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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年4月
336/506

御陵衛士の屯所探し

 新選組を出た後、三条にある城安寺に行った。

 伊東先生は三条あたりに屯所を求めていた。

 だから、無事に屯所が決まってよかったと思っていた。

 しかし、それも翌日には出ることになった。

 そして五条にある善立寺と言う所に移動した。

「しばらくここでお世話になるから」

 伊東先生がそう言った。

 しばらくって、どれぐらいになるんだろう?

「伊東先生、もしかして、屯所の場所が決まっていないのですか?」

 私がそう聞いたら、伊東先生は困ったように微笑んだ。

「そうなんだよ。三条あたりを探していて、一度は了解をもらったんだが、新選組を出る直前に断られてね。ここも、一時的にはいいけど、ずうっとは遠慮してもらいたいと言われているから、そのうち出ないといけないな」

 そう言いつつも、伊東先生は困っているように見えなかった。

「早く屯所を見つけないと」

 私はそう言っても、伊東先生はあせるそぶりも見せなかった。

「新選組のように、嫌がっているのに、乗っ取るように屯所にするのも気がのらないからね。平助、どこかいい場所がないか?」

 私に聞かれても、場所が思いつかない。

「平助も、巡察とか行っていたからどこか場所知っているんじゃないかい?」

 確かに、巡察は行っていたが、だからと言って場所に詳しいというわけではない。

 寺院はあまり回らなかった。

 京の治安を守るための巡察だったから、どちらかといえば賑やかなところを回っていた。

 島原とか、祇園とか。

 屯所にするにはちょっと場所があわない。

「伊東先生、私も屯所になりそうな場所が思いつきません。すみません」

「いや、平助のせいじゃない。私が前もって屯所を決めていなかったのが悪いんだ。これが土方君や近藤君ならうまくやるんだろうなぁ」

 土方さんなら、西本願寺を屯所に決めた時のように、強引に決めてしまうのだろう。

 近藤さんは、そんな土方さんのやり方を見て、何も言わずに決まったところに行くのだろう。

 その強引さが嫌で新選組を出てきたのに、そのやり方じゃないと通用しな時もあるということがわかってしまった。

 なんて皮肉なことなんだろう。

「まず、御陵衛士として活動する前に屯所を見つけないとな」

 伊東先生は、変わらない笑顔でそう言った。

「私も場所をあたってみるから、平助も頼むよ」

「わかりました。いくつか場所をあたってみます」

 心当たりがある場所をあたってみるか。

 私の頭の中にいくつか場所は思い浮かんでいた。

 とりあえず、そこをあたってみよう。


 いくつか場所をあたってみたが、屯所にする場所が見つからなかった。

 その間、新選組の巡察に会った。

 これまで何回か新選組の巡察に会った。

 私の顔を見て知らんぷりする人間もいた。

 ほとんどがそうだった。

 一部は、からかい半分で、

「最近どうだ?」

 と聞かれた。

「屯所が決まらなくてね」

 と言うと、ニヤリと笑って、

「そのうち見つかるさ」

 と言い、さらに笑いを深める。

 いい気味だと思っているのだろう。

 このまま新選組にいたら、八番隊組長で地位も安泰していたのに、わざわざ隊を抜けて御陵衛士になんてなって苦労しているよ、あいつ。

 そう思って心の中で笑っているのだろう。

「そうだね、そのうちにね」

 気にすることはない。

 そう思いいながら返事をした。

 新八さんや左之さんにも会った。

 彼らは本当に心配してくれた。

「平助、元気でやっているか?」

 新八さんは私が隊を出る前と全く変わってなかった。

「お前は小さいから、いじめられているんじゃないのか?」

 そう言いながら、新八さんは肘で私を突っついてくる。

 隊にいたころなら、

「新八さん、痛いよ。やめてよ」

 って言う所なんだろうけど、この日はそれが懐かしくてされるがままになっていた。

「残念ながら、いじめられてませんよ」

 そう言ったら、

「それは残念」

 と言いながらも、ホッとしたような顔をした新八さん。

 心配させていたのかもしれない。

「ところで、平助は今どこにいるんだ? 最初は三条って言っていたが、巡察の時に行ってみたらいなかったからさ」

 今度は左之さんが心配そうに聞いてきた。

「今は、五条の善立寺と言うところにいます」

「ああ、小さい寺院だよな。屯所にするには小さいだろう?」

「屯所ではないです。屯所はまだ決まっていないのですよ」

「そうなのか? じゃあそこもまた追い出されるのか?」

「そうなりそうです」

「それは大変だな」

 左之さんにまで心配をかけさせていたらしい。

 屯所、住む場所が決まらないと言う事は、色々と大変なのかもしれない。

「俺も屯所になりそうなところを聞いてやろうか?」

 左之さんはこういう時面倒見がいい。

 甘えたくなるけど、ここで左之さんに頼るのはちょっと違うような気がしたので、

「大丈夫です。何とかなるでしょ」

 と、言った。

 本当に何とかなるものなのだろうか?

