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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年5月
339/506

鉄之助君と京の町散策

「おお、いつも気がきくな」

 そう言いながら、土方さんは鉄之助君が持ってきたお茶を飲んだ。

 鉄之助君は、最近新選組に入った。

 けど、まだ年齢も若いから土方さんの小姓になっている。

 鉄之助君が小姓になってから、こうやってお茶を飲む時間が増えた。

 きっと彼がお茶をまめに運んできてくれるからだろう。

「いつも、私の分までありがとう」

 私もお茶をいただく。

「こいつの分まで持ってこなくていいぞ」

「な、何言っているのですか、土方さん。私だって、土方さんとお茶が飲みたいですよ」

 土方さんだけお茶を飲むなんてずるいだろう。

「お茶を入れる市村君も大変だろう」

 そうなのか?

「私は大丈夫です」

 鉄之助君は笑顔でそう言った。

「ほら、大丈夫だと言っているじゃないですか」

「お前、本人目の前にしていやだと言えんだろうが」

 確かにそうだけど。

「え、もしかして、私にお茶入れるのはちょっといやだったり……」

「そんなことはないですよ」

 と、鉄之助君がいい、

「下らんことを考えるんじゃねぇよ」

 と、お茶を飲みながら土方さんが言った。

「では、せっかくなのでいただいます」

「今日は、お茶菓子があるのです」

 鉄之助君がそう言いながら出してきたものは……。

「わぁ、カステラだっ!」

 そう、カステラだった。

「なんでこんなものがあるんだ?」

 カステラを手に取って土方さんが言った。

「近藤先生が好物で、この前たくさん買ってこられたので、お出ししました」

 そうなんだ。

「いただきます」

 そう言って食べようとした時に気がついた。

「あれ? 鉄之助君は食べないの?」

 鉄之助君の分がなかったのだ。

「私は持ってきただけなので」

 そうなのか?

「台所かどこかにまだあるんだろ?」

「は、はい、あります」

 土方さんに聞かれてそう答えた鉄之助君だけど、私も土方さんも、鉄之助君の様子を見てわかった。

 このカステラはもうこれしかないのだろう。

 と言う事は、鉄之助君の分もないと言う事だ。

「これじゃあ大きいから、半分食べていいよ」

 私がカステラを半分にして鉄之助君に渡した。

「いや、私もお腹いっぱいなので、いりません」

 そうなのか?

「それに、こう言うものはあまり好きではないので」

 そうなんだ。

 それなら遠慮なくいただきます。

 私は全部食べたけど、土方さんは半分残した。

「もう下げていいぞ」

「はい、わかりました」

 土方さんは半分残したけど、お腹いっぱいなのかな?

「それなら、私が食べま……」

 私がそう言いながら手を伸ばしたら、土方さんに手を叩かれた。

「すまん、虫が止まっていた」

 えっ、虫がいたのか?

 そう思いながら手をながめていると、

「さっさと下げろ」

 と、土方さんが言ったので、半分残したカステラとともに、鉄之助君が部屋から出た。

「お前、気がきかんな」

 ん?私か?

「あいつの性格からして、自分から食べたいって言って手を伸ばすわけねぇだろう」

 あ、さっきの鉄之助君のことか。

 もしかして……。

「土方さんはわざと残したのですか?」

「当たり前だろう。食べたくている奴の前で、平気で物を食うほど鈍感じゃねぇよ」

 そ、それはどういう意味なんでしょうか?

「ああやって残しておけば、後で湯呑を洗いながら食べるだろう」

 ああ、そう言う事か。

「そこまで気が回りませんでした」

 そんなことなら、私も半分残せばよかったなぁ。

「お前にそこまで求めてねぇよ」

 そうなんだ。

「そう言えば、最近あれが食いたくなってきたな」

 あれってなんだ?

「あれだ、あれっ!」

「なんか、その言い方が、どこかのお年寄りみたいですね」

「俺は年寄りじゃねぇよっ! あれって言ったらあれだ」

 だから、あれって何なのさっ!

「黄色くて、さじて食うやつだ」

 なんだろう?

