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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年6月
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祇園祭

 家茂公が江戸に帰ることになった。

 やっぱり、ちょっと前に老中が大坂に千数百の兵を連れてきたのが、原因なのか?

 結局、その兵も、家茂公に説得され、江戸に帰った。ちなみに、その老中も、家茂公が江戸に帰ったら罷免される。


 私たちは天保山というところまで警護した。山と書いてあるけど、港だ。その後、直接京に戻った。

 という訳で、数日ぶりの京になった。


蒼良そら暇か?」

 巡察を終えた原田さんが聞いてきた。

「暇ですよ。なんですか?」

「祇園祭に行かないか?」

 えっ、終わったはずじゃあ?

 話を聞いてみると、祇園祭は1ヶ月ぐらいやるらしい。その中でもクライマックスが宵山と言って、それは、大坂にいるときに終わってしまった。

 原田さんが誘ってきたのは、山鉾やまぼこと言う山車だしが、八坂神社に帰ってくる後祭あとのまつりというものを見に行こうというものだった。

 宵山と比べると、山鉾の数も少ないし、規模も小さいみたいだけど、祇園祭りであることに変わりはない。それに、現代では後祭はあるけど、山鉾は出ないらしい。ということは、現代と違うものが見れるということ。

 これは面白そうだ。

「行きましょう!」

 ということで、祇園祭に行くことになった。


 夕方になり、八坂神社に行った。途中の道は、本当に祭りなのか?というぐらい静かなものだった。

 しかし、八坂神社に着くと、出店も出ていてとても賑やかだった。

「さあさあお立会い!」

 そんな声がしたので振り向いてみると、そのお店では見世物のようなことをやっていた。

「この刀にガマの油を塗ると…。」

 その見世物の商人は、刀に何かを塗った。そして、自分の腕を出して刀を当てた。って、切れて痛いじゃん。

 しかし、商人の腕は切れてなかった。

「腕が切れても、このガマの油を塗れば血も止まる。」

 へぇ、そうなんだ。ガマの油ってすごいなぁ。

「普段は一つ100文だが、今日は祭りだから、特別に二つで100文だ。」

 おおっ、それはお買い得。多分、これから怪我する隊士もいるだろうから、たくさんあっても損はないだろうなぁ。

「おい、蒼良、探したぞ。」

 原田さんが来た。横に私が歩いていると思って、先に行ってしまい、見たらいなかったので、探したらしい。

「原田さん、このガマの油って、すごいですよ。刀に塗ると切れないということは、体に塗ると、切られないということですよね。」

「そんなものあるわけないだろう。」

「ありますよ。あそこに。」

 私が指さした方を見て、原田さんは納得した。

「蒼良、あれはガマの油売りと言って、売っている人間の口上を楽しむものだ。」

 口上?

 要するに、ガマの油は、効能はあるのかもしれないけど、刀傷ができなくなることはないらしい。

 ま、確かに、そんなもので刀傷ができなくなるなら、今頃切られて死ぬ人間なんていないだろう。

 じゃぁ、なんでそんなものを売っているんだ?騙しているのか?と思うけど、そうじゃなくて、売る時に言う言葉を楽しむものらしい。

 人がたくさんいるのも、買うためにいるということもあるのだろうけど、売る人の言葉を聞くために来ているということもあるらしい。

「そうなんですか。私はてっきり、いいものを見つけたなぁって。」

「蒼良は、騙されやすいなぁ。」

 原田さんは、ポンポンと軽くたたくように、私の頭をなでた。


 そして、またしばらく歩いていると、今度は的矢まとやみたいなものがあった。

 これは現代にもあるぞ。現代だと、鉄砲のようなもので商品を打って、倒れたりしたらその商品をもらえるというもの。

 この時代ではさすがに鉄砲ではないけど、鉄砲の代わりに弓矢になっている。

 面白そうだなぁ。

「おい、蒼良、いちいち止まるな。」

 先に行っていた原田さんが戻ってきた。

「あれは、矢を当てれば当たったものがもらえるものですね。」

「ああ、そうだが、やりたいのか?」

 う~ん、矢はやったことがないから自信ないなぁ。それに商品も、特に欲しいというものではない。

 他の人が矢を射る中、それを器用に避けて通り、矢を回収している女の人がいた。

「あの人、すごいですね。なんか、踊っているような感じで矢を回収していますよ。」

「ああ、矢取女だ。」

「やとりおんな?」

「あれも商品の一部だぞ。気に入れば、好きにできる。」

 ええっ、そうなのか?

