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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年6月
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雨宿り

 今日は、藤堂さんと巡察だ。

 最近は、本当に何事もない。この暑さだから、昼間から悪いことをしようという人はいないのかもしれない。と、勝手に思ってみる。

 逆に、この暑さの中、真面目に巡察しているのも、私たちぐらいだろう。

「藤堂さん、暑いですね。」

 藤堂さんは、涼しげな顔をしている。

「江戸と比べると、盆地だからね。やっぱり暑い。」

「でも、藤堂さんは、暑そうに見えないですよ。」

「そうかな?暑いなぁと思っているけど。」

「ああ、かき氷が食べたい。」

蒼良そら、かき氷食べたことあるの?」

「えっ、藤堂さんはないのですか?」

「ないけど。」

「ええっ、かき氷を食べたことがないなんて。あれにアイスを乗せるとさらに美味しいし、シロップもかけ放題のところがあって、たくさんかけて食べると美味しいのなんのって。」

「あいす?しろっぷ?」

 しまった。暑さでうっかりしていた。ここは江戸時代だった。

 もちろん、冷蔵庫も冷凍庫もないので、かき氷なんて高級品だ。たぶん、将軍様とか、帝とかなら食べたことがあるんじゃないのかな?

 そう言う人が食べるものなので、私の言葉は思いっきり失言になる。

「藤堂さん、今のこと、忘れてください。」

「忘れられないよ。蒼良が、高級品であるかき氷を食べたことがあるなんて。」

「いや、なかったことに。」

「味はどんな味なの?」

「それはもう、冷たくて、ふわっとしているのが私は好きですね。」

「やっぱり、食べたことがあるんだ。」

 うっ、ひっかかってしまった。

「藤堂さん、冬になれば食べれますよ。水を外に出しておけば氷になるし。」

「冬になったら、食べたいとも思わないよ。」

 確かに。

 かき氷の話をしているうちに、空が黒い雲におおわれていた。

「蒼良、これは降りそうだぞ。」

「確かに、降りそうですね。」

 雨宿りできるところを探したほうがいいのかな?

 そう思いつつ、辺りを見回すと、見覚えのある子が通った。

「あ、牡丹ぼたんちゃん。」

「あれ?蒼良はん?どないしたん?」

「今、巡察中なんだ。」

「でも、雨降ってくるよ。早う帰らんと。」

 でも、ここから壬生まで帰るまで間に合うかなぁ。

「あ、壬生まで遠いよね。それなら、うちの置屋に来るとええよ。」

「えっ、お邪魔していいの?」

「かまへんよ。」

 ということで、藤堂さんと牡丹ちゃんの置屋にお邪魔することになった。


 牡丹ちゃんの置屋についたと同時にザーッと雨が強く降り出した。

「通り雨やさかい、すぐやむと思うよ。それまで中で休んだらええよ。」

 牡丹ちゃんの言葉に甘えて中に入った。

 女の子たちの視線を感じる。

「あれが壬生浪士組なん?」

「あの羽織はそうや。」

「野蛮な人たちがようけおるって聞いたけど、美形の人もおるんやな。」

「うちはあっちの人がええな。なんか優しそうや。」

「うちはそっちの人や。綺麗で男に見えんような顔してるもん。」

 聞こえないように話をしているのだろうけど、丸聞こえだ。

 思わず笑ってしまった。藤堂さんを見ると、赤くなってうつむいていた。

「藤堂さん、どうしたのですか?」

「こういうところは慣れなくて。」

「えっ、こういうところって?」

「女性がたくさんいて、なんか緊張してしまって。」

 えっ、そうなのか?私は平気だけど。

「蒼良は、よくここに来るの?」

「初めてですよ。」

「なんか、初めてに見えない。」

 そうかな?

 よくよく考えてみると、私は女だから、女性がたくさんのところにいてもなにも思わない。でも、逆にこの前みたいに、男性がふんどし姿でたくさんいたときは、なんか恥ずかしくて困ってしまった。

 藤堂さんは、この前の私みたいな感じなのかな。女性がいて恥ずかしいとか。

 でも、裸でいるわけじゃないから、恥ずかしがらなくてもいいと思うのだけど。

「お茶どうぞ。」

「牡丹ちゃん、そんな私たちにかまわなくてもいいよ。ここで雨宿りさせてもらえるだけでも、ありがたいんだから。」

「気にせんといて。うちの気持ちやさかい。」

「ありがとうございます。いただきます。」

 藤堂さんは、カチンコチンになってお茶を飲んた。なんかロボットみたいなんだけど。

「蒼良はん、久しぶりやな。」

「本当だね。あ、深雪太夫は元気ですか?」

「蒼良はんも、深雪太夫目当てなん?」

「…もっ、て?」

「あ、知らんの?壬生浪士組の局長しとる人。この前助けてくれた人や。」

「あ、近藤さん。」

「そうそう。その人が、深雪太夫に入れ込んどるみたいで、しょっちゅう会いに来るよ。」

 えっ、そうなのか?それにしても、揚屋に呼ぶお金をどこから工面しているのだろう。

 江戸の家から送ってもらっているのかな?

