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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年6月
348/506

朝顔の数

 総司と蒼良そらと一緒に朝顔を買って別れてから数日が過ぎた。

 次の日に朝顔は咲いたけど、それからはなかなか咲かなかった。

 みんなの朝顔は咲いているのだどうか?

 それを確かめる方法はない。

 もう二度と会わないだろうと思うから。


 新選組の時に一緒に伊東先生の勉強会に参加をしていた人たちが命を落とした。

 十人ぐらいまとまって御陵衛士に入れてくれとここに来たらしい。

 しかし、伊東先生は断った。

 新選組と人のやり取りを禁止する約束をしていたらしい。

 新選組を抜けたら入ってもいい。

 会津藩に行って頼んでみたらどうだ?と言う事になり、代表して四人が会津藩邸に行った。

 新選組からも説得に行ったらしいのだが、四人は命を落とした。

 切腹したとも言われているし、会津藩士が殺したとも言われているし、新選組がかかわったとも言われているが、真相がわからない。

 それを知った伊東先生はしばらく落ち込んでいた。

「私が、会津藩に頼めばなんて言わなければよかったのだ」

「しかし、伊東先生は会津藩邸今はに行かないほうがいい。どこかに潜伏して時期を待つようにと言ったじゃないですか」

「そう言ったが、もう少し強引に止めてもよかったんだ」

 自分のせいで四人も命を落とさせてしまったという思いもあるのだろう。

「あまりご自分を責めないでください」

 私はそうとしか言えなかった。

 それから数日後、伊東先生から話があった。

「今、新選組と関係が悪くなることを望んではいない。まだ御陵衛士も軌道に乗っていないからね」

 御陵衛士はできたばかりの組織で、孝明天皇の御陵を守るという仕事はあるから、御陵の見廻りぐらいはしているが、本当にそれだけだ。

 御陵の見廻りなんてすぐに終わってしまう。

 伊東先生は、そこから尊皇派の人たちと行動を共にして活躍したいと願っているが、その願いもまだ遠い。

 だから、何もない今、新選組とはつかず離れずの関係をたもっておきたいのだろう。

「だが、新選組と仲良くやろうとは思っていない。これからの活動のことを考えると、あまり仲良くはしたくない。そんな中での今回の事件だ」

 伊東先生の話を聞いていた人たちは、大きくうなずいた。

 私もうなずいた。

「だから今後、新選組とのかかわりをたつ。みんなも、新選組に知人とかいるだろうけど、心を鬼にしてその縁を切ってほしい」

 そう言われた時、真っ先に思いうかんだのが蒼良だった。

 蒼良とも会ってはいけないと言われていると言う事だろう。

「今回の悔しい思いをいつか晴らしたいと思う。その時まで辛抱してほしい」

 伊東先生がそう言うと、それを聞いていた人たちは、

「おーっ!」

 という気合の入った声が聞こえてきた。

 私はとてもじゃないけど気合いをいれることが出来なかった。

 私は、どうすればいいのだろう。


「平助は辛いだろう」

 悩んでいた私に伊東先生がそう言ってきた。

「御陵衛士で新選組に一番長くいたのは平助だからね。仲のいい友人とかいるだろう?」

 新八さんや左之さんとかとよく一緒に飲みに行ったりしていたのに、考えてしまうのは蒼良のことだった。

「そ、そんなことはないです」

 伊東先生に勘付かれたくないから、とっさに嘘をついた。

「無理しなくてもいい」

 伊東先生は笑顔でそう言ってくれた。

 その笑顔を見るとホッとして何もかも話してしまいたい衝動に襲われる。

 でも、伊東先生に話すことでもないので、黙っていた。

 御陵衛士が大変なときに、のんきに恋愛している場合じゃないんだ。

