戦と戦の間
宇都宮城の最初の戦いで勝利した私たち。
しかし、宇都宮城を攻撃するときに火を放ったので、町は火の海になり、ほとんどの建物が燃えてしまった。
大鳥さんたちが宇都宮に入ってくると、城の中に残っていた食べ物を町の人たちに配った。
そしてみんなに、
「町の人たちに乱暴なことはしないように」
と、何回も注意していた。
それから土方さんたちは会議の為、燃え残った建物の中に入って行った。
私たちは、町や城のあった場所に行き、燃え残った武器や食料などを探すことになった。
「ほとんど燃えてなくなっているな」
燃えた後の真っ黒な町を見て原田さんが言った。
「禁門の変の時も火の海になっていましたが、同じぐらいひどいですね」
「あの時もすごかったよな。ま、あの時は新選組は何もしなかったんだがな」
原田さんが少し笑って言った。
そうなのだ。
禁門の変の時は、あっちこっちと戦のあった場所に移動していたけど、終わった後だったりしてほとんど何もしなかった。
「こういう時って、一番の被害者はそこに住んでいる住民なんだよな」
原田さんは、家が建っていたと思われる場所を見てそう言った。
そこは、柱が灰になって残っていたけど、崩れそうになっていた。
原田さんの言う通りだ。
戦の一番の被害者は、戦に関係ない弱い人たちだ。
ただ、そこに住んでいただけ。
そう言う理由だけで家が無くなったり家族が亡くなったりする。
「悲しいですね」
燃え残った物を見ていると余計に悲しくなる。
「そうだよな」
原田さんも寂しそうな顔でそう言った。
「こう見ると、戦もあまりいいものじゃないな」
そう言う原田さんを見て思い出したことがあった。
原田さんって、歴史通りだったら江戸に向かっている時じゃないのか?
もしかして……。
「江戸に帰るんじゃないですよね?」
嫌な予感がして、思わず聞いてしまった。
「えっ?」
原田さんが驚いた顔をして聞き返してきた。
「戦がいやになったから江戸に帰るとかって言わないですよね?」
「江戸に帰ったら死ぬって、蒼良が言っていたじゃないか。なんでわざわざ死ににいかないといけないんだ?」
原田さんが私の顔をのぞき込んで聞いてきた。
「歴史通りにいっていたら、原田さんは江戸に向かっている時なので、心配になってしまって……」
私がそう言うと、ポンッと原田さんの手が私の頭にのってきた。
「蒼良は、俺が江戸に帰ったと言ったが、その時の俺は何か残してきたものがあったのだろう」
歴史では、江戸にじゃないけど京に身重の奥さんと子供を残してきていた。
「でも、今の俺は何も残してきたものはない。全部ここにあるから大丈夫だ」
原田さんはそう言うとニコッと笑った。
全部ここにあるって……、なにがだ?
「あの……具体的に何かとか聞いてもいいですか?」
そう聞いたら、ポンポンッと私の頭にのっていた手で軽く頭をたたいてきた。
「内緒だ」
やっぱり教えてくれないのか。
「ここは全部燃えて食料もなさそうだな。移動するか」
そう言って原田さんが歩き始めたので、私も歩き始めた。
「あ、お前らっ! 久しぶりだなっ!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
原田さんと振り返ると、なんと、永倉さんがいた。
「新八、なんでいるんだ? 会津にいるんじゃないのか?」
原田さんが驚きつつ永倉さんに近づいて行った。
「まさか、新八は死んで魂だけがここに来たとか?」
「俺は死んじゃいないよっ!」
永倉さんはとっても長生きする。
ここで死んでいる場合じゃないのだ。
「本物か?」
「本物に決まっているだろうが」
そう言いながら永倉さんは原田さんを軽くたたいた。
「なんでここにいるのですか?」
永倉さんたちは、歴史通りなら近藤さんを別れてから別の隊に入り会津へ向かう。
でも、今回は近藤さんと別れなかったので、斎藤さんと一緒に流山から会津へ向かっていた。
だから、会津にいるはずなんだけど……もしかして……。
「斎藤さんと喧嘩して、新選組を抜けてきたとか……」
私の言葉を聞いた永倉さんは、
「お前ら二人ともろくなこと言わないなっ!」
と、怒られてしまった。
だって、そう考えるじゃないか。
「自分がいるところの近くで、自分の知り合いが戦をしているんだ。会津に閉じこもっている場合じゃないだろうっ! そんなときに大鳥さんが鹿沼宿にいて、続々と兵も集まっている。と言う話を聞いたから、こうして出てきたんだ」
「蒼良、やっぱり新八は抜けてきたらしいぞ」
原田さんがそう言った。
やっぱりそうなのか?
「誰が抜けたって言った?」
永倉さんは、原田さんにつかみかかっていたけど、顔は笑っていた。
「ちゃんと斎藤には断ってきた。ちょっと行ってくるって」
えっ、その一言だけなのか?
原田さんも驚きつつ、
「それって、やっぱり抜けてきたんじゃないのか?」
と聞いていた。
私もそう思うけど、本人が抜けていないと言ってるから抜けていないのだろう。
「それにしても、派手にやったな。何も残ってないじゃないか」
あたりを見渡して永倉さんが言った。
「大鳥さんは武器があるのを期待していたようだが、これはもう武器も何もないだろう」
永倉さんがそう言った。
そうだったのか?
