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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年3月
328/506

伊東さん帰京

 数日前、薬屋さんで買ってきた傷を綺麗に治すと評判の傷薬をもって、屯所内を山崎さんの姿を求めて歩いていた。

 キョロキョロ見回しながら歩いていると、視線の端に山崎さんの姿が入った。

 大部屋の一角で、他の隊士の人たちと一緒にいた。

 私と目があうと、ちょっと困ったような笑顔を向けてきた。

「山崎さん、すぐに終わるので」

 そう言って、山崎さんを呼び出した。

「もうだいぶ良くなったので、大丈夫ですよ」

 そう言いながら山崎さんが私のところにやってきた。

「いや、だめです。完全に治るまで油断はできませんよ」

 治りかけのところに変な菌が入ったら悪化してしまうじゃないか。

「わかりました」

 山崎さんはあきらめたようにそう言って大部屋から出た。

 広い縁側の一角に山崎さんを座らせて、腕の包帯をほどいた。

蒼良そらさんも、毎日薬をつけに来るのも大変でしょう。その薬を私が買いますよ」

 山崎さんが腕を怪我してしまったのは、私のせいだ。

 これは、私が出来る数少ないつぐないなのだ。

「いや、完全に治るまで毎日私がこうやって薬をぬりに来ます。と言うか、ぬらしてください。それぐらいしかできないので」

「そんなにご自分を責めないでください。怪我をしたのは私のせいです。蒼良さんは全然悪くないですよ」

 そんなことない。

「私の気が済まないので、山崎さんの傷が治るまでお世話させてください」

 私がそう言うと、山崎さんは困ったような笑顔になった。

「わかりました。傷が治るまで蒼良さんにお世話になります。よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ、お願いします」

 二人で一緒に頭を下げ、一緒に頭をあげたら目があってしまった。

 それがなんだかおもしろくて思わず二人で笑いあってしまった。

 山崎さんの傷は、だいぶ治ってきていた。

 かさぶたになっていたのだけど、それもとれ始めてきていた。

「もう少しで治りそうですね」

「だから、もう大丈夫ですよ」

「いや、まだ少しかさぶたがついているので、このかさぶたが取れたら完治と言う事で」

「蒼良さんは厳しいですね」

 そう言いながら、山崎さんは優しく笑った。

 かさぶたに薬をぬり終えた。

 包帯を巻こうとしたら、

「もう包帯はいいですよ」

 と、山崎さんに言われてしまった。

 確かに、かさぶたになっているから包帯をするとむれて膿んでしまうかもしれない。

「わかりました。ちゃんと治りそうでよかったです」

「これぐらいの傷は怪我のうちにはいりませんよ」

 そう言って、山崎さんが立ちあがった。

 いや、血が出たんだから、立派な怪我だろう。

「明日も来ますね」

「蒼良さんが忙しくなければでいいですよ」

 ん?どういうことだ?

「伊東参謀がもうそろそろ大坂に到着すると言う知らせがありました。隊内の伊東派の人たちは、慌ただしく動いていますよ」

 そうなのか?

 歴史でも三月に帰ってくると言っていたので、そろそろ帰ってきてもおかしくないだろう。

「私たちも、動きはじめないといけないですね」

 山崎さんがいつもと変わらない笑顔でそう言った。


「蒼良、今日は嬉しい知らせがあるんだ」

 山崎さんのてあてが終わり、屯所内を歩いていたら藤堂さんに会った。

「伊東先生がそろそろ大坂に着くらしいんだ」

 やっぱりそう言う事だと思っていた。

「そうですか、よかったですね」

 こっちはずうっと九州にいてもらってもかまわなかったんだけどね。

「早く伊東先生の顔が見たいから、私は大坂まで迎えに行こうと思っているんだ」

 そうなのか?

 迎えに行かなくても、勝手に帰ってくると思うけど……。

 ちょっと待て。

 伊東さんが屯所に帰ってくる前に伊東さんに接触したら、歴史を変えることが出来るかもしれない。

 この前は失敗してしまったけど、まだチャンスはある。

「私も一緒にお迎えに行っていいですか?」

 私のその言葉を聞いた藤堂さんが、驚いた顔をしていた。

「え、蒼良も一緒に行くの?」

 え、だめなのか?

