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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年3月
327/506

御陵衛士拝命

「篠原が動き出したぞ」

 土方さんがそう言ってきた。

「とうとう動き出したのですねっ!」

 そうか、三月だったのか。

 そう言えば、伊東さんが御陵衛士ごりょうえしになって新選組を出たのも三月だったよな。

 篠原さんは、伊東さんが九州に言っている間に拝命されて、伊東さんが帰って来た時は、すべて準備が整っている状態にしていたのだろう。

 そうはさせないぞ。

 私は篠原さんがいつ行動に移すのかわからなかった。

 現代にいた時にもうちょっと勉強しておけばよかったんだけどね。

 わからないけど、行動に移すことは知っていたので、かなり前のことになるけど、篠原さんが御陵衛士を拝命されるのを阻止するために酔いつぶしたことがあった。

 その行動は、無意味な行動で終わってしまったのだけど。

 だから私はとってもあせった。

 このまま伊東さんが御陵衛士を拝命して新選組を出て行くのを黙って見ているのがとっても嫌だった。

 一人で悩んでいたけど、それを解決してくれたのが土方さんだった。

「一人で抱え込むな」

 その一言でどれだけ救われただろう。

 だから、これから起こることを土方さんに話した。

 すると、山崎さんに篠原さんを監視するように言ったようで、山崎さんが監視していると私に報告してくれた。

 そして、日々の監視が実ったのか、篠原さんが動き出したのをわかることが出来た。

 これは大きな一歩だぞ。

「わかりました。篠原さんを酔いつぶして、御陵衛士拝命の日に姿を現さないようにしますっ!」

「おいっ! お前は酔いつぶすことしか考えてねぇのか?」

 酔いつぶすしか思いつかないが。

 そして、酔いつぶしたあかつきには、私もお酒を楽しむ。

「自分が酒を飲むことしか考えてねぇだろう」

「そ、そんなことないですよ」

 なんでばれてんだ?

「よく考えてみろ。酔いつぶしても次の日には復活するんだぞ」

「二日酔いと言うものがあるじゃないですか」

 私はなったことがないけど、二日酔いは辛いらしいぞ。

「二日酔いぐらいで動けなくなるわけねぇだろう」

 確かに……。

 永倉さんあたりは二日酔いでも頭の片方をおさえつつ巡察をしている。

「わかりました。毎日飲ませますっ!」

「ばかやろう。毎日飲ませても結果は同じだろう」

「いや、アルコール中毒になりますよ」

「なんだ、そりゃ」

 あ、まだこの時代にそう言う名前はなかった。

「いいか、もっと確実な方法を考えろ」

 確実な方法か……。

「やっぱり酔いつぶすことしか考えられないのですが……」

「お前……」

 土方さんはそう言うと絶句してしまった。

「例えばだな、御陵衛士を拝命する人間を斬るとか、拝命すると言う事は、朝廷を仲立ちをした人間がいるのだろう? そいつを斬るとか。手っ取り早く篠原を斬る手もあるぞ」

「土方さんは、斬ることしか考えてないのですか?」

 斬る斬るって簡単に言うけど、人の命を奪う事だからとっても大変なことなんだからね。

「俺だってこんなことしたくないさ。だがな、新選組と篠原たちとどっちが大事だと言われれば、新選組の方が大事だろうが。俺は新選組を守るために言っているんだ」

 そうだったのか。

「わかりました。なるべく平和的な方法で阻止してきます」

「平和的な方法って具体的になんだ?」

 そう言われると困るんだけど……。

「みんなまとめて酔いつぶしますか?」

「お前……」

 土方さんはそうつぶやいてからまた絶句してしまった。


 とりあえず情報収集をしなければいけないと思い、篠原さんを監視している山崎さんに同行を願い出て、一緒に監視することになった。

 篠原さんの後を気づかれないようについて行くのだけど、探偵になった気分でワクワクしてしまった。

「これから何が起こるのでしょうかね」

蒼良そらさんは楽しそうですね。一応重要な任務なのですよ」

 山崎さんはそう言いながら困ったように笑っていた。

 そうだ、重要な任務の最中だった。

 たまに篠原さんとの距離が近くなり、山崎さんに注意を受けたけど、それ以外は何事もなく時間が過ぎて行った。

 

