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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年4月
334/506

高杉晋作亡くなる

「今度、京で会議があるらしいぞ」

 土方さんが突然そう言ってきた。

「会議ですか?」

 何の会議なんだ?

「よくわからんが、薩摩藩がもう京に来ている」

 薩摩藩がかかわっている会議らしい。

「しかも、薩摩の兵が700名も来ているらしいぞ。戦でも始めるつもりなのか?」

 土方さんは、薩摩藩が兵を連れて京に来たことが気にくわないらしい。

 不機嫌な顔でそう言っていた。

「護衛で連れてきたんじゃないですか?」

 700名で戦なんてできないだろう。

「ずいぶんと大げさな護衛だな」

 ふんっと鼻息を荒くしながら土方さんが言った。

「ところで、薩摩の藩主は誰ですか?」

 こんなに護衛をつけて京に来るなんて、もしかしたらすごい藩主なのかもしれない。

「はあ? お前、知らんのか? 薩摩と長州が条約を結ぶとか騒ぐだけ騒いで、その藩主を知らないって、お前の頭の中はどうなってるんだ?」

 そ、そこまで言うか?

「なんなら、MRIか何かで見て見ますか? 輪切りにしてみれますよ」

「はあ?」

 あ、この時代にはありませんでしたね。

 せっかく頭の中をお見せできると思っていたのに、残念。

「わけわかんねぇこと言ってねぇで、藩主の名前ぐらい覚えとけ。島津久光だ」

「なんか、薩摩藩って感じの名前ですね」

 島津って明らかにそうじゃないか。

「それって、どういう感じなんだ?」

 どういう感じと言われてもなぁ。

「島津って名字がそうじゃないですか」

「確かに、薩摩は島津が藩主だな」

 ほら、やっぱり。

「そこまでわかっていてなんで藩主がわからんのだ?」

「たくさん藩があるのに、いちいち藩主まで覚えられませんよ」

 これが正直な所なのだ。

 だって、藩の数がきっと多いんだろうなぁと思うぐらい、色々な藩の名前を聞く。

「全部は覚えなくてもいい。俺だって覚えてねぇよ。でも、主要な藩主ぐらい覚えとけ」

 主要な藩ねぇ。

「例えば、会津藩とかですか?」

「それを知らんと言ったら、どうなるかわかってんだろうな?」

 ギロリとにらみつける土方さん。

 こ、怖いのですがっ!

「じ、冗談ですよ、冗談」

 ところで、なんの話をしていたんだ?

 あ、そうそう、会議がどうのこうのって話だ。

「薩摩藩がかかわる会議なのですかね」

 話を変えるために元に戻した。

「そうだ、会議の話をしていたんじゃねぇか。お前と話すと話が飛ぶから厄介だ。」

 そ、そうなのか?

 私のせいばかりじゃないと思うのですか。

 で、会議だ。

 この時代で薩摩藩が関係してくる会議と言えば……。

 歴史の授業を思い出してみた。

 四候会議かな?

 確か、長州の処分問題と兵庫港の開港問題について、有力な大名経験者三名と、藩の最高権力者一名の四人で話し合う合議制の会議だったと思う。

 それを土方さんに話したら、

「お前が、頭がいいんだか悪いんだかわからねぇときがあるなぁ」

 と言われてしまった。

 そ、そうなのか?

「その四人は誰なんだ?」

 土方さんに聞かれ、再び歴史の授業を思い出す。

「確か、松平春嶽まつだいらしゅんがく・島津久光・山内容堂やまうちようどう伊達宗城だてむねなりです」

「全員呼び捨てか?」

 え、いけなかったか?

「よく知ってんな。それぞれの藩まではわかるか?」

 土方さんがニヤリと笑って質問してきた。

 こ、答えてやるっ!

「島津久光さんは薩摩藩で、山内容堂さんは確か土佐藩で……」

「さん付けか? 近所の人間みたいだな」

 だって、呼び捨てにしたら文句言ったじゃないか。

「それなら、どう呼べばいいのですか?」

「そんなもんはどうでもいい。で、他は?」

 え、どうでもいいのか?

