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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年3月
405/506

甲陽鎮撫隊(4) 解散

 土方さんと一緒に八王子へ向かっている途中で、なんと、楓ちゃんに会った。

「か、楓ちゃんっ!」

 前を向いて必死で歩いている楓ちゃんを見かけ、私は楓ちゃんの横まで走った。

「あ、蒼良はんやないの。勇はんと一緒に甲州へ行ったんやなかったん?」

 楓ちゃんは顔だけは私に向けてくれたけど、前に進む足は止まることはなかった。

「援軍を頼みに江戸へ帰ってきたんだけど、援軍を頼んでいるときに甲陽鎮撫隊が敗走したと聞いて……」

「今、近藤さんの所まで向かっているところだ」

 気がついたら土方さんも私の隣に来ていた。

 そして、楓ちゃんにそう言った。

「お前はなんでこんなところを歩いている? まさか、近藤さんに何かあったのか?」

「土方さん、近藤さんは大丈夫です。ちゃんと帰って来ますよ」

 歴史では、ちゃんと帰ってきているのだから、大丈夫だ。

「ほんまに? ほんまに帰ってくるん?」 

 今度は楓ちゃんが私の肩を揺すってそう言った。

 本当にこの二人は近藤さんのこととなると、我を忘れると言うのか……。

「楓ちゃんも落ち着いて。ちゃんと帰ってくるから」

「蒼良はんは、なんで勇はんが無事やってわかるん?」

 なんでと言われても……。

 それは、私が未来から来たからさっ!なんて言えないし。

 言っても信じてもらえなそうだしなぁ。

「そうだ。さっきからお前は近藤さんは大丈夫だって言っているけど、それは何を根拠に言っているんだ?」

 ひ、土方さんまでそう言うか?

 土方さんは私が未来から来たことを知っているじゃないかっ!

 それなのに、聞いてくるのか?

 根拠なんて分かっているだろう。

 私がこの先の未来を知っているからだっ!

 でも、楓ちゃんの前でそんなこと言えないし……。

「とにかく、勇はんの無事を確認せんと、うちは落ち着かんのやっ!」

「俺も、近藤さんの姿を見るまでは落ち着けん」

 二人そろって歩く速度が速くなった。

 ほとんど走っているような感じがするのは、気のせいか?

 しかも、二人とも自分こそ先に行くんだっ!って感じで、片方が速くなると自分も負けじと速く歩いているような感じがするのですが……。

「あの……」

 私は息を切らしながら必死に追いつきつつそう声をかけた。

「す、少し、休みませんか?」

 こんな速さで歩いていたら、八王子まで持たないぞ。

「休んでいる暇があるかっ!」

「休んどる暇があるなら、勇はんに一歩でも近づくんやっ!」

 どうやら休めないらしい。

 私だけでも休むか?

 そう思って立ち止まると、

「おいっ! 何休んでんだっ! お前も行くんだっ!」

「蒼良はんっ! 休んとる暇はないでっ!」

 と、二人から怒られてしまった。


 八王子に着いた。

「近藤さんいねぇじゃないかっ!」

「勇はんおらんよっ!」

 二人が声をそろえて私に言ってきた。

 いや、それを私に言われても……。

「お前が八王子に行けば会えると言ったんじゃねぇか」

 確かにそう言ったかもしれない。

 だって、近藤さんだってきっと一生懸命に甲州街道を江戸に向かって歩いていると思うよ。

 そうすると、甲州街道の宿の一つである八王子を通るじゃないか。

「よし、甲州へ行くっ! 馬の用意をするぞっ!」

 いや、ちょっと待って。

 土方さんの着物の袖をつかんで止めた。

「なんだ?」

「ここで待っていれば来ますから。今、甲州へ行くのは危険です」

「待ってられん。うちは心配なんやっ!」

 今度は私たちを置いて行くように楓ちゃんが歩き始めた。

 か、楓ちゃん、待ってっ!

