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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年4月
410/506

敵の包囲

 夜遅くに長岡屋から隊士たちがいた光明院と言うお寺に移動した。

 もちろん、近藤さんと楓ちゃんも一緒だし、長岡屋にいた他の隊士もみんな一緒だ。

 敵の偵察が来ているので、わからないように夜を選び、みんなでこっそりと移動した。

「キャッ!」

 真っ暗中の移動なので、当然下が見えにくい。

 石につまずいてしまった。

「シーッ!」

 暗闇のあちらこちらからそんな声が聞こえた。

 そのシーッ!て声の方が大きいからね。

「大丈夫か?」

 土方さんの声が横から聞こえてきた。

「すみません、暗くて見えにくかったもので」

「つかまれ」

 何につかまればいいんだ?と思っていると、土方さんの手が私の手にふれた。

「ありがとうございます」

 またつまずきそうだったので、遠慮なく土方さんの手につかまった。

 すると、土方さんの手が私の手をぎゅっと握ってきたから、急にドキドキしてしまった。

 なんでこんなドキドキするんだろう?


「どうなることかと思うたけど、無事についてよかったわ」

 無事に光明院へ着いたら、楓ちゃんが近藤さんに笑顔でそう言った。

「そうだな。歳、これで大丈夫だな」

「大丈夫だと思うが……」

 そう言いながら土方さんは私を見た。

 ん?私?

「たぶん大丈夫だと思うのですが……」

「いや、落ち着くのはまだ早いぞ」

 お師匠様がそう言った。

 やっぱりそう思うよね。

「長岡屋が敵に囲まれる恐れがあるから移動したが、こっちに移ったとわかればこっちが包囲されることもあるかもしれないな。とにかく、油断は禁物と言う事じゃ。明日は、念のため隊士達はここに待機させたほうがいいじゃろう」

 歴史では、隊士のみんなが訓練で出払っているときに敵に包囲されてしまう。

 だから、お師匠様の言う通り、隊士をここへ待機させて、早め早めに情報を仕入れて行動したほうがいいだろう。

 

 昼になった。

 今の所何事もなかった。

「近藤さんに言われたから、隊士をみんな光明院に移動したが、何かあるのか?」

 永倉さんが私にそう聞いてきた。

 なんて答えればいいんだ?

「敵がこの近くに来ておる」

 私の後ろからお師匠様の声が聞こえてきた。

「敵か? 五兵衛新田の時も甲州で戦った奴らが近くにいるって言ってここに来たんだよな。またそいつらか?」

 永倉さんがお師匠様に聞いた。

「恐らくそうじゃろう。昨日のまま長岡屋にいたら包囲されるかもしれんから、念のためここに移動したんじゃ」

「なんだ、大げさだな。そんな気配も何も全然ないぞ」

 永倉さんの言う通り、朝から緊張しているのだけど、周りの雰囲気はそれとは全く逆で、平和なものだった。

 本当にここに敵が来るのか?

 もしかしたら、長岡屋に偵察に行ったけどいなかったから帰っちゃったとかってあるよね?

「近藤さんいるか?」

 バタバタと原田さんがやってきた。

「何かあったのですか?」

 原田さんの様子がただ事じゃないという感じだった。

 もう、嫌な予感しかしない。

「長岡屋が敵に包囲されている」

 やっぱり。

「左之、それ本当か?」

「ああ。ちょっと見て来たら、長岡屋が敵に囲まれていた。多分、俺たちを探しているのだろう。いないとわかったら、町中に兵を放って調べているみたいだぞ」

「天野先生の言う通りになったぞ。すごいなぁ。もしかして、未来のことが分かったりするのか?」

 鋭いことを永倉さんは聞いてくるなぁ。

「ま、そんなところじゃ」

 お師匠様は一言そう言った。

「俺の未来も分かったり……」

「永倉、今はそんなことを言っとる場合じゃない。まず近藤に報告じゃ。それに、ここが包囲されるのも時間の問題じゃぞ」

 そ、そうなのか?

