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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年3月
407/506

五兵衛新田

 怪我をした隊士たちを会津へ先に送り出した。

 その後、大久保邸から五兵衛新田という所へ移動した。

 五兵衛新田は現代で言うと足立区あたりになる。

 そこの金子さんというお宅にお世話になることになった。

 金子さんは、金子健十郎という名前で、五兵衛新田を開拓した金子五兵衛という人の子孫にあたる。

 家号と言って、名字以外にも呼び方があったのだけど、その呼び方が左内だったので、金子左内家とも呼ばれる。

 ちなみに家号とは、ここの場合、住んでいる場所の周りが親戚だらけという家が多く、親戚が多いと言う事は同じ名字の人も多いと言う事で、名字とは違う家の名前をつけてそれで呼んでいた。

 この金子家は、先祖が五兵衛新田を開発したと言う事もあり、土地をたくさん持っていてこの土地の名主となっていた。

 どういうつながりでここへ来ることになったかというと、良順先生がかかわっている。

 良順先生が高級餅菓子商の小島屋さんに、小島屋さんの遠い親戚にあたる金子さんの所に私たちの滞在を依頼してくれたらしい。

 甲陽鎮撫隊の時は浅草の矢野弾左衛門さんの配下の人たちを手配してくれたり、

 お金も出してくれたり、色々してくれた。

 今回も、永倉さんに三百両を出したり、こうやって滞在先を手配してくれたり、本当にお世話になっている。

 見返りなんてほとんどないのに。

「良順先生は、なんでここまで色々してくれるのでしょうか?」

 五兵衛新田へ行く途中、歩きながらそう言っていた。

 良順先生だけじゃない。

 京にいた時は鴻池さんも色々してくれた。

 鴻池さんは、自分は商人で兵を持てないから、何かあった時に助けてもらうために援助しているみたいなことを言っていたけど、良順先生は、そう言う事もない。

「なんでだろうな。こういう時に手を差し出してくれる人は本当にありがたいよな」

 土方さんも、前を見て歩きながらそう言った。

「絶対に損することなのに」

 こんなに色々してくれるけど、きっと得することはないと思うよ。

「それをお前が言うか?」

 土方さんが私をにらんできた。

「だって、私たちに援助して得をするのなら、私も嬉しいですけど、損するのですよ。なんか心苦しいです」

 そうなのだ、心苦しいと言うか、申し訳ないと言うか。

 良順先生の良心に対し、私たちは何も返すことが出来ないのだ。

「それはお前が心配することじゃねぇだろう」

 そう言いながら、ポンッと土方さんは私の頭に優しく手を置いてきた。

「俺たちが今できることを精一杯やればいい」

 土方さんの言う通りかもしれない。

 私は、私のできることを精一杯やろう。


 大久保邸から五兵衛新田へ、最初に隊士が四名移動し、次の日に大久保剛から大久保大和に名前を変えた近藤さんが移動した。

 その次に土方さんたちが移動した。

 私は土方さんと一緒に行くことになった。

 五兵衛新田に着いた時の隊士の数はとても少なかったのだけど、ここにいる間に毎日のように入隊希望者が来て、結果的に隊士が増えることになる。

 この日もここで二人ほど会った。

 一人は、鉄之助君だった。

 鉄之助君は京にいた時に土方さんの小姓をしていた。

「鉄之助君、怪我とかしてなかったの? 大丈夫?」

 鉄之助君に久しぶりに会った私はそう言いながら鉄之助君に近づいた。

 鉄之助君は鉄之助君で鳥羽伏見からずうっと一緒にいたと思うのだけど、鳥羽伏見は私もはぐれてしまうぐらいの戦乱だったし、その後すぐに江戸行きの船に乗って江戸に着き、それから甲州へ行くことになりという感じであわただしかったので、こうやってゆっくり会えなかった。