 しばらくの沈黙の後、

「ありがとう、伊東先生のことをやっと理解してくれたんだね」

 藤堂さんが私の手を両手で握りしめて、ブンブンと振り回しながらそう言った。

 いや、そうじゃないんだけど……。

 否定をしようと思ったけど、藤堂さんはとっても嬉しそうにしていたので言えなかった。

 ま、いいか。


 と言うわけで、藤堂さんと数人の伊東派の人たちと一緒に大坂に行った。

 私たちが大坂について次の日に伊東さんは帰ってきた。

 すごいタイミングがいいなぁ。

 連絡手段が飛脚による手紙しかない時代、すれ違いや待ちぼうけなんてしょっちゅうあるのだ。

「迎えに来なくてもよかったんだぞ」

 そう言いながらも伊東さんは嬉しそうにしていた。

「蒼良君まで来てくれるとは思わなかった」

 さわやかな笑顔で伊東さんはそう言った。

「藤堂さんが迎えに行くと言うので、ご一緒させてもらいました」

 伊東さんが好きだから来たのではないと言う気持ちをそこにのせながら言った。

「そうか、そうか。ありがとう。嬉しいぞ」

 伊東さんはまだ嬉しそうだから、私の気持ちは伝わっていないらしい。

 土方さんじゃないけど、ここで斬ってしまおうか?ったくっ!


 土方さんに、

「大坂に行くのなら、鴻池さんの所にも顔を出しておけ」

 と言われたので、鴻池さんの所へ行こうとした時、

「蒼良君、どこへ行くんだい?」

 と、伊東さんに呼び止められた。

「これから伊東先生が帰ってきたから、身内だけで宴会をやろうと思っていたんだけど、蒼良も来る?」

 伊東さんの横にいた藤堂さんが嬉しそうにそう言った。

 伊東さんの宴会なんて出たくないけど、出ないとこのチャンスを逃してしまいそうだし。

「すみません。鴻池さんの所に顔を出すように言われているので、鴻池さんの所に行ってから行きます」

 私がそう言うと、伊東さんが

「鴻池家……」

 とつぶやいた。

「両替商の?」

 つぶやいた後に私に聞いてきた。

「はい」

「鴻池と言ったら、新選組にも多額の援助をしているし、有名な豪商だと聞いたことがある」

 伊東さんが何かを考えているような感じでそう言ってきた。

「はい。隊に多額の援助をしてもらっていて、鴻池さんがいなければうちの隊は今頃なかったんじゃないかと思います」

 そうなのだ。

 新選組に援助をするなんて物好きな人だなぁと、私はどっちの味方なんだよみたいなことを思ったけど、鴻池さんにとっては、何かあった時に守ってもらうと言う理由があった。

 だから、鴻池さんの所に何かがあると新選組は真っ先にかけつける。

 過去にも数回鴻池家に駆け付けたことがある。

「そうか、そんなに援助してもらっていたのか」

 伊東さんはそうつぶやくとしばらく考え込んでいた。

「それじゃあ、私は行ってきますね」

 伊東さんと藤堂さんにそう言って宿を出ようとした時、

「蒼良君っ!」

 と、伊東さんに呼び止められた。

 なんだろう?

「私も一緒に鴻池家に連れて行ってもらえないか?」

 えっ?

「伊東先生が行くなら、私も一緒に行きますっ!」

 えっ?

「それなら平助も連れて行ってもかまわないだろうか?」

 ええっ!な、なんでだ?

「蒼良、いいでしょう?」

 何をたくらんでいるんだ?

「鴻池家にお礼をしに行くのは、一人より多いほうがいいだろう」

 伊東さんがそう言いだした。

 そ、そうなのかな?

「わ、わかりました。一緒に行きましょう」

 いつもお世話になっています、と言う気持ちを込めていくので、伊東さんの言う通り、お礼を言う人はたくさんいたほうがいいのかな?


「今日は三人で来たんか? にぎやかでええな」

 鴻池さんが私たちを出迎えてくれて、いつも通り奥の部屋へ通してくれた。

 こんなに連れて来てっ!って怒られたらどうしようかと思っていたので、少しほっとした。

 伊東さんと藤堂さんを紹介した後、

「いつもお世話になっているので、一緒にお礼を言いたいと言うので、今日は一緒に来ました」

 私がそう説明すると、

「そうなん? おおきに」

 と、鴻池さんが嬉しそうにそう言った。

「ちょっとお尋ねしますが、うちの隊に今までどれぐらいだしたのですか?」

 伊東さんが鴻池さんにそう聞いてきた。

 それって、聞いてもいいことなのか?

 私だって、今まで何回もここにきているけど、いくら寄付したとかそんなこと聞いたことないぞ。

「新選組の帳簿とかを見ればわかるんやないの? うちはそんなのつけとらんから知らんけどな」

 鴻池さんは目を細めてそう言った。

 それは嘘だろうなぁ。

 鴻池さんほどの豪商が帳簿をつけてないなんてありえないだろう。

 伊東さんも私と同じことを思ったみたいで、

「そんなことはないでしょう?」

 と言っていた。

「伊東さん、もうそれ以上質問するのは失礼ですよ」

 鴻池さんが怒って、もう援助をしないって言ったらどう責任取ってくれるんだっ!