「今、調べているらしいが、遅かれ早かれ、ここに勘付かれるじゃろう」

「そうなると、今度はここが包囲されるのか?」

 原田さんがお師匠様に聞いてきた。

「そうなる」

「それなら、急いで移動しましょうっ!」

 ここでああだこうだ言っていても始まらない。

 ここで対戦したら、甲州の敗北の二の舞になることはみんな分かっている。

 それなら逃げるしかないだろう。

蒼良そら、この大勢の人数で移動したら、敵に勘付かれるじゃろう」

 あ、確かに、お師匠様の言う通りだ。

「最悪、近藤だけ逃すことを考えよう。わしらはどうにでもごまかせるからな。とにかく、早く近藤に報告じゃ」

 と言う事で、みんなで急いで近藤さんの所へ行った。


「そうか、囲まれたか」

 近藤さんに報告したら、近藤さんは一言そう言った。

「近藤さんだけでも逃げてください」

 私がそう言うと、

「わしは逃げん」

 と、言われてしまった。

「わしは、この隊の大将だ。大将だけ逃げるなんて、そんなみっともない真似はできん」

 それが武士の生き方ってやつなんだろう。

「でも、大将がいなくなったら、戦は敗ける。近藤さん、逃げてくれ。後は俺たちが何とかする」

 土方さんもそう言ってくれた。

「いや、わしは逃げん」

 それでも近藤さんはそう言って聞いてくれなかった。

「大変です。外に敵が」

 そんなやり取りをしていると、鉄之助君が駆け足でやってきてそう報告した。

「なんだとっ!」

 土方さんのその声でみんな立ち上がり、外を見た。

 光明院が敵に包囲されていた。

「攻撃しますか?」

 鉄之助君がそう聞いてきた。

「いや、ここは変に刺激しねぇほうがいい」

 土方さんがそう言った。

「このまま敵に包囲されて、何もしないで俺たちは終わるのか?」

 永倉さんが土方さんにくってかかっていた。

「この街を、戦火に包みたくない。昨日ここに着いたばかりだが、なかなかいい街じゃないか」

 近藤さんがそう言うと、永倉さんも土方さんから離れた。

「よし、俺が出る」

 土方さんがそう言った。

「もしかして、降伏するのですか?」

 怖くなってそう聞いていた。

「いや、よく考えたら、近藤さんは大久保大和で、俺は内藤隼人だ。この隊も新選組と名乗ってはいるは、表向きは鎮撫隊となっている。俺たちは幕府に頼まれて治安を守りに来ただけであって、戦をするつもりなんて毛頭ない。と言いとおせば何とかなるかもしれん」