「他の人間は、どの藩かわかるか?」

 あ、それね。

「伊達宗城さん……公?」

「どうでもいいって言っているだろう」

「はい、すみません。で、伊達宗城さんは仙台藩っ!」

「はずれ」

 え、違うのか?

 伊達って言ったら、伊達政宗が有名で、仙台の人だったぞ。

「伊達宗城は伊予宇和島藩だ」

 伊予って言ったら、原田さんの出身地だよね。

 確か、現代で言うと愛媛県辺りになる。

 で、なんで伊予宇和島藩に伊達さんがいるかというと、始まりは伊達政宗の長男だったらしい。

 その長男は、色々あって仙台藩を継ぐことが出来なかった。

 しかし、政宗と一緒に親子で大坂冬の陣に参陣して徳川家康から伊予宇和島を与えられ、それを継ぐことになった。

 それで、伊予宇和島に伊達さんなのだ。

「残り一人いるぞ」

 あ、松平春嶽さんだ。

 どこの藩だ?

 松平だから……わからん。

「福井藩だ」

 あ、そうだったんだ。

 それにしても、これがもし四候会議だったとして、時期があわないんだよなぁ。

「おい、これがお前の言う四候会議だとしてだな。なんで幕府がかかわってねぇんだ? 長州の処分問題と兵庫港開港について話し合うのなら、そこに幕府がかかわるのが普通だろう」

 その謎もあった。

 なんでだ?思い出せ、自分。

「私も不思議に思っていることがあるのですが……。四候会議って五月なんですよ」

 土方さんは、私が未来から来たことを知っているので、こういう話も普通にできる。

「今は四月だぞ。時期が違うな。どうなってんだ?」

 私がそれを知りたい。

「幕府がかかわってねぇ代わりに、薩摩が護衛をつけてやってきた。それも五月に行われる会議のために……」

 そこで土方さんはなんか考え込んでしまった。

「わかったぞっ!」

 急に土方さんが大きな声でそう言ったので驚いた。

「いいか、この会議は幕府の為ではねぇ。薩摩のために行われるんだ。そうすると話が合う」

 そ、そうなのか?

「会議はお前の言う通り五月にあるんだろう。だから、薩摩が早めに京に来て準備をするんだろ。この会議を自分の有利な方に進めるためにな」

 なるほど、そう言う事か。

「そうなると話が合いますね。土方さん、すごいです」

「お前はもうちょっと勉強した方がよかったな」

 うっ、その通りなので何も言えない。

「そうと決まれば話が早い」

 そう言うと、土方さんは山崎さんを呼んだ。

「薩摩のことを探ってくれ」

 さすが土方さん。

 これからは薩摩のことを探ったほうがいい。

「こいつと一緒にな」

 えっ、私も?

「わかりました」

 山崎さんは何事もなかったかのようにそう言った。

 え、私も一緒に探るのか?


 山崎さんと一緒に薩摩藩の屋敷の前にいる。

「屋敷の中に入るのですか?」

 今回は、何に化けて潜入するんだろう?

 そう思いつつ聞いてみた。

「屋敷に入りませんよ」

 え、そうなのか?

「護衛が700名もいるから、それなりに警戒もしていると言う事になります。そこに潜入すると言う事は危険も伴います。蒼良そらさんを危ない目にあわせるわけにはいきません」

 そうなのか?

 私は別に大丈夫だけど。

 もう危険な目にたくさんあっているもんね。

 でも、山崎さんがそこまで言うのなら仕方ない。

 と思いつつ、少しほっとしている自分がいる。

「誰か出てきましたよ」

 山崎さんがそう言ったから、薩摩藩の屋敷の門に視線を向けた。

「あ、西郷隆盛」

 これは絶対にそうだ。

「蒼良さん、知り合いなのですか?」

 山崎さんは、私が未来から来たことを知らないから、ごまかさなくては。

「いえ、知りません。私の知っている人に似ているなぁと思っていたのです」

「そうなのですね」

 何とかごまかせたぞ。

 そう言えば、この時はまだ西郷吉之助なんだよね、多分。

 この人は、明治維新に大きくかかわっていく人だ。

 この人がどこかへ行くと言う事は……。

「ついて行った方がいいと思います」

 絶対に、ついて行ったほうがいい。

 何か情報が入るかもしれない。

「わかりました。ついて行きましょう」

 と言う事で、西郷吉之助を尾行することにした。


 尾行した先にいたのは、中岡慎太郎だった。

 彼は確か土佐の人だ。

 山崎さんも中岡慎太郎は知っているから、私の顔を見てうなずいてきた。

 土佐と薩摩がつながっているという情報を手に入れることが出来たからだろう。

 門の前で簡単に挨拶をする二人から聞こえたのは、

「亡くなったとは……」

 と言う言葉だった。

 誰が亡くなったんだ?

