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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年4月
411/506

勝海舟に会う

 敵であり官軍である政府軍へ近藤さんは出頭した。

 出頭するときに、隊士を二人つけた。

 その一人が帰ってきた。

「局長は、越谷宿で休んでいます」

「ご苦労だった。ゆっくり休め」

 土方さんはそう言って、その隊士をねぎらった。

 近藤さんが出頭したのは夜だった。

 今はもう夜明け近い時間だと思う。

 誰も寝る人はいなかった。

 特に、近藤さんの助命をするために江戸に行く私たちは、一カ所に固まって時が過ぎるのをただ見つめていた。

「近藤さんは、これからどうなる?」

 土方さんは、私とお師匠様の間に座り、小さい声で聞いてきた。

「まだ近藤だとは気づかれていないと思うが、怪しまれてはいると思うぞ」

 お師匠様も小さい声でそう言った。

「京で近藤を見かけたやつがおってな。もしかしたら、新選組の近藤勇かもしれないと話が出ている頃じゃないか?」

「そんなに早くばれるのか?」

「板橋宿に着く前にばれる」

 お師匠様はきっぱりとそう言った。

 越谷宿までは、近藤さんの扱いは丁寧だった。

 今休んでいると言う隊士の証言からも分かることだ。

 近藤さんを越谷まで護送した有馬藤太と言う人が、近藤さんを一隊長の扱いをしていたらしい。

 しかし、彼は越谷から宇都宮城へ援軍に行く。

 と言うのも、もともと彼らは宇都宮城から援軍の要請が出たので、そこへ向かう途中で流山にいる私たちのことを知り、流山に寄ったのだ。

 越谷から先は土佐藩士が護送を担当する。

 そこからはもう罪人扱いだった。

 土佐藩からすれば、坂本龍馬を殺したのは新選組で、その新選組の局長を捕えることが出来たんだから、恨みを晴らしてやるっ!って感じなんだろう。

 実際は、坂本龍馬を殺したのは新選組じゃないのだけど、ほとんどの人たちからそう思われていた。

「なんでばれるんだ?」

「御霊衛士にいた人間を連れてきて、近藤さんに会わせるのですよ」

 私がそう言うと、

「御陵衛士か。ここでも邪魔しやがって」

 と、土方さんがつぶやいた。

 もしかしたら、近藤勇かもしれない。

 ちょっと見てくれないか?と言ったかどうかわからないけど、御霊衛士にいた人に部屋の陰からのぞかせて近藤さんを見せる。

 御陵衛士なら近藤さんを知っているだろう。

 自分たちの上司である伊東さんを殺した組織の長なんだから。

 確認させて近藤勇で間違いないとなった時、彼らは近藤さんの前に出る。

「大久保大和改め、近藤勇」

 と言われ、近藤さんの顔色は変わったらしい。

 まさか、こんなに早くにばれるとは思わなかったのだろう。

 ここで近藤さんはそれを認め、捕縛される。

「土方、近藤の助命を頼みに行くと言ったが、どこに頼みに行くんだ?」

「とりあえず、勝さんの所へ行こうと思う」

 ああ、勝海舟か。

「あいつはあてにならんぞ」

「あてになりませんよ」

 お師匠様と二人で声をそろえてそう言っていた。

「そんなにあてにならんのか?」

「勝は、今はそれどころじゃない。江戸城を無事に明け渡すことしか考えてないだろう」

 そうなのだ。

 もうすぐ江戸城が無血開城される。

「そうか。あの人はいかに穏便に済ますかしか考えてなさそうだったからなぁ」

 土方さんがそう言った。

 そうだったんだ。

「それなら、どこへ頼みに行けばいいんだ?」

 土方さんがそう聞いてきた。

「薩摩藩ですかね」

「土佐藩だ」

 お師匠様と私とで意見が違った。

「どっちだ?」

 土方さんはそう聞いてきた。

 意見をまとめろって事だろう。

「薩摩ですっ! 相手は薩摩藩が中心になって動いているようですから」

 私がそう言うと、

「いや、土佐だろう。近藤は土佐藩の連中によって処刑されるんだ。薩摩が止めるのも聞かないで。だから土佐だろう」

 と、お師匠様が反論してきた。

「薩摩」

「土佐」

 しばらく言い合っていると、

「わかった。両方行けばいいんだろうっ!」

 と、土方さんに怒られてしまった。

「土方さんは行けませんよ」

「土方が行ったら捕まるからな。そうなると、処刑される人間が増えるだけだ」

 土方さんが処刑されるだとっ!