 今度は楓ちゃんの着物の袖をつかむ。

「うちは、勇はんに会うまで足を止めんっ!」

 いや、そんなことを言わないで。

「ここで待ちましょうっ!」

 そう言う私に二人は声をそろえて、

「待ってられるかっ!」

「待っとられへんわっっ!」

 と言ったのだった。

 ど、どうすればいいんだ?

「あ、土方さんじゃないか」

 この声は、永倉さん?

 そう思って声のした方を見ると、永倉さんと原田さんがいた。

 よかったぁ、ここで会えて。

「近藤さんはどこですか?」

 近藤さんに会えると思ってそう聞いたのだけど、

「俺たちもこれから探しに行くところだ」 

 と、原田さんに言われた。

 えっ、そうなのか?

「俺たちは、勝手に逃げ出した隊士を追いかけてここまで来たんだ。近藤さんは、吉野で土方さんの援軍を待っていたが、隊士たちは勝手に逃げて行きやがった」

 永倉さんがそう言うと、

「近藤さんは吉野にいるのか?」

 と、土方さんが永倉さんに食いつくようにそう言った。

「俺が最後に見たのは、小仏だ。小仏あたりで逃げた隊士たちに会えるだろうと思ったが、そこにもいなかったんだ。俺たちで隊士たちを問いただそうと思って追いかけたんだが、なかなか追いつかなくて、ここでやっと追いついたんだ」

 今度は原田さんが説明した。

「で、隊士たちを問いただすことはできたのですか?」

 隊士たちに会えたのか心配になり、私は聞いた。

「ああ。江戸にもどってまた隊士を募集して出兵すると言うのなら参加すると言っていた」

 永倉さんがそう言った。

 要するに、甲州で粘るより、出直したいと言うのが他の隊士達の意見なのだろう。

「俺たちは、その意見を隊士たちから預かったから、近藤さんに伝えに行くところだ。ところで土方さん、援軍はだめだったのか?」

 原田さんが土方さんを見てそう言った。

「だめだった」

 土方さんは一言そう言った。

「そうか」

 永倉さんが落ち込んだ声をさしてそう言ったので、しばらくシーンとなってしまった。

「お前たちが近藤さんの所に行くなら、俺も一緒に行く」

 土方さんはそう言って、原田さんと永倉さんと一緒に歩き始めた。

「うちも、一緒に行きますっ!」

 楓ちゃんも後をついて行くように歩き始めた。

「女はだめだ。ここで待っていたほうがいい。俺たちが近藤さんをここに連れてくるから」

 永倉さんは楓ちゃんにそう言った。

「男の姿になればええの? それならなるけど」

 楓ちゃんがそう言うと、土方さんと原田さんの視線が私に……。

 えっ、そうなるのか?

 しかし、永倉さんはそれに気がつかないみたいで、

「そう言う問題じゃない。ここから先は危ないんだ。敵がいつ攻めてくるかわからないんだぞ」

 と、必死に楓ちゃんを説得していた。

「でも、蒼良はん……ウグっ!」

 蒼良はんもこんな格好しているけど女やないのっ!って言いそうだったから、あわてて手で楓ちゃんの口をふさいだ。

「蒼良、急にどうした?」

 事情を知らない永倉さんは、いきなり私が楓ちゃんの口をふさいだように見えたのだろう。

「えっ、いや、楓ちゃんがくしゃみをしたそうだったので……」

 ご、ごまかせたか?

 永倉さんは、

「そうだったのか」

 と言いつつも首をかしげていた。

 不審に思っているぞ。

「とにかく、行くぞ。ここでのんびりしてられねぇだろうっ!」

 土方さんがそう言って歩き始めた。

「そうだな。俺たちも隊士たちの意見を伝えないといけないしな」

 原田さんもそう言って歩き始めた。

 あ、行っちゃうの?

 私も行こうとしたら、楓ちゃんに着物の袖をつかまれた。

「蒼良はんだけずるいっ!」

 えっ、そうなるのか?

 どうしよう?

「あ、勇はんっ!」

 突然、楓ちゃんが前を見てそう言った。

 えっ、近藤さん?

