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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年11月
376/506

近江屋事件

 斎藤さんが、紀州藩士の護衛へ行った。

 今頃、御陵衛士の屯所は大騒ぎになっているんだろうなぁ。

 御陵衛士と言えば藤堂さんだ。

 もうすぐ油小路だ。

 その前に藤堂さんを新選組に戻すか何かして、伊東さんから離しておきたい。

 そうすれば、藤堂さんは死ななくて済むかもしれない。

 さて、どうすればいいもんだか。

「おい、天野先生が来ているぞ」

 土方さんが私を呼びに来た。

 えっ、お師匠様が?

 何の用なんだろう?

「客間に通しておいたから行って来い」

「わかりました」

「ところで、お前何かしたか?」

 土方さんにそう聞かれた。

 えっ?

「特には何もしていないと思うのですが。何かあったのですか?」

 そんなこと聞かれると、不安になるじゃないかっ!

「天野先生が怒っているようだったから。お前が何かしたのかなと思ったんだ」

 お師匠様が怒っている?

 別に、私のせいではないと思う。

 だって……。

「私、最近お師匠様に会っていないのですよ」

 会っていないのだから、怒られる理由もないだろう。

「そう言えばそうだな。最後にあったのはいつだ?」

 いつだったかなぁ?

 指を折って数えてみた。

「私が長州に行っている時に会ったきりかもしれないです」

「お前、一年以上前じゃないかっ! そんなに会ってなかったのか?」

 会っていなかったんだなぁ。

 こんなこと初めてだ。

「どこかで倒れているかもとか、心配にならないのか?」

「お師匠様なら、適当に自分で何とかしますよ」

「お前なぁ……」

 土方さんはあきれていた。

「文とかのやり取りもなかったのか?」

 そんなこと、あるわけないじゃないか。

 お師匠様は旅をして歩いている。

 最初は東海道中膝栗毛のまねをしたいと言っていた。

 その次は、この時代の温泉巡りをしたいと言っていた。

 お師匠様なりにこの時代を満喫しているらしい。

 こっちは毎日仕事しているのに。

「そんなやり取りも出来ねぇか」

 土方さんも納得してくれた。

「お前、字が書けねぇだろう? だから文のやり取りなんて無理だ」

 そっちかいっ!

 言っておくけど、文字は書けますからねっ!

 筆で書くのが苦手なだけですよ。

「とにかく、客間で待っているから会って来い」

 そうだ、お師匠様が来ていたのだった。

 すっかり忘れていた。


 一年半ぶりになるのか?

 久々にお師匠様に会う。

 劇的な再開があるかもと思い、客間の襖を開けると、お師匠様が座布団の上に座っていた。

「お、お師匠様、お久しぶりですっ!」

蒼良そらっ!」

 お互いの名前を呼びあって近づくのは、なんて劇的なんだろう。

 そう思っていたら、

「このばかもんがっ!」

 と、お師匠様は怒りだした。

 わ、私、何かしたか?

「お師匠様、どうかしたのですか?」

 もしかして、八つ当たりとかじゃないよね。

「蒼良っ! のんきに江戸なんかに行きやがってっ!」

 えっ、江戸?

 確かに江戸に行ったけど……。

「あれは、隊士募集のために行ったのですよ。仕事です」

 土方さんから行くと言われて一緒に行ったのだ。

「でも、こんな時期に行くことはないだろう。この時期は事件が目白押しにあるんだぞ。しかも大政奉還もあったし。蒼良、大政奉還の時は京にいなかったな?」

「はい、江戸にいました」

「ばかもんっ!」

 えっ、いけないのか?

「いいか、これから油小路の事件がある。あ、近江屋事件の方が先だな」

 ん?近江屋事件?