「そんなこと、私がさせませんよっ!」

 私が胸を張って言うと、

「うちやって、勇はんを処刑させへんからねっ! そのためならなんだってやるっ! 薩摩藩と土佐藩やね。うち、今から直接行ってくるわ」

 私たちの話を聞いていた楓ちゃんが飛び出さんばかりに部屋から出ようとしたので、お師匠様と二人であわてて止めた。

「俺だって、処刑なんてさせねぇよっ! 薩摩と土佐だな。よし、行ってやろうじゃないの」

 今度は土方さんが立ちあがったので、また二人で止めた。

「土方さんが行ったら、捕まるってさっき言ったばかりじゃないですかっ!」

 近藤さんの事となると、二人とも人が変わると言うのか……。

「とにかく、勝の所へは行ったほうがいいじゃろう」

「さっきはあてにならねぇって言っただろう」

「近藤の助命はあてにならんが、薩摩への紹介状のような物は書いてくれそうじゃろう? 利用できるものはこの際なんでも利用するのじゃ」

 お師匠様はそう言った。

 そうだよね。

 勝海舟は、薩摩の西郷隆盛と会ったことがある。

 西郷隆盛に会えれば一番いいけど、そこまで偉い人ではなくても勝海舟の紹介状のようなものがあれば、関係者には会えるかもしれない。

「わかった。そうしよう」

 気がつくと夜が明けていた。


 夜が明けると同時に、私たちは江戸へ向かった。

 今頃、近藤さんはもしかしたら、大久保大和ではなく、新選組の近藤勇じゃないか?と疑われていて、

「武器などを出していただいたので特に問題はないのですが、一応、本営に出頭して事情を説明し、謝罪してください」

 と言われて、板橋宿へ向かっているだろう。

 そしてその途中で近藤勇だとばれてしまう。

 急がないと。


 江戸にはこっそりと入った。

 江戸城は数日後には幕府のものではなくなると言うのに、江戸の町はいつも通りだった。

 ただ、私たちがいた時にはいなかった官軍の人たちをあちらこちらで見かけることがあった。

 江戸に着くと大久保一翁という幕臣の一人と勝海舟に会った。

「近藤さんが捕まってしまった。助命を頼みたい」

 土方さんはそう言った。

 あてにならないと言ったんだけどなぁ。

 そして案の定、断られてしまった。

 やっぱりなぁ。

「それなら、薩摩の誰かを俺に紹介してくれ」

 土方さんはそう言った。

 まさかそんなことを言うとは思わなかったのだろう。

 勝海舟は驚いた顔をしていた。

「おぬしが薩摩の人間に会ったら、殺されるぞ。本気で考えているのか?」

「殺されないために、こうやって頼んでいる。それに、新選組の土方歳三ではなく、鎮撫隊の内藤隼人として会う。それなら問題ないだろう」

「土方だと相手にばれたらどうする?」

「その時はその時だ。俺は近藤さんにも、鎮撫隊の大久保大和として行って来いと言って出頭させた。だから、俺も同じことをする」

 しばらく沈黙が続いた。

「わかった。書を書いて後で届けさせる」

 勝海舟は一言そう言った。


 それから私たちは、京から江戸に引き上げてきたときにしばらく使っていた屯所に潜伏した。

「やっぱり、勝さんには断られたな」

「あてにならないと言ったのに、土方さんは勝さんに頼んだから驚きましたよ」

「もしかしたら……って思ったんだよ。今はどんなものにでもすがりたい状況だからな」

 そうなんだろうけど。

「勝ってお人はあかんっ! あの人が勇はんに鎮撫を頼んだんやろ?」

 鎮撫とは、暴動などを鎮め、人々を安心させると言う事だ。

 楓ちゃんの言う通りなんだけど。

 その鎮撫だって、自分たちが薩摩と交渉するのに邪魔だからという理由で、鎮撫と言う名前を付けて追い出したと言われているからね。

「許せん」

 その気持ちも分かるんだけど……。

 手にわらを握っているけど……。

「楓ちゃん、それで何をするつもりなの?」

「勝のわら人形を作る」

 そ、そうなのか?