「まだわからんか?」

 これはなんかのクイズ番組なのか?

 そんなヒントでわかるわけないだろうっ!

「あれだ、ぷりん、そう、ぷりんだ」

 なんだ、プリンか。

 この時代にもプリンがあった。

 日本が開国して異国民が入ってきた時に一緒に日本に入ってきた。

 鴻池さんの所で初めて食べた土方さんは、それが気に入ってしばらくは大坂まで買いに行っていたのだ。

 最近は、京にもお店が出来たので、気軽に買って食べることが出来る。

「お前、鉄之助と一緒に行って買って来い」

「え、私がですか?」

「あいつは小さいときから色々苦労しているようだから、ぷりんやかすていらがどういう食べ物か知らんだろう。お前が一緒に行って教えてやれ」

 それは、もしかして……。

「私も一緒にプリンやカステラを食べていいと言う事ですね」

「鉄之助の分まで食うなよ」

 そんないやしいことをしませんよっ!


 土方さんに言われ、鉄之助君を連れてプリンを買いに出かけた。

 雨が上がっていたけど、低い雲は相変わらずだった。

 次の雨が降ってこないうちに早く買ってこよう。

 そう思いながら二人で出かけた。

「鉄之助君、プリンって知ってる?」

「土方先生の好物ですね」

 おお、それは知っていたんだ。

「土方さんの好きなものを知っているなんて、立派な小姓だね」

「それは当たり前のことです」

 そ、そうなのか?

 それなら私は小姓失格だ。

 いや、その前になれないか。

 小姓は男じゃないとなれないものらしい。

「蒼良先生の好物も知ってますよ」

 え、私のも知っているのか?

「団子とか、甘いものが好物です。あと、お酒も」

 あ、そこまで知っているのね。

 最後のお酒はちょっとよけいだと思うんだけどね。

「鉄之助君、すごいね」

 もう、小姓の鑑だわ。

「これぐらい、当たり前です」

 やっぱりそうなるのか?

 そんな話をしている間に、プリンが売っているお店についた。

 私がプリンを買っていると、それを珍しそうに見ている鉄之助君。

「もしかして、プリンを見るの初めて?」

 私が聞くと、コクコクとうなずいた。

 その仕草が、いつもの大人びたものじゃなく、十四才の男の子のものだった。

「食べてみる? 甘くておいしいんだよ」

 土方さんも、食べさせてやれみたいなことを言っていたから、大丈夫だろう。

「そんなことをしたら、土方先生に怒られます」

「その土方先生が、プリンという食べ物を教えてやれと言ったから、大丈夫だよ」

 私はプリンを二つ追加して買った。

 お店の前に座って食べれるように大きな台が置いてあったので、そこに座ってプリンを食べた。

「こんなおいしいもの、初めて食べた」

 そうつぶやくと、ものすごい勢いでプリンを食べ始めた鉄之助君。

「ここのプリンは美味しいんだよ」

 そう言いながら私も食べ始めた。

 うん、美味しい。

「屯所でも食べれるように、ちょっと大目に買ったから、鉄之助君も遠慮なく食べていいよ」

「そんなことしたら、土方先生の怒られます」

「ばれなきゃ大丈夫だよ」

 要はばれなければいいのだ。

「蒼良先生、そう言う考え方はよくないです」

 そ、そうなのか?でも……。

「土方さんがそんなことで怒らないと思うのだけど」

 カステラを半分残してあげるぐらいだから、むしろ食えって言いそうだよな。

「土方先生は優しい人だから」

 おっ、鬼副長と言わない人を初めて見たかも。

「鉄之助君はわかっているんだね」

「はい。土方先生は鬼副長ではないです」

 そこまでわかっているんだ。

 そう、土方さんは表向きには鬼副長なんて言われて恐れられているけど、本当は優しい人なのだ。

 私だけがそれを知っていると思っていたけど、鉄之助君もわかっていたんだ。

 それを少し残念だなぁと思った自分がいた。

 私以外の人が知っているなんて。

 あれ?なんでそんなことを思うんだ?