「昨日、伊藤君に会って、具合があまりよくないって聞いていたんだが」

 中岡慎太郎がそう言いながら門の中へ消えていった。

 それについて行くように、西郷吉之助も中へ消えていった。

「いとう君って、伊東参謀?」

 山崎さん、それを言うなら元参謀だ。

 いや、伊東さんとつながりがあったとしても、身近な人で亡くなった人が思い浮かばない。

 だから、伊東さんではない。

 じゃあ誰?どこのいとうさん?

 色々な伊東さんの顔が横切っていった。

 この時代の、中岡慎太郎と会ったことがある、伊東さん以外のいとうさん……。

 あっ!

「伊藤博文」

 思い浮かんだ人の名前をつぶやいた。

「いとうひろふみ? 誰ですか?」

 この時代は、まだこの名前じゃない。

「伊藤俊輔です」

 その名前を言ったら、

「ああ、知っています」

 というという反応が返ってきて驚いた。

「知っているのですか?」

「はい。長州に潜入していた時、彼が諸外国から武器を買い入れたりしていました」

 そうだったのか。

「と言う事は、亡くなったのはもしかして……」

 山崎さんがそこで言葉を無くした。

 長州の人が亡くなったと言った、その人は一人しか思い浮かばない。

 確か、歴史でも今頃亡くなると思った。

「高杉晋作ですね」

 私がそう言うと、山崎さんも無言でうなずいた。


「もう少し早く彼に会いたかったですね」

 悲しそうに山崎さんが言った。

「そうですね。敵とはいえ、面白い人でしたよね」

 長州で、一緒に鯵を食べた時のことを思い出しながらそう言った。

 そんな私の手には、さっき摘んできた花があった。

 お葬式に参加するわけにはいかないので、ここで送ることが出来るのなら送ろうと、山崎さんが言った。

 そして、三途の川に流れ着き、高杉晋作がそこに来た時にこれを見つけてほしいという思いを込めて、川に花を流そうと言う事になった。

 山崎さんは火をどこからか借りてきた。

 その火でお線香に火をつけた。

 みんなに惜しまれつつ亡くなったという話は聞いたことがある。

 本当のことだなぁと改めて実感した。

 亡くなるには早すぎるよなぁ。

 相手は敵なのに、敵だから、亡くなったら嬉しいはずなのに、私も山崎さんも全然嬉しいと思わなかった。

 むしろ、悲しかった。

 お線香の香りがただよってきた。

 私が花を川に流し、二人で手を合わせた。


「労咳になっていて、亡くなることはわかっていましたが……。労咳と言う病気は憎いですね」

 山崎さんがそうつぶやいた。

「早く、労咳が治る薬がほしいですね」

 沖田さんのことなどを考えながら、私はそう言った。

 早く薬がほしい。

 誰か、早く薬を開発してくれ。

「薬で治る病気ならいいのですが、労咳は色々と厄介なものですよ。最初は肺だけかと思っていたら、最後は内臓まで侵される。何が原因でなるのかもわからない」

「菌ですよ、菌っ! 山崎さん、労咳の菌を見つけてくださいっ! 確か、結核菌と言う名前の菌です」

 思わずそう言ってしまった。

 山崎さんに言ったところで、どうなることでもないのに。

 案の定、山崎さんは苦笑していた。

「私には何もできないですよ」

 山崎さんの言う通りなのだ。

「すみません」

「でも、蒼良さんの気持ちはわかりますよ。私も同じ気持ちですから」

 山崎さんはそう言って優しく笑った。

 労咳が治る病気になるのは、まだまだ先の話だ。

 それまでに、沖田さんとか死なせないようにしないと。

 流れていく花を見てそう思ったのだった。

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