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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年1月
391/506

鳥羽伏見の戦い(6) 大坂城炎上

 敗北しまくり、何とか大坂城へ新選組は集合したけど、次の日、慶喜公をはじめとするこの戦の大将たちが江戸へ帰ってしまった。

 しかも、榎本さんが乗ってきた開陽丸と言う船に乗って。

 土方さんたちは置いてけぼりにされた榎本さんと一緒に富士山丸と言う船に乗ることになった。

 動ける人たちは、順道丸という船に乗ることになった。

 こちらは、永倉さんたちが中心になって乗ることになった。

 私は元気だから、順道丸に乗ることになりそうだな。

「お前は、富士山丸だ。俺と一緒だ」

 土方さんに私はどっちに乗るか聞いたら、そう言われた。

「えっ、私、動けますよ」

 動けるし、怪我もしていないけど、富士山丸なのか?

「お前、怪我人ばかり乗せてたら、誰も動けねぇだろうが」

 そう言われるとそうだよな。

「土方さんは、こいつをこき使うつもりなんですか?」

 突然、後ろから斎藤さんの声がした。

「なんだ、斎藤」

「こいつだって疲れてるだろうし、船酔いをするだろう。それに元気なんだから、俺たちと一緒の方がいいだろうと思うのですが」

 斎藤さんがそう言ってきた。

「私は大丈夫ですよ」

 なんか知らないけど、船酔いしないし。

「いや、お前が酔ったら、土方さんが大変だろう。だから俺と一緒に来い」

 そ、そうなのか?

「何言ってんだ。俺は大丈夫だ。だからお前は富士山丸に乗れ」

「いや、順道丸に乗れ」

 斎藤さんと土方さんにそう言われた。

 どっちに乗ればいいんだ?

 ここは平等に……。

「じゃんけんしてもらって、勝った方に乗りましょう」

 一瞬、二人とも黙ったから、もしかしてこの時代はじゃんけんがないのか?と思ったのだけど、

「よし、やるぞ」

 と言って二人ともじゃんけんを始めた。

 なんだ、あるんじゃん。

 そしてその結果、

 土方さんが勝った。

「お前は富士山丸だ」

 というわけで、私は富士山丸に乗ることになった。

 

 乗る船も決まり、大坂城もあけ渡すことになったので、私たちは大坂に来るといつも泊まっていた船宿の京屋さんに泊まることになった。

 来た当日は、戦の疲れもありみんなすぐに床に入った。

 そして起きたら昼過ぎだった。

「ずいぶん寝ちゃったなぁ」

 高くまで上がっていた太陽を見て私はそう言った。

「お前だけじゃねぇよ。俺も今起きたばかりだ」

 そう言った土方さんは、ちゃんと着物に着替えていた。

 今じゃなく、だいぶ前に起きていたんじゃないのか?

「気にするな。みんなまだ寝てる。お前も起きたのが早い方だ」

 そう言われると、京屋に入るといつも賑やかなのに、今日は静かだ。

 土方さんは淡々と出かける準備をしていた。

「どこかへ出かけるのですか?」

「お前も来るか?」

 ど、どこに行くんだ?

「鴻池さんの所だ。もうすぐ船に乗ってここを去るから、その前に挨拶しておこうと思ってな。ま、鴻池家もそれどころじゃねぇと思うがな」

 そうなのか?

