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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年10月
370/506

大政奉還

 土方さんと一緒に隊士募集のため、知っている江戸の道場を回っていた。

 このために江戸に来たんだよね。

 近藤さんたちが江戸にいた時に試合をした道場とか、かかわりのあった道場を中心に回った。

 後は、土方さんが薬を売っていた時のお得意様かな?

 土方さんは、京に来る前は石田散薬と言う、打ち身捻挫に効く薬を売っていた。

 打ち身、ねんざをする人たちって、たいてい道場で稽古をする人たちだろう。

 前回の隊士募集の時も、こういう感じで回っていたらしい。

 そして前回は、募集して回っても好感触があまりなかったらしい。

 今回は幕臣になったと言う事で、それだけで話を聞いてくれる人たちが多くいた。

「今回の隊士募集は楽だな。早く京に帰れそうだぞ」

 そうなんだ。

「せっかく江戸に帰ってきたのに、ゆっくりしないのですか?」

 源さんなんて、本当に久しぶりに帰ってきたのだから、もうちょっとゆっくりしたいだろう。

「俺は早く京に戻りてぇんだ」

 なんでだ?

「京に心配事をたくさん置いてきているからな」

 そうなのか?

「心配事って何ですか?」

「お前に言ってもわからんだろうなぁ」

 えっ、そうなのか?

 そんなに難しい心配事なのか?

 そんなとき、かわら版を配っている人がいた。

 かわら版とは、現代で言うと新聞の号外にあたる。

 新聞と言うものがないので、何か事件があるとかわら版が配られる。

 かわら版は小さな事件から、ええっと驚くような大きな事件まで色々な事件まで書かれることがある。

 配っていたので、ふと手に取った。

「お前は、字も読めねぇのにそんなものをとってどうするんだ?」

 字も読めないって、土方さんのようにつなげてくねくねと書かれると読めないだけで、このかわら版は、一文字一文字きちんと書かれているから読めるんだからねっ!

 なになに?なんて書いてあるんだろう?

 かわら版を読んでいった。

 文章が現代のように話し言葉と同じように書かれているわけではないので、意味を理解するまでに時間がかかった。

 でも、その中に頻繁に出てくる言葉が気になった。

「大政奉還?」

 その言葉がたくさん出てくる。

「なんだとっ!」

 土方さんがふんだくるようにして私からかわら版をとった。

 わぁ、そんな取り方したら破けるでしょうっ!

 土方さんはかわら版を読んでいると徐々に顔が真剣になっていった。

 大政奉還と書いていたけど、もしかして、慶喜公が大政奉還したのか?

 そう言えば、時期的にも大政奉還の時期だよな?

「近藤さんの家に行く」

 かわら版を乱暴に私に渡すと、そう言って歩き出した。

「日野じゃなくて、近藤さんの家に行くのですか?」

「近藤さんの家の方が、新選組の局長の実家と言う事で、情報が入りやすいだろう」

 と言う事で、近藤さんの家に向かった。


 近藤さんの家で情報が来るのを待っていたのだけど、情報どころか、誰一人来ることはなかった。

 その状況にイライラしたのか、

「ちょっと出かけてくるっ!」

 と言って、土方さんは飛び出で行ってしまった。

 果報は寝て待てって言うじゃないか。

 それにしても、大政奉還、とうとうしたか。

 ここから幕府の権威がどんどんとなくなっていく。

 新選組も、歴史の舞台から消えていく存在となっていくのだ。

 ここからどれぐらいの人物を救うことが出来るんだろう?

 できれば、全員救ってお師匠様の言う通り、現代へ連れて帰りたい。

 できるのだろうか?

蒼良そらお兄ちゃん」

 部屋で一人で考え込んでいると、おたまちゃんが顔を出してきた。

 おたまちゃんは近藤さんの娘さんだ。

「さっきの人が、怖い顔をして出て行きましたが、何かあったのですか?」

 おたまちゃんはそう言いながら私の前に座った。

 その姿が子供らしくてかわいかった。

 こんなかわいい子供がいるのに、近藤さんはあっちこっちにお妾さんを作ってっ!

