表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年12月
384/506

薩摩藩邸焼き討ち事件

 夜になり、土方さんに

「見回り中にあやしい兵がいたから、発砲しました」

 という報告があった。

 相手も銃を持っていたから、刀ではなく銃を使ったのだろう。

「ご苦労」

 土方さんのその一言で報告が終わった。

 近藤さんがいない今、土方さんが局長の代わりをやっている。

 近藤さんが撃たれるという歴史を変えたから、きっと近藤さんも一緒に伏見で戦えると思っていたのに、ここら辺は歴史通りになりそうだ。

 せめて、鳥羽伏見は一緒に戦いたいよなぁ。

「今日も異常はなさそうだ」

 報告に来た隊士が出て行くと、土方さんは一言、そう言った。

 えっ?

「さっき、発砲したって報告があったじゃないですか」

 これは異常なことじゃないのか?

「発砲しただけで別に戦にはなってねぇだろう」

 そうなんだけど。

 でも、なんかいやな予感がしていた。

「銃を発砲するってことは、異常だと思うのですが」

「何発も発砲したやつがよく言うよな」

 あ、それは言わないで。

 数日前、近藤さんと沖田さんをすくうため、二ヵ所でピストルを発砲した。

 最初に沖田さんの所に行ったときは、自分の持っていたピストルはおもちゃだと思っていたので、撃ちまくった。

 しかし、それは本物だったのだ。

 お師匠様から渡されたものなんだけど、なんで本物を持っていたんだろう?

 これは今でも謎だ。

 次の近藤さんの所では、本物だとわかっていたけど、発砲した。

 だって、永倉さんの命がかかっていたから。

 逆に私の銃で命を落としそうだったと言う事もあったのだけど。

「好きで発砲したわけじゃないですよ」

「そんなのわかっている」

 土方さんがそう言ってくれた。

「ただ、あの時はずいぶんと撃ったよな」

 あ、それも言わないで。

「ほら、銃も数撃てば当たるって言うじゃないですか」

「だからってあれは打ちすぎだろう。新八も撃ちそうになったんだろ?」

「まさか、永倉さんのほほにかすっているとは思わなかったのですよ」

「思って撃っていたら、俺が許さねぇぞ」

 そう言って、土方さんは指の関節をポキポキっと鳴らした。

 こ、怖いのですがっ!

「そ、そんなことしませんよ」

 あれはたまたま永倉さんにあたっただけで、わざとあてたのではない。

「だから、分かっているって」

 土方さんはそう言うと、優しい顔になり、私の頭をなでるように手をのせた。


 報告で終わりと思っていた。

 だって、もう夜遅いし、みんな寝ちゃうでしょう?

 しかし、これで終わらなかった。

「薩摩兵が出てきました」

 と、土方さんの元に報告が来た。

「なんだと?」

 土方さんも驚いていた。

 なんで薩摩兵が出てくるんだ?

「私、現場まで行ってきます」

 鳥羽伏見はもうちょっと先だ。

 それなのに、なんでこの時に薩摩兵が出てくるんだ?

 それがすごく気になってしまった。

「待て。なんでお前が行く? 危ないだろう」

 土方さんが行こうとする私の袖を引っ張ってきた。

「だって、気になるじゃないですか」

「その前に危ないだろうがっ!」

「それはわかっていますよ」

 新選組に入って、ここまでやってきたんだもん。

 どれだけ危ないかは、わかっているつもりなのですが……。

「危ないからお前はだめだ」

 ええっ!

「今までも充分危ない思いをしましたが……」

 多分、これからももっと危ない思いをすると思うのですが。

「今までの状態と、今の状態は違うだろうが」

「どこが違うのですか?」

「相手が薩摩兵だろうがっ! それだけでも充分に危ない」

 そ、そうなのか?

「でも、今までも普通に薩摩兵を見ていましたが」

 なんで急にそんなことを言いだすんだ?

「それなら、誰かと一緒に行きます。それならいいですよね?」

 確か、斎藤さんあたりがいたと思うけど。

「わかった。俺が一緒に行く」

 えっ、そうなのか?

「土方さんは局長の仕事があるじゃないですか」

「局長の仕事なんて、くそくらえだっ!」

 そ、そんなことを言っていいのか?

