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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応4年1月
388/506

鳥羽伏見の戦い(3) 淀千両松の戦い

 錦の御旗が戦場を渡り歩いた後、戦況は大きく動いた。

 戦に参戦していなかった土佐藩兵が、錦の御旗を見るとすぐに政府軍に着いた。

 そして、もれなく鳥取藩も政府軍に着いた。

 幕府軍は賊軍とみなされたので、寝返ったりする人もたくさん出た。

 それでも、新選組は幕府のために戦っていた。

 それは、二君に仕えずと言う武士の心構えみたいなものを着実に実行していたからだろう。

 ここで寝返ったら楽なのに、もうちょっと前で寝返っていたら官軍になれたかもしれないのに。

 そう思うのだけど、どんなに敗けても幕府のために仕えるというそれだけのためにひたすら戦うのだ。

 その生き方が好きだって言う人が現代にもたくさんいるだろう。

 それが新選組のいいところであり、逆に融通が利かないという悪いところでもある。

 私は、その融通が利かなくて、ただ一人の主君のためにひたすらに戦う新選組が好きだから、敗けるとわかっている戦いにも新選組の一員として参加しているのだ。

 一月五日も幕府軍は様々な藩に裏切られて敗ける。

 

 この日は幕府軍は鳥羽街道の富ノ森と言うところで、伏見街道は千両松と言うところで戦が始まった。

 新選組は、千両松で戦うことになった。

 長州藩が主体となっていた軍だった。

 もちろん武器は最新鋭。

 この日も私たちは、江戸時代で最新鋭と言われる銃に打たれ、さらに昼過ぎには錦の御旗が行軍してきたため士気が著しく落ち、敗走をした。

 

 淀城へ行き、態勢を立て直して出直す。

 そう連絡が回ってきたので、各々、淀方面へ敗走した。

 新選組は何人かでまとまって淀を目指した。

 その隊を見て、あることに気がついた。

 六番隊がいないっ!

 六番隊は、源さんの隊だ。

「土方さん、源さんの隊がいませんっ!」

「なんだと? 源さんは?」

 六番隊の隊士がいないんだから、六番隊組長である源さんもいない。

 そう言えば、源さんってここで亡くなることになってなかったか?

 もう、嫌な予感しかしない。

「私、見てきますっ!」

 嫌な予感しかしてこなかったので、それを振り払うように様子を見に、みんなと逆方向へ走った。

「おい、お前っ! 行くなっ!」

 という土方さんの声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだろう。


 みんなが敗走へ向かっている中を逆走していると、長州の銃声が聞こえてきた。

「ここはまかせて、早く逃げろっ!」

 そう言う声が聞こえてきた。

 この声は、源さんの声だ。

 見ると六番隊の何人かの隊士も一緒にいる。

 源さんは、私たちが敗走のために捨てるように置いて行った大砲の前に立っていた。

「早く行けっ!」

 そう言いながら、大砲で長州藩の兵を撃っていた。

 源さんだって、逃げないと死んじゃうじゃないかっ!

「源さんっ!」

 私は源さんに近づいた。

蒼良そらっ! 早く逃げろっ! もうとっくに逃げたかと思っていたぞっ!」

 源さんは私の姿を見つけるとそう言った。

「源さんを迎えに来たのですっ! 一緒に逃げましょうっ!」

 私がそう言うと、

「だめだっ! 俺がここを離れたら、こいつらが銃弾に倒れる。ここで倒れるのは年長者の俺でいいんだ。だから、逃げろっ! 早くっ!」

 そんなことに年長者とか関係ないじゃないかっ!

「源さんが撃たれるのは嫌です」

「俺だって、蒼良が打たれるのは嫌なことだ」

「じゃあ、一緒に逃げればいいのですよ。そうすれば、私たちも助かります」

「いや、俺はここを守る。蒼良は早く逃げろ」

 そう言いながら、源さんは大砲を撃った。

 大砲が撃たれた後、長州藩兵の銃弾が雨のように降ってきた。

「早く、行けっ!」

 いつも優しい源さんが、声を荒げて言った。

 でも、ここで私が行ってしまったら、源さんは死んでしまう。

「嫌ですっ!」

 源さんを残していけない。

 でも、源さんはここにいるって言うし、どうすればいいんだ?

 銃弾は容赦なく降ってくる。

 この銃弾に当たって怪我をするのも時間の問題だろう。

「蒼良、危ないっ!」

 源さんが私を押し飛ばした。

 私は横に倒れた。

 地面に倒れたまま源さんを見ていた。

 源さんが、打たれちゃうっ!

「源さんっ!」

 私が叫ぶように名前を呼んだら、源さんは私の方を見て微笑んだように見えた。

 源さんが、死んじゃうようっ!

