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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年8月
355/506

朝顔競争の結果

 八月になった。

 現代で言うと、九月の中旬から下旬あたりになる。

 この時期になると、残暑も無くなり、過ごしやすい日が続いていた。

 もうすぐ秋だなぁ。

 そんなことを思いながら朝顔をながめていた。

 この時期になると、朝顔も枯れる。

 私たちの朝顔も徐々に咲く花の数が減り、枯れてしまった。

 今は、種をつけた丸いものと、茶色になった葉とくねくねと長く木に巻き付いたつるしかない。

 沖田さんは枯れた朝顔を見たくないと言った。

 労咳と言う名の病気になっている自分と重ね合わせて見てしまうのだろう。

 そのせいか、真夏は数回ほど水をあげていたところを見たけど、最近は朝顔見に来なくもなってしまった。

 早く種を取ってかたしちゃおうかなぁ。

 そう思った時もあった。

 でも、沖田さんがそれに気がついたらどう思うのだろう。

 私だったら、片づけることによって消してしまった、無くなってしまった、と思ってしまうかも。

 だから、片づけることも出来ず、枯れたものに水をあげても仕方ないので、そのままになっている。

 うーん、これはどうすればいいんだ?

「なにしてんだ?」

 朝顔の前でうなっていると、土方さんの声が聞こえてきた。

 あれ?部屋で仕事中じゃなかったのか?

「なんでここにいるのですか?」

「近藤さんに用があって、今から部屋に行くところだ。お前こそ、何してんだ?」

「朝顔の今後を考えていたのです」

 枯れた朝顔をどうすりゃいいんだ?

 土方さんは私が見ている枯れた朝顔に目をやった。

「枯れてる物を生き返らせることは出来ねぇしな。種をとって、また来年まけばいいだろう」

 そうなんだよね。

「種の使い道はありますが、残ったつるはどうすればいいのですかね」

「捨てるしかねぇだろう」

 そ、そうだよね。

「そんな簡単なこともわからねぇのか?」

 いや、そう言う問題じゃないのだ。

「捨てちゃったら、沖田さんが悲しむかなぁと思ったので」

「なんで総司が悲しむんだ?」

 土方さんに聞かれたので、今までのことを話した。

「総司がそう言ったのか。それを言われると枯れた朝顔を捨てれねぇな」

 でしょ、そうでしょ?

「どうすればいいと思いますか?」

 私が聞いたら、私の肩に両手をポンッとのせてきた。

「お前に任せた」

 え、ええっ!

「土方さんも考えてくれないのですか?」

「俺も色々と忙しいからな。おっと、ここで油を売っている暇はねぇんだ。近藤さんの部屋へ行かねぇと」

 そう言うと、土方さんは去っていった。

 も、もしかして、逃げたのか?


 朝顔も咲かなくなったから、朝顔競争も終わりだろう。

 藤堂さんはちゃんと記録をつけてくれていると思うから、後は結果を聞くだけだな。

 とりあえず、御陵衛士の屯所がある高台寺に行くことにした。

 藤堂さんは、伊東さんから新選組と付き合うなと言われているから、見つからないように行かなければならない。

 どうする?やっぱり、あれしかないか?

 部屋に戻り、たんすを開けた。

 そこには楓ちゃんからもらった着物がしまってあった。


 すっかり女装をした私は、高台寺へ行った。

 高台寺に近づくと、いつもの癖で周りに誰もいないかきょろきょろと見回しながら近づいて行く自分がいた。

 よし、誰もいないぞ。

 と思ったけど、通行人と目があってしまった。

 そうだ、今の私はそんなことをしなくても大丈夫だった。

 逆に、きょろきょろしながら歩いている自分が不審者そのものじゃないかっ!

 と言う事で、今度は堂々と歩いて近づいた。

「何か用かな?」

 正々堂々と近づいたら、伊東さんが門の前に立っていた。

 思わず逃げてしまった。

 近くの塀に隠れてから気がついた。

 逃げる必要なかったじゃん。

 ますます不審者度数が上がる私。

 また行く?でも、伊東さんがいたら、また変な人だと思われるよね。

 でも、藤堂さんに会わないといけないし。

 えいっ!こうなりゃやけだっ!どうにでもなれっ!

