沢さんも相当お酒が入っているみたいで、いつもより声が大きい。

 体も太っていて大きいから、あまり大声で話すと、せっかく来ているお姉さんたちが怖がるかも。

 止めに行こう。そう思ったけど、なんか嫌な予感がした。

 角屋、酒飲んで酔っ払う。何かあったぞ。それはすぐに思い出した。

 角屋の騒動だ。たしか本では、芹沢さんが酔っ払って、お姉さんたちの対応が悪いと腹を立てて、暴れるんじゃなかったっけ?

 この状態は、絶対にそうだ。牡丹ちゃんを置屋に返した方がいい。そして、芹沢さんのお酒を止めないと。

 しかし、既に遅かった。

「おい、お前。なんで震えてる。」

 芹沢さんの声がした。見てみると、牡丹ちゃんがお酌をしていた。

「この子はまだ未熟やさかい。許してやってください。」

 芹沢さんの横にいたお姉さんが謝った。

「未熟も何もあるか。お前が震えているせいで、酒がこぼれただろう。」

「申し訳ありません。」

 必死で謝る牡丹ちゃん。止めなくちゃ。

「芹沢さん、飲みすぎですよ。女の子の前で大声出したら、誰だって怖がりますよ。」

「蒼良か。お前はまたすぐ飲み過ぎだって言う。」

「だって、昼間から飲んでいるのですよ。飲みすぎです。」

「うるさいっ!じゃぁ、お前がこの子の代わりに酌をしろ」

 なんで私が?

「もちろん、花魁の姿になってな。」

 私の耳元で言った。もしかして、一番バレたらいけない人にバレてるかも?

「な、なんで私が?とにかく、女の子が怖がっているので下がらせますよ。」

 私は牡丹ちゃんに小さい声で、

「置屋に帰ったほうがいい。」

 と言った。牡丹ちゃんはうなずいて部屋から出た。

 すると、バシンッ!と大きな音がした。見てみると、芹沢さんの鉄扇が柱に食い込んでいた。

「芹沢さん、何を?」

 何してるんですかっ!と言おうとしたら、

「気に食わんっ!この店も、接待も、気に食わんっ!」

 と叫び、鉄扇を振り回し始めた。

「芹沢さん、やめてください。」

 もちろん、そんな私の声は耳に入っていない。

「いいぞ、もっとやれっ!」

 芹沢さんと仲のいい平山さんも、一緒になって暴れ始めた。

新見にいみさん、止めてください。」

 芹沢さんの腰巾着の新見さんに頼んでも、にやりと笑われただけだった。

 私が止めるしかないのか?

「やめてくださいっ!」

 芹沢さんの腰のところに飛びついて、止めようとしたけど、振りほどかれて私は背中を強く壁にぶつけた。

 それでも、止めないと、大変なことになる。今度は必死でしがみついた。すると、肘で顔を打たれ、手を離してしまった。

 ダメだ、止めないと。再び立った時、

「もうやめろ。」

 土方さんに止められた。

「だって、止めないと。」

「もう無理だ。あそこまでやられたら、誰も止められねぇ。」

「私が止めますっ!」

 立ち上がって行こうとしたら、土方さんが素早く私の前に回り、私は土方さんに飛びつく形になった。

「お前が傷つくのをこれ以上見たくない。頼むから、行かないでくれ。」

 耳元で言われた。力が抜けてしまった。


 その後、土方さんに連れられて外に出た。だから、どうなったのかは知らない。

 聞いた話によると、角屋で物を破壊し、暴れまくった芹沢さんたち。とどめに角屋のもてなし方が悪いといちゃもんをつけ、1週間の営業停止を言い渡したらしい。

 角屋にしてみれば、暴れるだけ暴れられて、勝手に営業停止にされ、迷惑な話だ。

 私は、止められなかったことを後悔した。止めてたら、歴史を変えられたかもしれない。

 落ち込みつつ朝を迎えると、お師匠様がやってきた。

「お前、また顔にあざが出来たな。」

 芹沢さんにやられたあとかな。

「お師匠様、角屋の騒動を防げませんでした。」

「お前のせいじゃない。歴史はそう簡単に変わらんって言ったじゃろうが。わしの目的を忘れたか?」

 目的?確か、新選組が好きだから…

「新選組の人を現代に連れて帰ることですか?」

「そうじゃ。それが第一。できれば歴史も変えたい。ま、連れて帰ること自体が歴史を変えることにもなるんじゃがな。」 

 出来るのか?そんなこと。

「おまえ、出来るのか?って、思ったじゃろう。やってみんとわからん。とにかく、それが優先じゃ。いい方に歴史が変わればいいが、無理して変えんでもええ。お前の怪我が増えることの方が心配じゃ。」

「お、お師匠さまぁ~」

 私は、思わず泣いてしまった。お師匠様の言葉を聞いて、涙腺が緩んでしまったのだ。

「分かったから、泣くな。鼻水が出ておるぞ。」

 そんなムードのない言葉を言わないでっ!

 泣くだけ泣いたらスッキリした。

「無理して変えようとするのは、やめにします。でも、変える努力はしてもいいですよね。」

「もちろんじゃ。わしも見守ってる。」

「見守っているだけなのですか?少しは手伝ってもらえるとありがたいのですが。」

「お前、このか弱い年寄り向かってなんてことを。」

 急にか弱い老人になりやがった。

「分かりました。頑張りますよ。」

「よしよし、頑張るがええ。」

 どれだけ歴史を変えれるかわからない。でも、小さいことからコツコツやれば大きくなるかもしれない。

 既に、私が来たことで歴史も変わっているんだから、頑張ろう、自分。

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