 って、もうすぐ伊東さんは新選組と関係ない人になるから、それはどうなってもいいのか?

「それじゃあ、回りくどい言い方はよしましょう。新選組の援助はやめたほうがいいと思いますよ」

 伊東さんはそう言った。

 本当にズバリと言ってきたなぁ。

「なんてことを言うのですかっ!」

 思わず私も怒ってそう言ってしまった。

「幕府の時代はもうすぐ終わる、いや、我々が終わらせます。だから、幕府派の新選組より、私たちに援助した方が、鴻池家にとってもいいと思いますよ」

 まぁぬけぬけと伊東さんは言うよなぁ。

 反論する前にあきれて何も言えなくなってしまった。

「あんさんも新選組なんやろ? なんでそんなことを言うのか理解できへんなぁ。同じ隊の人間やろ?」

「いえ、私たちは間もなく新選組を出る予定でいます。御陵衛士ごりょうえしと言って、孝明天皇の御陵を守る役目を拝命されたのです」

 もう伊東さんまで話が言っていたのか。

 まだ篠原さんで話が止まっていると持っていたのに。

「なんやようわからんけど、簡単に言うと、新選組への援助はやめて、あんさんの所に援助しろって言う事なんやな?」

「その通りです」

 鴻池さん、どう返事をするんだろう?

 確かに、新選組はこれから負ける組織だから、伊東さんたちに援助した方が得は得なんだよね。

 って、私がこれでどうすんだっ!

 恐る恐る鴻池さんを見た。

 鴻池さん、どうするんだろう?

「お断りするわ」

「後悔しますよ」

 伊東さんが鴻池さんに言った。

「後悔せんわ。うちが決めたことやからな。うちがなんで新選組に援助をしているかと言うと、近藤はんや土方はんの心根が気に入っとるんや。それに乗じて自分の所の援助を頼もうとするあんたの心根は腐っとる! それで損をしてもうちは全然かまわんわ。うちがしたくてやっていることやから、後悔はせんけどなっ!」

 鴻池さんの言葉を聞いていた伊東さんは、顔が引きつっていた。

「蒼良はん、この人たちは帰ってもらってもええか?」

 鴻池さんの迫力に、思わずうなずいてしまった。

「わかりました。後悔しても知りませんよ」

 伊東さんはそう言って立ち上がった。

「蒼良、私も伊東先生と一緒に行くよ」

 一緒に来ていた藤堂さんも、伊東さんの後をついて行くように出て行った。

「塩まいといてやっ!」

 伊東さんたちが去った後、鴻池さんは使用人の人にそう言った。

 

「こういうことになるとは知らないで、すみません」

 伊東さんが行くと言っても、断るべきだったのだ。

「蒼良はんは悪うないで。どうせだまされたんやろ」

「私の判断が甘かったのです」

 連れてくるべきじゃなかったのだ。

「蒼良はんは、伊東はんの考えを同じなんか?」

 同じなんて、冗談じゃないっ!

「違いますっ! あんな人と一緒にしないでください」

「なんや、蒼良はんも伊東はんが嫌いやったんか?」

 鴻池さんが笑いながらそう言った。

「はい。なんか裏心がありそうじゃないですか」

 ありそうと言うか、あるんだけどね。

「ああ、なんとなくわかるわ。蒼良はんが伊東はんと同じ考えやなくてよかったわ」

「同じ考えだったら、伊東さんに援助してましたか?」

 思わず聞いてしまった。

「絶対にせえへんわ。うちもああいう人間は好かんさかい」

 鴻池さんは笑顔でそう言ったのだった。


 次の日、伊東さんは京に帰ってきた。

 私たちも伊東さんと一緒に帰ってきた。

 鴻池家で色々あった話は、伊東さんにとっていい話じゃないので、伊東さんも藤堂さんもそのことを口に出すことはなかった。

 私も、わざわざ口に出す問題じゃないので、黙っていた。

 二人から私が色々言われるかなぁと思ったけど、それもなかった。

 どうやら、なかったことにしようと言う事になっているのか?

「蒼良、もうすぐ京だよ」

 京に入る前に藤堂さんがそう言っていた。

 やっぱり、なかったことになっているんだな。

 そう思いながら、

「そうですね」

 と返事をした。

 さて、これからが大変だぞ。

 どうすれば、歴史を変えることが出来るのだろうか?

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