 篠原さんに動きがあったのは、戒光寺と言うお寺に入ったときだった。

 このお寺は泉涌寺せんにゅうじと言う皇族とゆかりのあるお寺の近くにある。

 この戒光寺と言うお寺には、首のあたりから血のようなものを流した丈六釈迦如来像がある。

 その理由は、江戸時代初期に後水尾天皇がまだ天皇になる前に跡継ぎ争いに巻き込まれ、刺客まで送り込まれて暗殺されそうになる。

 しかし、その身代わりになったのが、この丈六釈迦如来像だったらしい。

 その後、後水尾天皇は無事に即位した。

 その後水尾天皇が、戒光寺と言うお寺を皇族の位牌を代々納めている泉涌寺の近くに移転させたらしい。

 そう言ういわれのある戒光寺に篠原さんが入って行ったのだけど、なんでだ?

「山崎さん、どうしますか?」

 まさか、中に一緒に入って隣に座って話を聞くわけにいかないしなぁ。

「この建物なら下が開いているから大丈夫そうですね」

 え、何が大丈夫なんだ?

 そう思っている間にも、山崎さんは篠原さんが入って行った建物の床下に入って行った。

 なるほど、床下に入って話を聞くのか。

 これっていつかお師匠様ともしたことがあるぞ。

 確か、薩長同盟が結ばれた時だ。

 あの時も何もできなくて悔しい思いをした。

「床下からだと何もできませんよ」

 そう、何かあった時も何もできないのだ。

 それを聞いた山崎さんが優しく笑った。

「何もしませんよ。話を聞いて情報を得るだけです。まずは相手のことを知らないと対策が練れませんからね」

 確かに、その通りだ。

 私も、山崎さんと一緒に床下に入った。


 床下を四つんばいになって歩いていると、人の話し声が上から聞こえてきた。

「この上らしいですよ」

 山崎さんが上を指さしてそう言った。

 私たちはそこで止まって話を聞くことになった。

 最初に篠原さんではない男の人の声がした。

「このお寺の長老ですよ」

 山崎さん、声でそこまでわかるのか?

 実は山崎さんは色々と調べていた。

 篠原さんを監視していると、何回かこのお寺の中に入って行くのを見たらしい。

 それで調べたみたいで、それによるとこのお寺の長老は、朝廷との特別なつながりがあるらしい。

 そして、孝明天皇の葬儀の時に色々と大事な役割についたらしい。

「まさに御陵衛士の誕生にかかわりそうな感じですね」

 御陵衛士は、孝明天皇の天皇のお墓を守るためにできた組織だ。

「私にはよくわかりませんがそうなのですね」

 山崎さんが話し声が聞こえてくる上を見上げてそう言った。

 よくわからないのは当たり前だ。

 だって、まだその組織が出来ていないのだから。

「君たちの思いは伝わった。朝廷へ呼びかけてみよう」

 男の人の声が聞こえてきた。

 これは、いけない方の展開になってしまったぞ。

「山崎さん、このままじゃあだめです。朝廷への呼びかけを阻止しなければ」

 私は必死になって山崎さんに言った。

 床下にいたら、何もできないじゃないか。

「まだ拝命されたわけではなさそうなので、これから対策を練りましょう」

 そうだ、山崎さんの言う通りだ。

 あせったら失敗をしてしまう。

 ここは落ち着こう。

 そう思って深呼吸をし、何気なく地面に置いていた手を別な所に置いた時、手の感触が地面の感触ではなく、ぐにゃと柔らかい感触だった。

 何か、触ったかも。

 そう思って手の方を見て見ると、猫の死骸だった。

「ぎゃあああああああっ!」

 山崎さんが急いで私の口を手でふさいだけど、私の悲鳴の方が早かった。

 猫の死骸をさわってしまい、冷静でいられなくなった私は、そこで立ち上がろうとした。

 そう、そことは床下。

 当然、頭を床下の天井にゴンとぶつけた。

 その音が篠原さんたちのいる部屋の下から聞こえたので、上にいた篠原さんたちは、

「何事っ!」

 と、言って立ち上がる気配がした。

「誰か、間者がいるのか?」

 上から篠原さんの声がした。

「す、すみません、山崎さん」

 この時になると、冷静な私が戻ってきた。

 と、とんでもないことになってしまった。

「大丈夫ですよ。まだ見つかってませんから」

 山崎さんの優しい笑顔が引きつっていた。

 ほ、本当にごめんなさいっ!

