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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年9月
364/506

京を出る

 晴れていてよかった。

 まだ夜が明けたばかりの空を見て思った。

 いよいよ今日、江戸へ向けての旅が始まる。

「晴れたな」

 土方さんが、私の後ろから空を見上げてそう言った。

「よかったですね。出発の日が雨だったら、もう憂鬱な旅になりそうですもんね」

「安心しろ。雨が降ったら、出発は延期だ」

 え、そうだったのか?

「そんな簡単に延期してもいいのですか? 待っている人がいるのですよ」

 江戸にいる人たちには、すでに文で知らせてある。

「でも、何日に着くかなんてわからねぇだろう」

 あ、確かに。

 この時代、現代のように時間にきっちりしていない。

 この旅もだいたい二週間ぐらいという感じで、何日に着くっ!と言うものがない。

 ゆっくりと時間が動いている時代なんだなぁ。

 だから、待っている相手の方も、そろそろ来るんじゃないの?って言う感じで待っている。

 だから、自分たちのペースでゆっくりと旅ができるのだ。

「楽しい旅になりそうですね」

 時間を気にしなくていいなんて、それだけでも楽しそうだ。

「お前らは楽しいだろうよ」

 えっ、それはどういう意味だ?

「俺は、お前と源さんの子守をしながら行くんだぞ。いつもの仕事より大変そうだ」

 そ、そうなのか?

「私はともかく、源さんは土方さんより年上なので、土方さんが子守される方じゃないのですか?」

「なんだと?」

 あ、いや、何でもないです。

「そうだぞ。俺が歳を子守してやるから、安心しろ」

 後ろから源さんか顔を出してきた。

蒼良そら、歳に色々言われたら、俺にすぐ言えよ。俺が叱ってやるからな」

「源さん、そりゃねぇだろう」

「歳も、俺には逆らえないからな」

 源さんはニヤリと笑っていた。

 でも実際は、源さんの方が年上だけど、源さんが土方さんに合わせてているという感じで、逆らうとかそう言う事はない。

「そんな変なこと言うんじゃねぇ。俺がいねぇと宿とかは全部泊まれねぇからな」

 えっ、そうなのか?

「宿は全部、新選組副長、土方の名前でとってある」

 土方さんはいばるように胸を張ってそう言った。

「えっ、もう宿をとってあるのですか?」

 今までは、宿をとっているようには見えなかった。

 宿場町に行って、ここに泊まるかってなったら、そこから宿を探して泊まっていた。

 それでも十分に泊まることが出来るし、泊まれなかったと言う事もなかった。

「幕臣が行くんだからな。色々と手続きがあるんだ」

 そうなんだぁ。

「なんだな、偉くなるのは嬉しいが、大変なこともあるんだな」

 源さんのその一言にうんうんとうなずいてしまった。

「とにかく、俺をのけ者にすると、野宿だからな」

 いや、誰ものけ者になんてしてないから。

「長いたびになるが、よろしく」

 源さんが私たちの真ん中に手を出してきた。

「おう、よろしく頼む」

 その上に土方さんが手を置いた。

「よろしくお願いします」

 私も上に手を置いた。

 そして三人で視線を合わせて微笑み合っていた。


「だから、見送りはいらねぇって言ったのに……」

 そう言う土方さんの後ろには、ゾロゾロと見送りの隊士たちがついてきていた。

 今まで静かに旅立っていたのに、今回は旅立ちからしてにぎやかだよな。

「皆さん、どこまで来るのですか?」

 私の隣には、見送りのために一緒にいる原田さんがいた。

「近藤さんには大津までと言われているが」

 大津って、琵琶湖の所の?京からも遠いじゃないか。

「そこで一泊して、次の日ちゃんと見送るようにと言われているが」

 原田さんも、なぜか困ったように言っていた。

「すみません。私たちの旅につき合わせてしまって」

 困った顔をしていたから、なんか申し訳なくなってきた。

「いや、蒼良のせいじゃないさ。幕臣になるとめんどくさいもんだなと思ってさ」

「あ、それは私も思いました」

 土方さんが宿の手続きしていたもんなぁ。

「蒼良もそう言う思いをしたんだ」

「私がと言うより、土方さんがですかね」

 私は特に影響はない。

 今日のこの見送り以外は何事もなく過ごしてきた。

「今回の旅も、色々めんどくさいことになりそうだからな。気を付けて行って来い」

 えっ、そうなのか?

「めんどくさいことって、何ですか?」

 すごく気になるぞ。

「俺もよくわからないが、幕臣となると、普通に宿に泊まれないんじゃないか?」

 それはどういう意味だ?

「どこかの藩の藩主が京に来るってなるだけで、大騒ぎになるだろう」

 確かにそうだけど。

「だから、それが幕臣となるとどうなるんだろうな」

 原田さんのその言葉を聞いて、色々考えてしまった。

 おな~り~とかって言って、みんな頭下げているのか?