「平助、気にするな。何とかなるときはなるもんさ」

 バンッと新八さんが背中を叩いてきた。

 ゴホゴホとむせたけど、背中から元気を入れられたような気がした。

「ありがとう」

 私がお礼を言うと、二人とも気にするなという感じで笑顔で返してくれた。

 この二人とは、私が新選組を離れてもずうっと変わらない付き合いが出来そうだ。


「で、うちに来たんか?」

 八木さんがそう言ってきた。

 だめでもともと、そう言う思いで、壬生の八木さんの家に行ってみた。

「私、新選組を抜けたのですよ」

 と言ったら、

「聞いたで」

 と言われた。

 八木さんの家には、屯所が西本願寺に移った後も、新選組の隊士が誰かしらいる。

 この日も数人いて、くつろいでいた。

「御陵衛士と言う、孝明天皇の御陵を守る役を拝命したのですよ」

「それも聞いたで」

 きっと、ここに来る隊士に聞いたのだろう。

「でも、屯所が決まらないのですよ」

 そう言った時に、言われたのだ。

「で、うちに来たんか?」

 って。

「だめですかね?」

「あかんわ」

 あっさりと断られてしまった。

 断られることはわかっていた。

「ですよね」

 だからそう言った。

「ほんまに屯所が決まっとらんの?」

「はい。御陵衛士になったのに、屯所がないってなんかのしゃれみたいですね」

「しゃれにならんやろ。住む場所がないんやろ」

「今は五条にある善立寺と言うところにお世話になっています」

「そこも出なあかんのやろ?」

「そうですね。そのうち出ることになると思います」

「そうやなぁ……」

 そう言って、八木さんは考え込んだ。

「うちはあかんけど、壬生寺に聞いてみるのもええと思うで」

 壬生寺は、八木さんの所に行く前に行ってみた。

 だめと言われた。

 私の反応を見てわかったのだろう。

「あかんかったのか?」

 と、八木さんも言ってきた。

「だめでした」

「そうか、壬生寺もあかんかったか。浪士組の時に色々あったからな」

 京に来たばかりの時、壬生寺で集まったりしていた。

 その時は、ならず者の集まりと言う感じだったので、壬生寺もいい感じはしなかったのだろう。

「住む場所も決まらんって大変やな。うちも数件あたってみるから、あんたも決まったらうちに知らせてや」

 八木さんは文句言いつつも面倒見がいい。

 だから、屯所が西本願寺に移った後も隊士がここに来るのだろう。

 居心地がいいのだ。

「ありがとうございます」

 こんな面倒見がいい人を困らせる自分がなさけなくなってきた。

 

