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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年1月
393/506

江戸での日々

 江戸に着いた次の日、近藤さんが江戸城に呼び出されていたので、土方さんと一緒に江戸城へ行った。

 しかもこの呼び出しは数日前に出されていたものらしい。

 数日前って、私たち船の上にいたからね。

「江戸城へ行くのが遅れてしまったのですがいいのですか?」

 江戸城だぞ。

 あの江戸城の中の人から来るように言われて、遅れた場合は何かあるのかものすごく心配になった。

「別に遅れてもなにもねぇよ。向こうもそれを承知で送ってんだろうから」

 土方さんはめんどくさそうにかみしもを着ながらそう言った。

 裃とは、歴史のドラマで出てくるような、肩の所がぴんっと横にはったチョッキのような上着に、下は袴だ。

 昔はズルズルと引きずるようなものをはいていたらしいのだけど、今は普通の袴だ。

 この裃、正式な場所に行くときに着るもので、現代で言う所のスーツのようなものになる。

 裃を着た近藤さんと土方さんは江戸城へ行った。

 その数日後、日野から佐藤彦五郎さんたちが会いに来てくれた。

 佐藤彦五郎さんは、土方さんのお姉さんの旦那さんで、私たちが京にいる時も、江戸から何かと世話をしてくれた。

 今回も、真っ先に会いに来てくれたのが嬉しかったみたいで、土方さんも近藤さんも笑顔で出迎えた。

 その時に、江戸城に呼び出されて何を話してきたんだ?という話題になった。

 やっぱり、江戸城では鳥羽伏見の戦いのことが聞きたかったらしく、佐倉藩士の人に、

「刀や槍で斬り合う時代はもう終わった」

 と、土方さんはさっぱりした表情で言ったらしい。

「そうなのか? 薩摩なんかは何を使っていたんだ?」

 彦五郎さんは刀以外に何があるんだ?と言いたげに聞いてきた。

「銃だよ、銃。薩摩藩が使っていた銃は異国のものらしい」

 土方さんはそう言った。

 確か、アメリカの南北戦争の時に使われた銃が日本に輸出されていると言う事を聞いたことがある。

「わしも、鳥羽伏見の戦いのときは大坂城にいたから状況がいまいちよくわからなかったが、そんなにすごかったのか?」

 近藤さんがそう聞いてきた。

 そうなんだよね。

 近藤さんの襲撃事件を阻止することが出来たから、五体満足で近藤さんは戦いに参加できると思っていたら、慶喜公たちと一緒に大坂城に閉じ込められていた。

 ずうっと作戦会議をしたり、敗戦の報告を受けたりしていたらしい。

「そうか、勇さんは戦に参加していなかったのか」

 彦五郎さんは初めて知ったらしく、そう言った。

「ところで、源三郎の姿を見ないが……」

 彦五郎さんは、周りを見回しながらそう言った。

 近藤さんが困ったような顔をして土方さんを見た。

「源さんは、亡くなった。仲間を逃がすために自ら犠牲になった」

 土方さんは、まっすぐ彦五郎さんを見てそう言った。

 本当は、源さんはお師匠様が未来へ連れて行った。

 ただ、

「源さんは未来へ行きました」

 なんて言っても誰も信じてくれないだろうし、とうとう頭がくるったかと思われそうなので、亡くなったことにしておこうと言う事になった。

 土方さんの報告に、みんながシーンとなった。

「そうか」

 その沈黙を破るように彦五郎さんがそう言った。

 源さんはいい人だったから、亡くなったと聞いたら悲しむ人も多いだろうなぁ。

 その沈黙を破ったのは、お茶をもって入ってきた楓ちゃんだった。

「そうだ、みんなに紹介したい人がいる」

 近藤さんがそう言って楓ちゃんの方を見た。

 もしかして、

「わしの妾だ」

 って紹介するのか?

 みんな、近藤さんの奥さんを知っているからね。

 ここで紹介してどうするんだ?

 まさか、妾だって紹介しないよね?

 別な人だって紹介するよね?