「大丈夫です」

 私は笑顔でそう言った。

「それならいいが。平助も、無理はしないように。何かあったらすぐに言うんだよ」

 そう言って、伊東さんは行ってしまった。

 別れる覚悟を決めなければ。


 これで最後だ。

 そう言う思いで、宵山の日に蒼良が出てくるのを待っていた。

 宵山だから、誰かと一緒に行くことになるだろうから、一人では来ないだろう。

 思っていた通り、総司と一緒にやってきた。

 私を見て二人とも驚いていた。

 宵山に行こうと言ったら、新選組にいた時と変わらない笑顔で迎えてくれた。

 私がまだ新選組にいるような錯覚に陥るぐらい、二人の態度は変わらなかった。

 それが嬉しかった。

 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。

 このまま時間が止まればいいのに、そう何回も思った。

 出店を見て歩いている時、朝顔を見つけた。

 会う事は出来なくても、蒼良とつながることはできるかもしれない。

 そう思い、誰が朝顔をたくさん咲かせることが出来るか、競争しようと持ちかけた。

 断られたらどうしようかと思ったけど、蒼良は乗り気だった。

 それに総司がついてきたのは驚いたのだけど。

 そして、今日で会うのは最後だと告げた時、蒼良が一言言いたそうな感じだったけど、総司がそれを止めた。

 総司は理解してくれたのだろう。

 私は、蒼良のその反応だけで嬉しかった。

 ありがとう。

 心の中でそう言い、朝顔を抱えて京の町を走って行ったのだった。


 それからがあわただしくなった。

 蒼良と一緒に探した御陵衛士の屯所が、善立寺から高台寺へ引っ越しが始まった。

 新選組も西本願寺から不動堂へ引っ越しがあったらしい。

 不動堂の屯所は西本願寺が用意したらしく、新しくて大名屋敷のように広いと評判になっていた。

 しかし、うらやましいとは誰も思わなかった。

 私たちも不動堂の新選組の屯所ほど広くはないが、善立寺より広い屯所になったのだから。

 これで活動が軌道に乗ればいいと思っていた。

 でも、屯所が移動しても特に変わりはなかった。

 その間、新選組は幕臣になった。

「幕臣なんなんかになる前に、新選組を抜けてきてよかったなぁ」

 伊東先生はそう言っていた。

「そうですね。幕臣になっていたら、御陵衛士をつくれませんでしたね」

「そうだよなぁ。円満に脱隊することはできなかっただろうね」

 幕臣なんてなりたいと思ったことはない。

 幕府派の新選組が嫌で抜けてきたのだから。

 でも、新選組の方が世間に認められているような感じがして、自分のやっていることは正しいことなのだろうか?なんて思ってしまう。

 蒼良にも会わないで我慢しているのに。

 そんなことを考えているときりがないから、もうやめよう。


 屯所の庭を掃除していたとき、塀の上に石が並んでいることに気がついた。

 二つ並んで置いてあった。

 子供が悪戯で置いたのかな?

 でも、子供が石を置くには少し高い。

 肩車でもして置いたのかな?

 近所の子が肩車をして石を置いている姿を想像してほほえましくなった。

 でも、なんで二つなんだろう?

 そう思いながら、塀の上に置いてあった石を下におろした。

 次の日は置いてなかったけど、その次の日、私が朝顔に水をやっていると塀に石が置いてあることに気がついた。

 またか?

 今度は三つだった。

 三つか。

 私の朝顔の開花した数と同じだなぁ。

 そう思いながら、塀の上の石を下におろした。

 そして次の日。

 また石が置いてあった。

 今度は三つと少し離して一つが置いてあった。

 さすがに三回も続くと何か意味があるのだろうか?と、考えてしまう。

 どういう意味があるのだろう?