 聞いたことがある。

 歴史の授業を思い出す。

「あっ!」

 思い出し、お師匠様を指さして立ち上がった。

「蒼良、お前は師匠に指をさすとは……」

「す、すみません」

 お師匠様に怒られて座布団に座った。

 そうだ、何か事件がある思っていた。

 それは近江屋事件だ。

 坂本龍馬と中岡慎太郎が近江屋で殺される事件だ。

 新選組は直接かかわりはないけど、犯人扱いをされる。

 そのせいで、かわなくてもいい恨みをかってしまうのだ。

 阻止するまでいかなくても、新選組犯人説は何とか阻止したい。

「お師匠様っ!」

 私がお師匠様を呼ぶと、

「わかっとる」

 お師匠様はコクコクとうなずいてくれた。

「近江屋だろう?」

 わかってくれたのねっ!

 こんなこと、初めてじゃないか?

「蒼良も同じことを思っていたことが嬉しいぞ」

「私も嬉しいですっ!」

 お師匠様の手を握り合って喜びを分かち合っていた。

「では、早速行くぞ。坂本龍馬を救って現代に連れて帰るのだ」

「はいっ!」

 えっ?

 勢い余って返事しちゃったけど、坂本龍馬と言ってなかったか?

「お師匠様、坂本龍馬をどうすると?」

「殺されるのを阻止して、現代へ連れて帰るのじゃ」

 あれ?

「それって、新選組のことじゃないのですか?」

 新選組を助けて、出来れば現代へ連れて帰りたいって言っていたじゃないか。

「新選組もそうじゃが、坂本龍馬だって救いたいだろう」

 それは、救いすぎだろう。

 タイムマシンはデリケートな機械らしく、不自然なことがあると壊れるらしい。

 大丈夫なのか?

「新選組か坂本龍馬か、どちらか片方にしましょうよ」

「わしはお前のことをそんな薄情な子に育てた覚えはないぞ」

 目をウルウルさせてお師匠様が言った。

 そんなことを言われても、帰れなくなったら困るだろう。

「坂本龍馬を助けたら、新選組の為にもなるだろう」

 そ、そうなのか?

「新選組は近江屋事件の犯人と疑われるだろう? しかし、そこで坂本龍馬を助けたら、近江屋事件も大きな事件にならず、よって新選組が犯人扱いされることもない。どうだ?」

 さすがお師匠様だ。

 坂本龍馬を助けるだけで、問題も解決するのね。

「わかりました。坂本龍馬も助けましょうっ!」

「中岡慎太郎もな」

 えっ、そうなのか?

「片方だけ助けるのもなぁ。どうせ助けるなら両方助けないとな」

 そ、そうなのか?

「わかりました、助けましょうっ!」

 もう、どうにでもなれっ!

「蒼良、今やけくそになっただろう?」

 な、なんでわかったんだ?


 というわけで、お師匠様と一緒に近江屋へ行った。

 驚いたことに、近江屋は土佐藩邸と数メートルの距離だった。

「近いですね、土佐藩邸に。こんなに近いなら、土佐藩邸に泊まった方が安全だと思うのですが」

 歩きながらお師匠様に言った。

「わしも何回も言ったんじゃが、聞き入れてくれんかった」

 えっ、何回も言ったのか?

 って、知り合いなのか?

「お師匠様、もしかして坂本龍馬とかと知り合いなのですか?」

「わしの顔の広さを知っとるだろう」

 お師匠様は顔が広い。

 現代でも知人、知り合いなどたくさんいる。

 この時代でもそれは同じようで、お師匠様を知らない人がいないんじゃないか?という感じだ。

「ほれ、ついたぞ」

 そんな話をしているうちに、近江屋に着いた。


「天野先生じゃないか」

 中岡慎太郎が出迎えてくれた。

 坂本龍馬は、火鉢を抱きかかえて丸くなっていた。

 なんか、私みたいだな。

「風邪はどうじゃ?」

 お師匠様は知り合いと話するみたいに坂本龍馬に聞いた。

「なかなか良うならん」

 本当に、知り合いだったんだ。

 改めて、お師匠様の顔の広さに驚く。

「風邪は栄養あるものを食って、寝るのが一番じゃ」

 お師匠様はそう言った。

 もしかして……。

「やき、今日はシャモ鍋にするつもりじゃ」

 坂本龍馬が鼻をすすりながら言った。

 もしかして、近江屋事件って今日なのか?

