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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年9月
365/506

鈴鹿峠越え

 大津から隊士のみんなに見送られ、かごに乗って東海道へ。

 テレビのドラマに出てくるような豪華なかごに乗ることになり、はしゃいでいた私。

 かごが出る前に小さい窓を開けて、

「それでは行ってきます」

 なんて、みんなに挨拶した時は、もう、どこかの大名のお姫様気分だ。

 服装はお姫様どころか、この時代の旅人の服なんだけど。

「気を付けて行って来いよ」

 なんて、原田さんたちに言われ、かごの中でちょっと寂しくなったりもした。

 しかし、それも一瞬だった。

 えっさ、ほっさの掛け声とともにかごが揺れる揺れる。

 縦、横、あっちこっちの方向にとにかく揺れる。

 最初はちょっと気取って正座して乗っていたけど、揺れと同時にもう正座どころじゃなくなった。

 かごの中で転がりまくり、あっちこっちに体をぶつけた。

「いでっ!」

 ぶつかるたびにそんな声を出していたけど、かごをかついでいた人は、そんな私の声が聞こえていないのか、聞こえているけど聞こえないふりしているのか、一行に揺れが収まる気配すらなかった。

 これ、どうすればいいのよっ!

 かごの中で転がりながら見つけたのは、上からぶら下がっているひもだった。

 これにつかまれってことか?

 このまま転がっていても仕方ないから、藁をもつかむ気持ちでひもを捕まえてしがみついた。

 これにより、転がることは無くなったけど、揺れは相変わらずで、今度は上に頭をぶつけることになった。

 ドラマで見ると、みんな優雅に乗っているけど、あれは嘘だな。

 分かったことはそれだけだった。

 かごって、意外と乗り心地が悪いのね。


 かごを背負っていた人たちが休憩するのか、急にかごが止まった。

 ガラッと横の戸が開いた。

「ちょっと一休みします」

 そう言われたから、よろよろと外に出た。

 ずうっと揺られて体のどこかに力が入っていたので、歩いていないのに体が疲れて動かない。

 だから、かごから出るのも一苦労だった。

 先にあるかご二つを見ると、土方さんと源さんも、よろよろと出てきた。

「これは、思ったより乗り心地が良くないな。蒼良は大丈夫だったか?」

 源さんが、外に出ると同時に私に声をかけてきた。

「あっちこっちぶつけました」

「そうだろう。かわいそうに。大丈夫か?」

 源さんが真っ先に私の方に来た。

「おい、俺もいるんだが」

 腰を叩きながら土方さんが出てきた。

「歳は大丈夫だろう」

「なんでそんなことわかるんだ?」

「付き合いの長さだな。俺には蒼良の方が心配だしな。な、蒼良」

 源さん、ここで私の同意を求められても、どう返事をしていいのかがわからない。

「それにしても、これからもこのかごに乗らねぇといけねぇらしいんだが、耐えられねぇな」

 えっ、これからもって……。

「もしかして、江戸までこれで行くのですか?」

 もしそうだったら、江戸に着く前に死んでるぞ。

「そうだと言ったらどうする?」

 土方さんがチラッとかごの方を見て言った。

「俺は無理だぞ。絶対に腰がやられる」

 源さんが真っ先にそう言った。

「近藤さんが、幕臣らしくかごで行けと言っていたが……」

 そ、そうなのか?

