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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年1月
313/506

謹慎生活

 と言うわけで、謹慎することになった。

 何をすればいいかわからず、とりあえずいつも通り巡察に行こうとしたら、土方さんに止められた。

「お前は、謹慎だろうが」

「謹慎だと、巡察に行かなくていいのですか?」

「そもそも、外に出れんだろうが」

 そうなのか?

 巡察はしなくていいと言う事なのね。

 今日は寒いから巡察するのはちょっと嫌だなぁと思っていた。

 もしかして、謹慎ってラッキーなのか?

 と言う事で、部屋にこもることにした。

「お前、巡察に行かなくてよくなったからって、火鉢にはりついてんじゃねぇ」

 だって、寒いじゃないか。

「巡察に出なくていいなら、別にいいじゃないですか」

「お前は謹慎中なんだぞ。謹慎中なら謹慎中らしいことをしろ」

「すみません。ちょっと聞いていいですか?」

「なんだ?」

「謹慎って何ですか?」

 私がそう聞いたら、しばらく沈黙が部屋を支配した。

「もしかして、今まで知らなかったのか?」

「はい」

「はいじゃねぇだろう」

 じゃあなんて返事をすればいいんだ?

「謹慎とはな……謹慎とは……」

 土方さんも知らないんじゃないのか?

「反省をして家にこもることだ」

 そ、そうなのか?

「なんだ、その目は。俺の言う事を信じてねぇだろう」

 なんか、言い方がなぁ、知らないような言い方だったぞ。

「とにかく、お前は屯所にこもって反省しなければいけねぇんだ」

 そうなんだ。

「でも、何を反省すればいいのですか?」

 だって、私が謹慎を言い渡されたのって、はっきり言ってみんなの巻き添えですからね。

「お前、反省する気持ちがねぇだろう」

「だって、悪いこと何もしていませんよ」

 私は、帰ってこなかった伊東さんたちを迎えに行っただけですからね。

「迎えに行ったのに、お前は帰ってこなかっただろうが」

 はい、なかなか帰れませんでした。

「一緒に酒飲んでいたんだろうが」

 はい、飲んでました。

「それを反省すればいいだろう」

 そうなのね。

 わかりました。

「で、反省文とかって書いたほうがいいのですか?」

 せっかく反省をするのだから、反省文を書いたほうがいいんじゃないか?と思い、聞いてみた。

「そこまでいらんだろう」

 そうなのか?

「反省文出されても、読むのが面倒だしな」

 そ、そうなのか?

 それって、反省しても何も残らないじゃないか。

 私のここがいけなかったとマイナスなことばかり考え、暗くなるだけじゃないか。

「二度と同じ過ちをしないように、じっくりと反省しろ」

 謹慎って、けっこう暗いことなのね。

「はい」

 暗い声で返事をしたのだった。


 屯所から出れないだけで、屯所内だったら、歩き回れるらしい。

 部屋で火鉢にあたっていると土方さんがうるさいので、ちょっと屯所の中を歩き回ってみることにした。

 屯所は広いからいいけど、普通の家で何もやることが無ければもっと謹慎生活が憂鬱なものになりそうだ。

 現代だったら、ゲームとか遊ぶものが色々あるから、家にこもると聞いたら喜んじゃう人もいるんだろうなぁ。

「おい、蒼良そら

 歩き回っていると、大部屋の前で永倉さんに会った。

 永倉さんは、キョロキョロと周りを見回した後、

「屯所を抜け出せるいい方法はないのか?」

 と、小さい声で言われた。

 え、抜け出す?

「謹慎なんだから、屯所から出れないって土方さんが言ってましたよ」

「だから、抜け出すんだろうが」

「ええっ!」

 驚いて大きな声でそう言ったら、シーッ!と言われた。

 そしてまたキョロキョロと周りを見回した。

 どうして周りが気になるのかな?

「大きな声出すなよ」

「す、すみません」

「他の人間に聞かれたらどうするんだよ」

 他の人間って……。

「ほとんど巡察に行っていていないですよ」

 いる人は、夜の巡察に出た人たちで、ほとんど寝ている。

 だから、昼間の屯所はとっても静かだ。

「見張りがついてるんだよ」

 え、見張り?

 私にもついているのか?

 思わず私もキョロキョロと見回してしまった。

 でも誰もいないけど。

「よし蒼良、一緒に抜け出すぞ」

 ええっ!そうなのか?

「永倉さんだけでいいですよ。私は大人しく謹慎しています」

 今までの流れで行くと、絶対に見つかって謹慎が長くなるか、長いお説教をくらうかどちらかだろう。

「蒼良、そんなこと言うなよ。一緒に抜け出して謹慎を満喫しようぜ」

 謹慎を満喫するのもどうかと思うのですが……。

「永倉さんっ! 蒼良さんを誘わないでください」

 永倉さんとヒソヒソと話をしていると、その間に入り込むように山崎さんがきた。

 突然来たので、

「うわぁっ!」

 と、永倉さんと一緒に驚いてしまった。

「大人しく謹慎してください」

 山崎さんが私たちにそう言った。

「大人しく謹慎してるだろうが」

 永倉さんが反抗するようにそう言った。

「山崎さんは、巡察に行かなかったのですか?」

 今日は非番だとか?

「私は副長に命じられて、謹慎を言い渡された人たちが抜け出したりしないように見張っているのです」

 え、見張りまでいるのか?