「あの人さえいなければ、勇はんは捕まらんかったかもしれん。全部あの人のせいやっ!」

「楓、落ち着け。今回は勝を利用させてもらった。後は、薩摩の紹介状が来るかだな」

 お師匠様は冷静にそう言った。

 そうなんだよね。

 勝海舟は、新選組は、鎮撫のために流山にいたのであって、攻撃をするためではないと言うようなことを書かれた書状を書いてくれる。

 でも、薩摩への紹介状が書かれた書状は、歴史ではない。

 だから、重要なそちらが来るかどうかがわからないのだ。

 後は神に祈るのみ。


 それから夜になると島田さんがやってきた。

 そして次の日。

 正体のばれた近藤さんは板橋宿に着いた。

 これから審議と言うものが始まるのだろう。

 それから勝海舟からの書状が届いた。

 新選組が流山にいた理由が書かれた書状があった。

 それは来ることがわかっていたので別に驚かなかった。

「相馬っ!」

 土方さんは私たちと一緒に江戸に来てた相馬主計そうまかずえさんを呼んだ。

「これを板橋に届けてくれ」

「それはやめたほうがいい」

 お師匠様は土方さんを止めた。

「なんでだ?」

「近藤の身元はすでにばれている。そんなときに相馬が板橋に行ったら、相馬は捕らわれる」

「この書状はどうすればいいんだ?」

 土方さんは勝海舟からの書状を持ってそう言った。

「そんな物、あっても無くても同じじゃ」

 お師匠様がそう言うと、

「うちが届けるっ!」

 と、楓ちゃんが言った。

「楓ちゃん、危ないよ。帰ってこれないかもしれないんだよ」

「勇はんのそばにおられるなら本望やっ!」

「それもいいかもしれんぞ」

 お師匠様、なんてことを言い出すんだっ!

「女なら、向こうも捕まえんじゃろう」

「でも、女に文を持たせたとばかにされるかもしれんがな」

 土方さんが冷静にそう言うと、楓ちゃんも、

「勇はんの顔に泥をぬるようなことはできん」

 と言ってあきらめてくれた。

 

 勝海舟からもう一通、書状が来ていた。

「薩摩への紹介状だぞ」

 土方さんが書状を見るとそう言った。

「西郷隆盛に宛てたものだ」

 この時期、西郷隆盛は江戸城明け渡しのために池上本門寺と言うお寺にいた。

「今すぐにでもこれを持って行くぞっ!」

 土方さんがそう言って立ち上がった。

「いや、土方はだめじゃ」

 お師匠様はそう言って土方さんを止めた。

「内藤隼人として会うんだ。何が悪い」

「近藤も、大久保大和として出頭したが、ばれて捕縛されておる。だから、わしが行く」

 えっ、お師匠様が行くのか?

 驚いていると、お師匠様は私の方をチラッと見た。

「もちろん蒼良も連れて行く。年寄りは捕縛されんじゃろう」

 そ、そうなのか?もしかしたら、捕縛されるかもしれないぞ。

 それに、年寄りはって言ったけど、私は年寄りじゃないからね。

 捕縛されるかもしれないじゃないかっ!

「蒼良、支度しろ」

 お師匠様にそう言われた。

 色々考え込んでいる場合じゃないのだ。

 とにかく、私たちで何とかなるのなら、何とかしなければ。

「大丈夫か?」

 土方さんが心配そうな顔で聞いてきた。

「大丈夫です」

 私は、笑顔で答えたのだった。

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