 思わず、目をつぶってしまった。

 源さんが撃たれるところなんて、見たくないから。

 ダダダダダッ!

 すごい銃弾が撃ち込まれる音がした。

 源さんが、源さんが、ハチの巣になっちゃうよっ!

 涙で視界がぼやけていた。

 源さんが、地面に倒れていた。

 しかし、上半身が起きていた。

 えっ、生きている?

「源さんっ!」

 信じられなくて、名前を呼んだら、

「蒼良、まだいたのかっ!」

 と、上半身をさらに起こして源さんが言った。

 源さんが生きているっ!

 でも、銃弾が大量に撃ち込まれる音がしたよね?

 あれはいったい何だったんだ?

 自然と、源さんの前に視線が行った。

「どうじゃっ! フルオートライフル銃じゃっ! いくら最新鋭の武器でも、これにはかなわないじゃろうっ! わっはっはっ!」

 と叫びながら、ライフル銃をダダダダッ!と連射しまくっていたお師匠様がいた。

 お師匠様の銃の先には長州藩兵がいて、何人か倒れていた。

 残りの長州藩兵は お師匠様の見たこともない武器からの連射が一時中断すると、水が引くように逃げて行った。

 もしかして、助かったのか?

 源さんを見ると、源さんも驚いた顔で私を見ていた。

 助かったんだっ!

「ふん、弱っちい奴らじゃ」

 お師匠様はそう言うと、持っていたライフル銃を下に置いた。

「お、お師匠様、こ、これはどこから調達したのですか?」

 この前のピストルだって、私の中で疑惑がたくさんあるんだぞ。

「安心しろ。ちゃんとしたところから調達しとるからな」

 お師匠様はそう言うけど、日本は銃を持っていたらいけない国だからね。

 ライフル銃なんて、もってのほかだろう。

「ちゃんとしたところって、具体的にどこなのですか? 教えてくださいっ!」

 これはちゃんと聞いておいた方がよさそうだぞ。

「今はそんなことを言っている場合じゃない。井上を助けることが出来たんだ。これからの行動次第で、井上の命がまた危なくなるかもしれんじゃろう」

 そうだった。

 源さんの死亡を阻止したけど、どうやって私たちの時代に来てもらえばいいんだろう?

「ところで井上は、わしらが未来から来たことを知っとるのか?」

 お師匠様に聞かれ、ブンブンと首をふった。

 源さんは、私たちが未来から来たことを知らない。

「わかった」

 お師匠様はそう言うと、ライフル銃を恐る恐る見てツンツンと指で突っついている源さんのそばに行った。

「井上」

 お師匠様が源さんの名前を呼ぶと、ライフル銃をさわっていたせいか、源さんは飛び上がるように驚いていた。

「天野先生、こんなすごい武器をどこから……」

「今はそんな話をしとる場合じゃない。ここから逃げるぞ」

 そうだ、ここは戦場だ。

 早く逃げないと。

「行くぞっ!」

 お師匠様は軽々とライフル銃を持ち上げて走り出した。

 私たちはその後をついて行くように走った。

 それにしても、ライフル銃をどこで手に入れたんだろう?


「ここまでは敵も追ってこんじゃろう」

 しばらく走った後、お師匠様が立ち止った。

「源さん、大丈夫ですか?」

 源さんが無傷だと言う事が、まだ信じられなかった。

「俺は大丈夫だ。蒼良は大丈夫か?」

「大丈夫です」

 元気でいつも通りな源さんを見ることが出来て嬉しかった。

「今後のことを少し話す。井上、悪いがおぬしはこれからわしと一緒に行動してもらう」

 お師匠様がそう言うと、

「それはできない。俺は新選組の隊士だ。ここから逃げることはできない」

 と、源さんは強い口調でそう言った。

 そうだよね、来いって言われても、行けないよね。

「お前がわしと行動しないと、わしの孫の蒼良の命が危なくなるが、それでもわしと一緒に来ないのか?」

 えっ、私の命がかかわっているのか?

「お師匠様?」

 小さい声でそう言うと、

「井上を未来へ連れて行くにはそう言うのが一番じゃ」

 と、小さい声でお師匠様が言った。

 そ、そうなのか?

「なに、蒼良の命がかかわっているのか?」

「そうじゃ。新選組と蒼良、どっちをとる?」

 お師匠様、それは新選組に決まっているじゃないか。

「そんなこと、決まっているじゃないかっ!」

 ほら、源さんだってそう言っている。

「俺は蒼良の命の方が大事だ」

 源さんは、私の考えていたことと全く逆のことを言った。

 えっ、そうなのか?

「俺にとって蒼良は娘だからな。血はつながってないけどな」

 源さんは、私を見るとニコッと笑った。

 新選組より私をとってくれたけど、本当にそれでいいのか?

