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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年10月
373/506

ダッシュで京へ

 土方さんは相当急いでいたらしい。

 行くときは箱根で一泊したけど、今回は箱根の峠は一気にこえた。

 箱根の関所もそのまま通過。

 これは行きもそのままだったんだけど。

 箱根の関所、私が思っていたより規制がゆるかったのよ。

 そして、箱根をこえたらチラチラと富士山が見え始めた。

「富士山が見えましたよ」

「おお、やっぱり富士山はいいね」

 私の言葉に源さんが反応してくれた。

「でも、原宿から見る富士山が一番だね」

 捨助さんがそう言ったので、源さんと一緒に捨助さんを見てしまった。

「なんでお前が知っているんだ?」

 私も源さんと同じことを思っていた。

 なんで知っているんだ?

「ああ、京に来て新選組に入るつもりだったんだけど、入れてもらえなかったから、帰りは富士山でも見て帰ろうと思ってね」

 と言う事は?

「お前、東海道で帰ったのか?」

 源さんが捨助さんに聞いた。

「はいっ! おかげで景色を楽しめました」

 いや……。

「東海道は表の道であって、お前が通る道じゃないぞ。しかも、新選組に入れなかった帰りに通る道じゃないだろう」

 源さんの言う通りなのだ。

 東海道といえば表道になるので、普通の人は山道である中山道を通る。

 私たちも、今回幕臣になったから初めて東海道を使ったのだ。

 今までは山しかない中山道だったのだ。

「捨助さんをずるいと思ってしまいました」

 私が言うと、

「俺もそう思ったぞっ!」

 と、源さんも同意してくれた。

「そうですよね」

「そうだよ」

「だったら、早く新選組に入れてくれたらよかったのに」

 そ、それを言うか。

「おいっ!」

 一番先頭を歩いていた土方さんがきた。

「お前ら、のんきに富士山の話をしている場合じゃねぇだろう」

 そ、そうなのか?

「富士山は日本の山だろう。その山が見えたら嬉しいじゃないか」

 源さんがそう言った。

 その通りだぞっ!

「いいか? お前らが普通に歩いていたら文句は言わねぇよ。でも、お前たち、歩くの遅いからな」

 えっ、遅いのか?

 後ろを見ると誰もいなかった。

「あら、誰もいない」

 私が言うと、

「お前らが一番最後だっ!」

 と、土方さんに怒鳴られてしまった。

「そう言えば、前もいないぞ」

 捨助さんが前を見て言った。

 そ、それは今は禁句じゃないか?

「お前らの前はずうっと先にいるわっ!」

 ほら、土方爆弾が落ちたぞっ!

「じゃあ、そろそろ急ごうか?」

 源さんがさささっと前に行った。

 えっ、ちょっと待って。

「そうだね、そろそろ本調子出していこうかな」

 捨助さんも行ってしまった。

 ええっ!ちょっと待ってよ。

 最後に私は土方さんと目があった。

 こ、怖いのだけどっ!

「あ、あのですね……」

 どうすればいいんだ?

「あっ!」

 と言って、私は土方さんの後ろを指さした。

「なんだ?」

 土方さんは後ろを向いた。

「富士山が見えますっ!」

 後ろを向いているすきに前に走ったのだけど、

「当たり前だろうが、ばかやろう」

 と土方さんが言い、えりをつかまれてしまったのだった。

「よし、一緒に行こうじゃないかっ!」

 わかったから、えりから手を放してくれっ!


 そして宮宿という宿場町に着いた。

 ここから次の桑名宿というところまで船で渡る。

 この日は船が出た後だったので、次の日まで待機という状態になった。

 宮宿は東海道で一番大きい宿場町だから、色々なものが売っているだろう。

 ここらへんで沖田さんのお土産も買わないと。

 それと、もう一つ不安なことがある。

 源さんはおまじないがあるからいいとして、問題は土方さんだ。

 帰りは陸路と言うぐらい船に酔っていたけど、今回は大丈夫なのか?

「できれば乗りたくねぇよ。でも、時間に変えられねぇだろう。だから今回は十里の渡りになる」

 えっ、十里の渡り?距離が増えてないか?

「だ、大丈夫ですか? 船の距離が増えてますよ」

「仕方ねぇだろう。急いでんだから」

「こうなったら、意地を張らないで土方さんもおまじないを……」

「ぜってぇに嫌だっ!」

 源さんにやったおまじないというのは、賊という漢字の最後の点を書かない字を船のどこかに書き、最後の点は自分のおでこに書くと言うものだ。

 だから、おでこに黒く点だけがある。

 その点が土方さんには耐えられないのだろう。

 酔うよりはいいと思うんだけどね。

「お前、どこかへ行くのか?」

 出かける前に土方さんに声をかけたので、そう聞かれてしまった。

「沖田さんのお土産を買いに」

 お土産を買ってくるって約束したのに、そのお土産がないんだもん。

 何言われるわわからないわ。

「お土産ならあるだろう」

 人中白と言いたいのだろう。

 人の尿からできたものらしい。

 そんな物もらって喜ぶ人がいるのか?

「それはいくら何でもかわいそうですよ」

「お土産を買うって、遊びに来たわけじゃねぇんだぞ」

 そう言いながら土方さんも出かける準備を始めた。

「あれ? 土方さんもどこかへ行くのですか?」

「お前に付き合うんだよっ! お前一人でこの宿場町を歩かせたら、迷子になって戻ってこれねぇかもしれねぇだろう」

 そ、そうなのか?