「ぷりん、ごちそうさまでした。美味しかったです」

 鉄之助君はそう言うと、私が食べ終わったものまでお店まで片してくれた。

 本当に気がきく子だよなぁ。

 でも、まだ十四才の子供なんだよね。

 表情は大人っぽいんだけど。

 よしっ!

「これからちょっと京の町を散策しようか?」

 今日は鉄之助君を休ませてあげよう。

 だって、たまには遊びたいだろう。

 この時代の遊びをよく知らないから、とりあえず町散策をしよう。

 そう思って誘ってみた。

「京の町散策ですか?」

 土方先生に怒られますって言われそうだなぁと思っていたけど、そう言ってこなかった。

「これから鉄之助君だって巡察をすることになると思う。そんなときに京の町のことも知っとかないと」

 私のこの一言が効いたのか。

「そうですね。ぜひ、ご一緒させてください」

 と言ってきた。


 鉄之助君と京の街中をブラブラと歩いた。

 鉄之助君は賑やかな京の街中を最初は珍しそうに見ていた。

 そのうちに、興味を持ったものに近づいたりしていた。

 その反応が子供らしくてほほえましくなった。

 まだ子供なんだから、これが普通なんだよね。

 それから、京の町を一望できるという理由で清水寺に連れて行った。

「すごいっ!」

 清水寺の舞台につくと、鉄之助君はそう言いながら京の町を見た。

「今日は、くもっていて遠くまでは見れないけど、晴れたらもっと見えるよ。今度晴れた日に連れてきてあげる」

「本当ですかっ!」

 そう言って私を見てきた鉄之助君の目がキラキラと輝いていた。

 これが本当の十四才の男の子の顔だよね。

「うん。晴れた日にまた来よう」

「はいっ!」

 そう返事した鉄之助君は、しばらくの間、京の町を見ていた。

 私も鉄之助君の横に立って一緒に町を見た。

「今日のぷりんも美味しかったし、町も楽しかったです。あと、こんないい場所に案内してくれて、ありがとうございます」

 鉄之助君は礼儀正しいよなぁ。

「いえ、こちらこそ」

 と、私も頭を下げて言っていた。

 つられてしまった。

「蒼良先生は面白い人ですね。土方先生の言う通りだ」

 ん?土方さんが何か言っていたのか?

「土方さん、私のことをなんて言っていたの?」

 気になってしまうじゃないか。

「鈍感で、頭がいいんだから悪いんだかわからないと言ってました」

 な、なんだとっ!

「でも、一番使えて頼りになる隊士だと言ってました」

 ひ、土方さん、そんなことを言っていたのか?

 て、照れるじゃないか。

「蒼良先生、これからもよろしくお願いします」

 鉄之助君がそう言って頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 私もそう言って頭を下げた。

 そして二人で頭をあげた時に目があい、思わず二人で笑い合ったのだった。

 

「どうだった?」

 散策から帰ってきたら、土方さんにそう聞かれた。

「楽しかったですよ」

「あいつも楽しんでたか?」

「はい、楽しそうでした」

「そうか。それはよかった。お前、あいつのぷりんを横取りしなかっただろうな?」

 な、なんでそうなるんだ?

「しませんよ。そんなこと」

 ちゃんと自分の物だけを食べましたよ。

「酒も飲ませなかったよな? あいつはお前のような大酒のみにしたくねぇからな」

 そう言った土方さんが鉄之助君のお父さんのような感じがして、なんかおかしかった。

「なに笑ってるんだ」

「土方さん、鉄之助君のお父さんみたいですね」

「ば、ばかやろうっ! 俺はまだ結婚もしてねぇのに、何が父親だっ!」

「でも、年齢的には、あれぐらいの子供がいてもおかしくないともうのですが……」

 この時代、結婚の年齢が早い。

 二十二才の私でさえ、行き遅れだって騒がれるのだ。

「お、お前だって、子供がいてもおかしくねぇ年だからな」

 そ、それを言うかっ!

「そ、それなら、私は鉄之助君のお姉さんになるので、土方さんはお父さん役お願いしますね」

「おい、なんでお前がお姉さんなんだ? 母親だろ?」

 いや、年齢的に私はまだお姉さんだからねっ!

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