 確か、シャモ鍋をするからって、材料を買いに行った人がいるって聞いたぞ。

「シャモ鍋はだめだ」

 さすがお師匠様。

 こんな細かいところから歴史を変えようとしている。

「わしは、ボタン鍋の方が好きじゃ」

 あんたの好物かいっ!

 歴史を変えるとか関係なかったらしい。

 ちなみにボタン鍋とは、イノシシの肉を使って作った鍋だ。

「ところでそちらの人は、天野先生の知り合いか?」

 中岡慎太郎が私の方を見て言った。

 女装して中岡慎太郎に会ったことがある。

「わしの孫じゃ」

 お師匠様がそう言うと、坂本龍馬と中岡慎太郎が驚いて、

「おおっ!」

 と言って人の顔を凝視してきた。

 これはいい意味で驚かれているのか?

「きれえな顔した孫だな」

 坂本龍馬が鼻をすすりながら言った。

 風邪がつらそうだ。

「どこかであったことないか?」

 中岡慎太郎がまじまじと私の顔を見てきた。

「あってないです」

 会ったとしても言えないだろう。

 言ったら女装していることとか全部ばれるからね。

「そうか。会ったことあると思ったんだが」

 中岡慎太郎は首をひねりながら言った。

「新選組にいるから、どこかで見かけたんじゃろ」

 そ、それ、言ってしまうのですか?お師匠様。

 言わないほうがいいと思うのですが……。

 お師匠様のその言葉を聞いた途端、二人の顔が厳しいものになった。

 ほらっ、言わんこっちゃない。

 坂本龍馬と中岡慎太郎は、薩長同盟をまとめた人たちなので、一時新選組ににらまれていた。

 今は、大政奉還が出され、その大政奉還の案が坂本龍馬の考えたものと言われ、朝廷と幕府と仲良く政治をやると言うものなので、幕府派からも歓迎されている。

 だから、坂本龍馬にしても、中岡慎太郎にしても、新選組にいい思いはしていないと思う。

「す、すみません」

 にらまれたのが怖かったので、何もしていないけど謝ってしまった。

「いや、おぬしは何もしておらんだろう」

 中岡慎太郎にそうつっこまれた。

 だったら、怖い顔をしないでくれっ!

「うちの孫、蒼良は、女なんだぞ。それで男装して新選組に入っていのだ。すごいだろう」

 お師匠様は自慢するように言った。

 って、それを言ってしまうのかっ!

 私は必死で隠していたのにっ!

「な、なんとっ!」

 二人とも驚いたみたいで、驚きのあまり半分立ち上がっていた。

「あっ! どこかで見たことあると思ったら、写真やだっ!」

 中岡慎太郎が指をさして言った。

 ば、ばれてしまった。

「す、すみません」

 なぜかまた謝ってしまった。

「なんだ、こがないい女と写真をとったかえ? うらやましい。俺もうつりたかったぞ」

 坂本龍馬がうらやましそうにそう言った。

 そ、そうなのか?

「で、そろそろ本題に入るが」

 お師匠様がそう言った時に気がついた。

 そうだ、まだ本題に入っていなかったのだ。

 

 お師匠様が包み隠さずに全部話した。

 未来から来たことなど全部だ。

 そんな簡単に人に話していいのか?と思っていたら、二人とも全く信じてくれなかった。

 普通はこんな話信じないよね。

 で、全て話してここは危険だと言った。

「色々な人に言われるんだよなぁ」

 中岡慎太郎が言った。

 みんな危ないって思ってんだよっ!だから、さっさと移動しなさいよっ!

「龍馬も風邪をひいているから、あまり移動はしたくないんだ」

 中岡慎太郎がそう言うと、坂本龍馬ははなをすすった。

 確かに、風邪がひどそうだよね。

「それに、陸援隊もいるから、大丈夫だ。頼もしい用心棒もいるし」

 中岡慎太郎が胸を張ってそう言った。

 用心棒って、相撲部屋にいたって言うあの用心棒か?