「どこにいるんだ? どこにもいねぇぞ」

 楓ちゃんの声が聞こえたのだろう。

 土方さんが前を見てそう言った。

「おるんやっ! うちにはわかるんよっ!」

 楓ちゃんはそう言ってかけだした。

 えっ、楓ちゃん?

 近藤さんを思うあまり、幻でも見たのか?

 しかし、幻ではなかった。

 楓ちゃんがかけだした先には近藤さんがいた。

 楓ちゃんは近藤さんの胸に飛び込んでいて、近藤さんは楓ちゃんに驚きつつもちゃんと抱きしめていた。

「こんなところで楓に会えるとは思わなかったぞっ!」

 驚きつつも笑顔で楓ちゃんを抱きしめる近藤さん。

「勇はんっ! 勇はんっ!」

 楓ちゃんは何回も近藤さんの名前を呼んでいた。

 その様子をみんなでそろって見ていた。

 感動の再会を邪魔したらいけないんだろうけど、今はそう言う事をしている時ではないと思うし……。

 でも、二人の嬉しそうな様子を見ていたら、邪魔なんかできないし……。

「近藤さん、そろそろ」

 そう言う土方さんを私は止めていた。

「せっかくの再会なのですから」

「そんなこと言っている場合かっ!」

 怒鳴られてしまった。

「楓ちゃんに先を越されたからって、怒らなくても……」

「なんだとっ!」

「いや、何でもないです」

 これ以上、土方さんを怒らせると危ない。

「近藤さん、隊士たちにここで追いついたから問い詰めておいたぞ」

 永倉さんも待っていられなかったのだろう。

「そうか。ご苦労だったな」

 近藤さんは楓ちゃんを優しく離した。

 その時に私たちの前に一人の男の人が近づいてきた。

「甲陽鎮撫隊か?」

 男の人は私たちを見回してそう聞いてきた。

「いかにも」

 近藤さんが男の人の方へ一歩出てそう言った。

「大久保はいるか?」

 ん?大久保?

 あっ、近藤さんの名前だ。

 大久保剛という名前になっていたんだ。

「わしが大久保だ」

 近藤さんが大久保だと言うと違和感があるなぁと思うのは私だけか?

「おぬしか。早々に引き揚げよと言う命が下った」

 そ、そうなのか?

「わかった。ご苦労だった」

 近藤さんがそう言うと、男の人は来た道を早々に去っていった。

 それを見送ると、

「左之、新八。話を聞こう。ここじゃあなんだから、移動するぞ」

 と、近藤さんが言った。

 そう言った近藤さんの顔は、楓ちゃんの前で見せていた笑顔ではなく、きりっとひきしまった顔をしていた。

 

 逃げた隊士たちは多賀神社という神社に集まっていた。

 そこで今後のことを話しあった。

「そうか。みんなは兵を集め直せば、再度出兵してもいいと言っているのだな?」

 永倉さんと原田さんの話を聞いた近藤さんがそう言った。

「幕府からも引き上げろって命がきているのなら、ここは江戸に帰ったほうがいいだろう」

 土方さんがそう言った。

 永倉さんと原田さんもうなずいていた。

「分かった。そうしよう」

 近藤さんはそう言ったあと、

「甲陽鎮撫隊はここで解散とする」

 と言った。

 ここで、甲陽鎮撫隊は解散した。


 隊士たちは各々江戸の大久保邸という所へ集合することになった。

「これでまた隊士が減るだろうな。江戸には何人隊士が集合するんだろうな」

 土方さんはボソッとそう言った。

 確かこの後、原田さんと永倉さんの分裂があったと思う。

 それは何としてでも阻止したい。

 阻止できるだろうか?

「おい、難しい顔しているな。もしかして、隊士は集まらねぇのか?」

 土方さんが私の顔をのぞき込んでそう言った。

「何人集合するかはわかりません」

 うわの空で私はそう言った。

 私は、原田さんと永倉さんのことで頭がいっぱいだった。 

 なんとかして阻止しなければっ!


 

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