「私は大丈夫です」

 鉄之助君は落ち着いた笑顔でそう言った。

 その笑顔が、十五才らしくない大人びた笑顔だった。

「土方先生、お話があります」

 鉄之助君は、私の後ろにいる土方さんの姿を見つけると、土方さんに向かってそう言った。

「どうした?」

「私の兄は逃げました。ここにはいません」

 申し訳なさそうに鉄之助君が言った。

「そんな奴は山ほどいる。お前が気にすることはない」

 土方さんは優しくそう言った。

「私の兄はいませんが、私はここでみなさんと一緒にいてもいいですか?」

「当たり前だろう。今は一人でも人がほしいときだ。兄のことなんて気にするな」

「鉄之助君、一緒に行こう」

 私もそう言うと、

「ありがとうございます」

 と、鉄之助君は笑顔でそう言った。

 鉄之助君が去った後、

「あいつ、ますます大人の顔をして笑うようになったよな」

 と、鉄之助君の後姿を見て土方さんが言った。

「十五才であの戦を経験してしまったから、色々思うところがあるんじゃないですか?」

 現代の十五才は中学生で未成年と呼ばれ、大人に守られている。

 でも、この時代では十五才になると大人に近い扱いを受ける。

 鉄之助君の大人びた笑顔を見ると、まだ大人になるには早いんじゃないかなぁと思ってしまう。

「戦もあったし、いつまでも子供でいられねぇよな」

 土方さんがボソッとそう言ったのだった。


 そしてもう一人は……。

「なんでお師匠様がここにいるのですかっ!」

 金子さんの家に入ったら、お師匠様が金子さんとお茶を飲んでいた。

 用もないのに勝手にあがりこんでお茶まで飲んで、迷惑だろうがっ!

「おお、待っとったぞ」

 お師匠様は私の姿を見ると嬉しそうにそう言った。

「何があったのですか?」

 お師匠様がそう言うときはろくなことがない。

「ここでお前たちに追いついておかないと、もう会えないかもしれないじゃないかっ!」

 確かに、お師匠様の言う通りだ。

 新選組は、ここに滞在した後に流山へ行き、そこから東北の方へと進んでいく。

 連絡手段が乏しいこの時代、動いている相手を追いかけて会うと言う事は難しいことだった。

「先に会津で待っていると言う手もありますよ。後、蝦夷で待っていると言う手もありますよ」

「お前はわしが来るのがいやだったのか?」

 いや、別に嫌じゃないけど……。

「ところで、永倉と原田がいるが、お前、歴史を変えたのか?」

 私が変えたのではない。

 沖田さんの一言で変わったと言うべきか?

 と言う事で、今まであったことをお師匠様に話した。

「なるほど。沖田の病気がよくなっているのは、わしが現代から持ってきた薬のおかげじゃな」

 その通りだ。

 お師匠様がどこから持ってきたのかは知らないけど、沖田さんの労咳の進行をおさえる薬を持ってきた。

 その薬はおさえる薬であって、治す薬ではない。

 労咳、今で言う結核も、発病したら入院して治療をしなければ治らない病気なのだ。

「と言う事は、わしの活躍で変わったんじゃな」

 そ、そうなるのか?

 ちょっと、いや、かなり違うと思うんだけど、私だけか?

「そんな顔をするな。冗談じゃ、冗談」

 そ、そうだったのか?

「さすがわしの弟子であり、自慢の孫だ。よくやった」

 お師匠様は笑顔でそう言ってくれた。

「じゃが、これからが大変じゃ。覚悟はできておるな」

 ここまで来たんだから、覚悟はできている。

「できてます」

「よし。じゃあわしは先に会津に行って待っておる」

 ちょっと待ったっ!

 思わずお師匠様の袖をつかんだ。

「何をするんじゃ?」

「お師匠様、これからが大変なのですよね。それなのに、放置ですか?」

「放置しとらんじゃろう。お前がおる」

 いや、私だけでは無理だと思うぞ。

 これから起こることを考えると、絶対に無理だ。

「無理ですっ! 今までは何とかなって来ましたが、これからは本当に大変です。だから、お師匠様も一緒にいてください」

 私が必死で頼み込むと、しばらくお師匠様は考え込んでいた。

「確かにそうじゃな。これから先に起こることを考えると、わしもいたほうがいいかもしれんな。お前は近藤のことを言いたいのだろう?」

 そうなのだ。

 近藤さんは、ここを出て流山に着いた時に捕まってしまう。

 そして数日後に処刑されてしまう。

 それを阻止したい。

 流山に行くのを阻止すればいいのかもしれないけど、それだけで阻止できるのかも不安だ。

 流山に行くのさえ阻止できないかもしれない。

「できることは精一杯やりたいのです。あの時、ああすればよかったと後悔したくないのです」

 私の言葉を聞いたお師匠様は、

「わかった」

 と、一言そう言ってくれた。

「お前もなんかりりしくなってきたな」

 お師匠様は笑顔でそう言ってくれたけど、女の私にりりしいってほめ言葉じゃないからねっ!


