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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年12月
380/506

天満屋事件

 十二月になった。

 とうとう慶応三年の十二月がやってきてしまった。

 ここからが、新選組にとって激動の時に入って行くと思う。


 坂本龍馬と中岡慎太郎を殺害した犯人は新選組だという噂がなかなか消えなかった。

 人の噂も七十五日と言うけど、そんな長い時間はないと思う。

 早く犯人説の誤解だけでも解かないと。

 しかし、なかなかその噂も消えなかったし、誤解も解けなかった。

「近藤さんも、若年寄格の永井殿に呼ばれて弁明したが、街中の噂と言うものが消えねぇな」

 土方さんがお茶を飲みながらそう言った。

「と言う事は、幕府の方は新選組は手を出していないと言う事で、納得してくれたのですか?」

 幕府より、土佐の尊皇派の人たちを説得したいのだけど。

「たぶん、してねぇだろうなぁ。近藤さんは左之まで連れて行ってちゃんと弁明したらしいがな」

 そうなんだぁ。

 ここは歴史通りだよなぁ。

 一番手っ取り早いのは、真犯人を捕まえて引っ張り出すことだろう。

 でも、現代でも犯人はわかっていない。

 京都見廻組じゃないか?と言われているけど、これも確実じゃないから、京都見廻組を引っ張り出すわけにはいかないんだよね。

 困ったなぁ。

 そんなことを思いながらお茶をすすった。

「おいお前、何お茶飲んでんだ?」

 えっ?ここにお茶があったから飲んだのだけど、だめだったのか?

「誰かくることになっていたのですか?」

 お茶が二つあったのだけど。

「いや、誰も来ねぇよ」

 と言う事は、土方さんの小姓である鉄之助君が私の分まで入れていってくれたのだろう。

 本当に気がきく子だよなぁ。

「これでお団子があれば最高ですね」

「お前な、人のお茶を飲んでおいて何言ってんだ?」

「私に入れてくれたお茶ですよ。ねぇ、鉄之助君」

 ちょうど鉄之助君が入ってきたから聞いてみた。

「お団子も持ってきました。どうぞ」

 鉄之助君がお団子を置いた。

 なんてできた小姓なんだっ!

「土方さんにこの小姓はもったいないっ!」

「お前っ! そりゃどういう意味だっ!」

 どういう意味だも、そのままの意味だ。

「鉄之助君、私の小姓にならない?」

 思わず鉄之助君を見てそう言った。

「ばかやろう。お前が小姓を持つなんて百年早いっ!」

 そ、そうなのか?

「逆に聞きますが、百年たったら小姓を持ってもいいのですか?」

「何言ってんだ? 百年も生きるわけねぇだろうが」

 現代に帰ったら、百年以上時間は経っているぞ。

「そんなことわかりませんよ。百年後も生きているかもしれないじゃないですか」

 私なんて、ここから約150年以上先の未来の人間だからね。

「分かった。百年たったら好きにしろ。そんな百年後のことなんて知るかってぇんだっ!」

「本当ですか? ありがとうございます」

 現代に帰ったら小姓が持てるぞっ!

 ただ、現代に小姓なんていたか?いないよな?

 結局、小姓はもてないのか?

蒼良そら先生」

 鉄之助君が声をかけてきた。

「なに?」

 私の小姓になりたいって言うのか?

 期待をして返事をしたら、

「お団子、食べられちゃいますよ」

 えっ?お団子?あっ!

 気がついた時には、土方さんが食べていた。

「なんだ、食うのか? 食わねぇと思ってた」

 た、食べるに決まっているじゃないかっ!

 お団子なんだぞっ!一応好物なんだぞっ!

「お団子……」

「すまんな」

 土方さんも悪気はなかったんだよね、多分。

 そう思う事にしよう。


 近藤さんの部屋に呼ばれたので行ってみると、斎藤さんと大石さんをはじめとする七名ぐらいがいた。

 何があるんだろう?

 そう思いながら斎藤さんの隣に座った。

「お前も呼ばれたか」

 チラッと私の方を見て斎藤さんがそう言った。

「はい」

「かわいそうにな」

 えっ?そ、そうなのか?

 それって、どういう意味ですか?と聞こうとしたら、近藤さんと土方さんが入ってきた。

「お前たちに、紀州藩士の護衛を命ずる」

 土方さんが声高々とそう言った。

 ん?紀州藩士?