「幕臣って、かごを使うのですか?」

 そんなこと初めて聞いたぞ。

「そんなこともねぇだろう。俺の知っている幕臣の人間はかごに乗ってねぇぞ」

 そうだよね。

 あまり乗り心地の良いものではない。

「それなら、お断りしましょうよ」

 絶対に歩いたほうがいいって。

「断れるなら、断ったほうがいいよな」

「断れるか?」

 土方さんが、再びかごの方を見て言った。

 かごの方では、かごを運んでくれた人たちが休憩している。

「断れないなら、土方さんが代表して乗るっていう手もありですよ。私たちはその横を歩きますので」

「ああ、それもいいな。歳、お前が代表して乗れ」

「な、なんでそんな話になるんだっ!」

 だって……。

「土方さんは副長じゃないですか。幕臣でも、副長と私たちとでは身分も違いますから」

 確か、違ったと思ったけど。

 名前が難しいから、あまり覚えていないんだよね。

「そうだ。歳は、見廻組肝煎格で、俺たちは見廻組格だからな。歳の方が高いんだ」

 どっちの名前がどうとかよくわからないけど、土方さんの方が位が高いのはわかる。

「ちょっと待った。なんで俺がそんな思いをしねぇといけねぇんだ」

「身分が高いから」

 土方さんの問いに声をそろえて答えた私たち。

「身分の高い人間がこんな理不尽な思いをするのはおかしいだろう」

 そうかな?

「かごに乗れるんだから、いいじゃないですか」

「俺たち護衛についてやるから」

「俺は納得してねぇそっ!」

 それから三人で話し合い、最初の宿場町までは我慢してかごに乗ることになったのだった。


 かごを帰し、旅は順調に続いていた。

 そんなある日のこと。

 土山宿で泊まり、朝の出発時のこと。

「今日は、神社にお参りしてから行くぞ」

 と、土方さんが言いだした。

「何かあったのですか?」

 中山道を通っていた時は、途中で神社にお参りなんてことはなかった。

「これからあるんだ」

 えっ、これから?

「ああ、峠越えか」

 源さんがそう言った。

 峠越え?

「鈴鹿峠を越えるから、安全を願って神社にお参りをする」

 そんなにすごい峠なのか?

 後で調べてみたら、この鈴鹿峠は箱根峠に次ぐ難所と言われていたらしい。

 どれぐらいの難所かというと、過去に電車や道路を作ろうとしたけど、あまりの難所だったので、その場所を避けたということがあったらしい。

 ちなみに現代は国道一号線が通っていて、トンネルが開通している。

「トンネルがあれば、峠越えをしなくてもいいのですよね」

 思わずそう言っていた。

「はあ? トンネル?」

 土方さんと源さんに声をそろえて聞き返されてしまった。

「山に穴をあけて、向こう側へ通すのですよ」

 トンネルの話をしたら、

「そんなこと、出来るわけねぇだろう」

「蒼良は、面白いことを考えるよな」

 と、二人から笑われてしまった。

 ほ、本当にあるんだからねっ!


 土方さんにお参りすると言われたので、田村神社と言うところに行った。

 鈴鹿峠は現代の滋賀県と三重県の間にある峠で、鈴鹿を越える人たちは、滋賀県側からだとこの田村神社にお参りをし、三重県側からだと片山神社と言う神社があるので、そこに旅の安全を祈願してから峠を越える。

 無事に峠をこえたら、峠を越えた先にある神社にお礼をする。

 田村神社でお参りをした私たち。

「蒼良、坂上田村麻呂って知っているか?」

 お参りをした後に源さんに話しかけられた。

 うーん、確か……。

「平安時代の人ですよね」

「おお、わかっていたか」

 土方さんがそう言ってきた。

「歴史で習いました」

 その言葉に二人から、

「はあ?」

 と言われてしまった。

「で、その人がどうかしたのですか?」

 何があったんだ?

「昔、ここに鬼が出て、坂上田村麻呂って人が退治したらしいぞ」

 ほ、本当なのか?

「その顔は信じてねぇな。この峠を下った先に鏡岩って言う大きな岩がある。その岩が証拠だ」

 土方さんがそう言いながら歩き始めた。

「本当に、鬼がいたのですか?」

「話によると、その鏡岩に旅人がうつると、鬼が出てきて襲ってきたらしいぞ」

 源さんも知っているみたいで、そう教えてくれた。

「それなら、峠を下ったときが楽しみですね」

 鏡岩が見れるからね。

「お前、そんなのんきなことを言っていてもいいのか?」

 土方さんが真顔でそう言ってきた。

 えっ、何かあるのか?