「よしわかった。じゃあ井上、おぬしはこれから死んだことにする。わしが適当にごまかすからそれに従ってくれ」

「それが蒼良のためになるなら、喜んでそうするっ!」

 源さん、本当にそれでいいのか?

「蒼良、お前はそろそろ戻ったほうがいいぞ。土方に井上のことを聞かれたら、会えなかったと言え。後はわしが何とかする」

「わかりました」

 と言う事で、私は土方さんたちがいる場所へ戻って行った。


「お前っ! 勝手な行動をしやがってっ!」

 私の姿を見た土方さんは、そう言ってお説教を始めた。

 そのお説教の最後に、

「源さんの居場所は分かったのか?」

 と、聞いてきた。

「わかりませんでした」

 お師匠様に言われたとおりに言った。

「そうか」

 土方さんはまた悲しい顔をして、戦場をながめていた。

 しばらくすると、源さんの甥である井上泰助さんが泣きながらこちらに来た。

 大きな風呂敷包みのようなものを抱きかかえていた。

「叔父が亡くなりました」

 そう言うと、風呂敷包みを下に置いた。

「これは?」

 土方さんが下に置いたものを指さして聞いた。

「叔父の首です」

 えっ?

 源さんは生きているけど……。

「本当は、遺体全部を持って来ようと思ったのですが、それは無理そうだったので、せめて首だけでも敵の手に渡らせないように切って持ってきました」

 そう言いながら井上泰助さんは風呂敷包みを開けた。

 私は見る勇気がなかったので、そおっと後ろを向いた。

 源さんは生きているんだけど……。

 一体、誰の首を持ってきたんだ?

「源さん……」

 土方さんがそうつぶやく声が聞こえた。

 えっ、本物なのか?ああ、でも、見る勇気がない。

「泰助、よくやった。江戸へ戻ったら首だけでも葬ってやろう」

「わかりました」

 井上泰助さんは首を再び包み始めた……と思う。

 だって、カサこそと音がして、

「行くぞっ!」

 と、土方さんが言ったら、来た時と同じようにして風呂敷包みを抱え込んでいたから。

 しかし、その首は江戸には帰らなかった。

 首だって、かなり重い。

 私たちは敗走中だ。

 重いものを持って逃げるのはかなりの負担になった。

 だから、途中でみんなで穴を掘って首を埋めた。

 源さんの使っていた刀とともに。

 って、源さん生きているのに、刀もここに埋めちゃっていいのか?

 なんか、源さんが生きているんだか死んでいるんだか、わからなくなってきたぞ。

 

 なんとか逃げ切ることができ、淀城へ戻ることになった。

 一月二日に、京へ向かっていた幕府軍が淀城へ入った事があったから、今回も普通に淀城へ帰った。

 普通に門を開けようとした。

 しかし、その門は固く閉ざされていた。

「ここは、老中の稲葉正邦が藩主をしているから、門が開かねぇなんてありえないだろう」

 土方さんは、幕府軍から入ってきた情報を聞いてそう言った。

「いや、ここはあきらめたほうがいいです」

 淀城の城門が私たちに向かって開かれることはないだろう。

「そうなのか?」

 土方さんは、私が未来から来たと言う事を知っているので、私はコクンとうなずいた。

「おい、前にいる幕府の歩兵隊の隊長か誰かに伝えろ。ここはあきらめたほうがいい。早くしねぇと薩摩に後ろから攻撃されるぞ」

 隊士の誰かを呼んで土方さんはそう言った。

「それにしても、老中の藩なのになんで門が開かねぇんだ? 二日は開いてただろう?」

 隊士に指示を出した後、淀城を見上げて土方さんがそう言った。

「確か、老中の稲葉正邦は江戸にいるのですよ」

 そうなのだ。

 今、淀城は藩主がいないのだ。

「そう言えばそうだよな。江戸で留守を預かっていると聞いたことがある」

 じゃあ誰が門を閉めているんだ?と言う事になるのだけど、錦の御旗を見た家臣たちが、

「これは、幕府に手を貸すと自分たちまで賊軍になるぞ」

 と言う事で、幕府軍に対して門を閉めるという決断をしたのだろう。

 ちなみに、老中の稲葉正邦は江戸で幕府のために一生懸命働いていたけど、自分の意思とは関係なく、藩が勝手に幕府を裏切ったので、江戸城で留守を預かる立場も複雑なものになっているだろう。

 しばらく門のところで、

「開けろっ!」

「藩主がいないので、勝手なまねはできぬっ!」

 という押し問答が続き、あきらめた幕府軍は、さらに大坂に近いところに南下し、八幡・橋本と言うところで陣をはる。

 ここを守ることが出来なければ、後は大坂のみと言うまさに背水の陣になりそうだった。

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