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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年8月
357/506

いまさら聞けない尊皇派と佐幕派

「お前も面白いものを作ったな」

 この前、沖田さんのために作ったリースを見て土方さんが言った。

「聞いてくださいよ。朝顔競争、沖田さんが私の朝顔と取り替えていたらしいですよ」

 そうなのだ。

 私が知らない間に取り替えられ、沖田さんが一番、私が三番だったのだけど、本当は私が一番だったらしい。

 なんで取り換えられていたことに気がつかなかったんだろう。

 それが一番悔しいかもしれない。

「そりゃ、気がつかないお前が悪い」

 そ、そうですよね。

 うっ、やっぱり私が悪いのだ。

「総司のやりそうなことだろう。なんで気がつかなかったんだ?」

 えっ、沖田さんのやりそうなことだったのか?そこまで考えていなかった。

「それにな、朝顔の開花数を競っている暇があるなら、仕事しろ、仕事」

 はい、おっしゃる通りです。

 でも、仕事はちゃんとしているぞ。

「で、解決したのか? その事件は」

 結局、私が沖田さんの診察につきそうと言う事で解決した。

 そんな解決方法でいいのか?という感じだけど。

 私がうなずくと、

「だったら、いいじゃねぇか。もうその話はするな」

 と言われてしまった。

 はい、すみません。

 土方さん、なんかイライラしているように見えるけど……。

「土方さん、怒ってませんか?」

「別に怒っとらんっ!」

 いや、怒ってますから。

「お茶を入れてきました」

 そんな会話をしていると、土方さんの小姓である鉄之助君がお茶をもって部屋に入ってきた。

 本当によく気がつく子だ。

 まだ十四才だというからすごい。

「おう気がきくな。いつも言っているが、こいつのお茶は別にいいからな」

 ひ、土方さん、なんてことを言うのですかっ!

「私だってお茶を飲みたいですよ」

「それならお前も小姓をつければいいだろう」

「え、いいのですか?」

 だめかと思っていた。

 そうか、小姓がいたら色々と便利そうだなぁ。

「鉄之助君、私におすすめの子いる?」

 鉄之助君に小姓を紹介してもらおう。

「やっぱりだめだ」

 土方さんが突然そう言ってきた。

 ええっ、そうなのか?

「どうしてだめなのですか? さっきはいいみたいなことを言ってたじゃないですか」

「いいとはいっとらんぞ」

 うっ、確かに。

「お前に小姓はまだ早い」

 そうなるのか?

 土方さんはお茶を飲んだ後、ため息をふーっとついた。

「どうかしたのですか?」

 なんか、ため息つくなんて土方さんらしくない。

「周りが色々動きがあってな。こっちも情報収集に疲れてきた」

 そ、そうなのか?

 やっぱり土方さんらしくない。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。土佐や長州や薩摩の連中が影でこそこそと動き回りやがって」

 この時期何かあったか?

「あっ! 大政奉還」

 でも、それって慶喜公が政権を朝廷に返したという事件であって、他の藩は関係ないと思うのだけど……。

 しかし、後で調べたら、関係があったのだ。

 薩長を中心とした倒幕派と公家の岩倉具視が、天皇はまだ幼いから、なんとかして倒幕のみことのり、簡単に言うと幕府を倒せという天皇の命令を出させ、幕府を倒してしまおうと作戦を練っていたらしい。

 それがわかった慶喜公は、そんな命令を出されたら、幕府は大変なことになると思い、政権を天皇に返しますよと言ったのが大政奉還だ。

 これで天皇から幕府を倒せという命令は出せないだろう。

 とりあえず薩長と岩倉具視のたくらみは阻止出来たぞと言う事らしい。

 きっと、この時期は薩長と岩倉具視が何かをたくらんでいる最中なんだろう。

「なんだ、大政奉還って」

 土方さんは私が未来から来たことを知っているから、話してもいいのだけど、ここにいる鉄之助君は私が未来から来たどころか、女だと言う事すら知らない。

 鉄之助君の前で話すことはできないだろう。

「色々とあるのですよ」

 その一言で察した土方さんは、

「まったく、尊王派の奴らがうっとおしい。前は捕縛することが出来たんだけどな。今は出来ねぇし。しかも、思想も倒幕と言う過激なものになってきているってぇのにな」

 そうなんだよね。

 ここで一気に捕縛できれば、鳥羽伏見も阻止できるかも?

 でも、一歩間違えれば早まるかも?

 どっちだ?

「あの……」

 私が考え込んでいると、鉄之助君の遠慮したような声が聞こえてきた。

「なんだ?」

 土方さんが怖い顔をしたまま聞いた。

「そんのうはって何ですか?」

 鉄之助君のその声に思わず土方さんと一緒に固まってしまった。

「て、鉄之助君、冗談で聞いているわけじゃないよね」

「おい、鉄之助は総司じゃねぇぞ」

 そ、そりゃどういう意味だ。

「他に知りてぇことはあるか?」

「よく、他の隊士の皆さんがじょういと言う言葉を使っているのですが、それもよくわからないのです」

 そ、そうなのか?

 でも、よく考えてみれば、鉄之助君はまだ十四才だから知らなくても当然なのかもしれない。

「お前の年で知らねぇって言うのもどうかと思うぞ」

 当然じゃないらしい。

「でも、お前の今までの生活環境から考えると、知らなくて当然だな」

 土方さんは優しい顔でそう言った。

 鉄之助君は家が貧しかったために、ものすごく苦労をしているらしい。

 だから、そんな言葉を知る前に明日の生活の方が大事だったのだろう。

「おい、お前。教えてやれ」

 えっ、私がか?

「わ、私で大丈夫なのですか?」

「お前、それを自分で言うか?」

 って言うけど、私も最近知ったことだから、自信ないからねっ!