「今も鬼がいるかもしれねぇだろう」

 そ、そうなのか?

 思わず源さんを見てしまった。

 源さんも心配そうな顔をしているので、嘘ではないらしい。

 ほ、本当にいるのか?

「その時は、土方さんお願いします」

「なんで俺なんだ?」

「新選組の鬼副長じゃないですか。本当の鬼とどっちが強いか楽しみです」

 土方さんが強いことを願っていますが。

「あははっ! 蒼良にはまいったなぁ。歳もしてやられたな」

 源さんが、私の頭をポンッと優しくたたいてきた。

 ん?してやられた?

「蒼良、鬼なんているわけないだろう。冗談だ、冗談」

 えっ、そうなのか?

「つべこべ言ってねぇで、行くぞっ!」

 冗談だったのか?

 

 鈴鹿峠は話通り難所だった。

 それでも、岩にへばりついて山を登ると思っていたので、それに比べると楽だった。

 と言うのも、細いながらも道があったからだ。

 ただ、山道なので、大きな石とかもあり、かなり歩きずらかった。

 そして、急な上り坂になっていたので、歩くのも大変だった。

 この道も江戸時代になってから整備したらしいので、その前までは、本当の難所だったんだろうなぁ。

 峠の上の方へ着くと、一休みすることになった。

「蒼良、よくここまで来れたな。大丈夫か?」

 源さんがそう言ってくれた。

「大丈夫です」

「おい源さん、こいつだって子供じゃねぇんだぞ」

「でも、こんな峠をよく文句言わずに登ってきた。えらかったぞ」

 源さんがほめてくれた。

 歩くのに必死だったから、文句言うゆとりもなかったんだけど。

「あまり甘やかすなよ」

「いいじゃないか。蒼良はかわいいんだから。なぁ」

 いや、そこで返事を求められても困るから。

「親ばかじゃなくて、ばかな親を見ている気分になってくる」

 土方さんがボソッと言ったけど、源さんは聞こえなかったのか、聞こえないふりをしたのか、無視していた。

 そう言えば、峠の上の方だから、下と比べると気温が低いんだよね。

 もしかして、紅葉が始まっていたりしないか?

 そう思って上を見上げた。

「うわぁっ!」

 思わず声をあげてしまった。

 そう、紅葉が始まっていて、ちょうど見ごろだったのだ。

 ずうっと下を向いて歩いていたから、気がつかなかった。

「どうした?」

 土方さんに言われたので、上を指さすと、源さんも上を見上げた。

「こりゃ、すごいな。いいものが見れたぞ」

 源さんは嬉しそうにそう言った。

「そうだな。今年は見れねぇと思ったが、ここで見れるとは思わなかったな」

 土方さんも、上を見上げてそう言った。

「よかったですね。俳句の材料があって」

「はあ? 何か言ったか?」

「中山道の山道は作る気が無いようなので、東海道の花道なんてどうでしょう?」

「お前……」

 絶句をする土方さん。

「いいなぁ、それ。ほら、最近出た俳句の奥の細道みたいだな」

 あ、源さん知っていたんだ。

「中身はきっと奥の細道の方がよさそうだけどな」

 いや、それは言ってはいけませんよ、源さん。

「お前らっ! 好きかって言いやがってっ! 行くぞっ!」

 土方さんは立ち上がり、峠を下り始めた。

 俳句の話をすると、いつもそれなんだから。


 峠も無事に下り、三重県側に到着した。

 片山神社に無事を感謝しに行った。

 ちなみにこの片山神社は、現代は廃屋のようになっているらしい。

 現代では見られない状態のものがこの時代で見られるのは嬉しい。

 けど、廃屋になるのはもったいないなぁ。

「いつまで拝んでるんだ。行くぞ」

 土方さんに言われ、急いで後をついて行った。

 片山神社を後にした私たち。

 東海道の旅はまだまだ続く。

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