 私がうろたえている間に、土方さんは部屋を出るところだった。

「おい、何してんだ。行くぞ」

 どうやらうろたえている時間もないらしい。

「は、はいっ!」

 私は土方さんを追いかけた。


 隊士が発砲したという現場につくと、向こう側の木陰や家の陰に薩摩藩の兵がひぞんでいるのがわかった。

 うちの隊士が発砲した相手は、薩摩藩と関係がある人たちだったらしい。

 それで薩摩藩の兵が出てきたということか。

「潜んでいますね」

 土方さんもそれがわかったのだろう。

「潜んでいるな」

 と、二人で物陰に隠れながらそう言った。

 こちらも何人かの隊士が、銃をもって潜んでいた。

 これはにらみ合いってやつか?

 もう夜も遅いのに、こんなにらみ合いなんてしていたら、睡眠時間も無くなるぞ。

「帰りますか?」

 何も起こりそうにないから、早く帰って寝よう。

「ばかやろう。こんな状態でよくそんなことが言えるな」

「だって、このまま何も起こりませんよ」

 多分。

「でも、誰かが少しでも動いたら、相手の銃の弾が飛んでくるだろうが」

 あ、それはありえるかも。

「それなら、さっさとこちらから発砲して、かたをつけちゃいましょう」

 私が持っていた銃は、お師匠様に返しちゃったしなぁ。

「お前、本気でそう言っているか?」

「だって、このままだと夜が明けてしまいますよ。睡眠時間がへってしまいます」

「睡眠時間と、こっちの状況とどっちが重要だ?」

 それは決まっているだろう。

「睡眠時間です」

「ばかやろう」

 即答でそう帰ってきた。

「そもそも、お前がここに来たいと言ったから来たんだろうがっ!」

 いや、でも、土方さんも一緒にとは言ってないぞっ!

「ここに来たんだから、最後まで責任をとれっ!」

 そ、そうなのか?

 さよなら、私の睡眠時間。

 というわけで、朝までこの状態が続いたので、朝まで私たちもここにいたのだった。

 薩摩藩めっ!私の睡眠時間を返せっ!


 そして、この時期に鳥羽伏見をはじめとする戊辰戦争の原因となる事件が起こった。

 それは、近藤さんからの文で明らかになった。

「江戸で、薩摩藩邸が焼打ちにあっただと?」

 土方さんが近藤さんの文を読みながらそう言った。

 伏見から大坂なので、文はすぐにつくのだろう。

 その文も、出されてすぐのものだった。

「江戸でですか?」

 ここは伏見なので、ずいぶん遠い場所での出来事という感じだ。

「そうだ、江戸だ。薩摩め、ざまぁみろだっ!」

 いや、これは喜んでいる場合なのか?

「またなんで、焼打ちになんてされたのですかね」

「そりゃ、みんな薩摩が憎いからに決まってんだろうが」

 いや、それは違うと思いますが……。

「薩摩が憎いからだけじゃあ、焼き討ちなんかしねぇな」

 土方さんは自分で言っていたけど、それがおかしいことに気がついたらしい。

「そのうち、近藤さんからまた文が来るだろう」

 土方さんはそう言って、近藤さんから来た文を折りたたんでしまった。


 これは後で調べたことなのだけど、当時の江戸はものすごく治安が悪くなっていたらしい。

 この原因は、薩摩が浪士を集めて江戸で暴れさせたという事らしいのだけど、じゃあなんでそんなことをしていたのか?

 これは王政復古の大号令まで振り返ることになる。

 王政復古の大号令の後、小御所会議という王政復古の大号令で新しく権力を得た人たちが集まって会議をした。

 そこで決まったことは、徳川の領地をすべて取り上げて、身分も職業も取り上げうと言うものだった。

 本当なら、ここで慶喜公はただの人になるはずだった。

 しかし、こっそりと幕府派の人たちが反撃をしていた。

 小御所会議での決定事項は、会議に出席した幕府派の松平春嶽と徳川慶勝によって慶喜公に伝えられた。

 慶喜公は、この決定事項を実行したら部下などが怒り出すから、ちょっと待っていてほしいと返事をした。

 その間、慶喜公の周辺の人たちも黙っていなかった。

 まず、慶喜公が領地や身分や職業を返すにあたり、その交渉役に松平春嶽にしてほしいという要望を出した。

 その二日後ぐらいに、皇族の人から、王政復古の大号令で活躍した岩倉具視や大久保利通の身分が低いから、身分をなんとかしろみたいなことを言いだした。

 その皇族の人にとっては、身分の低い人が我がもの顔で出入りしているのが許せなかったのかな?