「なんでですか?」

「そんなこと俺が知るか」

 斎藤さんが私の隣でそう言った。

「お前ら、コソコソと話するな」

 わかりました。

「なんで紀州藩士の護衛なのですか?」

 コソコソと聞くより、堂々と聞いたほうがいいだろう。

「頼まれたからに決まっているだろう」

 土方さんが一言そう言った。

 そりゃそうなんだけどさぁ。

 なんで頼まれたの?

「お前ら、後で残れ」

 教えてオーラを送っていたら、それが通じたらしい。

 土方さんがそう言った。

「俺もですか?」

 隣の斎藤さんもそう言ってきた。

「おう、お前もついでに残れ」

 ついでって……。


 斎藤さんと一緒に近藤さんの部屋に残り、土方さんから詳細を聞いた。

 それによると、坂本龍馬と中岡慎太郎と関係の深い陸援隊と海援隊と言う組織がある。

 海援隊は坂本龍馬が中心になって作り、陸援隊は中岡慎太郎が中心になって作った。

 だから、二人が殺されたと聞いて黙っていられないのだろう。

 この二つの組織の人たちは、紀州藩が新選組に命じて、二人を暗殺したと思っているらしい。

 と言うのも、いろは丸事件と言う事件があったからだ。

 この事件は、伊予国、今でいう愛知県が持っていたいろは丸と言う西洋式の蒸気船を、坂本龍馬率いる海援隊が借りていた。

 そのいろは丸の最初の航海は、大坂に物資を運ぶために長崎から出港した。

 しかし、長崎に向かっていた紀州藩の軍艦、明光丸と瀬戸内海で衝突した。

 しかも、明光丸の方はぶつかった後に一度後ろに下がってから再びいろは丸にぶつかったので、いろは丸は沈んでしまった。

 坂本龍馬たちは明光丸にうつされたけど、大坂へ運ぶ積荷は全部海へ沈んでしまった。

 その後、坂本龍馬は紀州藩相手に賠償の交渉をしたけど、明光丸の方は交渉がまとまらないのに長崎に出向してしまった。

 この交渉もかなり色々あったらしい。

 坂本龍馬が長崎まで追っかけたりしたけどなかなかまとまらず、土佐藩士の後藤象二郎が出てきて、紀州藩と個人の事件から土佐藩の事件にまで発展した。

 ちなみにこの後藤象二郎は、坂本龍馬の船中八策と呼ばれる大政奉還を幕府に勧めた人で、この人の案で大政奉還がなされた。

 で、この事件の結果なんだけど、坂本龍馬があっちこっち駆け回った結果、紀州藩が賠償金の支払いに応じることになった。

 減額されたけど、紀州藩は賠償金を全額支払った。

 そしてその八日後に坂本龍馬は殺された。

「それは、紀州藩が犯人扱いされますよね」

 なんてタイミングの悪い……。

「俺たちも犯人扱いされているがな」

 斎藤さんがそう言った。

 そうなんだよね。

「お前たちには、紀州藩士の三浦休太郎を護衛してもらいたい」

 土方さんは私と斎藤さんに向かってそう言った。

「わかりました」

 斎藤さんと一緒にそう返事をした。


 向かったところは油小路にある天満屋と言う旅館だった。

 天満屋……。

「あっ!」

 天満屋を指さして叫んでしまった。

「どうした?」

 斎藤さんが私の方を見た。

 斎藤さんは私が未来から来たことを知らない。

「な、何でもないです。天満屋だなぁと思っただけです」

「なんだ、そんなことで声を出すな」

 はい、すみません。

 これは、間違いない。

 天満屋事件だっ!


 中に入ると、三浦休太郎と言う人が、

「待っていたぞ」

 と歓迎してくれた。

 お酒と料理とともに。

 これじゃあまるで宴会じゃないか。

「今日はパァッとやるぞ」

 三浦さんは、みんなにお酒をつぎはじめた。

 お酒があれば、飲んじゃう人たちだ。

 と言う事で、間もなく宴会が始まってしまった。

 って、ちょっと待ったっ!

「斎藤さん、敵が襲撃して来たらどうするのですか?」

 徳利で飲んでいる斎藤さんに聞いた。

「敵か? そんなもん来ないさ」

 私の話が聞こえたのだろう。

 三浦さんがお酒を飲みながらそう言った。

 なんで来ないのさっ!って言うか、あんたが護衛してくれって頼んできたんだろうがっ!