 おつねさんに言いつけるぞっ!って、そんなことをした日には、修羅場が待っていそうだわ。

 色々考えていると、おたまちゃんが首をかしげて座っていた。

 そうだ、質問されていたのだった。

「あのね、あの人はいつも怖い顔をしているから大丈夫よ」

 うん、大丈夫。

「そうなのですか。怖い人なのですか?」

 うーん、どうなんだろう?

「鬼副長って言われているけど、怖い人じゃないよ。おたまちゃんの父上のことが大好きで、おたまちゃんの父上の為なら何でもしちゃう人だよ」

「じゃあいい人ですね」

 おたまちゃんが笑顔でそう言った。

「うん、いい人だよ」

 うん、土方さんはいい人だ。

 顔が怖いからそれで損しちゃうときもあるけど。

 怖いけど、いい男なんだよなぁ。

「蒼良お兄ちゃんは、あの人のこと好きですか?」

「えっ、土方さんに事?」

 おたまちゃんはすごいことを聞いてくるなぁ。

 聞かれた時、箱根で温泉に行った時のことを思い出した。

 あの時、土方さんの背中見て妙にドキドキしちゃったんだよね。

 好きなのかなぁ?

 いや、違うだろう。

「私は、父上が好きなら好きです」

 おたまちゃんがそう言った。

 あ、そう言う意味の好きね。

 私はてっきり男女の方の好きかと思った。

 よく考えたら、おたまちゃんは私のことを男だと思っているから、そう言う意味で聞くわけないんだよね。

「私も好きですよ」

 笑顔で答えておいた。

「なにが好きなんだ?」

 突然、土方さんの声が聞こえたからびっくりした。

「なっ! なんでそこにいるのですかっ!」

「ここから情報を仕入れに行ったんだから、ここに帰ってくるだろう」

 そうなんだけど。

「帰るぞ」

 えっ、帰るのか?

「ずいぶんと急ですね」

「急いで帰らねぇと、近藤さんが心配だ」

 近藤さんが心配って……。

「京へ帰るのですか?」

「京以外どこへ帰るんだっ!」

 てっきり、日野へ帰ると思っていたぞ。

 帰るぞ、はい、帰りましょうって言い合えるような距離じゃないからねっ!

 現代なら新幹線で帰れるからそれも可能だけど、この時代は徒歩で帰るから、一週間から二週間ぐらいかかるからねっ!

「土方さん、冷静になりましょうよ。まず、隊士がまだ募集できていません」

 隊士募集のために来ているんだからね。

「そんなもの、いくらだって集まるだろう。なんなら、捨助でも入れておけ」

 この前まで、跡継ぎはだめだって言っていたのに。

「とにかく、今すぐ帰るのは無理です。とりあえず日野に帰って、今度のことを考えましょう。それからでも遅くないですよ」

 私がそう言うと、土方さんはしばらく黙り込んでしまった。

「わかった、お前の言う通りにしよう」

 しばらくするとそう言ってくれた。

 なんとか冷静になってくれたぞ。


 日野に着いて、自分たちの部屋に着くと、

「お前の知っていることを全部教えろ」

 と、土方さんに言われた。

「知っていることと言うと?」

 なんだろう?