「とにかく行ってくる」

 土方さんが出かけようとしたので、

「私も行きますっ!」

 と言ってついて行った。

「行くなら、支度して来い」

 土方さんに言われて気がついた。

 まだ、ねまきの浴衣だった。


 大坂の町を歩くと、荷物を抱えて逃げる人たちがたくさんいた。

「戦があったからな」

 土方さんが歩きながらそう言った。

 そうか、戦があったから、みんな逃げるところなんだ。

「大坂城も主が変わりそうですしね」

 慶喜公とか江戸に帰っちゃったし。

 そのうち政府軍がここに来る。

 政府軍が来る前に私たちも大坂の町を出るんだろうなぁ。

 騒々しい街を歩き、鴻池さんの所に着いた。

 ここも、騒々しい街中と同じで、引っ越しをするような感じになっていた。

「忙しいところすまないが……」

 土方さんが鴻池家の人に声をかけると、

「ああ、来たんか?」

 と、中から声がして鴻池さんが出てきた。

「ちょいと騒々しいけど、あがって行き」

 鴻池さんにそう言われ、私たちは中に入った。

「ただ、今日は何も出せへんけどな」

 こんな忙しいところにお邪魔してしまったんだから、何かを出してもらうなんて申し訳ない。

「今日は挨拶に来ただけだし、こんなあわただしい中、こっちもそこまで望んじゃいない」

「大丈夫ですよ。今日はお金を借りに来たわけじゃないので」

 ただ、挨拶に来ただけだ。

「お前、その言い方だと、いつも金借りに来ているようじゃないか」

 土方さんだって、お金をたまにしか借りていないような言い方じゃないか。 

 鴻池さんも、いつも笑顔で貸してくれるから、すっかり甘えてしまっていた。

「まあまあ、うちはええんよ。うるさいけどどうぞ」

 奥の部屋に通され、いつも出される座布団もなかった。

 本当にあわただしいところにきちゃったなぁ。

「それにしても、あんさんらも色々大変やったなぁ」

 鴻池さんは、笑顔だったけど私たちをねぎらうかのようにそう言ってくれた。

「鴻池さんだって、私たちの戦のせいでこんなことになってしまって」

 引っ越しのような感じだから、きっとどこかへ行くのだろう。

「うちはここがのうなっても、行く場所があるさかい平気や。支店があるさかい」

 鴻池さんは両替商をやっていて、色々な大名にもお金を貸している、大商人だ。

「あんさんらはこれからどこへ行くん?」

「江戸に帰ることになった。今日はその挨拶に来たんだ。色々と世話になった」

 土方さんはそう言うと頭を下げた。

 私もあわてて頭を下げた。

「江戸に帰るん? とりあえず帰れてよかったんやないの? こういう時はええこと考えんと。いつまでも負けを引きずっているとほんまに負けてしまうで」

 その通りだよね。

「そうだな。江戸に帰って家族に会えるのは嬉しいな」

 土方さんがそう言って笑顔になった。

 そうだ、みんなにまた会えるんだよね。

 そう考えると嬉しいことなのかもしれないなぁ。

「戦はまだ続きそうなん?」

「そうですね。当分続きそうです」

 私が答えた。

「そうなん? じゃあ当分ここには戻れんなぁ」

「すみません」

「蒼良はんが謝ることやないやろう」

 そう言えばそうだよね。

「土方さんも謝らないと」

「なんで俺が?」

 なんでと言われると……。

「長々と戦に参加するのですから」

 私がそう言ったら、

「そうなん? それは責任重大やな」

 鴻池さんは私が未来から来たことを知っている。

 というか、あまりにも変わったものを知っている私を見て、普通と違うと思っていたらしい。

「鴻池さんまでそんなことを言ったら、こいつが調子に乗るだろう」

 土方さんが私をチラッと見て言った。

 そ、そうなのか?

 そんな話で盛り上がっていると、

「大変ですっ!」

 と、お店の人が入ってきた。

「どないしたん?」

「城が、城が燃えとりますっ!」

「なんだとっ!」

 みんなでそう言って立ち上がった。

 大坂城って、ここで燃えるんだったのか?


 外に出ると、いつも大坂の町を見下ろすように立っていた城が、炎に包まれていた。

「これはあかんっ!」

 鴻池さんはそう言うと、急いでお店の中に入って行った。

 どうしたんだろう?

 お店の中をのぞいていると、大きな荷物をもって鴻池さんが出てきた。

 しかもたくさんの人と一緒に。

「うちらは先に行くわ。見送りも出来んですまない」

 そう言うと、鴻池さんは走り去っていった。

「どうしたのですかね」

 鴻池さんの走り去って言った方向を見て私は言った。

「どうしたって、大坂城が燃えているからだろう。町に燃え移ったら、町中が燃えるぞ」

 あ、そうか。

 この時代、建物は木と紙でできているから、火事になったらあっという間に燃え広がってしまう。

「おい、俺たちもここで立っている場合じゃねぇぞ」

「何かあったのですか?」

「近藤さんが大坂城へ出かけるって言って出て行った」

 ええっ!そ、そうなのか?

「も、もしかして、近藤さんは……」

「大坂城にいる」

 そ、そうなのか?

 近藤さん襲撃事件を阻止して、今の近藤さんは無傷で元気なのに、それを変えたせいで、ここで亡くなってしまうとかって、ないよね?

「とにかく、戻るぞ」

「はいっ!」

 私たちは京屋に戻った。


 京屋に戻ると、楓ちゃんが大坂城を見て興奮していた。

「勇はんが、勇はんがあそこにいるんよっ! うちもあそこに行くっ!」

 そう言って大坂城の方へ走って行こうとする楓ちゃん。

「ち、ちょっと待ってっ!」

 あわてて止めた。

 あんな燃えているところに行くなんて、死にに行くようなものだろう。

「行かせてっ!」

 楓ちゃんは私が止めるのもかまわずに行こうとする。

「楓ちゃん、だめだよ」

 一生懸命楓ちゃんを止めている横で。

「よし、俺が行くっ!」

 と言って、土方さんまでも大坂城へ行こうとしていた。

 おい、ちょっと待ていっ!

「土方さんも、だめですよ」

 右手で楓ちゃんの袖をつかみ、左手で土方さんの袖をつかんでいた。

 二人とも、何を考えているんだっ!