 屯所が見つからないまま、京の町を歩いていた。

「藤堂さーんっ!」

 聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 私が聞きたかった声だ。

 振り向くと蒼良そらが手を振って近づいてきた。

「藤堂さん、元気ですか? 風邪とかひいてないですか?」

 今は冬ではなく、初夏だ。

 風邪って……。

 思わず吹き出してしまった。

「何か変なことを言いましたか?」

 蒼良は真面目な顔をして聞いてくる。

「この季節に風邪ひいてないか聞いてくるのって、蒼良らしいなぁと思っていたんだ」

 私がそう言ったら、蒼良が少しほほをふくらました。

「だって、ここ数日暑かったり寒かったりしていたから、風邪ひいていないか心配していたのですよ」

 季節の変わり目なのか、梅雨に入る前だからなのか。

 蒼良の言う通り、ここ数日は暑かったり寒かったりしていた。

「ごめん。大丈夫だよ。ほら、この通り」

「元気そうでよかったです」

 蒼良が笑顔でそう言った。

 この笑顔も蒼良らしくて大好きだ。

「実は、屯所が決まらないんだ」

 蒼良の笑顔に甘えてそう言ってしまった。

「え、決まっていないのですか? 今どこにいるのですか? 高台寺の月真院にいるんじゃないのですか?」

「え、高台寺? そこじゃないよ。五条にある善立寺と言うところにいるよ」

「御陵衛士の屯所は善立寺ではないですよ」

 蒼良は、不思議な人だ。

 未来から来たと言っていた。

 蒼良がそう言うのだから、そうなのだろう。

 普通の人が聞いたら信じられない話なんだろう。 

 でも、私は蒼良のすべてを信じることが出来る。

 蒼良は未来から来たと言ったら、未来から来たのだ。

「高台寺……。だいぶ前に藤堂さんと行ったことがありますよね?」

 そう言われると、前に蒼良と行ったことがあったような気がする。

 そうだ、行った。

 後日、ここが御陵衛士の屯所になると教えてもらった。

「そこに行ってみましょう」

 蒼良がそう言って歩き始めた。

「蒼良も一緒に行くの?」

 蒼良は伊東先生のことを嫌っている。

 だから、あまり関わり合いたくないだろうなぁと思っていた。

「行きますよ」

 蒼良から普通にそう返事が返ってきた。

「だって、蒼良は伊東先生のことを嫌っているでしょ。私に協力をすると言う事は、伊東先生に協力するのと同じことだよ」

「そんなことない。私は藤堂さんに協力するのであって、伊東さんに協力するのではないですっ!」

 蒼良の言い訳が無茶苦茶だったけど、私に協力してくれるという言葉が嬉しかった。

「藤堂さんが困っているのを友達として見ていられませんから」

 友達としてではなく、恋人としてがよかったなぁ。

 そう思いつつも、その言葉が嬉しかった。


 蒼良と一緒に高台寺に行ってみた。

 住職に相談したら、そこの月真院という所を使っていいと言われた。

「蒼良、助かったよ。ありがとう」

 伊東先生にもいい報告が出来そうだ。

「歴史ではここが屯所になるってなってましたから、歴史通りにいっただけですよ」

 それでも、蒼良のおかげだろう。

「また何かあったら言ってくださいね。それと、油小路には絶対に行かないでくださいね」

 蒼良は私が御陵衛士になったときから何回もそう言う。

 油小路で私は死ぬらしい。

 新選組の隊士に斬られて。

 そうなったら、そうなったでいいかなと思っている。

 もしそうなったら、蒼良は少しは悲しんでくれるのかな?

 そんなことまで考えてしまう。

「わかったよ」

 心の中では色々なことを考えてしまうけど、蒼良には一言そう言った。


               *****


「御陵衛士の屯所が決まっただと?」

 土方さんに御陵衛士のことを話したらそう聞き返されてしまった。

「はい。高台寺の月真院という所です」

「おい、俺はこの前その近くに行ったが、御陵衛士のごの字もいなかったぞ」

「これから屯所になるのですよ」

 藤堂さんとこの前高台寺に行ってお願いしたら、屯所にするなら六月からどうぞと言われた。

 二カ月後だな。

「なんでお前がそんなことを知っているんだ? もしかして、お前が屯所を見つけてきたのか?」

「見つけてきたも何も、もともとそこが屯所になる予定だったのですよ。歴史ではそうなっているので」

 歴史通りに事が運んだだけのことだ。

「でも、お前が手を貸さなければ、御陵衛士の屯所はないままだったんじゃないのか?」

 そ、そうなのか?

 いや、それはないだろう。

「私が手を貸さなくても、誰かが見つけて屯所にしてましたよ」

 だって、私がいない歴史でそうなっていたんだから。

「とにかく、お前は伊東さんたちに手を貸したと言う事だな」

 そ、そう言うことになるのか?

「お前、伊東さんが嫌いだって言ってたじゃねぇか」

「嫌いですよ」

「やっていることは逆だよな?」

 ウッ、それを言われてしまうと……。

「今回は、伊東さんの為じゃなく、藤堂さんと斎藤さんのためにやったと言う事で。ほら、土方さんだって、間者である斎藤さんが困っていたら困るでしょ?」

 私がそう言ったら、土方さんがしばらく固まっていた。

 な、何かいけないことでも言ったかな?

「お前、なんで斎藤が間者だって知ってんだ?」

 あ、内緒の話だったか?

「か、勘ですよ、勘っ!」

 内緒の話だったら、何とかごまかさないと。

 と思ってごまかしたけど、相変わらず進歩のないごまかし方。

「なにが勘だっ! どこで盗み聞きをした?」

 ぬ、盗み聞きになるのか?

「そんなことしてないですよ」

 失礼なっ!

「お前とは、よく話をしねぇといけねぇようだな」

 そう言った土方さんから殺気がただよっていた。

 これは嫌な予感しかしない。

「あ、ちょっと用事がっ!」

 そう言って立ち上がろうとしたら、土方さんに肩を押さえつけられたため立ち上がれなかった。

「時間はたっぷりある。ゆっくり話をしようじゃないか」

 わ、私は時間がないのですがっ!

 話は特にないのだけど、逃げることもできない。

 だ、誰か、助けてっ!

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