 御陵衛士の屯所の門まで猛ダッシュで近づいた。

「な、何かな?」

 まだ門の前にいた伊東さんは、私が走って近づいてくる姿を見て驚いていた。

 私はぜーぜーと息を切らせながら、

「と、藤堂さん、いますか?」

 と言った。

「あれ?」

 伊東さんはそう言いながら顔をのぞき込んできた。

「どこかで見たことあるような……」

 えっ、念入りに化粧したけど、もうばれたとか……。

 どうしよう。

 また、ばらされたくなければ御陵衛士になれって脅されそうだぞ。

「ああ、わかったぞ」

 ば、ばれたか?

「この前、中岡先生と会った時に酒をつぎに来た女だね」

 あれ?

「私は、一度会った女の顔は忘れないんだよ」

 伊東さんはさわやかな笑顔でそう言った。

 そのセリフ、土方さんが言うとかっこいいと思うんだけどなぁ。

 どうやらばれていないらしい。

 伊東さんが中岡慎太郎と会っていた時、女装して潜入したので、伊東さんの言っていることは間違っていない。

 ここは変に否定するより、肯定した方がいいのか?

「そ、そうです。覚えていてくれたのですね」

 私がそう言うと、伊東さんは

「あたりまえだよ。綺麗な女の顔は覚えているからね」

 と、背中のあたりがかゆくなるようなことを言った。

 は、早くこの人を何とかしてくれ。

「ところで、平助に用があるらしいけど、どういう用なんだい?」

 そ、そこまで言わないといけないのか?

 考えてなかったぞ。

 ど、どうする?

「伊東先生、そこで何をやっているのですか?」

 門の中にある建物から藤堂さんの声が聞こえてきた。

 外に出てきた藤堂さんと目があうと、藤堂さんは驚いた顔をして飛び出してきた。

「い、伊東先生、この女性に何をしているのですか?」

「なにをって、平助に用があると言っていたから、どんな用か聞いていたところだ」

 そんなやり取りをしながらも、藤堂さんは私を伊東さんから隠すように立ってくれた。

「そんな、隠さなくてもいいじゃないか」

 伊東さんは藤堂さんの肩ごしからのぞきこんできた。

「隠してないですよ。見ないでくださいよ」

「そこまで言うと言う事は、もしかして、平助の女か?」

 ええっ、そうなるのか?

「そうですよっ! だからそんなに見ないでくださいっ!」

 藤堂さんは伊東さんにそう言うと、私の手を引いて、その場から私を連れ去ったのだった。


蒼良そら驚かせないでよ」

 伊東さんからかなり離れたと確信したら藤堂さんは走るのをやめた。

 そして、息を切らせながらそう言った。

「驚かせたつもりはなかったのですが……」

 藤堂さんが新選組の人に会っていると、伊東さんに思わせないためにはこうするしかないかなぁと思ったのだ。

「でも、女性の蒼良に会えたのは嬉しいかな」

 そ、そうなのか?