 それから沖田さんの所へ顔を出した。

 元気だと言っても病人なので、病気が悪化していないか心配だったからだ。

 沖田さんにも個室があたえられていた。

「あ、蒼良そら。どうしたの?」

 部屋をのぞくと、沖田さんとすぐに目があった。

「沖田さん、大丈夫ですか? 具合悪いところとか無いですか?」

「僕は元気だよ。蒼良はいつもその話しかしないんだから、」

 だって、心配なのだ。

 本当なら、良順先生の知り合いの植木屋さんの離れで寝たきりの状態になっているのに、ここにいる沖田さんは元気だ。

 元気なのはいいことなんだけど、いつか急に具合が悪くなるんじゃないかと思い、不安になるし、心配なのだ。

「僕は元気だし大丈夫だよ。そんな心配そうな顔をしないで」

 沖田さんはそう言うと、私の顔をのぞき込んできた。

 本当に元気そうだ。

 大丈夫だよね。

「わかりました。具合が悪くなったらすぐに言ってくださいね」

「蒼良も、具合が悪くなったときにすぐに来てくれる場所にいてね」

 要するに、ちゃんと報告に来いって言う事だろう。

「わかりました。ちゃんと報告しに来ます」

「いや、報告もそうなんだけど、そばにいてほしいなぁって思ったんだよ」

 そうなのか?

「沖田さんがちゃんと大人しくここにいるのなら、私もいますよ」

 沖田さんはすきを見ては散歩と言って出かけていたから。

「ここにいるから、蒼良もいてね」

「わかりました」

 なるべく沖田さんの顔を見に来ようと思った。


 それから原田さんと永倉さんの所に行った。

 この二人が一緒に来てくれるなんて思わなかったので、まだ信じられないぐらい嬉しかった。

「ずいぶんと大きな屋敷だよな」

 永倉さんは金子さんの家を見渡してそう言った。

「そりゃそうだろう名主らしいぞ」

 キョロキョロしている永倉さんを見て原田さんがそう言った。

「そうか、なるほどな。八木さんの家を思い出すな」

 永倉さんがそう言った。

 金子さんの家を八木さんの家は似ていない。

 でも、他の人の家に居候すると言うところは似ているかも。

 だから思い出すのかもしれない。

 壬生も近くにお寺があった。

 ここも近くにお寺がある。

「八木さん、大丈夫かなぁ」

 原田さんがそう言った。

「八木さん、何かあったのですか?」

 そんな話は聞いていないけど。

「蒼良、俺たちは戦に負けた。しかも、向こうが官軍で俺たちは賊軍になる」

 永倉さんがそう話し始めた。

「賊軍になると、それを助けた奴やかかわった奴も征伐の対象になることもある」

 そ、そうなのか?

 確かに、歴史の授業でそんな話を聞いたこともある。

 でも、八木さんがどうにかなったと言う話は聞いたことがない。

「八木さんのことだからうまくやっているさ、なぁ、蒼良」

 原田さんは口では言ったけど、目がそう言ってなかった。

 それを証拠に、小さい声で

「八木さんはどうなるんだ?」

 と聞いてきた。

 原田さんは私が未来から来たことを知っている。

 八木さんは確か長生きしたと聞いたことがある。

 息子さんは新選組のことを話し、それが本になったとも言われている。

 だから、何もなかったと思うんだけど。

「大丈夫ですよ。長生きしたと聞いたことがあるので」

「あの人は長生きしそうだよな」

 私の言葉を聞いてホッとしたのか、原田さんが笑顔でそう言った。


 五兵衛新田に滞在中に再び新選組と言う名前に戻った。

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