 そう言えば、ここに来た時に下にいたなぁ。

「それも役に立たんからいっとるんじゃ」

 お師匠様がそう言った。

 その通りなのだ。

 確か、後ろから斬られてしまうんだよね。

「よし、わかったっ!」

 お師匠様は立ち上がった。

 何かいい案が浮かんだのか?

「わしとこの蒼良でお前らを護衛するっ!」

 えっ、そうなるのか?

「護衛は陸援隊がいるから」

 と、中岡慎太郎が言ったけど、

「陸援隊には女がおらんだろう? ここには女がいるぞ。男より女が一緒のほうがいいじゃろう?」

 お師匠様、話の論点がずれてないか?

 それでいいというわけないじゃないか。

「そうだなぁ。女の護衛もいいかもしれんなぁ」

 坂本龍馬がそう言った。

 えっ、そうなるのか?

「分かった。それなら頼んだぞ」

 坂本龍馬の一言で、私たちが護衛することが決まった。

 女だってことだけで話が決まったけど、いいのか?

 

 襖をはさんで隣の部屋で待機してた。

 歴史通りシャモ鍋になり、峰吉という人がシャモを買いに出て行った。

「わしはボタン鍋がよかったのに」

 そりゃ、あんたが食べたいだけだろう。

 そして、三条制札事件の話になった。

 三条大橋のところで、制札が何回も引っこ抜かれるという事件があり、制札を護衛するという、変な仕事だった。

 確か、あの時は原田さんたちとお酒を飲んでしまい、そのせいか出足が遅れ、土佐藩士を何人か逃がしてしまったんだ。

 あ、土佐藩士。

 この二人の地元じゃないか。

 そのうち、下から

「うわぁっ!」

 という声が聞こえてきた。

 敵がきたのか?

 私たちは襖をあけて隣の部屋に行った。

 お師匠様は坂本龍馬が声をあげようとしていたので、

「大きな声出すなっ! 居場所が敵にばれるだろうがっ!」

 と、坂本龍馬の口を手でふさいで大きな声で言った。

 って、お師匠様の声も大きいですからねっ!

 というわけで、歴史通り場所がばれ、敵が踏み込んできた。

 私とお師匠様で坂本龍馬と中岡慎太郎の前に立った。

 私は刀を出した。

 どっからでもかかって来いっ!

 部屋のふすまが開いた。

 数人が刀をもって中に入ってきた。

 ここまでは歴史通りだ。

 敵は坂本龍馬にではなく、私に斬りかかってきた。

 それを刀で払った時に思った。

 この人たち、強い。

 私に二人が守れるのだろうか?

 不安になった時にパンパンパンッ!という音がした。

 な、なんの音?

 みんながお師匠様の方を見ていたので、私も見てしまった。

 すると、ピストルを持っていた。

 お、お師匠様?そ、それはいったい、どこから……。

「こっちは最新鋭のピストルを持っとるっ! ちまたに出回っているのとは違って、連発で玉が出るぞっ! ほれっ!」

 と言って、お師匠様はピストルをあっちこっちに向けてパンパンパンッ!と打った。

 そ、そんなに打って、流れ玉にでも当たったらどうするんだ?

「今度はお前たちに打つぞっ!」

 敵にピストルを向けたお師匠様。

「う、うわぁっ!」

 敵は一目散に逃げていった。

 よ、よかった……のか?

「お、お師匠様っ! そんな危険なものをどこから持ってきたのですかっ!」

 銃刀法違反じゃないかっ!

「蒼良、よく見ろ」

 ピストルを投げてきたお師匠様。

 あ、危ないじゃないかっ!

 受け取ってみると、意外と軽い。

 あれ?ピストルってこんなに軽いものなのか?