「何してんだ?」

 塀の近くに行き石を見ていると、斎藤君が声をかけてきた。

「近所の子供が、塀に石を置いているんだけど、これで三回目なんだよね。しかも、石の数も違う。何か意味があるのかなと思って」

 斎藤君は、フッと鼻で笑っていた。

「ガキのやることに意味なんてないだろう」

 一言そう言って行ってしまった。

 斎藤君と私は同じ年なんだけどなぁ。

 しかも、新選組にいた年数もそう変わらない。

 一緒に御陵衛士に入ったのに、なぜか仲良くできない。

 それに、私より斎藤君の方が大人っぽく見えるのは気のせいか?

 背も高いし……。

 私に無い物を斎藤君は持っているような感じがする。

 あまり考えてしまうと、斎藤君のことをうらやましくなってしまうから、斎藤君の方がじじ臭いと思う事にしよう。


 次の日も石は置いてあった。

 今度は、二つずつ。

 私の朝顔も二つ咲いていた。

 私の朝顔の開花の数?

 いや、違うときもあったから、それはないだろう。

 じゃあ、なんの意味があるんだ?

「近所の子の悪戯かな? 塀に変な文字が書いてある」

 伊東先生がそう言ってきたので、一緒に外に出て塀を見た。

 そこには、↑というしるしと、SORAと言う記号とSOUZIと言う記号が書いてあった。

「これは、異国の文字だな。英語かな?」

 伊東先生がそう言った。

 最近、御陵衛士ではこれから必要になってくるかもしれないと言う事で、少しずつだけど異国の言葉の勉強を始めた。

 もしこれが異国のもしだというのなら、その文字を書ける人間は一人しか思い浮かばなかった。

 次の日。

 私は塀の陰に隠れていつも石が置かれているあたりを見張っていた。

 私の予想があたっていてほしいと願いながら。

 そして、私の予想は当たっていた。

 蒼良が背伸びをして石を置いて行った。

 SORAの上に二つ。

 SOUZIの上には一つ。

 その姿を見たら、もう隠れていることが出来なかった。

「蒼良?」

 声をかけて外に出たら、驚いた蒼良は飛び上がっていた。

「藤堂さんっ! いきなり声をかけないでくださいよ。驚いたじゃないですか」

 その蒼良の姿が嬉しかったのと、懐かしかったのと、色々な思いが重なり、私は笑顔になっていた。

「ごめん、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。ところで、蒼良はここで何をしているの?」

 私が聞くと、蒼良はまったくもうっ!とつぶやいた。

「藤堂さんは、朝顔競争やろうと言ったけど、勝敗はどのようにして決めようと思っていたのですか?」

 そこまでは考えていなかった。

「藤堂さんと同じ屯所にいるのなら、朝顔を並べて競争できますが、いる場所が違うのだから出来ないじゃないですか。だから、石を並べてその日咲いた朝顔の数を教えていたのですよ」

 あの石にはそう言う意味が込められていたのか。

「今日は、私が三輪、沖田さんが一輪咲きました。沖田さんは水やりしないから私が咲かせているようなものですけど」

 それが想像できてしまう。

「あのですね、競争しようと言っておいて、会えないなんて言うの、無責任ですからねっ!」

 そこまで言うのか?

「だから、私が石を置いて行きますから、藤堂さんは数えておいてください。朝顔の季節が終わったら集計しましょう」

 蒼良が嬉しい提案をしてくれたが……。

「伊東先生が新選組との縁を切ってくれと言われたから、もう会うのは……」

 無理そうだ。

 そう言おうとした。

 本当は言いたくないのだけど。

 すると、蒼良は私の口の前に人差し指を持ってきた。

「新選組の蒼良ではなく、藤堂さんの友人の蒼良として会います。それなら伊東さんも文句言わないでしょ?」

 そう言った後で、

「言わせないんだからね」

 と、小さい声でつぶやいていたのが聞こえてきた。

 そこまでして蒼良が来てくれた事が嬉しかった。

「ありがとう」

 蒼良とこれからも会うことが出来そうだ。

 そう思っただけでも嬉しかった。

 ただ、友人としてと言うのが少し引っかかったのだけど……。

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