 近藤さんが好きなのはわかるけど、火事の中に飛び込んだって、近藤さんは喜ばないからねっ!

 誰か、この二人を何とかしてよっ!

「何してんだ?」

 誰か来たぞっ!

「この二人が……」

 大坂城に行くと行って聞かないのですよっ!

 と言おうとしたら、

「近藤さんっ!」

「勇はんっ!」

 二人はその声の主の元へ走って行った。

 すぐそこにいるんだから、走る距離でもないだろう。

「どうしたんだ?」

「近藤さんこそ、大坂城に行ったんじゃなかったのか?」

 土方さんが近藤さんの方へ行ってそう言った。

「いやぁ、行こうと思って近くまで行ったんだが、ちょうど門をくぐろうとしていた時に、火事だっ! って声がしてみたら火が出ていたから帰ってきたんだ」

 そうだったんだ。

「よかったぁ。うちは心配で心配で。居ても立ってもいられんかったんよ」

 楓ちゃんは目に涙を浮かべながらそう言うと、

「よしよし」

 と言って、近藤さんは優しく楓ちゃんを抱きしめた。

「それにしても、なんで城から火が出たんだ?」

 土方さんが燃える大坂城を見てそう言った。

「なんでも、大坂城内は敗戦して大将もいなくなったと言う事で、色々な人間が入って荒れていたらしいぞ。その混乱の中で火が出たのだろう」

「色々な人間って、誰ですか?」

 もしかして、政府軍か?

「お前、そんなこと聞かなくてもわかるだろう。昔から、戦に負けて城に誰もいなくなると物盗りとかが金目のものがないか入って城を荒らすものなのだ」

 そうなんだ、知らなかった。

 そう言われるとそうだよね。

「勇はんが無事でよかったわぁ」

 楓ちゃんの声が聞こえてきた。

「わしも、楓がいてよかったよ」

 そのやり取りを見ていると、

「おい、見世物じゃねぇんだからそんなに見るな」

 と、土方さんに言われてしまった。


 次の日には、大坂城は綺麗に無くなっていた。

 それを見て改めて敗けたんだなぁと実感した。

「そんな物ながめている暇はねぇぞ」

 大坂城跡をながめていると、土方さんにそう言われた。

 そうだった。

 今日は、木津川口と言うところに泊めてある船に、怪我をした隊士を乗せる。

 みんなで、歩ける人は支えながら歩かせて乗せ、歩けない人は戸板に乗せたまま船に乗せた。

 その中に沖田さんもいた。

「蒼良、大変だったね」

 沖田さんは元気そうだった。

「大丈夫ですか?」

「また蒼良がいつもそうなんだから。僕は元気だよ。土方さんにもみんなと一緒に乗るって言ったのに、だめだって言うんだもん」

 それはそうだろう。

 今は元気かもしれないけど、いつどうなるかわからないもん。

「蒼良はどっちの船に乗るの?」

「富士山丸です」

「じゃあ一緒だね。ならいいか。先に乗っているね」

 沖田さんはそう言うと、一人でさっさと船に乗って行った。

 元気そうでよかった。


 そして次の日には、永倉さんたちが順道丸に乗って行った。

 それを見送った。

 その次の日には、私たちが船に乗る番だ。

 これで本当に大坂ともお別れだ。

 そう思うと寂しいけど、懐かしい人たちに会えると思うと、寂しさも飛んでいくから、そう思う事にしよう。

 

 ところでお師匠様はどうしているのだろう。

「そういえば、お前に文が来ていた」

 土方さんから文を渡された。

 私に文を出すのって、お師匠様ぐらいだよね。

 中を読んでみると……。

 なんでお師匠様まで土方さんのような字を書くんだ?

 文字を続けて書いたら読めないだろう。

「どうした? 読めねぇのか?」

 文を広げて固まっている私に、土方さんが声をかけてきた。

「すみません」

 土方さんに渡すと、土方さんが声に出して読んでくれた。

 それによると、お師匠様は慶喜公たちと一緒に船で先に江戸に行くからと言う事だった。

 お師匠様、慶喜公とかと知り合いなのか?

 いや、その側近と知り合いとか?

 でも、お師匠様のことだから、慶喜公と顔見知りになっている可能性はある。

 いったい、どこまで顔を広げているんだ?

「おい、お前も文字を読めるようになったほうがいいぞ」

 色々考え込んでいると、土方さんにそう言われた。

 字は読めるのだ。

 ただ……。

「土方さんもお師匠様も、あまりに芸術的な字を書くので、芸術を理解できない私には読めないのですよ」

 そう言ったら、

「そうか、そうか。芸術的か」

 と、土方さんは満足そうに笑っていた。

 文字が芸術的っていいことなのか? 

 

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