「よし、こいつから教われ」

「お願いします、蒼良先生」

 鉄之助君に頭を下げられたら、断れなくなってしまった。

 もう、変なことを教えることになっても知らないからねっ!


「まず、攘夷からだね」

 秋の気配がますます出てきた屯所の縁側に座り、庭を眺めながら私は言った。

 道場がいいかなぁと思ったけど、剣の稽古じゃないし、堅苦しくない方が覚えやすいかなぁと思い、この場所を選んだ。

「お願いします」

「簡単に言うと、異国人を追い払うことを言うんだよ。最近、日本に異国人が来ているのは知っているよね」

「来ているらしいですね」

 そ、それも知らなかったのか?

 でも、生活のことを考えるとそれも当然なのかもしれない。

「日本は、今まで異国と行ったり来たりとか、異国人と接することも禁止していたんだけど。これはちなみに鎖国と言うんだけどね」

 ここは歴史の授業で習ったぞ。

「そうなんですね」

 やっぱり、知らなかったのか?

「で、鎖国をしているところに、異国の人間が乗り込んできたものだから、気にくわないよね。だから、こういう考え方が出来たんだと思う」

 この時代、攘夷という考えはほとんどの人が持っていると思う。

 ただ、天皇を中心としてやるか、幕府を中心としてやるかによって意見も分かれていく。

「蒼良先生、わかりやすいです」

 そ、そうかな?そう言われると嬉しいぞ。

 歴史の先生になれるかもしれないぞ。

「あれ? 蒼良。土方さんの小姓と何をやっているんだ?」

 私が得意げになっていると、永倉さんの声が聞こえてきた。

「鉄之助君に色々教えているのです」

 ちょっと胸を張って答えた。

「え、蒼良がか?」

 そ、それはどういう意味だっ!

「蒼良から教わるより、俺に聞いたほうが確実だぞ」

「そ、そんなことはないですよ。今のところ分かりやすく教えていますから」

「本当か?」

 永倉さんが鉄之助君に聞いたら、鉄之助君はうなずいてくれた。

「ま、本人目の前に分かりずらいとは言えないよな」

 し、失礼だぞっ!

「で、何を教えてほしいんだ?」

 永倉さんは鉄之助君に聞いた。

「攘夷は分かったので、そんのうはとさばくはについて知りたいです」

「ああ、尊皇派と佐幕派だな」

 永倉さんはそう言うと、縁側に座っていた私たちの前に立った。

「まず尊王とは、この思想は清から来たらしいんだが」

 清とは中国のことだろう。

「王者を尊ぶことだ。この国で言うと、天皇、帝だな。ちなみに勤王とは、王に忠誠を誓う事だ」

 ん?尊王も勤王も似たような感じがするけど……。

「永倉さん、尊王も勤王も同じじゃないのですか?」

「微妙に違う」

 そうなんだ。

「尊ぶことと忠誠を誓う事は違うだろう」

 確かにそうなんだけど……。

 後で調べたのだけど、尊ぶとは、神様をあがめるのと同じような意味になる。

 だから尊皇は、王様を神様のようにあがめるという意味になると思う。

 で、忠誠を誓うのは、その人のために心を尽くして働くこと。

 だから勤王は、王様のために働くことと言う事になる。

 こうやって調べると、確かに違う。

「尊皇派とは、天皇を中心としたまつりごとを行いたいという人間の集まりだ」

 うん、それはわかる。

「で、佐幕派とは、幕府を中心とした政を行いたいという人間の集まりだ」

 永倉さん、すごいっ!

「永倉さん、そこまで知っていたのですね」

「蒼良に言われたくない」

 そ、そうなのか?

「屯所がここになる前に、伊東さんたちが隊を出た。これは、伊東さんたちは尊皇派であるのに対し、新選組は佐幕派だからだ。根本的に考え方が違ったんだな」

 あれ?

「永倉さんも、伊東さんと同じ考えじゃないのですか?」

「蒼良、突然何言いだすんだ」

「伊東さんの勉強会に毎回のように参加していたじゃないですか」

「確かに参加していたが、それだけだ。ほら、武士は二君に仕えずっていうだろ。俺も武士だからな。俺が仕えるのは近藤さんだけだ」

 なんか永倉さん、かっこいいぞ。

「いいか、新選組は佐幕派だからな。お前の考えが尊皇派の考えだったら、早めに隊を出たほうがいいぞ」

 永倉さんは、鉄之助君を見てそう言った。

 突然、何を言い出すんだ。

「私は、毎日ごはんが食べれるなら、どちらでもいいのです。今は新選組が私のことを食べさせてくれるので、新選組が佐幕派なら、私も佐幕派になります」

 鉄之助君のその言葉にシーンとなってしまった。

 本当に、苦労をしてきたんだね、若いのに。

「お前っ! 苦労をしてきたんだな」

 永倉さんが鉄之助君の方に両手をのせてそう言った。

「これからは、うちの隊が面倒見てやるから、遠慮しなくてもいいぞ。あ、質問があったら何でもいいから俺に聞け」

 永倉さんは目をウルウルさせながらそう言うと行ってしまった。

「蒼良先生はどちらですか?」

 永倉さんを見送っていると、鉄之助君にそう聞かれた。

 えっ、私か?

「私は、特にどっちと言うものはないなぁ。新選組が好きだからここにいるだけだから」

 そう、私はどっち派と言うのは決められないし、そんなものは知らん!という感じだ。

 そこに新選組がいるから私はここにいるんだ。

「それなら、私と同じですね」

「鉄之助君は、新選組が好きなの?」

「はい、好きです。ご飯が食べれますから」

 笑顔で鉄之助君は言った。

 本当に苦労しているんだなぁと、私も目がウルウルしてしまったのだった。

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