「ところで、こうまでして私に会いに来ると言う事は、何か用があったのでしょ?」

 そ、そうだった、忘れるところだった。

「朝顔競争のことできました」

 私がそう言うと、藤堂さんはああとつぶやいた。

「藤堂さん、記録つけてましたよね」

「うん、ちゃんと蒼良が置いてくれた石の数を数えて記録をつけていたよ」

 そう言うと、藤堂さんはふところに手を入れて紙を出してきた。

 それを広げて読み始めた。

「蒼良が45輪、総司が48輪、私が47輪だね」

 そうなんだ。

 あれ、ちょっと待って。

「沖田さんの朝顔の咲いた数が多いですね」

「ああ、総司は最初の方は数が少なかったけど、だんだん咲く量も増えてきたから、最終的に数が多くなったんだね」

 そうなんだ。

「で、私が一番下ですか?」

「ああ、そうだね。最初はたくさん咲いていたんだけどね」

 なんか、納得できないぞ。

 だって、沖田さんの朝顔の世話をしていたのは私だからね。

「これ、私と沖田さんの朝顔の数を反対にすることは……」

「そんなずるいことを考えているの? 蒼良は」

 沖田さんの声が突然背後から聞こえてきたので、

「うわぁっ!」

 と、藤堂さんと飛び上がってしまった。

「二人でずるいことばかり考えて、だめだなぁ」

 ずるいことばかりじゃないですからねっ!

「で、僕が一番だね」

 ど、どこから話を聞いていたんだ?

「そうだよ。総司が一番」

 藤堂さんがコクコクとうなずきながらそう言った。

「で、蒼良が三番だね」

 そ、そこまで聞いていたのか?

「そ、そうだね、そうなるね」

 藤堂さんも、そこはわざわざ教えなくてもいいのに。

「と言う事だよ、蒼良。接待を楽しみにしているね」

 そう言う約束をしていたよなぁ。

 ところで……。

「なんで沖田さんはここにいるのですか?」

 安静にしていないといけないのに、なんで私と藤堂さんが外で話していたところにいるんだ?

「ああ、散歩中だったんだ。気候も良くなったから、気持ちがいいね」

 さ、散歩中だったのか?

「そもそも、散歩して大丈夫なのですか?」

「少しぐらいは大丈夫だよ。蒼良は心配性なんだから」

 普通は心配するでしょう?

「散歩中にここを通りかかったの?」

 今度は藤堂さんが沖田さんに質問した。

「たまたま、御陵衛士の屯所の前を通ったら、女装をしている蒼良と平助と伊東さんがいたから、面白そうだなぁと思って見ていたんだ」

 そ、そこからつけてたんかいっ!

「気がついていたら、一言声かけてくれればいいじゃないですか」

「えっ、伊東さんの目の前で、蒼良! って呼んで手を振って近づいてもいいの?」

 そ、それはだめだろう。

「絶対にそれはやめてください」

「だから、やらなかったじゃん。伊東さんから離れてから声をかけようとしたら、蒼良がずるいことを言っていたからさ」

 ずるいことを言っていたから、現れたと言う事か。

 悪いことはできないものね。

「ところで、接待って?」

 事情を知らない藤堂さんが聞いてきた。

「な、何でもないのですよ」

「蒼良と決めたんだ。三番の人が一番の人を接待するって」

「いつの間にそんなことを決めたの?」

「でも、平助は二番だから関係ないじゃん」

「私も、三番の人に接待されたいけど」

 おいっ!藤堂さんまでなんてことをいうんだっ!

「これ以上、接待する人間を増やさないでくださいっ!」

 接待をする方の身にもなってみろっ!

「あ、蒼良、ごめんね」

 藤堂さんが申し訳なさそうに謝ってきた。

「いえ、こちらこそ、勝手に変なことを決めてごめんなさい」

「いや、そんなことはいいんだよ」

「と言う事だから、蒼良、よろしくね」

 沖田さんはそう言うと去っていってしまった。

「ち、ちょっと、沖田さんっ! 待ってくださいよ」

 私は沖田さんを追いかけようとした。

 しかし、藤堂さんが寂しそうな顔をしていたから、沖田さんと一緒に行くことはできなかった。

「あ、私は大丈夫だよ。総司が倒れたら大変だから、総司についていてあげてよ」 藤堂さんにそう言われたので、

「すみません。行きますね」

 と、一言言って行こうとした時、

「蒼良、また会いに来てよ」

 と、藤堂さんが一言言った。

「当たり前じゃないですか。私たちは友達なんですから」

 私がそう言うと、

「友達か」

 と、残念そうな顔をしていた。

 な、何か悪いことを言ったか?

 私は、藤堂さんに頭を下げてから、沖田さんを追いかけたのだった。 

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