「でも、武器と言っても俺たちの使ってる銃や大砲より古そうだったから、あったとしても使えなかったと思うぞ」
原田さんがそう言った。
「そうか、そうだったのか。だから勝ったんだな」
いや、永倉さん、それだけの理由で勝てないと思うのですが……。
「で、お前たちは何してんだ?」
永倉さんに聞かれたので、
「燃え残った食料や武器があるか調べているのです」
と、私が行ったら、まわりを見てから、
「ないだろう」
と、言われてしまった。
確かに、何も見つからなそうだなぁ。
全部燃えてしまっているんだもの。
「一応、探してみるか」
原田さんがそう言って歩き始めたので、私も一緒に歩き始めた。
あれから町の中を探索したのだけど、何も見つからなかった。
結局、城の中で見つかった食料だけが残っていて、後は全部燃え尽きたのだろう。
それを報告しに土方さんのいるところへ行った。
まだ軍議は終わらないのかな?
部屋の外で様子をうかがっていると、部屋の中から話し声が聞こえてきた。
まだ終わっていないようだ。
「のぞきはだめですよ」
後ろから急にそんな声がしたので、驚いて飛び上がってしまった。
かろうじて声は出さなかった。
「土方さんから、蒼良さんがよく部屋をのぞくことを聞いていたので」
振り向くと、島田さんがたくさんの湯飲みを持って笑顔で立っていた。
きっと、中で軍議をしている人たちにお茶を入れに行っていたのだろう。
のぞくって、まだのぞいていないからねっ!
って、のぞくつもりだったのか?自分。
「軍議は長くなりそうですよ」
島田さんはそう言うと、部屋の中へ入って行った。
長くなりそうなのか?
思わず軍議をしている部屋を見てしまった。
部屋で待っていたほうがいいかな。
日が暮れても土方さんは部屋に帰ってこなかった。
たまに軍議をしている部屋の前まで行って様子を見に行ったけど、終わる気配がなかったので、また部屋に帰ると言う事を何回か繰り返した。
いつ終わるんだろう?
もう一回様子を見に行こうかな?
そう思って部屋のふすまを開けた時、疲れ切った土方さんが立っていた。
一瞬、この世のものではない物が出たと思った私は、
「うわぁっ!」
と、声に出して驚き、しりもちをついてしまった。
「なんだ? 俺は疲れてんだ」
そ、それは見ればわかりますよ。
土方さんは、倒れこむように部屋に入ると、本当にそのまま倒れこんで横になってしまった。
も、もしかして、寝たのか?
近づいて上から土方さんの顔をのぞき込むと、目がぱっちりと開いてしかも鋭い目つきをしていたので、余計に驚いて二回目の悲鳴をあげそうになってしまった。
なんで、そんな怖い顔をしているんだ?
「あ、あの……。布団敷きますか?」
布団敷いて寝かしたほうがいいだろう。
そうすれば、いくらか怖い顔も穏やかになるかもしれない。
「いや、いい。すぐに行かねぇといけねぇから」
「どこにですか?」
もう夜も遅いのに、どこに行くと言うのだ?
「軍議に決まってんだろうっ!」
そ、そんなに怒らなくてもっ!って、まだ終わっていなかったのか?
「こんなところで軍議している場合じゃねぇと思うんだがな。もめちまっているからな」
もめているらしい。
「大鳥さんは壬生城を一刻も早く攻めたいらしい。先んずれば人を制すのが兵法の基本だと言っているからな。ここで壬生城も手に入れて、敵が北にあがってくるのを阻止したいのだろう」
そうなんだ。
先んずれば人を制すと言うのは、中国の史記にかかれている言葉だ。
先んずれば人を制し、遅れれば人を制せられる。
簡単に言えば、先手必勝だろう。
相手より先に行動すること。
「しかし、早く日光へ行った方がいいんじゃないか? という意見もある」
確かに、早く日光に行った方がいいかもしれないと言う考えもわかる。
と言うのも、ここまでの戦いで武器である弾薬や火薬がかなり消費されている。
宇都宮で手に入ると思いきや、全く手に入っていないと言うのが今の状況。
ここで無理して戦うのなら、急いで日光に行ってそこで準備万端にして敵に立ち向かったほうがいいと言う意見なのだろう。
どっちも正しく思えるから、難しいなぁ。
「土方さんはどっちがいいのですか?」
土方さんの考えが知りたくて、思わず聞いてしまった。
「俺か? 俺はどっちでも構わねぇから、この長い軍議を早く終わらせてほしい」
土方さんのその意見が一番正当な意見だわ。
「じゃあ行ってくる」
重そうに腰を上げ、土方さんは部屋を出て行った。
結局この軍議は次の日も一日行われた。
その結果どうなったかというと、敵である政府軍が壬生城に入ってしまった。
そして、壬生城にいた幕府派の人が宇都宮城に来た。
その人は、壬生城の守りのかなり重要な所を守っている人だったみたいで、その人が来たから、壬生城を落とすことが出来ると大鳥さんが思い、強引に壬生城の攻撃を決めた。
どうせ攻撃するのなら、早く攻撃すればいいのにと思ってしまった。
そして、壬生の戦いが始まろうとしていた。