「この京美人は、わしの妾だ」

 近藤さんのその言葉に、さっきとは違う沈黙がおりてきた。

 本当に紹介しちゃったよ。

「楓と申します」

 楓ちゃんは丁寧にあいさつをした。

 みんなも、

「あ、どうも」

 と言いながら挨拶をしたけど、どう接していいのかわからないような感じだった。

「どうしても、楓と別れることが出来なかった。だから、ここまで連れてきてしまった。楓には辛い思いをさせてしまうと思うが……」

 近藤さんがそう言うと、

「ええんですよ。それを承知でここにおるのですから」

 楓ちゃんは近藤さんに笑顔を向けてそう言った。

「さすが俺の楓だ」

 近藤さんはそう言いながら笑っていたけど、場の空気はやっぱりシーンとしていたのだった。

 この空気をどうしろと言うのだ?


 その後も土方さんと近藤さんはあわただしく動き回っていた。

 私は医学所にいる沖田さんが気になったので、医学所に顔を出した。

「あ、蒼良そら。また僕のことを忘れているかと思ったよ」

 沖田さんは布団の上で起きていた。

 見た感じ、元気そうだった。

 船にいた時は船酔いで何も食べていなかったようだけど、ここ数日で船酔いもとれたのだろう。

 顔色もよくなっていた。

「忘れるわけないじゃないですか」

 私はそう言いながら、医学所に来る途中で買ったお団子をあけた。

「沖田さんと一緒に食べようと思って、買ってきました。どうぞ」

 お団子を渡すと沖田さんは笑顔になった。

「ありがとう」

 二人でお団子を食べながら、彦五郎さんたちが来てくれたことを話した。

「僕も会いたかったなぁ」

「そのうち会えますよ。沖田さんのことも心配していましたから」

 医学所にいると言ったら、そのうちそっちにも顔を出すようなことを言っていた。

「僕は元気なんだから、みんなと一緒にいたっていいんだと思うんだけどね」

「いや、だめです。ここで無理をして何かあったら大変ですからね」

「蒼良は大げさなんだよ」

 大げさじゃない、心配なんだ。

 しばらくそんなことを言い合っていた。

「ところで、沖田さんはご実家に連絡したのですか?」

「え、何を?」

 何をって……。

「江戸に帰ってきたことをですよ」

 沖田さんが江戸に帰ってきたことを知ったら、お姉さんのおみつさんが飛んできそうなんだけど、おみつさんのおの字も出てこない。

「なんで?」

 なんでって……。

「心配していると思いますよ、おみつさんが」

「いいよ、別に」

「いや、だめですよ。ちゃんと連絡入れておきますね」

 でも、おみつさんの旦那さんである沖田林太郎さんから情報が行くと思うけどね。

「いいよ。また変な薬持ってこられたら困るじゃん」

 そうなんだよね。

 おみつさんは弟を心配するあまり、ものすごく高価なんだけど明らかに効き目が無い物を取り寄せてくる。

 人間のミイラを削ったものとか、色々だ。

「それだけ沖田さんのことが心配なのですよ」

 それは確かだと思う。

 弟をいじめようと思って持ってきているのではない。

「でも、それを飲まないといけない身にもなってよ」

 沖田さんはそう言うけど、今まで飲んだことないですからねっ!

 だいたい飲む一歩手前で運よく気がつくから飲んだことがない。

「笑顔で受け取って、後ろで捨てればいいのですよ」

「蒼良もひどいことを言うね」

「それなら、沖田さんは飲むのですか?」

「いいや、蒼良にあげるよ」

 いや、いらないから。

「いるか?」

 そんな話をしていると、襖から声がした。

 誰だろう?

 沖田さんの顔を見たけど、知らないと首をふった。

 えっ、誰だ?

 襖を見ると、そおっと襖があいた。

 そこから斎藤さんが顔を出した。

「えっ、斎藤君? どうしたの?」

 沖田さんが驚いてそう聞いた。

「ここに用があったから、ついでに来た」

「あ、ついでね、ついで」

 沖田さんは斎藤さんが言った『ついで』と言う言葉を強調するように言った。

「そう、ついでだ」

 斎藤さんはニヤリと笑ってそう言った。

「ここに用って、何の用ですか?」

 医学所に用って、あまりいい用事じゃないよね。

「怪我したところがうまくつかなくてな」

 えっ!