「主に、永倉さんを見張っています。目を離すと何するかわからないので」

「山崎、それはないだろう。斎藤だって何するかわかんないぞ」

 いや、それこそないと思うんだけど。

「私が見張っているので、変な考えはしないようにしてください。何かあったら、すぐに副長の耳に入れますからね」

 そ、そうなのね。

「わかりました」

 私は素直にそう返事をしたけど、永倉さんは

「ふんっ!」

 と言って向こうへ行ってしまった。

 山崎さんの仕事も大変そうだなぁと、向こうへ行く永倉さんの後をつけて去っていった山崎さんを見て思ったのだった。


 見張りもいるので、屯所を抜け出すことは出来なそうだ。

 する気もなかったけど。

 道場へ行ったら誰かいるかな?

 謹慎中に道場へ行くなとは言われてないもんね。

 道場をのぞくと、斎藤さんが広い道場の真ん中に座って刀をみがいていた。

 斎藤さんの隣に座ると、

「お前の刀も汚れているだろう。みがいてやる」

 と言われたので、私も刀を出した。

「お前、手入れと言うものをしているのか?」

 え、手入れをしないといけないのか?

「人を斬った時は布でふいてますが」

 それ以上のことはしていないぞ。

「お前の刀は汚いな」

 そう言いながら、私の刀をみがき始めた。

 そう言えば、テレビで棒の先についた綿みたいなものでポンポンと刀をたたいて手入れしているところを見たことあるぞ。

 それを同じようなことを斎藤さんはしていた。

「刀は、つねに手入れしないと、いざと言うときに使えんぞ」

 そうなんだ。

「刀を抜いたらさびていたなんてなったら、話にならんだろう」

 確かにそうだ。

 斎藤さんは、慣れた手つきで手入れをしていく。

 それをずうっと私は見ていた。

「お前が大人しく謹慎するなんて珍しいな。永倉と屯所を抜け出して遊んでいるかと思ったぞ」

「誘われましたが、断りました」

 だって、山崎さんの監視つきなんだもん。

「やっぱり誘われたか」

 斎藤さんは笑いながらそう言った。

 笑いごとじゃないと思うんだけどね。

「お前だから聞くが、正月の伊東さんの話を聞いてどう思った?」

 斎藤さんは私の刀に目をやったままそう言った。

 伊東さんの話?

「なんか大事な話でもあったのですか?」

 あのときは、どうやって三人を連れて帰るかで頭がいっぱいで、あまり話を聞いていなかった。

 それなのに、私も一緒に謹慎なんて。

「なにも聞いてなかったのか?」

「はい」

 そう言ったら、再び笑い出した。

「お前らしいな」

 そ、そうなのか?

「伊東さんは、隊を出るかもしれない。そろそろ隊を出る準備をするようなことを言っていた」

 やっぱりそうか。

 この年に伊東さんは数人を連れて新選組を出る。

「驚かないんだな」

 あ、驚いたほうがよかったのか?

「で、お前はどう思った?」

 どう思ったって……。

「やっぱりなぁって感じですかね」

 私がそう言ったら、今度は吹き出した。

 なんか変なことを言ったか?

「だって、伊東さんはもともと新選組とは正反対の考えを持った人じゃないですか。だからいつかは隊も出るだろうなぁと思ったのですよ。伊東さんのことだから、切腹になるような脱隊はしないと思います」

 確か、孝明天皇のお墓を守る御陵衛士になるんだよな。

「なるほどな。お前なりに色々考えてるんだな」

 斎藤さんはそう言いながら私の刀をみがいた。

 そして、綺麗になった刀は私のところに帰ってきた。 

「刀の手入れはきちんとしろ」

 はい、わかりました。

 って、どうやって手入れをしたらいいんだ?

 なんか、私がやったら手を切りそうなんだけど。


 伊東さんは、謹慎中なんだけど、夜になったらいつも通り勉強会をしていた。

 謹慎なのに、勉強会をしていいのか?

「いいんじゃねのか?」

 土方さんに言ったら、あっさりとそう言われてしまった。

 そうなのか?

「伊東さんの場合、謹慎中云々と言ったら、色々理由を考えて勉強会をやるだろう」

 確かにそうだわ。

「伊東さんもよ、新選組のためにその頭脳を使ってくれりゃ何も言う事ねぇんだけどな」

 そうなんだよね。

「でも、そううまいこと行きませんよ。伊東さんは尊皇派だし、考え方が私たちと違いますからね」

 その考え方が違う人がなんでここにいるんだって話なんだけどね。

「あ、そうだ。お前の謹慎が終わったぞ」

 え、そうなのか?

「近藤さんがしっかり反省しただろうからいいだろうってことだ」

 そうなんだ。

「ま、最初は伊東さんに近づく新八に忠告をするつもりで謹慎を出したんだがな」

 と言う事は……

「巻き添えは、私と斎藤さんの二人ってことですか?」

「そう言う事だ」

 私だけじゃなかったのか。

 それに、永倉さんもその忠告を聞いてくれたかわからないし。

「永倉さん、わかってくれたのかな?」

「新八ならわかってくれただろう」

「わかってないと思うのですが……」

 わかっていたら、屯所から抜け出そうなんて考えないと思うし。

「何を根拠にそう言うんだ?」

 でも、そのことを言ったら、永倉さんが土方さんに怒られちゃうから、内緒にしておいたほうがいいよね。

「だ、大丈夫ですよ。永倉さんはわかってくれましたよ」

「なんだ急に」

「今日も勉強会には欠席していると思いますよ」

「そうだといいんだがな」

 ちなみに、この日の勉強会に永倉さんはいつも通り一番前に座って出席していたらしい。

 ききめないじゃないかっ!

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