「ここには天下無敵の新選組がいるからなっ!」

 三浦さんはそう言うと、あははっ!と笑った。

 天下無敵って……。

 そうでもないですからね。

「ようは、私たちがここにいるから敵も怖がってこないと言う事ですね」

「そう言う事だ」

 斎藤さんはそう言いながら私に徳利を渡してきた。

 私も思わず飲んでしまった。

 不可抗力ってやつだ。

「酒が入っていても仕事はできるだろう」

 斎藤さんはそう言って徳利を空にした。

 確かにできますが。

 仕事中に飲んでもいいのかなぁ。

 そんなことを思いながら徳利を空にしていった。

 途中で斎藤さんが着物の中に着ていた鎖帷子を脱ごうとした。

 鎖帷子とは、刀を通さないように作られた簡単な鎧のようなものだ。

「脱いだらだめですよ」

 私は斎藤さんを止めた。

「なんでだ? 敵も今日は来ないだろう」

 いや、来るんだよなぁ。

「万が一と言う事があります。着ておいたほうがいいと思います」

「これ、重いんだがなぁ」

 そう言いながらも脱ぐのをやめてくれた。

 よかった。


 宴会は盛り上がっていた。

 あまりに盛り上がっていたので、天満屋事件のことを忘れていた。

 気がついた時には、襖があけられていてそこに人が座っていた。

「あなたが三浦氏ですか?」

 そこに座っていた人はそう言った。

「斎藤さんっ! この人は刺客ですっ!」

 私は刀を抜きながら斎藤さんに言った。

 斎藤さんも素早く刀を抜いて相手を斬ったけど、すでに三浦さんはあごを斬られていた。

「大丈夫ですか?」

 三浦さんに近づき、手拭いを出してあごにあてた。

「大丈夫だ。命に別状はない」

 三浦さんがそう言ったし、意識もしっかりしている。

 斬られた場所もそんな危険な場所じゃないから大丈夫だろう。

 天満屋の中は、いつの間にか誰かが明かりを消したらしい。

 真っ暗な中での戦闘が続いていた。

「大丈夫か?」

 三浦さんをかばうように立っていた私の所に斎藤さんが来た。

「大丈夫です」

「ここから逃げるぞ」

 斎藤さんがそう言ったけど、どうやって逃げるんだ?

 ここは二階だ。

 出入り口は戦闘になっている。

「屋根を伝って逃げる。行くぞ」

 斎藤さんが窓から外に出た。

 それに続くように三浦さんが出た。

 このまま出ちゃっていいのかな?

 暗闇の戦闘を見てそう思った。

 そうか、暗いんだから三浦さんが誰と誰が斬り合いになってとかってわからないよね。

「三浦は斬ったぞ!」

 だめもとでそう言ってみた。

 すると、

「よし、引き上げるぞっ!」

 と言って、相手は引き上げていった。

 その様子を斎藤さんと三浦さんと一緒に屋根の家から見ていた。

 死体を確認するとか無くてよかったなぁ。

 逃げて行く敵の姿を見てそう思った。

 しかし、うちの隊の人たちがその後を追いかけた。

 するとバンッ!という音がした。

 この音はっ!

「ピストルだ」

 斎藤さんがそう言った。

「本物ですか?」

 お師匠様が持っていたように火薬のおもちゃじゃないよね。

 やっぱり本物なんだよね。

「当たり前だろう。偽物があるのか?」

 いや、この時代には偽物はないよね。


 天満屋を襲った人たちは陸援隊と海援隊の人たちだとわかった。

 やっぱり坂本龍馬と中岡慎太郎をころした恨みって言う事で襲ったらしい。

 向こうは最初に部屋に入ってきた人が亡くなり、二~三名が怪我をしたらしい。

 新選組の方は、二人死亡した。

 そのうちの一人は近藤さんの甥にあたる人だった。

 斎藤さんも怪我をしていた。

「鎖帷子を着ていたから助かった」

 着物の中に来ていた鎖帷子をチラッと見せた。

「お前が着ていろって言ったから着ていた。脱いでいたら俺も死んでたかもな」

 そ、そうなのか?

 斎藤さんの刀の腕前で死ぬなんてありえないだろう。

「ありがとな」

 そう言って、斎藤さんは私の頭をポンポンとなでた。

 それにしても、早くみんなの誤解をとかないと。

 坂本龍馬と中岡慎太郎を殺したのは新選組ではないのに。

 でも、その証拠もないのにどうすればいいのだろう。

 とにかく、誤解をとかなくてはっ!

 今はそれしか考えられなかった。

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