「深雪太夫も、近藤はんのことまんざらでもないみたいや。」

「まんざらでもないということは、両想いだ。」

「そうそう。」

 あれ?ちょっと待て。近藤さんは確か…。

「藤堂さん、近藤さんには奥さんがいましたよね。」

「えっ、ゴホゴホ。」

 急に話を振ったから、お茶が変なところに入ったらしい。

「大丈夫どすか?」

 奥から女の子が何人か出てきた。

 ええっ、なんでこんなに出てくるんだ?

「背中さすってあげます。」

「わてがさする。」

「うちが。」

 そのうち、藤堂さんの背中の取り合いで喧嘩になった。

「藤堂さん、もてますね。」

「ええっ。」

 藤堂さんは、ますます赤くなってうつむいていた。たまにはからかうのも面白い。

「喧嘩やめいっ!もう咳も収まっとるで。早う向こう行きっ!」

 牡丹ちゃんが女の子達に言った。

「いや、私たちは別に一緒でもいいよ。ね、藤堂さん。」

「ええっ。」

 藤堂さんは困った顔をしていた。

「みんな、出てきてええってよ。」

 女の子の一人が奥に向かって言うと、5~6人ぐらいさらに奥から女の子が出てきた。

 って、何人で話を聞いてたんだ?

 という訳で、女10人近くに男は藤堂さん一人。これは面白い。


 ゴロゴロゴロ!と雷が鳴った。

「きゃあ。」

 と、女の子たちは言いつつ、藤堂さんファンの子は藤堂さんへ。何人かは私にしがみついてきた。

「どさくさに紛れて、まったく!」

 牡丹ちゃんは怒りながら言った。女の子たちはえへへと笑っていた。

「でも、雷はほんまに怖いわ。」

 一人がそう言うと、みんなうんうんとうなずいた。

「雷って、ピカって光ってからなるまでの時間を測ると、自分と雷の距離がわかるのですよ。」

 みんなが怖がらないように、私は話した。

「ほんまに?」

「そう。光ってから鳴るまでの時間が長ければ、雷は遠くにある。短ければ近いのですよ。」

「あ、光ったから、数えてみよう。」

 女の子達と一緒に数えると、5秒ぐらいで鳴り出した。その次が3秒ぐらい。

「短くなったということは、近づいてきとるん?」

 牡丹ちゃんが恐る恐る聞いてきた。

「そうだね。近づいてきてるね。」

 そう言うと、周りから怖いわというつぶやきが聞こえた。

 そして次の雷は光ってからすぐに鳴った。

「きゃあ、すぐ上にいるわ。」

 一瞬大騒ぎになったけど、次が3秒ぐらいで長くなったので、

「さっきのが一番近くて、それからどんどん離れているみたい。」

 と、私が言うと、みんな落ち着いてきた。

「外で雷が鳴ったら、かんざしとかとったほうがいいよ。そして、なるべく低い姿勢で建物の中に入る。間違っても、木の下で雨宿りなんてしたらダメだよ。」

「なんで?」

「木に雷が落ちやすいから。」

「へぇ、そうなん?知らなかったわ。」

「こうやって知ると、少し雷のことが怖くなくなったでしょ。」

「うん、少しだけな。」

 牡丹ちゃんがそう言うと、みんなも笑いながらうなずいていた。

 藤堂さんは、相変わらず固まっていた。たくさんの女の子に抱きつかれたせいなのか?それとも雷のせいなのか?多分、女の子だな。


 雨が上がり、晴れ間が出てきたところで、牡丹ちゃんたちに挨拶をし、置屋を出た。

「蒼良は、よく平気でいられたね。」

「だって、同じ人間じゃないですか。」

「僕は、なんかおしろいの匂いが気になって、緊張してしまった。」

 おしろいの匂いって、緊張するのか?現代で言うと、香水と同じなのかな。それならなんとなく話はわかる。

 空を見ると、綺麗な虹かあった。

「虹だっ!」

「本当だ。壬生の方だね。」

「そうですね。消えないうちに急ぎましょう。」

「え、なんで?」

「虹の中をくぐるといいことがあるって、聞いたことがあるので。もしかしたら、屯所の上にあるのかも。急ぎましょう、藤堂さん。」

「蒼良は、面白いこと知ってるね。じゃぁ、虹をくぐりに行こう。でも、もしかしたら、壬生より遠いかもよ。」

「それなら、見れたことに感謝することにします。虹なんて、めったに見れないでしょう。」

「それもそうだね。じゃぁ、行こう。」

 藤堂さんと、雨上がりの道を泥を跳ねさせながら走ったのだった。

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