 しかも、玉を入れるところがないぞ。

 その代わり、そこから細い紙テープのようなものが出ている。

「おもちゃじゃ。ここのレバーを引くと……」

 そう言ってお師匠様がレバーを引いた。

「うわぁっ!」

 坂本龍馬と中岡慎太郎は座布団を頭にかぶった。

 しかし、紙テープが動いて、そこからパンッと音がしただけだった。

 これって、火薬を使った鉄砲のおもちゃじゃないか。

「こんなものでだますことが出来るのだな」

 あははと、楽しそうにお師匠様が笑っていた。

 そりゃ、これで敵が去って行ったら楽しいだろう。

「坂本先生っ! 中岡先生っ! 何があったのですかっ!」

 下から声が聞こえ、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

「おお、峰吉」

 二人が声をそろえてそう言った。

「下で藤吉さんが名刺をもって倒れてましたが」

 あ、下に用心棒がいたんだった。

「しまった。用心棒を忘れとったわい」

 お師匠様もそう言った。

 用心棒さん、ごめんなさい。

 名刺をもらった中岡慎太郎は、

「十津川郷士と名乗っているらしいが嘘だな」

 と言って、名刺を窓の外に捨てた。

「十津川郷士?」

「奈良県の十津川という場所に集まっている、身分が武士の下の方にあたる人間たちだ」

 お師匠様が説明してくれた。

 その説明を坂本龍馬はうんうんとうなずいて聞いていた。

「彼らは、倒幕を目的とした集団ではないからの」

 そう言って、お師匠様の説明を補足していた。

「それにしても、今回は天野先生のおかげで命が救われた。感謝する」

 中岡慎太郎が頭を下げてきた。

「今回はこれですんだが、これがまた何回もあるぞ」

 お師匠様がそう言った。

 私もそう思う。

 今、この瞬間にだって、敵がさっきより人を連れて戻ってくる可能性があるのだ。

「どうすればええかの?」

 坂本龍馬は火鉢をかかえてそう言った。

「これで死んだことにすりゃええ。そうすれば襲われないだろう」

 お師匠様の言う通りだ。

 死んだ人間を襲う人間はいない。

「で、わしらの時代に来ないか?」

 やっぱりそうなるのか。

 新選組とこの二人を現代に連れて帰って何をするつもりだ?攘夷運動でもするのか?

「断る」

 あっさりと二人から断られてしまった。

 そうだよね、話も信じていなかったもんね。

「わかった。じゃあ、これから言うわしの言うことを聞け。じゃないと、命の保証はできんぞ」

 お師匠様はそう言って話を始めた。


 お師匠様が話し終わった後、シャモの血を部屋にまき散らした。

 ここで襲われたという事にするためだ。

「持ってきました」

 峰吉さんと陸援隊の人たちは、見知らぬ遺体を持ってきた。

 これで身代りにする。

「とりあえず、これで死んだことになるな」

 中岡慎太郎がそう言った。

「お前はまだ死なん。二日後に亡くなることになっている」

 ああ、だから一体だけなのか。

「と言う事で、わしの言う通りに生きろよ」

 お師匠様がそう言ったら、二人とも、

「わかりました」

 と言ってくれた。

 

「二人がお師匠様の言うとおりにするとは思いませんでした」

 だって、お師匠様は二人に、

「これからは他人になって生きろ。決して表に出てくるな。これから起こることを見れば、お前たちのことだから出たくなるだろう。でも、出るな。日本は悪いようにはならん。それを信じて大人しく日本のこれからを見ておけ」

 と言ったのだ。

 一時は日本の表舞台に立った二人だから、条件をのまないと思ったけど、あっさりとのんだ。

「わしらの時代は終わったな」

 坂本龍馬は笑顔でそう言ったのだ。

「そうだな。これからはゆっくりするか」

「おまんは、二日間寝込むことになっとるんだろう?」

「そうだった」

 あははと言って二人で笑っていた。

 そして、騒ぎになる前に私たちは近江屋を出たのだった。

 坂本龍馬も出て、私たちと反対の方向へ行った。

 中岡慎太郎は、シャモの血をつけて倒れている。

 これで、新選組犯人説は消えたかな?

 消えるといいなぁ。

 そう思いながら、お師匠様と夜の町を歩いたのだった。

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