 土方さんはそう言うと立ち上がった。

「と言う事だ。俺がちょっと行ってくる」

「待ってくださいっ! 私も行きますっ!」

 土方さんを一人で行かせたくない。

 何もないと思う。

 それはわかっている。

 でも、万が一何かあったらと思うともう不安しかない。 

 不安で待っているだけなら、一緒に行ったほうがいい。

「わかった、ついて来い」

 土方さんはそう一言言った。

「近藤はわしがなんとかする」

 お師匠様もそう言ってくれた。

 よし、何とかなりそうだぞ。


 私たちは、敵の陣地へ行った。

 私たちの話を聞いてくれたのは、薩摩藩士である有馬藤太と言う人だった。

 この人は、近藤さんを護送する人だけど、近藤さんを処刑しないようにと言う人だ。

 この人がいない間に近藤さんは処刑されてしまうのだけど、それを知った時、ものすごく怒ったと言う事を聞いたことがある。

 土方さんは、みんなの前で言ったとおりのことを話した。

 自分は内藤隼人で、ここに武装しているのは、幕府に命じられて治安を守るためにいると言い、新選組の名前を一切出さなかった。

「それなら、武装解除するように」

 一言、そう言われた。

「わかった。本陣に戻ってそう伝える」

 土方さんがそう言うと、私に小さい声で

「行くぞ」 

 と言った。

 私たちは、光明院へ向かった。


「勇はん、やめてっ! 勇はんがいなくなったら、うちはどうしたらええんや」

 光明院に帰ったら、楓ちゃんの声が聞こえてきた。

 土方さんと急いで声のした方へ行くと、近藤さんが切腹しようとしていて、それを楓ちゃんが止めていた。

「生きて敗戦の将として恥をさらすなら、ここで潔く切腹したほうがいい」

 近藤さんはそう言って楓ちゃんが止めるのを聞かなかった。

「土方が敵と話し合いに行っている間にこっそり逃がそうと思っておったのじゃが、近藤も聞く耳持たんのじゃ」

 お師匠様が私のそばに来てそう言った。

「あげくに切腹すると言いだしたから、楓を出して止めたんだが、これもだめそうじゃ」

 そうだったのか。

「近藤さん、ここで切腹して死ぬのは、犬死だ」

 土方さんが近藤さんにそう言い放った。

「ここで死ぬのなら、運を天に任せて大久保大和の名で出頭し、自分たちはたんなる鎮撫隊だと言って敵を言い負かせたほうがいい」

 それで出頭して、相手が近藤さんを釈放してくれることを考えて土方さんは言っているのだろう。

「それが歳やみんなのためになるのなら……」

 近藤さんはそう言った。

 切腹はあきらめてくれたらしい。

「出頭せなあかんの?」

 楓ちゃんが悲しげな顔でそう言った。

 そうだ、楓ちゃんがいた。

「わしが出頭して解決するのなら、それが一番だろう」

「うちは嫌や」

 楓ちゃんは泣き始めてしまった。

「お師匠様、なんか方法はないのですか?」

 楓ちゃんを何とかしてあげたい。

 そう思い、お師匠様に聞いたけど、お師匠様も

「ここまで来たら、もう方法はこれしかないじゃろう。後はしっかりした助命を考えるしかないじゃろう」

 やっぱりそうなるのか?

「楓、今生の別れではないのだ。大丈夫だ。わしは生きて帰ってくる。連中を言い負かせてくるから、待っていろ」

 近藤さんは楓ちゃんの頭をなでながらそう言った。

「俺も、近藤さんを助けるために動くから、今はこれで勘弁してくれ」

 土方さんはそう言って近藤さんに頭を下げた。

「分かっている」

 そんな土方さんを見て、近藤さんはそう一言言った。


 夕方、武器をすべて敵に渡した。

 そして支度を全ての支度を整えた時はもう夜になっていた。

 近藤さんが隊士をつけて出頭した。

「行ってくる」

 一言、みんなにそう言って去って言った近藤さん。

 有馬藤太に会った時も、

「わしは大久保大和だ」

 と言い張っていたらしい。

 有馬藤太の方は近藤さんの事を知っていて、近藤さんと呼びそうになったけど、それを飲みこみ、対応してくれたようだ。


「俺たちももたもたしてられねぇぞ」

 土方さんはそう言うと、みんなに指示を出し始めた。

「斎藤、みんなを連れて会津へ行け」

「わかりました」

「俺は江戸に行って近藤さんの助命を頼んでくる」

「私も行きますっ!」

 近藤さんを救うために行くべきだろう。

 私がそう言って手をあげると、お師匠様も、

「わしも一緒に行く」

 と言ってくれた。

「俺も連れて行ってくれ」

 意外なのは、そう言った原田さんだった。

「護衛ぐらいしかできないが、一緒に行く」

 そう言ってチラッと私を見た。

 もしかして……。

「彰義隊に入ろうと思っていたりとか……」

 原田さんは、歴史では彰義隊に入り、上野戦争に参加して負傷し、死んでしまう。

「なんで自ら死にに行くようなことをするんだ? 俺は彰義隊に入って死ぬって蒼良が教えてくれたじゃないか。だから、それだけは絶対にしない」

 原田さんのその言葉を聞いて安心した。

「うちも行くっ!」

 楓ちゃんが勢いよくそう言った。

 そうだよね、じっと待っているだけなんてできないよね。

「一緒に行こうっ!」

「蒼良はん、おおきに」

「勝手に話を決めやがって。俺の護衛はいらねぇが、こいつらには護衛が必要だな。左之、頼んだぞ」

 土方さんがそう言うと、原田さんが力強くうなずいてくれた。

 まだ近藤さんは亡くなっていない。

 歴史を変えるチャンスはある。

 歴史を変えて、近藤さんを助けるぞっ!

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