「今まで起こったことと、これから起こること全部だ」

 土方さんは私が未来から来たことを知っている。

 だから、こういうことを聞いてきたのだろう。

 でも、こんなことを聞かれたのは初めてだ。

 情報も入らず、土方さんも切羽詰っているのだろう。

「お前は、大政奉還が行われることを知っていたな?」

 そう聞かれ、コクンとうなずいた。

「やっぱりな」

 大政奉還と言えば、慶喜公が政権を朝廷に返すと言うもので、事実上、ここで幕府は無くなることになる。

「なんで慶喜公は大政奉還なんてしたんだ? わざわざ政権をくれてやることはなかっただろう」

 土方さんのその言葉を聞いて、歴史の授業を一生懸命思い出した。

「まず、原因の一つが薩長ですね。岩倉具視って知ってますか?」

「いけすかねぇ公家の人間だろ」

 いけすかないかわからないけど、公家の人間だ。

「その討幕派が組んで、慶喜公を討伐するようにと密勅を出させたのです」

 密勅とは、秘密に出される天皇からの命令みたいなものだ。

「あいつら、何か企んでいやがると思ったら、そんなことを企んでいやがったかっ!」

 企んでいることは知っていたのか?

「斎藤や山崎からの情報で、薩摩が兵を出してきたりして何か企んでいるのは知っていたんだ」

 そう言えば、京を出る時、薩摩藩兵がたくさんいるなぁとは思っていた。

「その企みを知った慶喜公は、朝廷に政権、征夷大将軍の身分を返したのです」

「なるほど。政権を返したら、幕府は自然と倒れたことになり、慶喜公を討伐するの密勅の意味がなくなるな。それが目的か」

 さすが土方さん。

 そこまでしか話していないのに、理解したのがすごい。

「幕府は無くなるが、徳川の力なしに攘夷はできんだろう」

 土方さんはそう言った。

「それが大きな間違いなのです」

「なんだと?」 

 そうなのだ。

 徳川の人間や幕府派は、みんなそう思っていた。

 いずれ、徳川の力を借りることになるだろうって。

 坂本龍馬とかは、天皇が中心になり、将軍や大名たちと政治を行って行けばいいと考えていた。

 それはいいと思った土佐藩主の山内容堂は、それを慶喜公に薦め、大政奉還をするように言った。

 しかし、それを歓迎しない人もいた。

「岩倉具視は、そこを危惧していました。だから更なる手を打ってきます」

「それはなんだ?」

 倒幕するという大義名分を失った岩倉具視たちは、次なる手を考える。

 それが王政復古の大号令だ。

「朝廷が今度は我々が政治をするからという宣言をします。それにより、徳川家は徹底的に排除されます。幕府の組織を消し、朝廷を中心とした新しい組織が出来上がります」

「幕府は完全に権力を失うってことだな」

「そう言う事です」

 そして、色々あって鳥羽伏見の戦いへとなっていく。

「わかった」

 そう言った土方さんはしばらく考え込んでいた。

 

 夕方になり、土方さんが出した結論は、

「やっぱり、京に帰るぞ」

 と言う事だった。

 だから、まだ隊士が集まっていないぞっ!

「俺は、近藤さんが心配なんだ」

 それはわかるけど。

「今は、隊士を集めましょう。それから京へ帰りましょう」

「いや、帰るっ!」

 そう言う土方さんを何とか説得した。

「この先、大きな戦があるのですよ。そのためにも、今は隊士を集めたほうがいいと思います」

 私がそう言うと、土方さんは、しばらく無言で考え込んでしまった。

「わかった」

 おっ、わかってくれたのか?

「七日で何とかしろ。京へ帰るしたくもその期間で何とかしろ。七日後には誰が何と言おうと京に帰るためにここを出るからな」

 七日あれば、何とか隊士を集められそうだぞ。

「わかりました。七日ですね。一緒に隊士を集めましょう」

「俺は、別な仕事があるから、その仕事をする」

 えっ、そうなのか?

「私一人で隊士を集めろと?」

「源さんもいるし、なんなら、捨助を使え。人数集めたら新選組に入れてやるって言ったら、はりきって集めてくるぞ」

 それはそうかもしれないけど。

「捨助さんはやっぱり隊士のするのですか?」

「このゴタゴタが無ければ隊士にするつもりはなかったが、今はそんなことを言っている場合じゃねぇ。隊士にしてやるっ!」

 捨助さんもあっさりと隊士になることになった。

 こんなことなら、もっと早くに隊士にしてあげた方がよかったんじゃないか?

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