 反省をしていると、

「ここか?」

 と言う音とともに刀が上から刺さってきた。

 しかも、私の目の前に。

 思わず固まってしまった。

 しかし、固まっている私の横から山崎さんが腕を出してきた。

 ちょうど刀の刃のあるところに山崎さんの腕がふれた。

 そんなことをしたら、腕を斬ってしまうじゃないか。

「山崎さん、何をしているのですか?」

 その時、山崎さんが顔をしかめた。

 山崎さんの腕を見ると、血が出ていた。

「これでごまかせればいいのですが」

 そう言った後、

「にゃあっ!」

 と、山崎さんは苦しそうな猫の鳴きまねをした。

 その声が上に聞こえたのか、ゆっくり刀が上に消えていった。

「なんだ、猫か」

 篠原さんの声が聞こえてきた。

「そう言えば、ここ数日鳴き声が床下から聞こえていたからそれだろう」

 男の人の声も聞こえてきた。

「ああ、猫を斬ってしまった」

 と言う篠原さんの声も聞こえてきた。

 何とかごまかせたぞ。

 山崎さんを見ると、まだ腕から血が流れ出ていた。

「私のせいで、本当にすみません。腕を斬ってごまかせたのなら、私の腕を使えばよかったのに」

 そう言いながら、私は着物の袖の部分を少し破いて、山崎さんの腕にまいて止血した。

「蒼良さんの腕をこんなことに使いたくない」

「でも、私のせいで……」

「あまり自分を責めないでください。失敗するときは誰でもありますよ。それより、早くここを出ましょう」

 そうだ、情報を仕入れることが出来たし、ばれそうになった今、ここに長居するのは危険だ。

 山崎さんと急いで床下から出て屯所へ帰った。


「そうか、話がここまで進んでいたか」

 山崎さんと一緒に土方さんに報告すると、土方さんがそう言った。

「すみません。私が失敗をしなければ、もっと話が聞けたかもしれないのに」

 なんで猫の死骸を手で触ったぐらいであんな悲鳴を上げしまったのだろう。

 自分が自分でいやになる。

「そう落ち込むな。ここまで情報が入ればもう十分だ」

 土方さんがそう言った。

「副長の言う通りです。後は戒光寺の長老が朝廷に働きかけることになりそうですね。戒光寺の長老を監視します」

「山崎、頼んだぞ」

 もう私はかかわらないほうがいいだろう。

 山崎さんにたくすことにした。


 しかし、その日に事は動いてしまった。

 篠原さんの熱意のせいか、私が失敗してしまったせいか、戒光寺の長老がその日のうちに朝廷にはたらきかけをしたらしい。

 その結果、その日のうちに御陵衛士を拝命してしまった。

 まだ伊東さんたちが帰ってきていないので、それはおおやけになっていない。

「私のせいで、本当にすみません」

 再び監視をしに行き、その結果を持って帰ってきた山崎さんに謝った。

「蒼良さんだけが悪いわけじゃないですよ。私がもっと早くに動いていればよかったのです。あの長老が深くかかわっていることは早くからわかっていたのですから」

「いや、私のせいです」

 私が悲鳴をあげなければ、あの長老は朝廷に言っていなかったかもしれない。

「蒼良さん、たら、れば、と言う話をしていても、何も変わりませんよ」

 たら、れば?

 首をかしげていると、

「ああしていればよかったとか、こうしてたらとかと言う話ですよ」

 と、山崎さんが優しい笑顔でそう言った。

「まだ好機はあります。おおやけになっていないのですから」

 そうだ、その通りだ。

 私のせいでだめになってしまったけど、まだチャンスはある。

 落ち込んでいる暇はない。

「今度は伊東さんが帰ってきたときですかね」

「そうですね。伊東参謀が帰って来てから伊藤派の人間がどう出るか。それを見てからでも遅くはないですよ」

 山崎さんの言う通り、次のチャンスはその時だろう。

 その時のためにじっくり作戦を練ろう。

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