「蒼良も、やってみたいか?」

 にやりと笑って、原田さんが言った。

「い、いや、いいです。でも、原田さんがやりたければ…。」

「俺もいい。ほら、行くぞ。今度は勝手に止まったりしないように…。」

 そう言うと、原田さんは、私の手を握ってきた。

「手を握って歩くからな。」

 急に手を握られたので、びっくりした。原田さんの手は、男らしく、ゴツゴツとして大きな手だった。そして、指が長くて綺麗だった。

「なんだ、人の手を見て。男同士で手をつなぐのは嫌か?」

 そうだ。他の人と原田さんから見たら、私は男だった。

「いや、別に。ただ、綺麗な手だなぁって。」

「な、何言ってんだ。」

 原田さんは照れながら、私の手を引っ張って歩いた。

 周りから変な目で見られないか少し気にしたけど、人ごみでしかもお祭りなので、誰も私たちのことを気にする人はいなかった。


 山鉾が見れるというところに行くと、大きな山鉾が目の前を通り過ぎた。

 その大きいこと。豪華に飾り付けられ、一番上には人が乗って、祭囃子を演奏していた。

「すごい、大きいですね。」

「ああ、でかいな。」

 そんなことを言い合いながら、ずうっと顔を上に向けてみていた。

 宵山より山鉾も少ないらしいけど、見ごたえは充分にあった。

 山鉾が通るたびに

「お帰りなさい」

 という声が聞こえたのが不思議だった。

 後祭りは、出て行った山鉾が八坂神社に帰ってくるので、おかえりなさいなのだそうだ。


 山鉾を見て、ちょっと出店を見ようかと思っていたら、ドンッと何かが肩にぶつかった。

「おいっ!痛いだろうがっ!」

 それは、酔っ払った男の人達だった。

「す、すみません。」

 下手に抵抗すると、騒ぎが大きくなりそうだと思い、謝った。しかし、

「おいっ!ぶつかってきたのはそっちだろう。」

 原田さんは、その酔っぱらいが許せなかったらしい。

「何をっ!」

「お前らが、酔っ払ってふらふら歩いてるのが悪いんだろう。」

「やるか?」

 酔っぱらいの一人が刀を出してきた。

「のぞむところだ。」

 原田さんも本当は槍なんだろうけど、祭りに槍はもって歩けないので、刀を出した。

 みんなが刀を出すと、その周りを開けるように人がひいた。巻き込まれては大変だとでも思ったのだろう。

 私も刀を出す。

 そして乱闘が始まった。向こうは酔っ払い。でも油断はできない。

 周りからは、いけ!とかやれ!とかのやじが聞こえてきた。

「手先が来たぞ。」

 そういう声が聞こえると、乱闘していた酔っぱらいたちは刀をしまって逃げていった。

「蒼良、俺たちも逃げるぞ。」

 原田さんに手を引っ張られ、私も慌てて逃げた。

 手先と呼ばれてた人たちも、二手に分かれて追いかけてくる。ところで、あの人たちは何者なんだ?


 長屋の間に隠れた、

「原田さん。」

 私が言うと、シィッと言って、後ろから手で口を抑えてきた。

 なんか、原田さんに後ろから口を抑えられ抱きしめられているような感じだったから、妙にドキドキしてしまった。

 長屋の隙間から通りを見ると、手先と呼ばれていた人が2~3人、周りをキョロキョロ見ながら走っていった。

 彼らが去ったあとも、しばらくそうしていた。

「もう大丈夫だろう。表に出よう。」

 原田さんがそう言うと、ようやく解放してくれた。

 表通りに出ると、静かだった。

「ところで、手先って、なんですか?」

「江戸で言う御用聞きだろう。」

「えっ、ごようきき?」

「もしかして、知らんのか?」

「はい。」

「たまに、蒼良がどこで生まれてどういう生活していたのか知りたくなる。」

 いや、聞かれても、教えられないし、多分信じてもらえないだろうなぁ。未来から来ましたなんて。

 原田さんの話によると、手下というのは、岡っ引きのことらしい。それはなんだと言われると、よく時代劇に出ている十手を持っている人たちだ。

 現代でいうと警察のようなもの。

「ああ、銭形平次ですね。」

「なんだそりゃ。」

 えっ、実際にいた人じゃないのか?

「銭投げて武器として使うのですよ。」

「そんな奴がいるのか?」

「さ、さぁ…。」

「さぁって、いるのか?いないのか?」

 それがわからないから悩んでいるわけで…。

 あとでお師匠様に聞いたら、あれはドラマだから、実際にはいないらしい。なんだ、いないのか。

「でも、なんで逃げたのですか?悪いのは向こうじゃないですか。」

「でも、捕まると色々面倒だぞ。今日中には帰れねぇかもな。」

 それは困るなぁ。

 

 色々あったけど、山鉾を見れてよかった。そう思いながら歩いていると、リンリンと虫の鳴き声がした。

「鈴虫?」

 周りを見渡すと、一件だけ出店があり、竹で編んだ籠の中に鈴虫がいた。

「買ってやろうか?」

「いいんですか?」

「せっかく祭りに行ったのに、何も買わないで帰るのも寂しいだろう」

 原田さんとその出店に行き、鈴虫を買った。

「なんか、色々あったけど、楽しかったですね。」

「そう言われると、連れてきたかいがあったな。」

 そう言いながら、原田さんは私の頭をポンポンとなでた。


「おお、鈴虫か。いい声で鳴くじゃないか。」

 土方さんが、リンリン鳴く鈴虫を見ていった。

「いい句が浮かびそうですか?」

「うるさいっ!」

 そう言って、げんこつが落ちてきた。

 怒るということは、浮かばなかったのか?浮かんだけど、見せたくないとか…。

 でも、それを聞くとまたげんこつが落ちてきそうだから、黙っていた。


 たまにリーンリンと、鈴虫の声が部屋に響き渡った。

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