「そ、そこまで子供じゃないと思うのですが……」

「お前を一人にするのは危険だ。俺がついて行く」

 そ、そうなのね。

「じゃあ、お願いします」

 なんか納得できないなぁと思いつつ、頭を下げた。


 宮宿はとってもにぎわっていて、色々な出店がならんでいた。

「なんか、目移りしてしまって、決められませんね」

「だから、総司に土産なんかいらんだろう」

 いや、そう言うわけにはいかないのですよ。

「それより、熱田神宮にでも行くか?」

 えっ、神社?

「伊勢神宮の次に権威がある神社らしいぞ。そこで総司の病が治るように願をかければいいだろう。それで充分だ」

 そう言われると、そうだよね。

「わかりました。そうしましょうっ! ついでに、土方さんも船酔いしないようにと祈っといた方がいいと思いますよ」

「うるせぇ」

 と言う事で、熱田神宮へ行った。


 実はこの宮宿は、熱田宿とも言われる。

 この神社があるから熱田宿とも言われるのだと思う。

 織田信長が、織田家と今川家で戦った桶狭間の戦いの前にここで戦勝祈願をし、その戦に勝ったので、ご利益がありそうだ。

 神社でひたすらに、沖田さんの病気が治るようにと、沖田さんが私の時代に来て、病気を治すことが出来ますように。

 これだけ祈ったら、沖田さんの病気がいい方向へ変化してくれるかもしれない。

「お守りも買いましょうっ!」

 お守りも買って持たせたら、もっと効果があるかもしれない。

「お守りで治る病気じゃねぇだろう」

 土方さんの言う通りだけど、あれば何かと心強いじゃないかっ!

 この時代のお守りの買い方をよく理解していなかったので、土方さんに教わりつつかったのだけど、土方さんはとってもめんどくさがっていた。

 そんなにめんどくさがらなくてもいいじゃないかっ!


 それから宮宿の町を歩いた。

 酒屋さんを見て、いいことを思いついた。

「土方さん、明日、酒を飲みましょうっ!」

「お前はまた、飲むことばかり考えやがってっ!」

 ち、違うってっ!

「土方さんはお酒を飲んだら寝てしまうじゃないですか」

 そうなのだ。

 土方さんは船と同じぐらいお酒にも弱い。

「それがどうかしたのか?」

「船に乗る前にお酒を飲んで、船の中で寝たら酔わないと思うのですよ」

 酔い止め薬だって、眠くなる成分が入っていると聞いたことがある。

「なるほど。寝ている間に四日市宿に着いたら、酔わなくてもいいな」

 そうでしょ?

「お前もいいことを考えるな」

 そうだろう、そうだろう。

「たまには」

 ……たまにかいっ!


 そして次の日、宮宿から四日市宿まで船で渡ることになった。

 源さんは、前回と同じようにおでこに点を書いていた。

 そして、捨助さんも書いてあった。

「これ、効くんだよね」

 捨助さんまでそう言うのだから、効き目があるんだろう。

「歳も意地はってないでやりゃあいいのにな」

 源さんの言う通りだ。

 それが出来れば一番いいのだけど。

 土方さんは船に乗る直前に、竹筒でできた水筒の中身を飲み乾した。

 その中身は昨日買ったお酒だ。

 これで寝ちゃって酔わなければいいのだけど。

 船が動き出し、しばらくは隊士に指示を出していた。

 たまにろれつが回らなくなるのが気になったのだけど……。

 それからフラフラと船内に入ったのだけど、すぐに出てきて走って船の先頭へ行った。

 どうしたんだろう?嫌な予感しかしないのだけど。

「土方さん、どうしたのですか?」

 心配になったので、近くまで行って声をかけた。

 土方さんの顔色は悪かった。

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねぇっ!」

 そ、そうなのか?

「眠くならなかったのですか?」

「寝ようと思って船内に入ったら、気持ち悪くなって、このざまだ」

 そ、そうなのか?

 そう言っている間にも、ウッと土方さんは口を押え、上半身を海に傾ける。

 これは、作戦失敗か?

「お前が酒を飲めなんて言うから、悪酔いしただろうがっ!」

 わ、私のせいかいっ!

「それなら、手のひらに指で人という字を三回書いて、それを飲むといいですよ」

 私が言うと、土方さんが手のひらに三回人を書いた。

 その時に気がついた。

「あっ!」

「なんだ?」

 これは、緊張した時にやるおまじないだった。

「やったけど、効かねぇぞ」

 今更、間違えたなんて言えない。

「そのうち、効き目がありますよ」

 しかし、土方さんはさらに船に酔っていったのだった。

 その中でも、酔った姿を他の隊士に見せたくなかったようで、船の先っぽの方で一人耐えていた。

 その姿がかっこよかったのか、新入隊士の評判は上がった。

「さすが副長。いつも前を見ている姿がさまになっている」

「男の中の男だな」

 そんな会話も聞こえてきたけど、あれはただ酔っているだけだからね。

「土方さん、なぜか評判が上がっていますよ」

 真っ青な顔して船の先に座っている土方さんに声をかけた。

「そ、そうか」

 そういうとウッと口を押えていた。

 だ、大丈夫か?

「このまま、他の隊士を近づけるなっ!」

 それは大丈夫そうだ。

 あまりに神々しい姿をしているみたいで、新入り隊士は近づけないみたいだ。

 無事に?四日市宿に着いた。

 真っ青な顔をしながらも、一番先に船を飛び下り、新入り隊士に指示を出していた。

 そして、指示を出し終わると、

「宿に行く」

 と言って宿に行き、着くと同時に倒れるように寝てしまった。

 無理しなくてもいいのに……。

 でも、無理をしてまで京に帰る理由があるのだから仕方ない。

 私も京がどうなっているのか気になる。

 京がある方向を見ても、今は何も見えなかった。

 

 

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