「斎藤さん、怪我していたのですか?」

 いつ怪我したんだ?鳥羽伏見でか?それ以外考えられないよね。

 船の中で永倉さんと斬り合いしたとか言う話は聞いてないし。

「騒ぐな。そんな大げさなものではない。ちょっとした切り傷だ」

 切り傷にちょっとしたも何もないですからね。

「で、ついでにここに来たんだ」

 沖田さんはまだそう言うか。

「ああ。土方さんにも総司の様子を見てほしいと言われたからな」

 あ、そうだったんだ。

「土方さんも斎藤君をよこさないで自分で見に来ればいいじゃないか」

 沖田さんがいじけ始めた。

 これはやばいかも。

「沖田さん、土方さんも近藤さんも忙しいのですよ。毎日出かけて歩いていますからね」

「ここに来る暇もないぐらいな」

 斎藤さんも、どうしてまた沖田さんをいじけさせるようなことを。

「いいよ、別に」

 沖田さんはそう言ってそっぽを向いた。

「さて、帰るぞ」

 えっ、そうなのか?

「お前も一緒にだ」

 えっ、私も一緒に帰るのか?

「早くしろ」

 そ、そうなのか?

「蒼良、帰っていいよ。今日はご苦労だったね」

 沖田さん、いじけてるよね。

 その言い方は明らかにいじけている。

「あのですね……」

 いじけないでくださいと言おうとしたけど、

「早くしろ」

 と、斎藤さんに言われたので、

「また来ますね」

 と言って沖田さんの所を後にした。


 江戸の町を歩いて宿まで向かった。

 まだ、新選組はどこで待機していいのか場所が決まっていないので、とりあえず品川の釜屋と言うところでお世話になっている。

「ちょっと寄ってもいいか?」

 斎藤さんはそう言うと、宿までの道からそれて歩き出した。

「どこへ行くのですか?」

 私が聞いても、

「ちょっとそこまでだ」

 と言って教えてくれなかった。


「わあっ! 綺麗っ!」

 着いた場所は梅が満開に咲いていた。

 そうだ、もう梅の季節なんだよね。

 一月なんだけど、現代の暦に直すと二月になる。

 着いた場所は、亀戸天神だった。

 そこにある庭園の梅がちょうど見ごろになっていた。

「今年は梅を見るどころの騒ぎじゃなかったからな」

 そうだった。

 見る余裕もなかったし、考える余裕もなかった。

「天神宮に来れば、だいたい梅はあるからな」

 そ、そうなのか?

 天神宮と言えば、菅原道真だし、菅原道真と言えば梅の和歌を詠んでいるからかな?

 斎藤さんとしばらく梅を見ながら歩いていた。

「お前は江戸の者だと聞いたが、家族とか会わなくていいのか?」

 斎藤さんにそう言われた。

 斎藤さんは私が未来から来たことを知らないから、本当のことは言えない。

「家族はここにはいません」

 私は江戸生まれなのですが……とか、色々考えていたのだけど……。

「そうか。お前も苦労をしたのだな」

 と言われてしまった。

 なんか知らないけど、ごまかせたぞ。

「斎藤さんこそ、ご家族と会わなくていいのですか?」

 斎藤さんだって、家族がいると思うけど……。

「俺も、家族はいない」

 そ、そうなのか?

 現代でも斎藤さんの生まれは明らかになっていないもんなぁ。

 会津とつながりがある説まであるし。

 思い切って聞いてみるか?

 口を開きかけた時、

「どっちが好きだ?」

 と、逆に聞かれてしまった。

 えっ、なにがだ?

「梅酒と梅干し、どっちが好きだ?」

 梅の花を見ながら斎藤さんはきいてきた。

「もちろん、梅酒です」

「そうだろうな」

 私の答えを聞いて、斎藤さんは笑ってそう言った。

「これだけ梅の花が咲いていたら、初夏に梅がたくさん実りそうですね」

 梅酒飲み放題という感じだろう。

 私のその言葉を聞いて斎藤さんは声を出して笑っていた。

「あはは。お前らしいことを言うな。花より団子だな」

 そ、そうなのか?

「いい気晴らしが出来た。帰ろう」

 斎藤さんがそう言って歩き始めたので、私も一緒に歩いた。

 梅が見れたから、桜も見たいともうのだけど、今年は桜が見れるのだろうか?

 これから先に起こることを考えると難しそうだな。

 遠くになってしまった亀戸天神の梅を見てそう思ったのだった。

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