 この時代、まだ身分制度と言うものが存在していた。

 そんなことになったから、岩倉具視も今まで強気で頑張ってきたのに、ここに来て弱気になってきたらしい。

 慶喜公に全部返せっ!と迫っていたのに、応じてくれたら、こちらもそれなりに対処しますよ。

 という態度になっていた。

 慶喜公も外国人たちを集め、色々あったけど、今までと変わらないから。

 みたいなことを言ったりしていた。

 大久保利通たちも、諸外国に、

「これからの外交はこっちで行うから」

 と、通達を出して反撃をしたのだけど、その中の文章を見た山内容堂や、松平春嶽は

「他の藩と一緒にこれからの日本について議論をしている最中と言っているけど、小御所会議は一部の藩だけの参加だったよね。これじゃあ議論していないと同じじゃん」

 とつっこみを入れた。

 結局、幕府派の人たちにしてやられていたのだった。

 再び集まって会議をした時には、徳川の領土は、

「返せたら返してね」 

 という状態になり、じゃあ、どれぐらい返す?ってなったら、

「みんなと相談して決めよう」

 ということになった。

 最初の強気はどこへ行ったんだ?

 

 この結果に一番納得できなかったのは、薩摩藩の西郷隆盛だった。

 せっかく王政復古の大号令を出して、幕府もつぶたことだし、新しい政治にかかわれると思っていたのに、何だこりゃっと思ったのだろう。

 幕府を挑発するという手段に出た。

 それが、江戸で浪士たちを暴れさせるという方法だ。

 これが治安が悪くなったきっかけ。

 と言うのも、元々、江戸にいた倒幕派の浪士たちが集まったのが薩摩藩邸だったらしいけど、薩摩藩もそれを受け入れていたようだ。

 

 話はだいぶ前に戻るのだけど、慶喜公が大政奉還をする前に、倒幕の密勅と言うものが長州と薩摩に出されていた。

 簡単に言うと、幕府をつぶせと言う朝廷からの命令があった。

 でも、それに気がついた慶喜公が大政奉還をしたので、ない物をつぶしても仕方ないじゃんと言う事になり、倒幕の密勅は取り消された。

 もちろん、倒幕のために兵を出すことも取り消された。

 しかし、倒幕のために兵を出すという噂は消えず、薩摩藩邸に集まっていた浪士たちはそこで取り消されたことを聞き、ここまで士気を高めたのに、どうしてくれるっ!という状態になり、それでデモのようなことをすることになる。

 この時代、デモと言うみんなで意見を言いながら歩くというものはなかったのだろう。

 幕府の兵と衝突することになる。

 幕府の兵が勝ち、デモをしていた人たちが逃げ込んだ場所が薩摩藩邸だった。

 その他にも色々なことをやっては負け、薩摩藩邸に逃げ込むと言う事を繰り返していたので、裏に薩摩藩がいると言う事がバレバレ状態になった。

 幕府側は、薩摩藩に

「ここに逃げ込んだやつらを出せっ! 出さなければ、捕まえるぞ」

 と言ったのだけど、薩摩が素直に従わないだろう。

 これは討ち入りになると思うけど、庄内藩だけだと個人的な争いになるからと言う事で、他に数藩の兵が薩摩藩邸を包囲した。

 交渉に庄内藩の人が行ったのだけど、やっぱり素直に従わなかった薩摩藩。

 それにより、包囲していた兵が薩摩藩邸を攻撃。

 薩摩藩邸は一晩でボロボロになり、悪いことをしていた浪士たちも方々へ逃げて行ったのだった。


「大坂城では、薩摩撃つべしという声が高まっているようだぞ」

 再び、近藤さんから文が着て、それを読んでいた土方さんがそう言った。

 江戸を荒らしていたのは、薩摩藩だったと言う事が面に出たことになる。

「とっとと討っちまえばよかったんだ」

 土方さんは文をたたみながらそう言った。

「でも、これは薩摩の挑発ですよ。ここで討ってしまったら、薩摩の挑発に乗ることになり、今までの我慢も無駄になります」

 ここまで我慢したのに、戦をしてそれに負けてしまうのだ。

 それなら、もっと早くにできなかったのか?と思ってしまう。

「でも、ここまでされて黙っていたら、もう武士じゃねぇだろう」

 そ、そうなのか?

 やっぱり、土方さんと同じ考えの人が多いのか?

「売られた喧嘩は買わねぇとなっ!」

 それは武士じゃないと思うのですが……。


 その後、幕府は朝廷に薩摩を討つからねっ!と言う文章を出す。

 そして来年の一月に京へ軍を出すことになる。

 ここから鳥羽伏見の戦いになっていくんだろうなぁ。

 これは大きすぎて歴史を変えるのは難しそうだけど、犠牲を少なくすることはできるかもしれない。

 新選組のみんなを少しでも多く助けるために頑張らなければ。

 改めてそう思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