 いや、それはないだろう。

 土方さんは大名じゃないから。

 そう、大名じゃないんだ。

 と言う事は……。

「土方さんは、藩主じゃないからそこまで大げさにならないと思うのですが」

「ま、それもそうだな」

 原田さんの笑顔を見てこっちもホッとした。

 大丈夫だよね、きっと、今までと同じような感じだよね。


「蒼良さん」

 歩いていると、山崎さんに声をかけられた。

「江戸までの道中、大変だと思いますが、無事を祈っています」

 山崎さんが神妙な顔でそう言うので、

「本当に、大変なんですか?」

 と、聞いてしまった。

 なんか、不安になってしまうじゃないか。

 原田さんとの話の後の山崎さんの神妙な顔なんだもん。

「えっ、何かあったのですか?」

 私がそう聞いてしまったので、事情を知らない山崎さんに逆にそう聞かれてしまった。

「幕臣になると、色々と面倒だという話をしていたので。今回の旅も今までと違うのかなぁと不安になってしまって」

 私がそう言うと、山崎さんは、ああ、とつぶやいた。

「私が不安にさせてしまいましたね。大丈夫ですよ」

 山崎さんは優しい笑顔でそう言ってくれた。

「今までだって、何も変わりなかったじゃないですか」

 そうなんだよね。

 幕臣になったという話だけで、特に仕事が変わったというわけでもないし、扱いも全く変わっていない。

「だから、蒼良さんが気にしなくても大丈夫ですよ」

 そうだよね、そうだよね。

「山崎さんのその言葉を聞いて、落ち着きました」

「不安だったのですね」

 不安でしたよ。

「副長もいるし、大丈夫ですよ」

「それが一番不安なんですよ」

「えっ?」

 いや、そんな、本気で驚かないでよ。

「冗談ですよ、冗談」

 そんなこと、思うわけないじゃないですか。

「なにが不安だって?」

 前を歩いている土方さんからそう言う声が聞こえてきた。

 もしかして、聞こえていたのか?

「な、何でもないですよ。ねぇ、山崎さん」

 山崎さん、話を合わせてくれ。

「幕臣になってから初めての旅だから、蒼良さんは不安になっていたようです」

 山崎さんは、いつものようにそう言った。

 ごまかすのがうまいなぁ。

「そ、そうなんですよ。こんなにたくさんの人に見送られたのも初めてですから」

「なんだ、そんなことか。大丈夫だ。俺たちは変わらねぇよ」

 そうだよね、大丈夫だよね。

 土方さんのその言葉を聞いてさらに安心した。

 それにしても、土方さんは地獄耳だなぁ。

「必殺、土方地獄耳だ」

 思わず声に出てしまった。

「なんだとっ!」

 土方さんがぐるっと後ろを振り向いた。

 やっぱり地獄耳だ。

 聞こえているじゃないかっ!

「何でもないですよ、ねぇ、山崎さん」

 山崎さんは笑顔でうなずいてくれた。

「なんかあやしいよな」

 そう言いながら、前を向いてくれた。

「山崎さん、ごまかすのが上手ですね。今度教えてください」

「教えることなんてないですよ」

 山崎さんは笑顔でそう言ったのだった。

 そのごまかし方さえマスターすれば、私も一人前になれるな。

 で、なんの一人前なんだ?って話なんだけどね。


 大津に着いた。

 朝出たので、昼過ぎに着いた。

「お前ら、ご苦労だったな。もう戻ってもいいぞ」

 土方さんが、見送りに来てくれた隊士の人たちにそう言った。

「そう言うわけにはいかないんだ」

 原田さんがそう言ってきた。

 そう言えば、泊まって見送るとかって言っていたよな?

「なんだ、どういうことだ?」

「近藤さんから、大津で止まって、明日の朝見送ってから帰ってくるようにって言われているんだ」

 やっぱり、そんなことをさっき話していたんだよね。

「べつに、俺は構わねぇから帰れ」

「いや、もう宿はとってあるのです」

 今度は山崎さんが言ってきた。

 しかも指をさして。

 指をさした先を見ると、

「歓迎、幕臣 新選組副長、土方歳三様」

 という大きな看板が出ていた。

 しかも、高そうな宿だ。

 それを見て、土方さんは固まっていた。

「またたいそうなものを用意したなぁ」

 源さんが隣でつぶやいていた。

 本当にそうだよね。

「と言う事だからさ、土方さん。もうちょっと付き合ってよ」

 原田さんが、土方さんの肩をポンッとたたいてそう言った。

「本当だったら、今日中に石部宿まで行きたかったんだが……」

 あれ?中山道にそんな宿場町あったかなぁ。

「歳、それは東海道じゃないかっ!」

 土方さんのつぶやきを聞いていた源さんがそう言った。

 えっ、東海道なのか?

「中山道じゃないのですか?」

 いつも、富士山が見れないって思っていたんだよね。

 東海道で行こうって言ったこともあったけど、中山道なんだよっ!って言われたこともあった。

「近藤さんが、堂々と東海道で行けって言ったから、今回は東海道で行く」

 そうだったのかっ!

「富士山が見れますね」

「海も見れるぞ」

 思わず源さんとそう言い合ってしまった。

「お前ら、遊びに行くんじゃねぇんだぞっ!」

 そうなんだけど、旅の間だけ楽しんだっていいじゃんかっ!


 大津宿で宴会をし、次の日に大勢の隊士に見送られる中、旅立った。

 旅立つとき、なんと、宿の前にかごが三つ来ていた。

 他のお客さんのかなと思っていたら、私たちのかごだった。

「近藤さんが、幕臣なんだから、かごにのって堂々といけっ! って言うからさ。頼んどいたよ」

 原田さんがそう言った。

 すごい、本当にテレビのドラマでお姫様がのっていたかごだぞ。

「そんな、近藤さんも大げさだな。俺はいつも通りでいいんだ」

「土方さん、せっかくなんだから乗りましょうよ」

「そうだぞ、歳」

「お前らは全く……」

 というわけで、隊士の人たちに見送られる中、私たちはかごに乗って東海道へ旅立ったのだった。

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